粉飾決算は厳罰化で減らせるか?

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こんにちは、毛糸です。

私は公認会計士として働いています。

公認会計士の大きな使命の一つに、企業の会計監査があります。

会計監査は企業の財務諸表(資産の状態と成績)が正しく公表されているかを確かめる手続きで、資本市場を維持するために欠くことのできない社会インフラです。

昨今、この会計監査の目を潜り抜け、粉飾や不正会計に手を染める会社がニュースになることが度々あります。

オリンパスや東芝などの不正会計のニュースを知っている方も多いでしょう。

今回はこういった粉飾を防ぐべく、ルールを厳罰化することについて考えたいと思います。

なぜ粉飾決算・不正会計を行うのか

企業が作成する財務諸表は、企業がどれだけの資産を持ち資金を調達しているのか、その企業が一年間にどれだけの利益を得たのか、といった情報が開示されます。

当然、多くの利益を獲得したと報告できれば、株価は上がり経営者の報酬も上がるでしょう。

財務諸表は企業が自ら作成するため、自分の都合のいいように改ざんするインセンティブが働きます。

これが粉飾です。

経営者は、企業の業績が冴えなければ、株主から厳しい追及を受け、職を失うおそれもあります。

そうしたことへの恐れから、企業は粉飾に手を染めるのです。
参考:なぜ粉飾決算を行ってしまう企業が発生するのか

 

粉飾には罰則がある

粉飾決算を行った場合、企業や経営者には罰則が科せられます。

ライブドアの粉飾決算では社長が逮捕されましたし、最近の例ではふりそでレンタル業者の元社長が逮捕されるなどしています。
参考:粉飾は刑事事件ですか?

金融商品取引法では懲役刑や罰金(課徴金)の規定があり、民事上も損害賠償義務を負う可能性もあります。
参考:企業における粉飾決算の法律問題

 
このように、粉飾には罰則がありますが、しかし粉飾決算は後を絶ちません。
 
公認会計士の間でも度重なる粉飾事件のたびに反省が行われ、会計監査のよりどころとなる監査基準が改定されるなどの対応がなされていますが、粉飾根絶には至っていません。
 
粉飾がなくならない理由として、粉飾のペナルティが軽すぎると主張する識者もいます。
 
では、粉飾のペナルティを大きくすれば=厳罰化すれば、粉飾はなくなるのでしょうか?
 

粉飾決算は厳罰化で減らせるか?

粉飾決算を経済学的な観点で見ると、
 
粉飾をした場合の利益>粉飾がバレる確率×粉飾のペナルティ
 
である場合には、合理的な主体は粉飾に手を染めてしまいます。
 
粉飾により得られる利益は状況によりけりなので、粉飾を未然に防ぐためには、
 
粉飾が解明される確率を上げるか、
 
粉飾のペナルティを高める(厳罰化する)かのいずれかが必要になります。
 
罰則強化が犯罪抑止に効果的であるとの研究結果も存在するようですから、粉飾防止には厳罰化も一定の効果があるのではと考えられます。
 
一方、厳罰化すればするほど犯罪が抑制されることが積極的に実証されているわけでもないようで、効果を疑問視する声もあるようです。
 
社会的制裁の観点からも粉飾を行った企業と関与者に対しては懲罰を与えるべきとの声もあり、今後の世論と当局の動向が気になるところです。
 
この点に関しては監査法人を含む会計士たちの声と、資本市場のプレーヤーたる投資家や企業が、足並みをそろえて議論する必要があります。
 
また、粉飾が「割に合わない」ものとするためには、粉飾がバレる確率を上げる、という手段もあります。
 
現在の会計監査制度上、監査人には強制調査権がありません。
 
あくまで企業の同意を得て、監査に必要な資料を入手するにとどまります。
 
しかしこの点に関しても、今後会計士に求められる役割が多様化していく中で、監査のルールが変わっていくことも考えられます。
 

まとめ

後を絶たない粉飾決算について、確実な対処方法はないのかもしれません。
 
粉飾の厳罰化や監査ルールの変更など、変化させていくべき部分もあるかと思います。
 
粉飾のインセンティブを上手くルールでもって防止できればよいですが、そのためには継続的な議論が不可欠でしょう。
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