会計と一口に言っても、その目的はさまざまです。
なかでも、企業の活動を外部に報告する目的で行われる財務会計、社内の意思決定に利用する目的で行われる管理会計の2つは特に有名でしょう。
ある企業が財務・管理の2つの目的でデータを揃える「財管一致」いう考え方があります。
本記事では財管一致とはどういう考え方なのか、参考文献を提示しながら解説します。
財管一致の定義のあいまいさ
本記事では「財管一致の現状と課題-管理会計からの考察-」(以下、川野2018。PDFリンクはこちら)の議論を参考に、財管一致の定義を整理します。
財管一致とは素朴にいえば「財務会計と管理会計、両者の会計数値を一致させる」という考え方です。ただ、この定義は財管一致の要件が必ずしも明確ではありません。
たとえば、財務会計には営業利益や当期純利益など、いくつもの利益区分が存在しています。このような「階層構造」をもつ財務会計情報のうち、一体どの項目を管理会計目的の数値と一致させるのか、上記の定義ではあいまいさが残ります。
財務会計数値がそのまま管理会計の目的に使えるのであればよいのですが、実際には管理不能なコストを控除したり、裁量的項目を利益から控除することで、管理指標としての会計数値を別途算定する必要が出てきます。
川野2018では、財管一致の定義を明確にする際に、以下のような検討事項があると指摘しています。
- プロフォーマ利益の開示:GAAPに定められていない管理会計的な利益を外部に公表するのは、財務会計といえるのか
- 四半期決算月の会計処理:四半期決算でのみ決算修正を行い、他の月では簡便処理を行うのは財管一致といえるのか
- 調整欄の設定:直接原価計算に調整を行い、全部原価計算による財務諸表を作成するのは財管一致といえるのか
- セグメント開示:セグメント情報は財管不一致を前提としているが、調整欄を設けている場合は財管一致といえるのか
- 一部の利益:たとえば、営業損益のみの一致は、財管一致といえるのか
- 単体のみ、連結のみ:単体(もしくは連結)財務諸表と管理会計が一致していて、連結(単体)とは不一致の場合には、財管一致といえるのか
- 元データ:基礎となるデータ(ベース)が同じで、費用配賦の基準が財・管で異なる場合、財管一致といえるのか
以上のような論点を踏まえ、川野2018では、財管一致という言葉を再定義しようという試みがなされています。
財管一致の再定義
財管一致という言葉は、実務家・研究者・情報ベンダーにおいて様々な意味で用いられています。
そのような(ある意味混乱した)状況を打破するため、川野2018では財管一致という言葉が意味するであろう状態を、3つの類型で提示しています。
- 財務会計情報から管理会計情報を作成する
- 管理会計情報から財務会計情報を作成する
- 同一の会計データベースから個々に情報を作成する
3つの方法がどれが優れているかと言うような議論は行われていませんが、これら類型に基づくアンケートによって、川野2018は以下のように「財管一致」を再定義しています。
財管一致とは,
- 経営者の意思決定を誤らせないように
- 同一の会計方針に基づく同一の会計データ(仕訳)を基礎として
- 外部公表される連結財務諸表あるいは単体財務諸表の金額と内部管理目的で作成する諸資料記載の金額を可能な限り近似値とすること
- 月次決算が実施されている場合には,月次決算の四半期合計額と,外部公表される四半期(連結)財務諸表の合計額を可能な限り近似値とすること
- 近似値とする表示科目には,少なくても損益計算書の営業利益,経常利益,税金等調整前当期純利益を含むこと
考察
川野2018が指摘している通り「財管一致」という言葉にはいろいろなニュアンスを含んでいます。それを踏まえて提示した新しい定義には大きく4つのポイントがあると考えられます
- 財管一致の目的(経営者の意思決定目的)
- 同一データソース(同一の仕訳データ)
- 外部公表数値と内部管理数値の近似
- 表示科目の整合性
財管一致の新定義で特筆すべきは、財管一致は経営者の意思決定を支援するものであるという「目的」の視点を含んでいることです。
財管一致を「状況」として定義するのみならず、その「目的」を定義に含めているのは、重要なポイントです。なぜなら、仮に何らかの意味で財管一致の「状況」を伴っていたとしても、それが経営者の意思決定に資するものでなければ、財管一致とはいえないという論証が成り立つからです。
意思決定目的を重視するというのは、この論文の趣旨とも関係しています。この論文の目的は「管理会計の側面から財管一致を考察すること」と述べられているので、意思決定有用性という「目的」が定義に含められたのもうなずけます。
また、財・管の会計数値の近似にも注目しています。
個人的には、財管一致とは使用するデータの同一性を表し、目的を異にする財務・管理の利益数値が乖離することは当然と考えていたのですが、上記のポイント3.や4.に鑑みれば、データの同一性だけでは財管一致とはいえないということになります。
「異なる目的には異なる原価を」という管理会計の有名なフレーズがありますが、財管一致の新定義は「異なる目的(財・管)にも近似した会計数値を」と要請しているので、直感的にはちぐはぐな印象を受けます。
ちなみにこの論文では、日本企業はこれまで財管一致を志向してきたと述べられています。一方、KPMG『勘定科目統一の実務』では、海外に比べ日本は財務数値を管理目的に使用するという考えが希薄だと述べられており、川野2018との食い違いが見られます。
実務的体感か、調査の時点か、いずれにせよ認識が異なっていると現状の課題共有にも齟齬が生じるので、両者の差異はどこからくるのかは気になるところです。
まとめ
この記事では川野先生による2018年の論文「財管一致の現状と課題-管理会計からの考察-」(PDFリンクはこちら)から、財管一致の定義を解説しました。
実務家を中心に財管一致の重要性は認識されていますが、論文に示されたような定義を共通認識として持つことで、有益な議論ができると思われます。
コメント