この記事では、ネガティブな印象で語られがちの技術的負債という概念について、経済学的な観点から、そのポジティブな側面を述べます。
ネガティブに語られがちな技術的負債
技術的負債とは、望ましい技術の導入を先送りするなどして目先の負担を軽減した結果、将来にそれを変更・修正する際にコストを生じさせる可能性のことをいいます(参考:Wikipedia)。
場当たり的な対応によって将来大きな負担を生じさせることを「借金の返済」に見立て、負債という表現が使われます。
技術負債はネガティブな意味で用いられることが多く、技術的負債をいかに「返済」するか、もしくは回避するかという議論は活発です。
参考:Qiita 技術的負債
技術的負債のメリット
会計的な負債が常にネガティブな意味を持つとは限らないのと同じく、技術的負債にもまたメリットがあります。
それは端的に言えば、技術導入時点でのコスト削減です。
望ましい技術が認識されていても、それを適用するのには一定のコストがかかります。それは例えば、必要な人材の獲得であったり、社内教育であったり、専門のツールやサービスの導入にかかるコストです。
そういったコストを伴う技術の適用を先送りすることで、別の生産的な分野に資源を投入することが可能になります。
企業が利用できるリソースは有限ですから、技術的負債を恐れずに他の分野に投資を行うことで、結果として組織の成長を軌道に乗せられる場合もあります。技術的負債を取り戻す負担がこうした成長で十分カバーできるのであれば、技術的負債はむしろ歓迎すべきものとも考えられます。
経済学的にいうなら、望ましい技術よりも高い限界生産性を持つ生産分野への投資、もしくは割引現在価値がより大きな投資案件への投資を志向すべきということです。
さらに言えば、目先の技術投資を回避することによって当該技術の陳腐化リスクを回避したり、企業の成長度合いにあった別の技術を模索する等のリアル・オプション効果もあります。
参考:『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』内容の概説、こんな人におすすめ、いい点と注意点
まとめ
組織の価値を最大化させるという目的に照らして、回避すべき技術的負債と、利用すべき技術的負債とがあるように思えます。
技術的負債を過度に恐れることなく、他の投資案件との比較や、組織の異時点間の資源配分、柔軟な意思決定を行うことのベネフィットとよく相談して、技術的負債を上手に活用することが重要なのではないでしょうか。