会計公理とヒルベルトプログラム

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会計における諸理論を包括的に演繹できる「会計の公理」を打ち立てるのは難しいという考えについて,以下の記事で述べました。

会計公理の不可能性予想:会計理論全体を包括する公理の構築は不可能なのか

 

公理とはもともと数学に登場する用語ですが,では数学においては「数学における諸定理を包括的に演繹できる公理」があるのでしょうか。

群の公理や開集合の公理が存在することからもわかる通り,これらは他の公理から演繹されるものではありません。数学概念の定義に用いられる公理はさまざまありますから,数学という学問体系のすべてを網羅する公理がひとまとまりで認識されているわけではありません。

数学において「包括的な公理系」を見つける試みはあったのだろうかと思って調べていたとき思い出したのが,ヒルベルトプログラム(ヒルベルト計画)です。

ヒルベルトプログラムとは数学者ダフィット・ヒルベルトによって提唱された,数学に堅固な基礎を与えるための計画です。

数学の基礎付けのために踏むべきステップは3つです。

  1. 数学を形式的体系として表現する
  2. その無矛盾性を示す
  3. その完全性を示す

もしこれが叶ったなら

≪形式的証明の光が届かない暗闇はない≫(『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』p.303)

と形容することもできるでしょう。

ヒルベルトプログラムは「数学の包括的な公理系」を打ち立てるための試みではありませんでしたがが,数学そのものの完全さを証明したいという思いは,会計の公理を探す営みと近いような気もしています。

ちなみに,ヒルベルトプログラムにおける「形式的体系」とか「無矛盾性」とか「完全性」といった用語には明確な定義があり,一般用語とは意味が異なります。

ヒルベルトプログラムはゲーデルの不完全性定理によってその夢が破れることになりますが,だからと言って数学が基礎を欠く不安定なものであるということにはなりません。

ヒルベルトプログラムやゲーデルの不完全性定理に関しては,『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』でその証明や注意点が語られています。読み物としてもおもしよいので,是非チェックしてみてください。


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