こんにちは、毛糸です。
AIやブロックチェーンなど、新しいテクノロジーが次々と生まれては、またたくまにビジネスに適用されていくのが今の時代です。
テクノロジーは我々の仕事を効率化し、人間がより人間らしく働くことの後押しをしてくれると期待されていますが、一方で「仕事を奪われる」という脅威論もしばしば見られます。
この主張は果たして信じて良いのでしょうか。
本ブログの記事「AIで会計士の仕事(監査)はなくなるのか」に対するひとつの数理的整理では会計の数理モデルを用いて、会計のプログラム可能性という観点から、監査という仕事がAIに代替されるかどうかを考察しています。
ブロックチェーンの会計への応用と監査不要論
AIとともに会計分野への応用が期待されているのが、ブロックチェーンです。
ブロックチェーンはその改ざん困難性から、会計帳簿に活用することで、会計情報の正確性を担保できるのではないかと考えられています。
ある取引について、その当事者2社の会計帳簿に記帳を行うと同時に、その内容をブロックチェーンにも書き込むことで、当事者の会計情報の正確性を担保する仕組みは、ブロックチェーン式三式簿記と呼ばれています。
【参考記事】
【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記
ブロックチェーン式三式簿記は、ブロックチェーンの改ざん困難性を会計情報の検証可能性に対応付けるという意味で新しい会計のあり方ですが、人によってはこの事をもって監査不要論を唱える方もいるようです。
企業の仕訳データをブロックチェーンに記録してオープンにしておけば、市場参加者がこれを確かめるので、監査は要らない
というのが、彼らの主張です。
監査における実態判断
たしかにブロックチェーン上の会計データは改ざん困難であり、これを外部から検証可能な状態にしておけば、市場原理によって監査は不要になるとも考えられます。
しかしながら、経済活動を適切に会計数値に写像しているかについて、ブロックチェーンは何ら保証していません。
例をあげましょう。
売上100万円、という会計情報がブロックチェーンに記録されており、100万円の領収書が公開されていたとします。
もしこの取引が通常の売上取引であれば、ブロックチェーン上の会計情報は領収書という証憑によって保証され、会計数値が適切であることを市場参加者が判断できます。
しかし、もしこの取引の裏で「商品を数日後に返却する約束」があったとすればどうでしょう。
この場合、当該取引の実態は商品を担保とした短期の借入であり、財務活動ですので、売上を認識するのは妥当ではありません。
当然、このような「踏み込んだ判断」を市場参加者が行うのは困難です。
現在の監査手続きにおいては、こうした「取引の実態」に即した会計処理が行われているかを総合的に判断し、企業の会計情報が適切であるかを判断しています。
つまり、ブロックチェーンは記録された会計情報が改ざんされていないことは保証できても、記録された会計情報が取引の実態を適切に示しているかについては、何ら保証しないのです。
したがって、ブロックチェーン式三式簿記によって監査は不要になる、という主張は、監査を矮小化した考えに基づく誤った理解と言えます。
ただ、実態判断を伴わないような標準的な取引や、会計情報と経済活動の対応関係が明確な取引に関しては、ブロックチェーンを使うことで監査上の判断を効率化できる余地はあります。
記事「AIで会計士の仕事(監査)はなくなるのか」に対するひとつの数理的整理でも述べたとおり、経済活動と会計ルールがプログラム可能であれば、コンピュータによって監査判断が行うことは可能です。
重要なのは「0か1か」の議論に陥ることなく、テクノロジーの性質を正しく理解したうえで、ビジネスへの適用可能性を模索していくことだと考えます。
参考文献