つぶやきまとめ

企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」の要点

こんにちは、毛糸です。

企業会計基準委員会が「時価の算定に関する会計基準」を公表しました。
>>企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等の公表

この基準により、すでに海外基準では取り入れられている「公正価値ヒエラルキー」が日本でも導入されます。

公正価値ヒエラルキーでは、時価算定の複雑度によって時価を3つのレベルにわけます。

3つのレベルはインプット(時価算定に必要な入力情報)の性質によりわけられます。

ざっくりとしたイメージは以下のとおりです。

  • レベル1:時価が活発な市場で直接観測できるもの
  • レベル2:活発な市場はないが、直接観測できるもの
  • レベル3:時価が直接観測できず何らかの仮定を要するもの

複雑な相対デリバティブなどはレベル3が通常です。

公正価値ヒエラルキーによる時価開示は、米国基準では10年くらい前に既に適用されていますが、当時はかなりの実務負担であったと聞いています。

日本でも時価会計基準の導入にあたっては、海外基準がかなり参考になるでしょう。

国際財務報告基準(IFRS)においてはIFRS第13号「公正価値測定」、米国会計基準においてはAccounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」)が、本基準に対応しています。

時価基準導入にあたって、有価証券の時価としていままで認められてきた、期末前1ヶ月平均価格が使えなくなります。

これは、時価の定義が明確になり、売却により得られる価額、とされたためです。

本基準において時価は以下のように定義されています。

「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう。

1ヶ月平均価格はその価格での売却を確約するものではないので、時価とは認められなくなります。

また、時価算定にレベルの概念を導入したことにともない、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券、という概念はもはや存在しなくなることから、基準から削除されます。

時価の範囲を広げたので、何かしら時価はつけられるはずである、ということですね。

金融商品はレベル別の残高を開示する必要があるため、自社の金融資産がどんなインプットを使っているかを把握して、レベル分けをする必要が出てきます。

また、レベル3の金融商品は、期首残高から期末残高への調整表(フロー表)を開示することになります。

理論・モデルの意義と、理論と現実の差異を知ったあとにとるべき行動

こんにちは、毛糸です。

先日の記事で、主要な株価指数から計算する日次リターンが、正規分布に従わないことを確かめました。
>>日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件

リターンが正規分布に従うというのは、ファイナンス(金融工学)においてしばしば仮定されることですが、現実には成り立っていないということです。

この記事を見て「ファイナンス理論は嘘だった!」と受け取る方もいたようです。

しかし、このような態度は学術的に価値あるものではないように思います。

本記事では「リターンは正規分布でない」とわかったあとに我々が考えるべきことは何か、ファイナンスの数理モデルにおいて正規分布を仮定していたのにはどういう意味があったのかということについて考えてみたいと思います。

正規分布の仮定と現実の分布の差異

ファイナンス理論ではしばしば、資産価格のリターンは正規分布に従うと仮定されます。

分散投資の理論的根拠とも言われるマーコウィッツの平均分散分析や、シャープらのCAPM(資本資産価格モデル)も、リターンが正規分布に従うときに成り立つ命題です。

また、ファイナンスの数理分析が広がる契機となったブラック・ショールズモデルも、資産の瞬間的な収益率が正規分布に従うという性質を持ちます。

マートンの最適ポートフォリオ理論も、ブラック・ショールズモデルと同様、瞬間的な収益率が正規分布に従うような資産を考えるときにエレガントな結果が得られることがわかっています。

このように、「リターンが正規分布に従う」というのは、教科書的なファイナンスの世界ではスタンダードな仮定であり、その前提を基に膨大な研究成果が蓄積されています。

ところが、下記記事で分析している通り、主要な株価指数の日次リターンは、正規分布に従っていません。
>>日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件

 

理論の前提が現実を捉えきれていないというこの状況を「理論の敗北」と捉える人もいるでしょう。

しかし、そういった考え方は果たして適切なのでしょうか。

数理モデルを考える意味とは

この世の現象を完全に説明できる「万能の理論」などというものはありません。

縮尺1:1の地図は役に立たない

というのは、数理モデルを扱うを行う人がよく使う格言ですが、現実を捨象し分析に関係ある部分を抽象化して考える「モデル分析」を行う場合には、どうしても現実と不整合な部分が出てこざるを得ません。

ファイナンスにおける正規分布の仮定も、こうした「抽象化」の産物です。

つまり、現実にはリターンが正規分布に従っていないことはわかっているけれども、ファイナンスにおいて重要な意味をもつ「リスク」に関する洞察が得られやすく、数学的にも扱いやすいため、正規分布を仮定しているのだということです。

分析したい対象によって、捨象すべき部分は思い切って捨て去る、そうすることでシャープな結論が得られ、世界を理解することにつながります。

リターンが正規分布に従わないという現実はたしかにありますが、リターンの分布という特徴を敢えて捨象することで、ファイナンスは多くの発見を生み出してきたということです。

理論の前提が現実とが整合していなくとも、分析対象について良い考察が得られれば価値がある。

これが科学的態度です。

理論が現実と違うとわかった私たちが、このあと考えるべきこと

リターンの正規性という理論の前提は、現実には成り立っていない。

それを知った私たちは、その後どんな態度をとるべきでしょうか。

間違っても「理論の前提がおかしい!既存理論は無意味だった!」と吹聴してはいけません。

理論はあくまで分析に必要なもののみをすくい取り、関係ない部分を捨象しているので、モデルと現実が乖離するのは当たり前です。

悲しいことに、投資家の間では、過去何度も、こうした建設的でない批判が繰り返されてきたようです。
参考記事>>分散投資を批判した後の対案がそれ以上に酷い法則-梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)

現実とモデルが違うなんてことはみんなわかっていて、わかっていてなお有用だから、使われているわけです。

理論と現実の差異に気づいたあとに取るべきスタンスは

  1. 理論と現実の差を受け入れ、単純化した世界(モデル)で成り立つ命題を受け入れる
  2. 理論と現実の差を埋めるような、新たな手法やモデルを開発する
のいずれかであると私は考えています。

もし標準的なモデルが自分の分析において不都合なら、自分に必要なモデルを自分で作ればいいだけの話です。

事実、多くの研究者が、資産リターンが正規分布に従わない場合に成り立つ定理をたくさん発見しています。
たとえば下記の書籍では、資産リターンが正規分布に従わない場合においても、平均分散分析やCAPMがなお成立することを証明しており、リターンが正規分布に従わない場合にも分散投資は意味のある投資手法であることがわかります。

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理論と現実の(あって当たり前の)差異について、批判するのではなく、理論の価値を認識し、必要なら自分でよりよい理論を構築することが、社会的に意味のある態度だと思います。

まとめ

ファイナンス理論で仮定される「リターンの正規性」は、実際には成り立っていません。

しかしこれは「理論の敗北」ではありません。

理論は、現実の問題の本質的な部分を抽象化して取り出し、その他の部分はきっぱり単純化することで、深い洞察を得ており、「リターンが正規分布に従う」という仮定も、こうした単純化の一環です。

理論と現実が異なっていると気づいたなら、その差異を受け入れるか、より現実的なモデルを自分で作ってみるのが、社会的に意義ある態度です。

無知は恐怖を生むけれど、解消できますよ、という話

こんにちは、毛糸です。

先日こういったつぶやきをしました。
今回は「知らないことが恐怖を生む」ということ、そしてその恐怖は解消できるということについて考えてみたいと思います。


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知らないことの恐怖

知らない、ということは、対象がはらむリスクを適切に評価できないということです。
知らない対象は、自分に対してどんな影響を与えるかわからず、危害を加えられる可能性も否定できません。
したがって、知らない対象に対しては、私達は恐怖心を抱くことで、リスクから遠ざかろうとする傾向にあります。
恐怖心というのは、私達を危険から遠ざけるための防衛本能の現れです。
新しい仕事を任されたり、初対面の人とコミュニケーションをとったり、知らない分野の知識に触れるとき、私達は不安と恐怖を抱きます。

それは自分を危険から守る自然な気持ちなのです。


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無知の恐怖から逃れられた例

馴染みのない対象に対する恐怖、その恐怖が「無知」から生じるとわかってから、私は初めて触れる物事や人物に対する恐怖心が、いくらか和らぎました。
冒頭に述べたツイートは、「対象を知ることで恐怖心がなくなった」ことの例です。
私は大学院時代に金融工学の研究をしており、現在も趣味で勉強を続けています。
金融工学に使われる数学の一分野に「マリアヴァン解析」があります。
マリアヴァン解析は無限次元確率解析はとも呼ばれ、大学院レベルの高度な数学です。
私はこの分野を、名前だけは聞いたことがあるものの、極めて難解な応用数学の分野と認識し、恐れていました。
マリアヴァン解析は超難度の数学で、自分には絶対に手に負えないと、敗北宣言をしていたのです。
しかし、ある日唐突に「マリアヴァン解析を勉強してみよう」と思い立ちました。
特に大きな知的成長があったわけではないのですが、単純に「勢い」で勉強を始めることにしました。
テキストを買い、ネット検索をしまくり、慣れない英語を訳すなかで、徐々に理解は深められていきました。
結局、マリアヴァン解析の概要やテキストのまとめ記事をかけるほどの理解を得ることができました。
恐怖の対象であった「マリアヴァン解析」は、勢いに任せた勉強とアウトプットにより、私の確かな知識になったのです。
いまでは論文にマリアヴァン解析の文字が出てきても、慌てふためくこともなく、むしろより深い理解ができるようになりました。
知らないことは恐怖を与えますが、そうして生まれた恐怖心は、きちんと対象を理解することで、拭い去ることが出来るのだと学びました。


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まとめ

私が数学に抱いていた恐怖心は、じっくり向き合い理解することで、拭い去ることができました。
知らないということは、恐怖を生みます。
しかし、その恐怖は対象を理解することで消し去ることが可能です。
もしあなたが「恐怖」を抱いているものがあれば、まずそれを「知る」ための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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「レバレッジをかける」の本当の意味と、リスク・リターンとの関係

こんにちは、毛糸です。

先日こういった呟きをしました。

「レバレッジをかける」という言葉は、経営学やファイナンスの用語として広まりましたが、普及しすぎたためにその意味を理解しないままビジネスマンなどが誤用している例が多々あります。

FXや不動産投資はレバレッジをかけた投資の好例ですが、その意味を正しく理解できていない人もいるようです。

今回は「レバレッジをかける」とはどういうことなのかについて説明し、誤った使いかたについて指摘したあと、レバレッジとリスク・リターンの関係について述べたいと思います。


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「レバレッジかける」とはどういう意味か?

レバレッジをかける、レバレッジを効かせる、という言葉は、日常のいろいろなシーンで用いられる用語です。

本来は商学・経営学・ファイナンスで用いられる専門用語です。

レバレッジの本来の意味は、他人資本を利用することで自己資本利益率を高めることです。

これだけではイメージが掴みづらいので、例を出しましょう。
リターン(収益率)が10%の投資案件があるとします。
自己資本(元手)100万円をこの投資案件に投下したとき、リターンは100×10%=10万円です。
率に直すと、リターン10万円÷自己資本100万円=10%です。
自己資本が200万円だった場合も、金額ベースのリターンは200万×10%=20万円、率に直すと10%です。
以上の例は自己資本のみを使いましたが、他人資本を利用できる場合はどうでしょう。
利率5%で他人から資金を借り入れることが出来るとします。これが他人資本を利用するということの意味です。
自己資本100万円と、他人資本100万円の合わせて200万円をこの投資案件に投下するとき、金額ベースのリターンは200万円×10%=20万円です。
投資元本とリターンの総額は220万円です。
他人資本には利息を払って返済しなくてはいけませんから、利率5%分の5万円と借入額100万円の合わせて105万円を返済します。

したがって、他人資本を返済したあとに残る金額は220-105=115万円です。

自己資本100万円が、投資後には115万円になったわけですから、金額ベースのリターンは15万円、率に直すと15%です。

先程の「全額自己資本」のケースでは10%でしたから、他人資本を利用したことで収益率が5%高まっています

これが「レバレッジをかける」ということの具体例です。

「レバレッジをかける」とは、他人資本を利用する(≒借金をする)ことで、自己資本に対するリターンの比率を高めることです。

レバレッジをかけた投資にはいくつもありますが、たとえば不動産投資がレバレッジを利用した例です。

千万、億単位のお金は自分では用意できませんが、銀行から借り入れをすれば自己資金が少なくても不動産を購入でき、運用に成功すれば金利分の負担で高いリターンにあずかれる、というのが不動産投資のメリットです。

また、FX(外国為替証拠金取引)にもレバレッジという概念がありますが、これも全く同じです。

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「レバレッジをかける」の誤用

レバレッジをかけることはビジネスを大きくするために重要な意味を持つので、その言葉はいろいろなシーンで使われます。

しかし、広く使われすぎているがゆえに、誤解を招きやすい表現でもあります。

レバレッジの本質は「他人資本の利用」なので、例えば自助努力で品質や速度を上げる、といった例でレバレッジという言葉を使うのは誤りです。

「エナジードリンクを飲んでレバレッジをかける!!」といった表現も、他人資本を使っているわけではないので、レバレッジをかけているわけではありません(厳密には、将来の元気を前借りしているという意味で、異時点間でレバレッジをかけていると言えなくもないです)。

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レバレッジとリスクの関係

レバレッジとは平たく言えば「借金して投資したら自己資金に頼るよりデカく張れる」ということですが、「レバレッジをかける」ことで無条件にリターンが高められると勘違いされがちです。

レバレッジをかけると、リターンを高められる代わりに、リスクも増幅させます

また例を出しましょう。

200万円投資すれば1/2の確率で400万円、1/2の確率で40万円になる投資案件があるとします。

将来手に入る金額の期待値は1/2×400+1/2×40=220万円です。

この投資案件に自己資本200万円を投じたとき、1/2の確率で400-200=200万円のリターン(率にして100%)、1/2の確率で40-200=-160万円(率にして-80%)という結果になります。

もし他人資本を使うとどうなるでしょうか。

自己資本100万円に加え、他人資本を100万円(利率5%)で利用するとします。

このとき、1/2の確率で400万円が獲得でき、他人資本の返済105万円と自己資本100万円を引いたあとの残り195万円がリターンとなります(率にして195%)。

一方、1/2の確率で40万円しか返ってきませんので、他人資本の返済105万円と自己資本100万円を引けばリターンは-165万円(率にして-165%)となります。

まとめると

  • 自己資本200万円の場合、
    • 1/2の確率で収益率100%
    • 1/2の確率で収益率-80%
    • 期待リターンは1/2×100+1/2×(-80)=10%
    • リターンのブレ(リスク)は-80~100%
  • 自己資本100万円+他人資本100万円(利率5%)の場合、
    • 1/2の確率で収益率195%
    • 1/2の確率で収益率-165%
    • 期待リターンは1/2×195+1/2×(-165)=15%
    • リターンのブレ(リスク)は-165~195%

この例からわかることは、レバレッジをかけると、リターンが大きくなると同時に、リスクも高くなるということです。

つまり、レバレッジをかけるとは、ハイリスク・ハイリターンな投資プランにシフトすることに他なりません。

敢えてネガティブな話をするなら、上手く行かなかった場合の損失が大きくなる、ということです。

投資の結果を前もって予測することはできず、レバレッジをかけた投資が必ず実を結ぶとは限りません。

レバレッジをかけるということは、ハイリスク・ハイリターンを目指すということなのです。


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まとめ

ビジネスマンなどがよく使う「レバレッジをかける」という言葉の意味について説明しました。

レバレッジをかけるという言葉は誤用されがちです。

レバレッジはリターンを高める効果がありますが、リスクも上がるということを認識しておく必要があります。

投資において無条件にリターンを高められる「魔法」は存在しません。

きちんと勉強し、正しい理解を身に着け、リスクを適切に管理しましょう。

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