会計帳簿の電子化,その歴史と概要

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会計データはデータベースの形式でシステムに保持されますが,そのデータベースの性質はコンピュータの発展に伴って変容してきました。

この記事では,会計帳簿が電子化されてきた経緯を,技術的なメリット,デメリットに着目して解説します。この記事の内容は以下のテキストの第4章「帳簿の電子化と複式簿記の役割」を参考にしています。


元帳データベース・アプローチ

勘定科目ごとに取引の内容を記録する帳簿を総勘定元帳といいます(照屋[2014])。総勘定元帳を元帳ともいいます。

コンピュータ性能が低く処理速度が遅かった時代には,会計データは勘定科目ごと格納されるのが通常でした。このようなアプローチで会計データをデータベース(以下,DB)化するアプローチを,元帳データベース・アプローチといいます。

メリット

元帳データベース・アプローチにおいて,会計数値の入力は仕訳を模した画面から行います。しかし実際には元帳にそのまま入力が行われ,元帳に転記するというプロセスがないため,残高集計のみで財務諸表を作成可能することが可能です。

これはコンピュータの処理速度や計算リソースが乏しかった時代において大きなメリットでした。限られたリソースの中で実用的なシステムを実現するための工夫であったといえます。

デメリット

仕訳データが保存されていないという性質には,デメリットもあります。それは仕訳という伝統的な会計情報オブジェクトを直接把握できないということです。

元帳データベース・アプローチにおいては,会計データは元帳としてのみ保持されており,仕訳データとしては保持されていません。もし仕訳データがほしければ,入力時の情報に遡らねばなりません。

この性質は,間違ったデータを入力してしまったときに問題となります。誤入力した仕訳にたどり着くのが難しいため,訂正が困難なのです。

仕訳帳データベース・アプローチ

取引の仕訳を行う帳簿を仕訳帳といい,複式簿記システムの中で不可欠な帳簿の1つです。(照屋[2014])

コンピュータの処理能力が向上したことで,仕訳データを格納するDBを扱えるようになってきました。日々の仕訳を時系列で記録する方法は,仕訳帳データベース・アプローチとよばれます。

メリット

仕訳帳データベース・アプローチは,取引記録の管理という面で優れています。前述の元帳データベース・アプローチでは誤入力の修正が難しかったというデメリットがありました。仕訳帳データベース・アプローチでは,仕訳データはそのままDBに格納されており,誤入力したデータにたどり着きやすくなっています。

入力時のミスが検証も簡単になり,訂正も容易になったといえます。

デメリット

仕訳帳データベース・アプローチに基づく会計システムにおいて財務諸表を作成しようとすると,仕訳帳からデータを集計する手続きが発生します。

コンピュータの処理速度が向上したとはいえ,昔は今ほどの性能はありませんでしたから,集計にも数時間かかっていたといいます。これでは手軽に経営成績や財政状態を把握することができません。

現在はこうしたデメリットが解消されていますが,会計情報を適時に把握するという意味では大きなデメリットでした。

大幅帳型データベース・アプローチ

コンピュータ性能が更に向上した現在においては,営業活動に関わる情報すべてを時系列的に記録するという方式が主流になってきています。これを大福帳型データベース・アプローチといいます。ERPが代表的です。

メリット

大福帳型データベース・アプローチでは,集約された情報を生データにドリルダウンできるというメリットがあります。試算表や財務諸表のような報告書レベルにまで集約された情報から,仕訳や更に上流の営業活動データを呼び出せるのは,極めて大きなメリットです。

入力情報として,いつ,誰によって入力・処理されたのかという内容が記録されていれば,会計上の問題を認識した場合にも原因追及しやすく,企業内の財務分析にも活用しやすいでしょう。

大福帳型データベース・アプローチは今後も有力な会計システムのあり方であり続けると考えられます。

デメリット

『AI時代に複式簿記は終焉するか』第4章において大福帳型データベース・アプローチのデメリットは明確に指摘されていませんが,個人的には利用のハードルが高いというデメリットがあるように思います。

大福帳型データベース・アプローチは財務報告のアウトプットを,会計データのインプットと結びつけたまま保持できるという強力さを持っていますが,個人的にはこの強力さが実務に十分浸透していないのではないかという疑いを持っています。

元帳や仕訳帳は,コンピュータのない時代から受け継がれてきた伝統的な複式簿記の様式です。しかし大福帳型データベースは,借方・貸方や勘定科目という複式簿記の基本概念を超えたデータを「扱えてしまう」がゆえに,これを使いこなすには相当のスキルが要るという印象があります。

従来の簿記教育に加えて,データベースやデータ分析の知識がなければ,大福帳型データベース・アプローチにもとづく会計システムの真価を発揮させるのは難しいのではないかと考えています。

まとめ

コンピュータの性能の向上とともに,会計帳簿を電子化する技術も進化してきました。

最近では,会計帳簿や財務諸表を記述するためのデータの標準化も進んでいます。

XBRLはそうした標準化の流れの中で有力視されている技術です。

今後のさらなる発展に期待しましょう。

参考文献

この記事は,岩崎勇編著『AI時代に複式簿記は終焉するか』第4章「帳簿の電子化と複式簿記の役割」(坂上学)の内容を参考にしました。

総勘定元帳と仕訳帳の定義は,照屋行雄著『現代簿記の原理』を参照しました。

この記事の内容に関連して,以下の記事もぜひご覧ください。

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財管一致の再定義:「財管一致の現状と課題-管理会計からの考察-」(川野2018)を読む

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