市場の効率性と会計情報

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市場を基礎とする会計研究はMarket-Based Accounting Reaserch(MBAR)と呼ばれ,現在の会計研究のメインストリームになっています。

この記事では,市場の効率性と会計情報の関連について説明します。

効率的市場仮説

資産市場における情報と価格の関係についてのキーワードは,効率的市場仮説です。

効率的市場仮説とは,資産市場がその時々で利用可能な情報を資産価格に常に十分に反映している(つまり効率的である)という仮説です。2013年にノーベル経済学賞を受賞したユージン・ファーマがこの仮説を明確に示しました。

市場の効率性は,その程度によって以下の3つに分類されます。

  1. ウィーク・フォーム効率性:情報集合は過去の価格・リターンの履歴だけを含む
  2. セミストロング・フォーム効率性:情報集合は公的に利用可能な情報をすべて含む
  3. ストロング・フォーム効率性:時報集合は公的・私的情報をすべて含む

会計情報に関する効率性は,2.のセミストロング・フォーム効率性の検証として位置づけられています。財務開示制度に基づく会計情報は基本的に公開情報となり,またそれ自体は過去の資産価格やリターンの情報のみを含むものではないことから,会計情報はセミストロング・フォーム効率性と最も関係が深いと考えられます。

会計情報の公表と市場の反応

会計方針の変更

市場がセミストロング・フォームで効率的であるとき,個々の企業が会計方針の変更をアナウンスしたら,市場はどのような反応をするでしょうか。

会計方針の変更は,企業の経営活動を会計情報に写像する規則の変更といえます。したがって,基本的には会計方針の変更のみでは企業価値を左右するような実態的変化が生じることはなく,株価には影響を及ぼさないと考えられます。

ただし,会計方針の変更によって利益や債務の金額が変化し,それが税や調達条件に影響する場合には,株価に影響を及ぼす可能性はあります。なぜなら,それらは企業の将来キャッシュフローや資本構成,ひいては資本コストに影響を与え,企業価値を増減させるからです。

そのような場合にも,市場がセミストロング・フォームで効率的であるならば,情報は瞬時に株価に織り込まれると考えられます。

決算発表

市場がセミストロング・フォームで効率的であるとき,個々の企業の決算発表に対して,市場はどのような反応をするでしょうか。

決算発表は企業の過去の経済活動の報告であると同時に,企業の将来を占うための情報でもあります。したがって,決算発表によって投資家の期待が改訂されれば,それは株価の変化となって表れます。期待を上回る良い決算内容であれば株価は上昇し,期待を下回れば株価は下がるでしょう。

市場がセミストロング・フォームで効率的ならば,情報は瞬時に株価に反映されます。したがって,会計情報のような公開情報を知ったあとにそれに基づく取引を行っても,経済的な利益は得られないと考えられます。

市場の効率性に関する実証的反論

セミストロング・フォームで効率的な市場では,会計情報は瞬時に株価に織り込まれると考えられます。

しかしながら,上記のような考察が実際の株式市場において成り立っていないとする実証結果が得られています。

Ball and Brown[1967]やBeaver[1968]の研究では,会計情報はその公開前から徐々に市場に織り込まれていることを示唆する結果が示されています。また,会計情報に関するグッド(バッド)ニュースが公開された後も株価が上昇(下落)を続ける傾向も観察されています。この現象はPost Earnings Announcement Drift(PEAD)と呼ばれています。

参考文献


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