会計数値のマルコフ性について

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こんにちは、毛糸です。

先日こういったつぶやきをしました。

最近、会計を数学の世界の言葉で置き換えられないか?ということをよく考えます。

複式簿記の代数的構造について考えだしたのも、こうした問題意識の一環です。

【参考記事】
>>【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」

先述のつぶやきは、同僚と議論しているときに考え付いたものです。

本記事では会計数値のマルコフ性について考えてみたいと思います。

マルコフ性(マルコフ過程)とは

マルコフ性とは確率過程論の用語で、

前期「まで」の情報を所与とした場合の予測が、前期「のみ」の情報を所与とした場合の予測と同じ

という性質のことです。

マルコフ性の例をあげましょう。

コイン投げをして表なら1円もらえ、裏なら1円持ってかれるゲームをします。

n回目のコイン投げのあとに持ち金が\( C_n\)円だったとき、n+1回目のコイン投げのあとの持ち金の期待値はいくらになるでしょうか?

n+1回目のコイン投げで表が出れば1円もらえ、裏が出れば1円持っていかれてしまうので、その期待値は

\begin{equation} \begin{split}
1\times\frac{1}{2}+(-1)\times\frac{1}{2}=0
\end{split} \end{equation}

になりますから、n+1回目のコイン投げのあとの持ち金の金額は\( C_n\)円になります。

この「予測」にはn-1回目以前のコイン投げの情報は必要なく、n回目時点の持ち金の情報のみで決まります。

これがマルコフ性という性質です。

マルコフでない例も考えてみましょう。

このコイン投げに「前前回の獲得金額がおまけされる」というようなケースが、マルコフ性をもたない例です。

このときn回目のゲームのあと\( C_n\)円持っているとわかっても、n+1回目のコイン投げの獲得金額はn-1回目の結果に左右されるので、n回目時点の持ち金\( C_n\)という情報だけでは、将来を予測できません。

これがマルコフでない例です。

会計数値はマルコフ性をもつか

会計数値はマルコフ性を持つでしょうか?

たとえば、企業が保有する売買目的の有価証券は、マルコフ性を持ちそうです。

売買目的有価証券は貸借対照表において時価評価されますが、売買目的有価証券の時価を予測するのは通常困難で、過去の情報を使ってリターンを予測するのは難しいからです(これを効率的市場仮説といいます)。

【参考記事】
>>「日本株に投資すると長期的には損」は本当か?

償却性の固定資産はどうでしょうか。

償却性固定資産は減価償却に関する諸条件が変わらなければ、当初の条件どおりに費用認識をするだけなので、将来にわたる減価償却費とその累計額、およびそれを控除した固定資産額が購入時点でわかることになります。

もちろんこれは「前期のみの情報で予測できる」というマルコフ性の定義を満たしますので、この場合の固定資産額はマルコフ性を持つでしょう。

しかし、減損があれば話は別です。

減損会計には「利益が2期間赤字」というようなトリガーが定められています。

したがって、ある時点の固定資産額が減損するか否かは、前期・前々期の情報を必要とするため、マルコフ性を持ちません。

減損会計のように複数時点にまたがるトリガーを会計数値の測定に反映させる処理があると、会計数値のマルコフ性は失われます。

あらゆる会計数値について、その金額の計算方法から、マルコフ性を持つか否かを考えることが可能ですが、一般には会計数値はマルコフ性を持たないと考えて差し支えないでしょう。

ちなみに、マルコフ性を持たない確率過程の議論はとても難しいと考えられており、現実どおり「会計数値は非マルコフ」と考えて分析すると有用な結論が得られなくなることがほとんどでしょうから、学術的には会計数値もマルコフ性を持つと仮定して話を進める場合が多いのではないかと思います。

まとめ

会計数値を確率過程として考えたとき、それがマルコフ性を持つかどうかを考えてみました。
一般には、会計数値はマルコフ性を持たないでしょう。
しかし、非マルコフな確率過程は扱いが難しいので、マルコフ性を仮定している場合も多いのではないかと思います。

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