『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』内容の概説、こんな人におすすめ、いい点と注意点

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こんにちは、毛糸です。

5/11土曜日に、『モンテカルロ法によるリアルオプション分析』(きんざい)の輪読会を開催します。

>>『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』輪読会第1回 hosted by PyCPA(外部サイトに飛びます)

今回は本書の内容をざっくり紹介したあと、この本がどんな人におすすめかに触れたあと、いい点と注意点について説明します。

目次

  • 本書の目次と内容概説
  • こんな人におすすめ
  • いい点と注意点その1:ファイナンス・金融工学・リアルオプションの教材として
  • いい点と注意点その2:エクセルVBAの教材として
  • まとめ

本書の目次と内容概説

第1章 エクセルVBAプログラミング入門

エクセルVBAとはどんなプログラミング言語なのか、どうやって使い始めたらよいのかを解説しています。

第2章 数値解析入門

モンテカルロ法とは何かを説明し、実際にモンテカルロ法を用いて円周率の推定を行います。覆面算、方程式、数値積分、常微分方程式などを題材に、モンテカルロ法の理解を深めます。

第3章 乱数

乱数とは何かについて説明したあと、乱数の生成方法について述べます。乱数発生アドインのインストールを解説し、以後の章の準備をします。本書では線形合同ジェネレーターの拡張版と、インバース法を用いて正規乱数を生成します。

第4章 基本株価プロセスとブラック・ショールズ・モデル

二項モデルの例をみたあとに、ランダムウォークと株価プロセスのモデル化を行います。モンテカルロ法による「ブラック・ショールズ・モデル」の実装方法について説明します。

第5章 エキゾチック・オプション

バイナリー・オプション、ルックバック・オプション、バリア・オプション、アジア型オプションの評価方法とコード例を説明します。

第6章 推定誤差

サンプル数による推定誤差の理論と計算について述べます。推定精度の向上法や離散化による推定誤差について説明しています。

第7章 シンプルなモデル

売上高のランダムなパスを生成し、リアルオプション分析のためのシンプルなモデルを作成します。

第8章 リスク中立評価

リアルオプションを含むデリバティブの評価理論に必要なリスク中立評価法について、数式で詳しく説明します。

第9章 基本プロセスの拡張

前章までで紹介された基本プロセスに、配当、外国為替、価格のジャンプなどを入れて拡張します。ファット・テイル分布からのサンプリングや平均回帰過程についても説明します。

第10章 スタートアップ企業の評価

Schwartz and Moonの「アマゾン」モデルを使って、スタートアップ企業の評価を行います。

第11章 アメリカン・オプションの評価

最小二乗モンテカルロ法(LSM法)について説明し、バミューダ・プット・オプションの評価を行います。

こんな人におすすめ

本書はファイナンス・金融工学で研究されてきたデリバティブの価格評価理論を応用し、経営上の意思決定の柔軟性が生む企業価値(リアル・オプション)の評価を行います。
リアル・オプション分析に必要な金融工学の数学的背景が丁寧に解説されているため、金融工学を学ぶためのテキストとしても適しています。
数学(解析学や確率論)に触れてきた人で、その知識を実務に活かしたい人は、本書でデリバティブ理論を学ぶことが出来ます。
また、リアル・オプション分析を行うに当たり、プログラミングが必要になります。
本書ではエクセルに標準搭載されたプログラミング言語VBAを用いてリアル・オプション評価のためのプログラムを作成します。
プログラミングに初めて触れる人でも躓かないよう、エクセルVBAの使い方からプログラミングの基礎的内容を説明しています。
昨今のプログラミングブームのなかで、自分も何か始めたいけれど、どんな言語を始めたらいいのかわからず、勉強方法についても悩んでいる、という人は、本書を手を動かしながら読むことで実力が身につきます。

いい点と注意点その1:ファイナンス・金融工学・リアルオプション

本書のテーマはモンテカルロ法を用いて企業の意思決定の柔軟性から生まれる価値=リアル・オプション価値を定量的に評価することです。
本書で学ぶリアル・オプション分析は、従来、ファイナンス・金融工学という分野で蓄積されてきた研究成果を応用したものです。
ファイナンスとは、リスク(不確実性)と時間の概念を明示的に考慮した経済学の一分野であり、確率論を高度に利用した応用数学の側面もあります。
金融工学とは、ファイナンスのうち、実務的便益を企図していることを強調した表現です。
本書ではファイナンス・金融工学のうち、リアル・オプション分析に必要な部分を整理して解説してくれているため、ファイナンス・金融工学を勉強する大変よい教材となっています。
本書に取り組むことで、実務への応用を前提としたファイナンス理論を習得することが出来ます。
ただし、ファイナンス・金融工学を完全に理解するためには、数学、とくに解析学や確率論の知識が必要不可欠です。
本書ではファイナンスに用いる数学を最低限しか解説していないため、例えば高校レベルの数学に抵抗感を持っているような人には、通読が難しい内容となっています。
高校数学に不安のある方はまず高校数学の参考書に取り組むことをおすすめします。

また、ファイナンスで用いる数学は、高校数学+アルファなので、この「+アルファ」の部分を勉強する必要もあります。具体的には確率解析と呼ばれる、確率論と微積分学の応用分野が必要になります。
ファイナンスに用いる数学については、以下の本に必要最低限の内容がまとまっているため、参考文献にすることを勧めます(増補版は入手しづらいようですが、古い版でも十分です)

いい点と注意点その2:Excel VBA

リアル・オプション分析では、乱数を用いた将来予測(モンテカルロ・シミュレーション)を強力なツールとして利用します。

コンピュータの計算力をフル活用した現代的手法であるモンテカルロ・シミュレーションを行うには、コンピュータに処理をさせるためのプログラミング言語を習得する必要があります(簡単なものであれば、エクセルシートでもなんとかなります)。

本書はモンテカルロ法を実行するに当たり、エクセルに標準搭載されているプログラミング言語VBAを用います、

VBAはエクセルがインストールされたPCであれば特別なことをしなくてもすぐに使えるようになりますので、プログラミングの入門には適しています

構文も難しいものではなく、少し訓練すれば容易に習得可能ですし、その訓練は本書にじっくり取り組むことで達成されます。

実際、私のプログラミング力を飛躍的に上昇させたのは、この本を読んだからです(私はプログラミング勉強会を開くまでにスキルアップしました)。

実際に手を動かしながら本書を読み勧めていく中で、エクセルVBAとプログラミングの基礎がしっかり身につきます

ただし、一点注意点があります。

プログラミング習得には近道は存在しません。

本書を流し読みすれば勝手にプログラミング力が身につくということは絶対にありませんので、しっかり自分で手を動かす必要があります。

本書に記載されているコードを実際に打ち込む(エンジニア用語で、写経する、と言います)ことでしか、プログラミング力は向上しません。

そもそも本書は、紙面上でコードが記載されてはいるものの、コーディング済みのエクセルシートなどは公開されていません

もし「手軽にリアル・オプション分析を行うためのツールが欲しい」と考えている人にとっては、本書はふさわしくないでしょう。

裏を返せば、確かなプログラミング力を身につけるための教材としてはこれ以上のものはないと言ってもいいでしょう。

スキルアップを目指す方にとって最高の教材です。

まとめ

『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』はファイナンスとVBAを使ってリアル・オプションを学ぶ大変良い教材です。
ある程度の数学の素養がある人が、ファイナンスとプログラミングを学ぶのにおすすめの本です。
ファイナンスを基礎から学び、数理的思考力を鍛えることが出来るとともに、VBAプログラミングのスキルを効率的に学ぶことが出来ます。
リアル・オプション分析の手法を学ぶことで、企業の意思決定に説得力をもたせることも出来ます。
難書ではありますが、間違い無しの良書です。是非チャレンジしてみてください。
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