研究アイデアを公開することの是非について

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この記事では,研究アイデアを公開することの是非について考えます。

研究価値の毀損リスク

研究のアイデアは,研究のモチベーションや方向性を決定づける重要な要素です。その研究アイデアを安易に公開してしまうと,誰かにそのアイデアを「パクられ」て,自分が考えていたよりも先に研究を世に出されてしまうリスクがあります。

自分が思い描いていた研究が先に世に出されてしまうというのは,とても恐ろしいことです。自分のそれまでの研究活動が無意味なものになってしまう危険性をはらんでいるからです。 研究者は常にこうしたリスクと隣り合わせにいるのではないかと考えています。

もちろん,自分と他人の問題意識が全く同じであったり,その解決方法や得られた結論が全く同じ研究が公表されるという事態は,あまりあり得る話ではないのかもしれません。しかし,同じモチベーションに基づく研究が自分より先に世に出されるということは,自分の研究のインパクトが小さくなるということですから,やはり類似研究がないに越したことはありません。

不特定多数への公開は控えるべき

学会や研究会等で自分の研究アイデアを他の人に伝えてディスカッションのに用いるということは,よく行われていることだと思います。この場合,その学会や研究会での参加者はある程度気心の知れた中の人が参加するのでしょうし,他人の研究アイデアを横取りするような研究倫理の低い人は事前にスクリーニングできると考えられます。

しかし,例えばブログでの発信のように,不特定多数が見るような媒体で自分の研究アイデアの根幹に関わる部分を公表してしまうと,いつ誰の目に留まるか分かりませんし,それが自分よりも先に研究として公表されてしまうこともあるでしょう。 ブログに書いた内容がそのまま研究成果になるような事はなく,研究のネタに対してある程度追加的な調査を行う必要があるのは言うまでもありませんが,それでも自分の研究のインパクトを損なうような結果になる可能性は少なくないです。

こういった意味で研究アイデアを不特定多数に安易に公開するのは控えた方が良いのかもしれません。

内容次第ではメリットも

ただ,ブログのような不特定多数向けの媒体で自分の研究のアイディアを発信することに,全く意味がないわけではないと私は考えています。例えば,すぐには解決できないかもしれない壮大で野心的な問題意識を発信してみたりだとか,既存研究から容易に拡張されるような発展形を公開してみたりすることは,自分の業績の価値を貶めるほどのインパクトはないと考えられます。

また,ブログが専門的研究者の目に留まり,そこから共同研究などの機会につながる可能性もあります。実際私も,複式簿記をテンソルで表現するというブログを書き,それが会計研究者の目に留まったことがあります。その記事は先生の学会発表の資料に参考文献としてあげていただき,その先生とはその後時々連絡を取り合い複式簿記とは何なのかということについてお話したりしています。

このように不特定多数に発信すると言う事は自分が意識的にリーチできない相手にも情報が届く可能性があるという意味で,ポジティブな側面もあります。

以上のことを踏まえると,自分の研究業績の価値を落とすような発信の仕方をするのは控えるべきである一方,研究価値を損なわない範囲内で広く情報を発信し,偶然の出会いやポジティブなフィードバックにつなげるのは,必ずしも悪いことではないと考えます。

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