『AI時代に複式簿記は終焉するか』を読む

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『AI時代に複式簿記は終焉するか』という研究書を見つけました。

この記事ではそのテキストの内容を,目次を眺めながら整理します。

第1章 簿記の意義と特徴

複式簿記の意味と特徴について解説しています。

AI時代の複式簿記を論じるにあたって,複式簿記の基本的な意義を整理し,後の章の基礎となる知識を整理しています。

借方貸方という複式簿記独自の記録・表示の形式について論じているのは,資格勉強用のテキストではあまり見ない内容であり,興味深いです。

執筆担当は岩崎勇先生です。

第2章 簿記の歴史感情理論の変遷

複式簿記における勘定科目は極めて重要な概念です。勘定科目がなければ複式簿記は会計的なメッセージを伝えることができません。

この章では勘定科目の理論について擬人説や物的説などの伝統的な学説を整理しています。

執筆担当は島本克彦先生です

第3章 因果的複式簿記と分類的複式簿記

この章では複式簿記の分類について述べています。因果的複式簿記と分類的複式簿記は日本が生んだ会計界のレジェンド井尻先生による学説です。

この章ではそれらの複式簿記の類型と収益費用アプローチ・資産費用アプローチという会計観との関連について述べられています。

執筆担当は高須教夫先生です。

第4章 帳簿の電子化と複式簿記の役割

この章ではERPやXBRLといった電子的な会計帳簿の解説が行われています。本章で紹介しているXBRL GLは,個人的に興味を持っている技術であり,仕訳や補助簿をXBRL形式で作成できます。

また,会計帳簿のデータベースとしての特性についても論じられています。

執筆担当は坂上学先生です。

第5章 ERP,RPA,クラウド会計の進展と複式簿記

この章ではERP,RPA,クラウド会計といった最近の技術に関する整理と複式簿記との関係が整理されています。

RPAは複式簿記と直接関連していないようにも思えますが,記帳作業の担い手として,会計業務に対する影響が論じられています。

これら新しい技術はいずれも複式簿記の重要な要件を具備しており,複式簿記の構造を変化させるものではないと結論づけています。

執筆担当は千葉啓司先生です。

第6章 ブロックチェーン技術の進展と簿記

この章ではブロックチェーン技術の概略について解説した後,ブロックチェーンの簿記的な活用について述べられています。

ブロックチェーンの解説は,取引記録に焦点を当てた会計感あふれる内容です。ブロックチェーンを用いた物品の購入プロセスの例や近年の日本企業におけるブロックチェーンの活用例についても紹介があるので,大変勉強になります。

執筆担当は村上翔一先生です。

第7章 手書会計とコンピューター会計との差異

この章では帳簿に手書きで記録を行ってきた昔の会計と,現代におけるコンピューターを用いた会計について,15の項目を列挙し,それぞれについて手書会計とコンピューター会計の違いを論じています。

それら項目は会計に求められる重要な機能であり,機能的な側面から見るとコンピュータ化によって複式簿記には変容が見られると結論づけています。

執筆担当は岩崎勇先生です。

第8章 コンピューター会計日に伴う複式簿記の変容

この章ではコンピューター会計化に伴って複式簿記がどのように変わっていったかというのを分析を進めています。

分析の視点は大きく2つあり複式簿記の機能的側面と原理的側面に焦点を当てています。

複式簿記の基本的仕組みは原理的側面として整理されていますが,コンピューターへの移行に伴ってそれら原理が変容するものではないと結論づけており,その意味で複式簿記は終焉しないと述べられています。

執筆担当は岩崎勇先生です。

まとめ

AI時代に複式簿記が終焉するかという壮大なテーマについて,わが国の簿記の研究者が様々な角度からその是非を論じています。

複式簿記とは一体何なのか,新しいテクノロジーの台頭により複式簿記のどんな側面が脅かされ,またどんな側面が変わらず残り続けていくのかを理解するために,良いテキストだと思います。

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