会計数値の集計(aggregation)に関するいくつかの論点

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会計(より具体的には決算)という手続きには、会計数値の集計が伴います。

会計数値の集計とは例えば、複数の仕訳から同じ勘定科目の金額を集計しその勘定の残高を計算したり、資産勘定に含まれる勘定残高を集計して総資産の金額を計算したりといった手続きのことです。

この集計という手続きにはどんな「意味」や「効果」があるのでしょうか。Arya et al.(2000)で指摘されたポイントを考察してみます。

Arya, A., Fellingham, J. C., Glover, J. C., Schroeder, D. A., & Strang, G. (2000). Inferring transactions from financial statements. Contemporary Accounting Research, 17(3), 366-385.(LINK)

追加的な情報

以下に挙げるテキストでは、集計プロセス自体が情報を追加する可能性があることを指摘しています。

第2部第6章「投資家と会計」において以下のように書かれています。

集計された貸借対照表に1つの勘定を記載するためには(たとえば,棚卸し資産–100万ドル),企業の資源のそれぞれに関する詳細なリストを有するだけでは十分ではない。またすべての資源の特質を知って,詳細なリストの中からどの項目が貸借対照表上の棚卸資産として分類された集計項目にうまく集計できるか,という判断ができなければならない。

詳細な情報だけが得られても、その集計規則を知らなければ大局的な情報を得ることは出来ません。ここで述べていることはつまり、集計された情報は適切な集計規則が反映されたあとのものであるという意味で、追加的な情報を含んでいるということです。

確かに、何かしら商品を購入する取引があったとしても、それが「棚卸資産」に該当するものなのか、はたまた営業外の資産として「その他流動資産」に集計されるのかというのは、追加的な情報なしには判断しづらい部分もあります。

また、同じ資産であっても国内と海外の会計基準で集計すべき先が異なるケースもあります(日本基準では固定資産だが、海外基準ではソフトウェア仮勘定、など)。

会計数値の集計はこうした判断が含まれているので、追加的な情報を含んでいるというわけです。

 

誤差の削減

情報を集約する仮定で、細かな情報に乗った「ノイズ」が打ち消し合うことがあります。

個々の項目(仕訳の金額や勘定残高)が誤差を伴って測定される場合には、集計という過程を経ることで、個々の項目の誤差を相殺することが可能になります。

このことはDatar and Gupta(1994)で論じられています。

Datar, S., and M. Gupta. 1994. Aggregation, specification and measurement errors in product costing. Accounting Review 69 (4): 567–91.(LINK)

 

機密情報

詳細な情報を開示したくないと考える理由の一つに、機密情報の存在があります。勘定科目を詳細に設定している会社が仕訳帳をすべて公開すれば、企業の競争力に関係する情報が他社に知られてしまうかもしれません。

競合他社によって悪用されるかもしれない情報を含んでいる場合には、数値を集計することで、情報粒度を荒くして漏らさない効果があります。

このことはNewman and Sansing(1993)で論じられています。

Newman, P., and R. Sansing. 1993. Disclosure policies with multiple users. Journal of Accounting Research 31 (1): 92–112.(LINK)

 

プリンシパル・エージェント問題やゲーム理論

プリンシパルのコミットメントに制限がある場合、集約された情報が最適となるケースがあります。Cremer(1995)やDemski and Frimor(2000)などの研究があります。自分と相手の情報制限の状況が、プレイヤーの利得につながるようなゲームがあるという理論的研究もあります。

Cremer, J. 1995. Arm’s length relationships. Quarterly Journal of Economics 110 (2): 275–95.(LINK)
Demski, J., and H. Frimor. 2000. Performance measure garbling under renegotiation in multi-period agencies. Journal of Accounting Research 37 (Supplement): 187–214.(LINK)

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