リアル・オプションを用いた無形資産投資評価(無形資産のプットオプション性)

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こんにちは、毛糸です。

リアル・オプションに関する勉強会が、5/11に開催されます。

>>『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』輪読会第1回 hosted by PyCPA

この勉強会に触発されて、こんな本を読んでいます。

この本の中に『リアルオプションを用いた無形資産価値評価について』という論文が掲載されていました。

とても興味深い内容だったので、メモを残しておきます。

無形資産を評価することの重要性

企業の生産性向上が叫ばれるなか、その目的達成のために無形資産を活用することの重要性が認識されつつあります。

無形資産は、機械設備等の有形資産とは異なり、実体を持たない資産ですが、近年、無形資産が企業価値に与える影響が重大であることが指摘されています。

無形資産とは、企業の研究開発力であったり、雇用する人材の能力であったりと多様ですが、会計上、バランスシートに記載されないものも多く、それを活用するのは簡単ではありません。

無形資産を活用するためには、まず無形資産の価値を評価する必要があります。

無形資産を評価するための従来の方法

無形資産の評価手法には、以下のような方法があると言われています。

  • インカム・アプローチ
  • コスト・アプローチ
  • マーケット・アプローチ

近年ではリアル・オプションという考え方も徐々に広まってきました。

リアル・オプションとは、企業の意思決定の柔軟性のことを指します。

具体的には、研究開発が上手く行ったら事業化する、とか、売上が好調なら広告を打って規模を拡大する、といった条件付きの意思決定がもつ価値を分析するのがリアル・オプションの考え方です。

従来、リアル・オプションは事業価値に関するコールオプション=アップサイドの利益を享受し、ダウンサイドの利益を回避するようなポジション、として定式化されてきました。

代表的な無形資産投資である研究開発投資も、新知識の発見・開発・事業化という「リニア・モデル」に従って、リアル・オプションの考え方を用いて評価されてきました。

しかし、近年では従来のような技術主導型の研究開発に加え、ニーズ主導型の投資が多くなってきているといいます。

技術目標を予め設定し、それを確保すべく投資を行うと行ったプロセスを踏むことで、必要な能力や効果を獲得していきます。

本書では新しい無形資産評価として、将来の事業化への投資機会獲得(コールオプション)ではなく、必要資産の獲得という観点から、評価手法を組み立てています。

プットオプションとしての無形資産

本書では、無形資産はMVA(Marked Value Added。スターンスチュワート社が定義[リンク])として市場から評価されていると考えます。

MVAは株式時価総額と自己資本の差額として評価される、会計上の「のれん」に近い概念です。

コーポレートブランド(CB)の観点からMVAを算出するCBバリュエーターなどのツールもありますが、こちらは算定ロジックが非公開となっています。

無形資産それ自体は取引不能であり、無形資産から得られる利益の期待値の変動でMVAは変化することから、無形資産とMVAは全く同等ではありません

本書では無形資産への投資を、無形資産を獲得するためのプットオプションへの投資とみなします。

無形資産に投資することで、市場が評価する株式時価総額に一定の下限値を設けつつ、アップサイドの株式時価総額を実現させる効果が得られます。

つまり、株式時価総額と無形資産のポートフォリオが、株式時価総額のコールオプションの買いポジションになると考え、無形資産はプロテクティブ・プットとして機能すると考えるのです。

無形資産への投資により、将来の株式時価総額の下方リスクをヘッジ出来る、といってもいいでしょう。

無形資産投資( p)は、将来の無形資産価値( I_e)を権利行使価格とした、株式時価総額( M_T)のプットオプションとして表します。
[ begin{split}
p=PV[max(I_e-M_T,0)]
end{split} ]

無形資産への投資とは具体的には、研究開発投資、広告投資、超過人件費投資を指します。

プットオプション価格としての無形資産投資( p)と、現在の株式時価総額( M_0)がわかれば、オプション価格に内包される権利行使価格( I_e)が求まり、これを無形資産の価値とみなすことが出来ます。

具体的な計算式や分析の詳細は本書を参考にしていただきたいと思いますが、本研究によれば、無形資産投資のオプション性(フロア効果)が示されており、無形資産に投資することで株価にポジティブな影響が認められることが実証されています。

本書にはモデルの詳しい説明と、財務諸表との関係、日本の上場企業を対象とした無形資産価値のランキング表などが示されています。

まとめ

本研究では、無形資産に投資することで株式価値の下方リスクをヘッジすることが出来るというアイデアによって、無形資産をプットオプションとみなし、無形資産の価値を評価する手法が説明されています。

無形資産の重要性が叫ばれる昨今、無形資産の活用の緒として、リアル・オプションの考え方を用いた分析がパワーを発揮します。

リアル・オプションに興味を持たれた方は、勉強会を開催しておりますので、是非参加してみてください。
>>『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』輪読会第1回 hosted by PyCPA

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