イデアルとは何か。定義と例と発展的なイデアルの紹介

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本記事では環論に登場する概念である「イデアル」について、その定義を丁寧に確認していきます。

参考文献は雪江『代数学1 群論入門』『代数学2 環と体とガロア理論』です。

イデアルの定義

\(A\)を環とします。環(そしてもっと単純な群)の定義は、以下の記事を参照してください。

代数的構造の関係を図示してみた(マグマ、半群、モノイド、群、アーベル群、環、可換環、整域、体)

 

環\(A\)の部分集合\(I\)が次の条件を満たすとき、\(A\)のイデアルといいます。

  1. \(I\)は\(A\)の加法に関して部分群である。
  2. 任意の\(a\in A,x\in I\)に対し、\(ax\in I\)である。

定義からわかること

1.より、\(I\)はそれ自体が群であるといえます。その際、群演算としては\(A\)の加法を考えます。部分群であるということは、加法が\(I\)の中で閉じているとも言えます。\(A\)のイデアル\(I\)は加法に関して「自己完結」しているようなイメージです。

環\(A\)では乗法が定義できますので、\(A\)の部分集合である\(I\)にも乗法に関する構造が入っています。それが条件2.で、\(I\)の元に対して\(A\)の元をとってきて積をとっても、\(I\)からはみ出ることはないと言っています。\(I\)の元ならば\(A\)の元なので、\(I\)は乗法についても閉じているといえます。

自明なイデアル、真のイデアル、零イデアル

イデアルの定義からわかるとおり、\(A\)はそれ自体\(A\)のイデアルです。また\(\left\{0 \right\}\subset A\)も\(A\)のイデアルです。これらを\(A\)の自明なイデアルといいます。

\(A\)のイデアルで\(A\)とは異なるもの(つまりイデアル\(I \subset A\)で\(I\neq A\)となるもの)を真のイデアルといいます。

\(\left\{0 \right\}\)を\(A\)の零イデアルといいます。

 

イデアルの例1:準同型の核Ker

環\(A,B\)の準同型\(\phi\)を考えます。このとき\(\mathrm{ Ker}(\phi)\)は\(A\)のイデアルで、\(\mathrm{ Ker}(\phi)\neq A\)です。

これを確かめてみましょう。

まず\(\mathrm{ Ker}(\phi)=\left\{a\in A|\phi(a)=0_B \right\}\)という定義から、\(\mathrm{ Ker}(\phi)\subset A\)といえます。

次に、\(\mathrm{ Ker}(\phi)\)が\(A\)の加法\(+\)によって群になることを確かめます。

単位元

\(A\)の加法単位元\(0_A\)が\(\mathrm{ Ker}(\phi)\)の元であることを確かめます。準同型は単位元を保存するので、\(\phi(0_A)=0_B\)が成り立ちます。

したがって\(0_A\in\mathrm{ Ker}(\phi)\)です。任意の\(a\in\mathrm{ Ker}(\phi)\)に対して\(a+0_A=0_A+a=a\)なので、\(0_A\)は\(\mathrm{ Ker}(\phi)\)の単位元になっています。

逆元

\(a\in \mathrm{ Ker}(\phi)\)を任意にとります。このとき\(\phi(a)=0_B\)が成り立ちます。

\(a\)は\(A\)において逆元\(-a\)をもち、準同型は逆元を保存するので\(\phi(-a)=-\phi(a)\)です。

\(a\)は\(\mathrm{ Ker}(\phi)\)の元であると仮定したので\(\phi(-a)=-\phi(a)=0_B\)となります。

したがって\(-a\)は\(\mathrm{ Ker}(\phi)\)の元になっています。つまり、任意の\(a\in \mathrm{ Ker}(\phi)\)は逆元をもちます。

結合法則

\(a,b,c\in \mathrm{ Ker}(\phi)\)を任意にとります。\(a,b,c\)は群\(A\)の元でもあるので、結合法則が成り立ちます。

 

イデアルの例2:整数の倍数

\(\mathbb{Z}\)を整数全体からなる集合、\(n\)を\(\mathbb{Z}\)の元とします。このとき

\begin{equation} \begin{split}
n\mathbb{Z}=\left\{nx|x\in\mathbb{Z} \right\}
\end{split} \end{equation}

は環\(\mathbb{Z}\)のイデアルです。

これも簡単に確かめてみましょう。

\(\mathbb{Z}\)の加法単位元\(0\)は\(0=n0\)と書けるので\(n\mathbb{Z}\)の元です(単位元)。

\(x,y\in n\mathbb{Z}\)を任意にとると、\(nx+ny=n(x+y)\in n\mathbb{Z}\)なので、\(n\mathbb{Z}\)は加法について閉じています。ゆえに部分群です。

\(a,x\in\mathbb{Z}\)ならば\(a(nx)=n(ax)\in\mathbb{Z}\)が成り立ちます。したがって\(n\mathbb{Z}\)はイデアルです。

\(n\mathbb{Z}\)は「\(n\)の倍数」と解釈できます。

 

生成されたイデアルと有限生成なイデアル

\(S=\left\{ s_1,\cdots,s_n\right\}\)を環\(A\)の有限部分集合とします。\(a_1,\cdots,a_n\in A\)を適当にとって

\begin{equation} \begin{split}
a_1s_1+\cdots+a_ns_n
\end{split} \end{equation}
という形の\(A\)の元を作ることができます。\(s_i,a_i(i=1,\cdots,n)\)は環\(A\)の元であることから「掛けて足す」ことができるためです。

この形をした元全体の集合\(I\)は\(A\)のイデアルになります。これを\(S\)で生成されたイデアルといいます。\(S\)は\(I\)の生成系であるともいいます。

\(S\)が有限集合であるとき、\(I\)を有限生成なイデアルと呼びます。

単項イデアル

有限生成なイデアルに関して、生成系が一つの元である場合(上記の\(n=1\)の場合)も当然考えることができます。つまり\(S=\left\{ s\right\}\)を生成系とするイデアル\(I\)を考えてもよいわけです。

一つの元で生成されたイデアルを単項イデアルといいます。

素イデアルと極大イデアル

環\(A\)の真のイデアル\(\mathfrak{p}\)が次の条件を満たすとき、\(\mathfrak{p}\)を\(A\)の素イデアルといいます。

\begin{equation} \begin{split}
a,b\notin \mathfrak{p} \Rightarrow ab\notin \mathfrak{p}
\end{split} \end{equation}

環\(A\)の真のイデアル\(\mathfrak{m}\)が次の条件を満たすとき、\(\mathfrak{m}\)を\(A\)の極大イデアルといいます。

\begin{equation} \begin{split}
Iが \mathfrak{m}を含むAの真のイデアル \Rightarrow I= \mathfrak{p}
\end{split} \end{equation}

素イデアル・極大イデアルの概念は可換環論において重要な役割を果たします。代数幾何という分野の中心概念でもあります。

参考文献

本記事では代数学の基礎概念である群・環・準同型の定義には触れませんでした。これらの用語の定義と基本的な性質については、以下のテキストにわかりやすく解説されています。


イデアルの定義とその性質・応用などについては、以下のテキストに載っています。本記事もこちらの書籍を参考にしました。

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