\(f:A\to B, g:B\to A\)を写像とします。\(f\circ g =1_B\)(\(B\)の恒等写像)ならば、\(f\)は全射であり、\(g\)は単射です。\(f\)にとって\(g\)は右逆写像であり、\(g\)にとって\(f\)は左逆写像です。
逆に、\(f\)が全射のとき\(f\)は右逆写像をもち、\(g\)が単射のとき\(g\)は左逆写像をもちます。
本記事ではこの命題を証明します。
右逆写像・左逆写像の定義
\(f:A\to B, g:B\to A\)を写像とします。
\( f\)の右から合成することで恒等写像を作れるような写像\( g\)を、\( f\)の右逆写像といいます。また、\( g\)の左から合成することで恒等写像を作れるような写像\( f\)を、\( g\)の左逆写像といいます。
証明:左・右逆写像をもつならば単射・全射
\(f\circ g =1_B\)(\(B\)の恒等写像)と仮定します。\( g\)は\( f\)の右逆写像、\( f\)は\( g\)の左逆写像です。
\(g(b_1)=g(b_2)\)であるような\(b_1,b_2\in B\)を任意にとります。このとき
b_1=1_B(b_2)=f(g(b_1))=f(g(b_2))=1_B(b_2)=b_2
\end{split} \end{equation}
が成り立ちます。ゆえに、\(g(b_1)=g(b_2)\)ならば\(b_1=b_2\)であるといえるので、\(g\)は単射であるといえます。
次に\(b\in B\)を任意とります。\(g\)は写像なので、ある\(a\in A\)が存在して\(a=g(b)\)と書けます。このとき
f(a)=f(g(b))=(f\circ g)(b)=1_B(b)=b
\end{split} \end{equation}
この等式により、\(b\in B\)を任意とったとき、\(f(a)=b\)となる\(a \in A\)が存在するといえたので、\(f\)は全射であるといえます。
以上より、\( f\)が右逆写像をもつならば\( f\)は全射であり、\( g\)が左逆写像をもつならば\( g\)は単射であることが示せました。
証明:単射・全射ならば左・右逆写像をもつ
「単射ならば左逆写像をもつ」と「全射ならば右逆写像をもつ」とに分けて示します。
単射ならば左逆写像をもつ
\(g:B\to A\)を単射と仮定します。
ここで、\( g\)が単射であっても全射でなければ、\(g \)の値域(終集合ともいう)\(A \)の点\(\tilde{a} \)であって\(g(\tilde{b})=\tilde{a} \)となる\( \tilde{b}\in B\)が見つかるとは限りません。
しかし、\(g \)の値域を\(B \)の\( g\)による像\( g(B)\subset A\)に限った写像\( g’:B\to g(B)\)を考えると、\( g(\tilde{b})=\tilde{a} \in g(B)\)であるような\( \tilde{b}\in B\)がとれます。したがって\( g’\) は単射かつ全射となります。
\( g’\) が全単射なので、その逆写像が存在します。これを\( r’:g(B)\to A\)とします。\(r’=(g’)^{-1}\)と表すこともできます。この\(r’ \)が\( g\)の左逆写像をつくる「もと」になります。
\( b_0\in B\)を任意にひとつとり、\( A\)から\( B\)への写像\( r\)を次のように定義します。
r(a)=\left\{
\begin{array}{ll}
r'(a) & (a \in g(B)のとき) \\
b_0 & (a \in A \backslash g(B)のとき)
\end{array} \right.
\end{split} \end{equation}
実はこの\(r\)が\(g\)の左逆写像になっています。
いま、\(b \in B\)を任意にとって\(g(b)=g'(b)=a\)とします。\(r’=(g’)^{-1}\)でしたので、\(g'(b)=a\)から\(b=r'(b)\)が言えます。さらに、この\(a\)は\( g(B)\)の元であることから、\(b=r'(b)=r(b)\)であることもわかります。したがって、\(r\)と\(g\)の合成関数による\(b\in B\)の行き先を考えれば
(r\circ g)(b)&=r(g(b))\\
&=r(a)\\
&=b\\
&=1_B(b)
\end{split} \end{equation}
となり、\(r\)が\(g\)の左逆写像であることがいえます。
以上のことから、\(g:B\to A\)が単射であるとき左逆写像が存在することが示せました。
全射ならば右逆写像をもつ
この証明には選択公理を用います。選択公理がどんなものかは参考文献に挙げたテキストを参照してください。
\(f:A\to B\)を全射と仮定します。
\( f\)は全射なので、\( f(a)=b\)となる\(a\in A \)が存在します。したがって\(b\)の\(f\)による逆像\(f^{-1}(b)\)は空集合にはなりません。
\(b \in B\)をひとつとったときに得られる\(f\)による逆像を\(A_b=f^{-1}(b)\)とおくと、\(\left(A_b\right)_{b\in B}\)は空でない集合からなる集合族です。
選択公理より、\(B\)で定義された写像\(s\)で、すべての\(b \in B\)にたいして\(s(b)\in A_b\)となるものが存在します(つまり、どんな\(b\)をとってきても、非空集合\(A_b\)をひとつ選び出すことができます)。
\(s(b)\in A_b \subset A\)なので、写像\(s\)は\( B\)の元を\(A\)の元に写します。つまり\(s\)は\( B\)から\(A\)への写像です。
実はこの\(s\)が\(f\)の右逆写像になっています。
いま、\(b\in B\)を任意にひとつとります。\(s(b)=a\)とすると、写像\(s\)の定義から\(a\in A_b=f^{-1}(b)\)であるといえます。したがって\(f(a)=b\)が成り立ちます。これにより
(f\circ s)(b)&=f(s(b))\\
&=f(a)\\
&=b\\
&=I_B(b)
\end{split} \end{equation}
となり、\(s\)が\(f\)の右逆写像であることがいえます。
以上のことから、\(f:A\to B\)が全射であるとき右逆写像が存在することが示せました。
参考文献
全射・単射の定義とイメージについては、以下の記事を参考にしてください
本記事の証明は以下のテキストを参考にしました。全射・単射・全単射の定義や逆像の定義、選択公理など、基本的な集合論を学ぶのにとても役立つ名著です。