デジタル尺度としての損失:損失計上は額ではなく損失状態に陥ったことに意味がある?

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損失という会計数値は、その金額よりも「損失状態であること」が重要な意味を持っています。

本記事では企業の損失に関する行動を例にして、損失状態であるか否かというデジタルな尺度に意味があるという考え方について述べます。

損失計上の規模

企業業績が赤字であるということは、会計上の損失が計上されているということです。

営利企業は通常、利益を獲得することを目的としていますから、損失計上はあまり誇らしいことではありません。

しかしながらリスクをとって企業経営を行っている以上、損失も時には発生します。経済が不況に陥ったり、ビジネスに逆風が吹くなどして、一時的に損失を計上することはよくあります。

損失といっても、その額が1億円なのか100億円なのかで、損失の「重要度」に関する印象は異なるものになります。同じ損失計上であっても、その規模が小さい方が「傷は浅い」というわけです。

ビッグバス効果:損失計上によるV字回復の演出

損失計上の規模によって会計情報の利用者が得る印象は異なります。

しかしながら、実際の企業行動を見てみると、ある事業年度に損失計上が見込まれるタイミングで、計上できる損失は計上しきってしまおうという動きがみられます。

例えば、本業で赤字になりそうなタイミングに合わせて固定資産の減損損失を認識することで、固定資産の帳簿価額が小さくなり、将来の減価償却費が小さくなります。こうすることで、一時的な赤字は大きくなりますが、他方将来の利益を押し上げる効果があります。

こうした「選択的な」損失計上は、業績のV字回復を演出するのにも使えます。これをビッグバス効果といいます。

本来小さい方が良いはずの損失ですが、実際には「損失計上することになったら、その規模は大した問題ではない」という態度が行動に現れることがあるのです。むしろ、痛みは一瞬と言わんばかりに、膿は出し切ってしまおうという行動にでるというわけです。

デジタル指標としての損失

これは損失という会計数値が、アナログな尺度(連続的に変化する金額)ではなく、デジタルな尺度(損失計上するか否か)としての側面を持つことを意味します。

会計情報の影響度という何かしらの指標があるとすると、損失状態にある場合には、損失の金額の変化に対する会計情報への影響度の変化は小さいということです。

会計情報の影響度\( V\)を企業損益\( x\)の関数\( V=V(x)\)と表せるのだとすると、\( x<0\)のとき\( V'(x)\)は小さい、というふうにモデル化できそうです。

もし\( x<0\)のとき\( V'(x)=0\)である、つまり損失の状態においては損失の金額が変化しても会計情報の影響度には寄与しないのだとすると、\( x<0\)の範囲では\( V\)は一定ということになりますから、「損失であることに意味があり、その金額は問題ではない」と解釈できます。

もし\( x<0\)のとき\( V'(x)=0\)でなくとも、\( x>0\)(つまり利益計上しているケース)に比べて\( V'(x)\)の大きさ(つまり損益の影響度)は異なっていると考えられます。

行動経済学におけるプロスペクト理論はこれと非常によく似ています。プロスペクト理論は経済主体の効用関数が利得状態と損失状態とで異なるという理論であり、上記の考え方とも整合しています。

もちろん、このような議論は常に成り立つ話ではないのですが、ひとつの考え方として、「損失はデジタルな尺度」と解釈する意義もあると思われます。

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