負債と資本は貸借対照表の貸方の構成要素として広く理解されています。簿記や会計の入門的なテキストでは,負債(他人資本)と資本(自己資本)は明確に区別され,それらが混同されることはあまりないように思います。
しかし,昨今の金融技術の発展により,負債と資本という2つの調達源泉の境界線は,徐々に曖昧になっています。
この記事では負債と資本の間に位置するような項目を例に挙げ,負債と資本の境界線が曖昧になりつつあることを説明します。
多様化する資金調達手段
1960年ころから,金融派生商品と呼ばれる新しい金融商品の値付けや管理の手法が開発されはじめました。
そういった技術的発展と前後して,企業の資金調達も多様化してきました。
今日では社債や普通株式といった伝統的な金融商品だけでなく,それらのいいところを上手く組み合わせた証券や,特定の条件を満たすとキャッシュ・フローの性質が変化するような複雑な調達手段が利用されています。
このような背景のなかで,負債に近い資本や、資本に近い負債がいろいろと登場してきています
それは負債?資本?
負債による資金調達の典型例は社債や借入です。これらは事前に合意された金利に基づいて利息を支払い,満期において元本を償還し,優先的に弁済を受けることが保証された資金調達手段です。
資本による資金調達の典型例は普通株式の発行です。普通株式の保有者は企業が利益を獲得した場合には配当としてこれを分配されますが,元本の返済はなく,満期もありません。また,会社の清算時には負債を返済しきってからでなければ,残余財産の分配に与ることはできません。
このように,負債と資本はその性質が異なっていますが,金融の技術的進展と制度の整備によって境界線が曖昧な調達手段が登場してきています。
資本のような負債
新株予約権付社債は,社債としての性格を持ちながら将来株式となる権利を付与するものであり,資本のような負債といえます。
負債のような資本
種類株式(優先株式)はさまざまな条件を付すことができ,その内容次第では負債に近いものをデザインできます。
たとえば一定の期日に会社が取得することができる条件(取得条項付株式)であったり,定額配当の定めをおいたり,残余財産分配の優先度が高いような種類株式を発行することが可能です。こうした条件が付された種類株式は「実質的に負債」と判定され,負債としての会計処理を行うことが求められる場合があります(IFRSや米国会計基準)。
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