この記事では、代数学の基本的構造である環(かん、ring)の定義と、その直感的な説明を行っています。
以下のテキストを参考にしています。
環の定義
集合\( A\)に二つの演算\( +\)(加法、和)と\( \times\)(乗法、積、\( \cdot\)とも書く)が定義されているとします。つまり任意の\( a,b\in A\)に対して
a+b&\in A\\
a\times b(=a\cdot b) &\in A
\end{split} \end{equation}
- \( A\)は演算\( +\)に関して可換群(アーベル群)になる
- 積の結合法則が成り立つ:任意の\(a,b,c\in A\)に対し\( (a\times b)\times c=a\times (b\times c)\)
- 分配法則が成り立つ:任意の\(a,b,c\in A\)に対し\( a\times (b+c)=a\times b+a\times c,()\)
- 乗法についての単位元が存在する:特別な元\( 1\in A\)が存在して、任意の\( a \in A\)に対して\( a\times 1=1\times a=a\)
雪江『代数学1』では、環を以下のように直感的に説明しています。
環というのは,要するに,二つの演算が定義されていて,一つの演算に関しては可換群であり,二つの演算に分配法則などの整合性があるものである.
環の中では、元の掛け算が定義できます。群は足し算・引き算ができましたが、環はその性質を引き継ぎつつ、掛け算を行うことができます。また、足し算と掛け算の組み合わせに関する性質である分配法則が成り立つので、足し算と掛け算という二つの演算が整合的であるといえます。
複式簿記への応用
複式簿記において、勘定残高(会計数値)の集合として環を考えると都合がいいです。
環は加法に関して可換群であるため、足し算引き算を順序を問わず行うことが出来ます。したがって、仕訳による勘定残高の増減を表現するのに都合がいいです。
環は足し算・引き算のほかに、掛け算も定義できるのでした。会計数値の掛け算というのは、簿記・会計ではあまり行われません。しかし、外貨の換算や税効果会計において掛け算を行う必要が生じます。
また、仕訳を\( n\)回行う、というようなケースでは、群の元としての仕訳をスカラー倍(\( n\)倍)する必要があります。このようなケースにおいては、仕訳に現れる数値として掛け算を行えるような集合、すなわち環を考えるのが適当です。詳しくは別記事 環上の加群 module【簿記数学の基礎知識】をご覧ください。
参考文献
この記事の内容は以下のテキストを参考にしました。群・環・体といった抽象的な代数学の基礎を学ぶことが出来ます。初心者が陥りやすい誤りや注意点を丁寧に解説してくれているので、とても教育的です。
【君の知らない複式簿記】シリーズでは複式簿記の数学的構造を解説しています、こちらからどうぞ。
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