単射・全射・全単射 写像の定義の違いを整理する

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本記事では、写像の種類「単射・全射・全単射」について、それらの定義の違いを整理し、例を用いて理解します。

単射と全射は、イメージできるようになるまで何度も定義を見直すことで、徐々に自分の中で消化されていきます。

焦らず繰り返し触れていきましょう。

本記事では『代数学1 群論入門』(雪江明彦著)を参考にしています。

 

集合の定義

数学における集合とは、簡単に言えば「ものの集まり」のことです。集合に属するひとつひとつの「もの」を、その集合の元(げん)といいます。

集合を厳密に定義しようとすると、公理的集合論と呼ばれる難解な分野に足を踏み入れることになりますので、ここでは簡単なイメージのみで済ませます。

集合は、それに属する「もの」を明示して表すことがあります。たとえば「信号機の色」という集合を\(A \)とすると

\begin{equation}
A=\left\{ 青,黄,赤\right\}
\end{equation}

と表せますし、自然数の集合を\( \mathbb{N}\)とすると
\begin{equation}
\mathbb{N}=\left\{ 0,1,2,\ldots\right\}
\end{equation}

と表せます(\( 0\)を自然数に含めるか否かは議論の余地があります)。

写像の定義

集合\( A\)の任意の元\( a\)に対し集合\( B\)の元\(f(a) \)がただ一つ定まっているとき、\( f\)を\( A\)から\( B\)への写像といって、

\begin{equation}f:A\to B\end{equation}

と書きます。

つまり、集合\( A\)に属するどんな元をとってきても、集合\(B \)に属する元をたった一つ対応づけることができ、その対応ルールが写像\(f \)といいます。写像を関数ということもあります(高校数学まででは、関数と呼んだ方が親しみがあるでしょう)。

\( f\)が集合\( A\)から集合\( B\)への写像である、といったときには、集合\( A\)の異なる元が集合\( B\)の同じ元に対応付けられていても構いませんし(上図みどりの元)、集合\( B\)のなかで集合\( A\)の元に対応付けられないものがあっても構いません(上図オレンジの元)。

写像の例

「信号機の色」という集合\( A\)を

\begin{equation}A=\left\{ 青,黄,赤\right\}\end{equation}

「信号機の意味」という集合\(B \)を
\begin{equation}B=\left\{ 進んでよし,安全なら止まれ,止まれ\right\}\end{equation}

とすると、\( A\)から\( B\)への写像\( f\)として
\begin{equation}f(青)=進んでよし,f(黄)=安全なら止まれ,f(赤)=止まれ\end{equation}

という対応関係を考えることができます。\( A\)の元のどれをとっても、\( B\)の元が1つ決まっているので、\( f\)は写像です。

高校数学まででは実数のなかで関数\( y=f(x)=x^2\)のようなものを考えていたので、上の例はやや不思議に思えるかもしれません。もちろん、実数の集合\( \mathbb{R}\)について、\( x\in \mathbb{R}\)に対して\( x^2\in \mathbb{R}\)を対応付ける規則は、\(\mathbb{R} \)から\(\mathbb{R} \)への写像であり、我々が高校数学で習った\( f(x)=x^2\)のことです。

\(f:A\to B\)を写像として、\( a\in A\)で\( f(a)=b\)のとき、\( b\)は\( a\)の像である、といいます。もっとくだけた表現では、\( a\)は\( b\)に行く、ということもあります。\( b\)は集合\( A\)から来ている、と表現することもあります。

部分集合\( S\subset A,T\subset B\)に対して、\( S\)から来ているもの全体の集合を\( S\)の像といい、\( f(S)\)と表します。つまり

\begin{equation}f(S)=\left\{ f(a)|a\in S\right\}\end{equation}

です。また、\(T \)の元に行くもの全体の集合を\( T\)の逆像といい、\( f^{-1}(T)\)と表します。つまり
\begin{equation}f^{-1}(T)=\left\{ a\in A|f(a)\in T\right\}\end{equation}
です。

\(f:A\to B\)が写像であるためには、\( A\)の元に対して\( B\)の元がたった1つだけ定まっている必要があります。ある\( A\)の元を取った時、それが\( B\)の複数の元に対応してしまうような場合、それは写像とは呼びません。\(f:A\to B\)が写像であるといったときは、「\( A\)の元はすべて、\( B\)の元のどれか一つに行く」ことを意味しています。

単射と全射

\(f:A\to B\)を写像とします。

単射(injection)

\( a,a’\in A\)にたいして\( f(a)=f(a’)\)ならば\( a=a’\)である、という条件が満たされるとき、\( f\)は単射であるといいます。「行く先が同じなら、来るもとが同じ」と表現してもよいでしょう。

この条件は\( a\neq a’\)ならば\( f(a)\neq f(a’)\)であるという条件と同じです(もとの条件の対偶)。

くだけた表現をすれば「\( A\)の異なる元は\( B\)の異なる元に行く」「来る元が違えば行く元も違う」ということです。

全射(surjection)

任意の\( b\in B\)に対し\( a\in A\)があり\( f(a)=b\)となるとき、\(f \)は全射であるといいます。つまり「\( B\)のすべての元が\( A\)から来ている」「\( B\)の元は必ず\( A\)のいずれかの元に対応付けられている」ということです。

\(f:A\to B\)が写像であっても、\( A\)の元に対応付けられない\( B\)の元が存在することはあります。しかし\( f\)が全射であれば、\( B\)の元は必ず\( A\)の元から来るといえます。

全射でない例

\( A=\mathbb{R}\)から\( B=\mathbb{R}\)への写像\( f\)として、\( x\in A=\mathbb{R}\)に\( x^2\in B=\mathbb{R}\)を対応付けるもの(\( f(x)=x^2\))を考えましょう。このとき\( -2\in B=\mathbb{R}\)ですが、\( x^2=-2\)となる\(x \)は\( A=\mathbb{R}\)の中にありませんので、「\( B\)のすべての元が\( A\)から来ている」とはいえません。したがって\( f\)は全射ではありません。

全単射(bijection)

写像が単射かつ全射なら、全単射であるといいます。

集合\( A\)から集合\(B \)への全単射写像があるとき、集合\( A\)と集合\(B \)は「一対一に対応する」といいます。

\( f\)が写像であるとき「\( A\)の元はすべて、\( B\)の元のどれか一つに行く」といえます。ただし、同じ行き先かもしれないし、\( A\)の元から来ない\( B\)の元があるかもしれません。

しかし、\( f\)が単射のときは「\( A\)の異なる元は\( B\)の異なる元に行く(行き先が同じ\( A\)の元はない)」といえますし、\( f\)が全射のときは「\( B\)のすべての元が\( A\)から来ている」といえます。

したがって、\( f\)が全単射であるとき、\( A\)と\( B\)の元はそれぞれ一対一に対応するのです。

参考文献

本記事の内容はこちらのテキストを参考にしました。

上記テキストの参考文献に挙げられている本で、集合や写像に関するより詳しい内容を扱ったテキストとして、以下もおすすめです。

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