この記事では,簿記代数という新たな研究分野のモチベーションについて述べます。
代数を用いることがなぜ簿記の理解に役立つのか,説明します。
構造を理解するための代数学で複式簿記を知る
代数学は集合と演算の構造を理解するための数学です。足し算や掛け算のようなごく基本的な演算を少数の性質(公理)として与え,そこから導かれる集合の性質を考察します。集合と演算から決まる構造(代数的構造)は,提示した枠組みからはみ出ないことを要求しています。
複式簿記も,そうした意味での構造を備えています。ある時点の財務諸表に仕訳を追加しても,貸借が一致するという基本的性質は保たれたまま,新たな財務諸表が得られます。
また,どんな仕訳にもその逆仕訳というものが存在し,もとの仕訳と合わせると仕訳なしの状態になるという性質があります。この性質は,簿記の世界において,整数という集合におけるマイナスやゼロのような概念が存在するということです。こうした数学的概念は代数の言葉で抽象的に語られます。
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複式簿記の代数化によるご利益
複式簿記の構造を数学的に表すことで,複式簿記が本質的に備えている性質は何かをはっきりと知ることができます。
複式簿記に基づく情報を数学概念として扱えるということは,会計システムや会計データを数学的に厳密な形で表せるということでもあります。そうなれば,会計情報システムのモデルや統計解析の俎上に複式簿記を載せることができるようになります。昨今のデータ分析は複式簿記のごく一部分をつまみ食いしている印象があります。
また,実務的な貢献もあります。
会計実務における課題が複式簿記の構造を逸脱するようなものである場合,複式簿記の代数構造に基づいて,問題を未然に防ぐ方法論や内部統制を構築できる可能性があります。
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