家計簿を複式簿記で行うメリットがSNSで話題になりました。
この記事では複式簿記の検証可能性という観点から,家計簿を複式簿記で行うメリットについて述べたいと思います。
家計簿を複式簿記でつけるって話ときどき聞くけど、ほんとにそんな面倒なことやってるんですかね。複式簿記の導入メリットって期間損益計算ができることだと思うけど、家計にその概念を導入するメリットがイマイチわからん。家計ってキャッシュフロー見れば十分じゃないのか。
— KSRIP@今年は真面目にPythonやる (@ksmb_ksrp) June 27, 2021
複式簿記の検証機能
家計簿に複式簿記を採用することで,検証機能を発揮させることができます。
ここでいう検証機能とは,財産法と損益法というふたつの損益計算の結果が一致することで,帳簿が正確であると判断でき,一致しない場合には帳簿が不正確であると検知できる機能を指します(簿記のテキストでは別の文脈で検証機能という言葉を使う場合も多々あります)。
財産法とは年初の財産が年末にどれくらい増えたかという観点で損益を計算する方法であり,損益法とは日々の取引から生じる損益の積み重ねによって年間の損益を計算する方法です。
財産の評価や減耗を適切に把握すれば,財産性と損益法による計算結果は一致します。
一致しない場合には何らかの不整合が起きていることを示すので,「なにか把握していない取引があったのかもしれない」と気づくことができます。
私も暗号資産の損益を複式で記帳していているのですが,こうした検証機能があるおかげで「安心感」があります。
ちなみに、私が会計士試験の勉強を始めた頃に、家計簿を複式で記帳したこともありました。そのときは単に、学んだ技術を使ってみたかっただけです。
複式簿記の管理会計的な役立ち
複式簿記の検証機能によって家計簿記入の漏れを発見するというのは,家計の管理目的と言えるでしょう。
複式簿記は企業会計において会計責任を果たすための基本的要請になっていますが,家計簿において複式簿記を導入するメリットは,こうした財務会計的な役立ちよりも,むしろ管理会計的な役立ちにあると思われます。
複式簿記の管理会計的な役立ちについては,2021/6/26の日本簿記学会でも感じたことです。
簿記学会における報告では,宗教法人・日本陸軍・地方公共団体の3つの非営利組織における複式簿記の有用性が論じられていました。
報告の中では,複式簿記の継続記帳や検証可能性という性質が,財務報告目的のみならず,管理会計的な役立ちにも繋がることが強調されていました。
家計簿を複式で,という考え方も,そうした管理会計的な役立ちに近いのかもしれません。