資産価格バブルの数理モデル

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この記事では、資産価格バブルの性質を示す数理モデルについてお話します。

バブルは人類史のなかでいくつも知られていますが、それを数理的にモデル化し分析の俎上に載せ始めたのは最近のことです。

この記事では資産価格バブルの定義について述べたあと、バブルの性質を示すような資産価格変動として簡単な確率微分方程式(CEVモデル)を提示します。

 

 

資産バブルとはなにか(数学的な定義)

リスク中立確率\( \mathbb{Q}\)が存在する市場を仮定します。資産価格を\( S_t\)と表します。

このとき資産価格バブル\( \beta_t\)は

\begin{equation} \begin{split}
\beta_t=S_t-E^{\mathbb{Q}}[S_T|\mathcal{F}_t]
\end{split} \end{equation}

と定義されます。

この定義式における\(E^{\mathbb{Q}}[S_T|\mathcal{F}_t] \)を、この資産のファンダメンタル・バリューといいます。資産価格バブルとはつまり、価格とファンダメンタル・バリューの差にほかなりません。

資産価格バブルは(もし存在したとすれば)ゼロより大きな値を取ります。なぜなら、一般に有限責任性のある資産価格は優マルチンゲールである(そのときの価格がその時点での期待値以上となる)からです。また、資産価格バブルは一度その値が0になるとそれ以降はずっと0になります(つまりバブルは弾けきったら戻りません)。証明は参考文献をご確認ください。

資産価格がマルチンゲールであるとき、つまり

\begin{equation} \begin{split}
S_t=E^{\mathbb{Q}}[S_T|\mathcal{F}]
\end{split} \end{equation}
のときはバブルはありません。したがって、資産価格バブルが存在するということは、資産価格が厳密に優マルチンゲールであることと同値です。

 

完備市場におけるバブルの例

バブルは愚かな人類が生み出したもの、というフレーズを聞いたことがある気がしますが、実はバブルは「きれいな」市場モデルでもその存在を否定できません。具体的に言うと、完備市場(市場の不確実性を市場取引でヘッジできる市場)でもバブルは生じます。その例が以下のCEV(constant elasticity of variance)モデルです。

 

CEVモデル

資産価格\(S_t \)が以下の確率微分方程式に従うモデルを、CEVモデルと言います。

\begin{equation} \begin{split}
dS_t=\mu S_t dt+\beta S_t^{\alpha}dW_t
\end{split} \end{equation}

\( \mu,\beta,\alpha\)はそれぞれ、期待リターン、リターンの変動性、変動性の「爆発度」を決めるパラメタです。

CEVモデルは、資産価格が対数正規分布に従うブラック・ショールズモデルの分散項に現れる\( S_t\)に、べき\( \alpha\)がついただけのモデルです。しかしこのべき\( \alpha\)が、バブルを生じさせるか否かを決める重要な役割を果たします。

べき\( \alpha\)が1より大きいとき、資産価格の瞬間的なボラティリティ\( \beta S_t^\alpha\)は資産価格\( S_t\)と比べて速いスピードで増大します。資産価格の上昇に伴ってボラティリティが大きくなり続ける(explosion, 爆発する)ということです。これがバブル、つまり価格とファンダメンタル・バリューの乖離を生みます。

\( \alpha\)が1に等しいときにはブラック・ショールズモデルに一致し、このときバブルは発生しません。

 

更に進んだ議論

CEVモデルは比較的単純なモデルながら、バブルの性質を持つ都合のいいモデルです。したがって、バブルと思われる資産の定量分析にも使える可能性があります。例えば、暗号資産は保有や償還によりキャッシュ・フローを産まないので、資産価格バブルの可能性があります。

バブルを持つ資産の価格変化を定量的に分析したいと考えたとき、適当な価格モデルを仮定してそのパラメタを推定してみたくなるでしょう。

確率微分方程式のパラメタ推定については統計学的な議論があり、またファイナンス・計量経済学で用いられるGMM(generalized method of moments)という方法も採用可能と思われます。

適当なパラメタ推定ができれば、価格モデルからモンテカルロ・シミュレーションを行うことも可能です。その際には、以下のような離散化(オイラー・丸山近似)ができます。

\begin{equation} \begin{split}
S_{t+\Delta t}-S_{t}&=\mu S_t \Delta t+\beta S_t^{\alpha}\Delta W_t\\
&=\mu S_t \Delta t+\beta S_t^{\alpha}\tilde{\epsilon}\sqrt{ \Delta t},~\tilde{\epsilon}\sim N(0,1)
\end{split} \end{equation}

 

参考文献

資産価格バブルの参考文献として入手可能なものでは、下記の書籍が詳しく、おすすめです。ファイナンスの数学的理論を基礎から積み上げるテキストで、何度は高めですが面白い内容盛りだくさんです。資産価格バブルにも1章割いて説明しています。

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