会計学と情報理論の融合、そして「会計学の基本定理」

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「会計学の基本定理」という定理をご存じでしょうか。

「基本定理」とは数学のある分野で、極めて重要な意味を持つ中心的な命題につけられる名称です。

代数学の基本定理や微積分学の基本定理などが有名です。

しかし、会計学にもそうした定理があることを知っている方は少ないでしょう。

「会計学の基本定理」はその名の通り、会計学(の数理的側面)における極めて重要な主張、ということなのでしょう。

しかし、あまり広く知られている定理ではありません。

今回はそんな「会計学の基本定理」について、私がそれにたどり着いた経緯と、定理の主張を簡単にお話します。

 

複式簿記の美しさと数学的構造

唐突ですが、複式簿記には「美しさ」があります。

混沌として目まぐるしく移り変わるビジネスの出来事を、借方貸方という2つの側面から整理できてしまう「複式簿記」という技術。そこには理路整然とした「数学的構造」があります。

そもそも会計学というのは、現実の出来事を複式簿記という技術を用いて会計数値に変換(写像)するプロセスと、そうして生まれた会計数値の利用や解釈に関する学問です。

会計学において複式簿記は欠くことのできないツールですが、複式簿記それ自体にどういう構造や性質があるのか、といった研究はメジャーなトピックではありませんでした。

 

日本が生んだ公認会計士で、米国会計学会の会長も務めた偉大なる会計学者 井尻雄士(Wikipedia)先生は、借方貸方で表現される複式簿記を拡張できないかという問題に取り組まれ、三式簿記と呼ばれる、拡張された簿記を考案しています。
参考記事:【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

しかし、複式簿記のそのものを考察対象とする学術研究はあまり広まることなく、一部の研究者ないし実務家が、断続的に研究を行ってきたようです。

行列簿記は複式簿記のひとつの形として研究されており、その内容と限界は以下の記事にまとまっています。
参考記事:【君の知らない複式簿記1】行列簿記の意義、性質、限界

近年、複式簿記の数学的研究は、海外の研究者によってその本質に迫るようになり、そこでは複式簿記を「群」と捉えることで、複式簿記の数学的構造を見事に抽象化し理解できるようになりました。
参考記事:【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」

会計学と情報理論の融合

このように、複式簿記はその数学的構造を代数の言葉で表現することに成功しつつあります。

一方、これとは全く異なる側面から、会計学にアプローチする方法があります。それが「情報理論」的なアプローチです。

情報理論とは1948年のクロード・シャノンの論文を創始とした、情報・通信を数学的に扱う学問分野です(Wikipedia参照)。情報理論はランダムな変数が持つ「情報量」やその不確かさである「エントロピー」を定義するところから始まります。情報理論では確率変数の持つ情報の不確かさなどを定量的に扱うことで、計算機や通信技術や暗号技術などに応用されており、比較的新しい学問分野でありながら、大きな社会的意義を持っています。

この情報理論が会計情報を分析するための有効なツールになりうることが、オハイオ州立大学のJohn Fellingham教授らによって示されました。

Fellingham教授のページには、「会計:情報科学(原題Accounting: An Information Science)」と題するモノグラフが公開されており、「会計学の基本定理」もここに述べられています。

このモノグラフによると、会計学の基本定理とはいくつかの仮定のもとで成り立つ、会計情報と相互情報量の関係のこと指しています。

この定理の主張は、会計情報によって増加するリターン\(\Delta W\)が、会計情報\(X\)と確率変数としての\(Y\)の相互情報量\(I(X:Y)\)に等しいという定理(相互情報量定理)を具体的な勘定科目に対応付けたものです。すなわち定理の証明が書かれていますので、気になる方は目を通してみてください。

このように、会計学は他の数理的な分野との融合させ別の確度から捉えることで、その本質の深い部分を理解することが可能です。

会計学というと簿記による仕訳作成や財務諸表分析がイメージされますが、数学の文脈の中で捉えることによって、違った姿を見せます。

物事を多角的に見ることで、対象の本質がよく分かるようになりますが、会計学を理解する上でも、こうした別の視点からの観察を行ってみると、なにか発見があるかもしれません。

 

参考文献

会計学の基本定理が依拠するシャノンの情報理論について、例えばこちらの文庫本で解説されています。相互情報量の定義もこの本で学ぶことができます。

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