株価リターンに正規分布を仮定する理由

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こんにちは、毛糸です。

先日こちらの記事で、日本株を始めとして株価リターンが正規分布に従っていないことを指摘しました。

【参考記事】
日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件


多くの金融理論において、リターンは正規分布に従うという仮定がおかれています。

本記事では主に確率過程論の立場から、なぜこのような仮定がおかれているのかを説明します。

株価ではなくリターンをモデル化する

まず前提としてあるのは、株価は負にならない、ということです。

株価は会社財産の請求権であり、制度上追加的な支出を強制されることはない(株主にキャッシュアウトの義務はない)ので、価格は常に正になります。

したがって、株価をモデル化するにあたっては、価格が常に正値をとるような関数として定義するのが適切です。

指数関数\( y=e^x\)は実数\( x\)がどんな値をとっても正値をとるため、株価を表す関数として適切と考えられます。

時点\( t\)における株価\(S_t \)を

\begin{equation} \begin{split}
S_t=S_0 e^{Z_t}
\end{split} \end{equation}
と表すと、株価は常に正値をとり、さらに指数の肩の\( Z_t\)は株価の幾何リターン(対数リターン)を示すという「よくできた」形になります。

したがって、正値をとる株価をモデル化するときには、株価\( S_t\)そのものではなく、収益率(幾何リターン)\( Z_t\)を確率過程として考えるのが好都合なのです。

市場が効率的で、過去の情報から収益率が予測できないという立場に立つと、独立増分性をもつ確率過程がよさそうということになります。

もしリターンの分布が時点に依らないと考えるなら、時間的一様性という性質を考えるのが適切です。

このとき、リターンを表す確率過程はレヴィ過程になります。

レヴィ過程は、連続なふるまいを決めるドリフトとGauss分散行列と、ジャンプの振る舞いを決めるレヴィ測度が決まると一位に定まる、という著しい性質があります。

特に見本経路が連続であるとき、レヴィ過程はドリフト付きブラウン運動になります。

したがって、収益率が独立増分で時々刻々取引が行われジャンプがないような株価のリターンは、数学的にはブラウン運動くらいしかないのです。

連続複利ベースの収益率がブラウン運動なら、価格は当然幾何ブラウン運動ということになります。

つまり、株価とリターンにふさわしい性質を検討していった結果、候補として残るのは、リターンが正規分布に従うようなもの(=ブラウン運動)しかない、ということです。

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