こんにちは、毛糸です。
【君の知らない複式簿記】シリーズ第4弾となる本記事では、複式簿記の代数的構造に関する研究書『Algebraic Models For Accounting Systems』についてお話します。
【君の知らない複式簿記】シリーズの過去記事は以下のリンクから辿ることが出来ます。
本記事は下記記事を読まれていない方にも理解いただける内容です。
『Algebraic Models For Accounting Systems』の概略
本書『Algebraic Models For Accounting Systems』は、数学の一分野である代数学を、会計の問題に応用することを企図した学術書です。
代数学は、昨今注目を集めるコンピュータサイエンス(情報科学)にも適用され、多くの実利を生み出す数学の大分野であり、コンピュータサイエンスを学ぶ学生は代数学の基礎学習に多くの時間をかけているといいます。
代数学は、数学で扱われる集合の「構造」に関する研究分野です。
群や環といった代数的構造は、方程式を解くといった具体的な問題において重要になるほか、解析学・幾何学といった他の数学の分野においても利用される重要な概念です。
『Algebraic Models For Accounting Systems』は、そんな代数学を、会計システム(会計情報が示す状態)の研究に適用することを目的としています。
※ここでいう会計システムは、記帳ソフトやERPパッケージといった会計用ITアプリケーションの意味ではなく、入力と出力を伴う計算機構のことです。
会計情報は複式簿記という記帳規則によって生成されるため、我々はこの研究分野を「簿記代数」と呼ぶこともあります。
簿記代数では、複式簿記で示す会計システムの状態が、借方貸方の対照的表現を持つ1つのベクトルとして表されるという基本考え方を採用しています。
すなわち、借方貸方のT字形(Tフォーム)をした試算表を、以下のような縦ベクトルとして表現します。
この縦ベクトルは、各要素の和が0になるよう決まる(つまり貸借が一致する、バランスする)ようなベクトルとして定義されることから、バランスベクトルと呼ばれています。
『Algebraic Models For Accounting Systems』はこのバランスベクトルを基本概念として、会計システムの代数的構造や、会計状態の移り変わりを示す有向グラフ、会計計算をモデル化したオートマトンの理論などを用いて、会計システムの代数的構造を明らかにしています。
バランスベクトルとはなにか:会計のモデル化
複式簿記を数学的に取り扱おうとする試みは過去にも行われており、有名なのは行列簿記でしょう。
【君の知らない複式簿記1】行列簿記の意義、性質、限界
会計システムの状態をバランスベクトルとして表現するということは、会計と代数を結び付けているということです。会計システムの状態をバランスベクトルとして表現し、代数の世界に引き込むことで、会計のもつ「意味」をいったん離れ、単純な代数学の問題として会計を捉えることが出来るようになります。
現実の物事のうち考察の対象としたい部分を抽出・抽象化して、数学の問題として扱うことを、モデル化と呼びますが、簿記代数における代数の利用も、まさしくモデル化にほかなりません。
『Algebraic Models For Accounting Systems』というタイトルが示すように、会計システムの状態をバランスベクトルとして抽象化・モデル化して数学的に取り扱うことで、私たちは数学的に厳密な理論展開によって、その性質を調べることが出来ます。
【参考記事】
理論・モデルの意義と、理論と現実の差異を知ったあとにとるべき行動
バランスベクトルとして表現する会計状態は、「群」を始めとする代数的構造を備えていることがわかります。
本書ではこのようなモデル化によって、抽象的な会計システムに関する分析を行い、会計が備えている特徴について理解を深めることができるようになっています。
【参考記事】
【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」
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