【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

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こんにちは、毛糸です。

先日こういう呟きをしました。

最近、複式簿記というものについてとても興味を持っており、いろいろ調べております。

今回は、複式簿記の拡張とその例、三式簿記についてお話します。

複式簿記の拡張とはなにか?

「複式簿記の拡張」というのは壮大な試みです。

複式簿記は12世紀頃に生まれたとされ、14世紀の数学者ルカ・パチョーリが著書の中で取り上げたとされています(Wikipedia)。

それから数百年の時が流れ、複式簿記は未だに会計を支える基幹技術として、ビジネスマンの必須スキルとされています。

長きに渡り人類の営みを支えてきたそんな複式簿記ですが、単純な疑問として、複式=貸借の二式簿記は、それ以上の次元に拡張することは出来ないのか?と考えてしまいます。

「複式簿記の拡張」として考える際にまず思い浮かべるのは、借方貸方に次ぐ第三の「方」です。

借方貸方の2方向のバランスを、3方向のバランスにするという拡張が思いつきます。

これを勝手に「方向的三式簿記」と呼ぶことにすると、貸方借方ほにゃらら方の3方向にバランスする(3方向の重心が零点になる)と考えられそうですが、この第三の「方」が何を意味するのかは、ちょっとよくわからないですね。

複式簿記においては、貸借対照表の借方貸方が資金の運用と調達という意味付けができますが、この「方向的三式簿記」については、概念としては成立しつつも、意味付けが難しい気がします。

このように、複式簿記の拡張は、それほど簡単なものではないのです。
しかし、「複式簿記の拡張できるのか?」もしくは表現を変えて「複式簿記は完成された概念か?」という疑問について、熱心に取り組み一定の成果を挙げた学者がいます。
それが、日本人の公認会計士として、アメリカ会計学会の会長を務めた井尻雄士先生です(Wikipedia)。
井尻先生の研究については、大藪「<研究ノート>複式簿記から三式簿記へ : 井尻雄二著「三式簿記の研究」を中心にして」(外部リンク)によく整理されています。
以下では上記資料を眺めつつ、井尻先生が「複式簿記の拡張」として提唱した三式簿記について述べたいと思います。

時間的三式簿記

複式(二式)簿記を三式簿記に拡張するには、まず複式簿記の二次元性がどこからくるものかを理解する必要があります。
複式簿記の二次元性は結局、

財産=資本

という等式に基づいていると井尻は考えました。
ならば、別の等式を新たに加えれば、三式簿記への拡張が出来るのではないか?という考えが生まれます。

井尻先生はここで財産=資本という等式を

現在(財産)=過去の累積(資本)

と解釈しました。BS=現在、PL=過去ととらえた、と言ってもいいでしょう。

こう考えるならば、自ずともう一つの等式が何であるべきかが見えてきます。

現在、過去に続くもう一つの要素、そう、未来を表す財務諸表を加えればいいのです。未来を表す財務諸表=予算計算書を導入することで複式簿記を拡張したものが「時制的三式簿記」と呼ばれるものです。

未来を表す情報、すなわち予算計算書を考えることが、複式簿記の第一の拡張です。
しかし、その後時制的三式簿記は「複式簿記を2度適用したもの」にすぎないことが、井尻自身によって看破されました。
未来を考えるといっても、それはあくまで1つの時間軸上の話であるから、「複式簿記の拡張」と呼ぶにはやや心許ないということです。

微分的三式簿記

時制的三式簿記に限界を見出した井尻先生は、別の確度から「複式簿記の拡張」を試みます。
井尻先生は、1次元と2次元の対応関係が、2次元と3次元の対応関係と並ぶような「次元の拡張」を試みました。
そのような考えで得た次なる視点は、

財産=資本

という等式を

ストック=フロー

という等式として見る、ということです。
ここで、フローはストックの変分を意味すると考えます。
より一般に、フローをストックの「微分」概念と捉えることにより、複式簿記の拡張の緒になるのではないかと井尻先生は考えました。
こう考えることにより、資本の微分(財産の2次微分)概念を新たな次元として、複式簿記を拡張できるのではないかと思い至ります。
離散的に考えれば、損益の2期比較が新たな次元ということになります。
これを利力・利速と呼びます。
実務的には、PLの前年同期比が開示されるが、これは利力に他なりません。
こうして

財産=資本(の積分)=利力(の積分の積分)

として、複式簿記は拡張されます。
これが微分的三式簿記です。
微分的三式簿記における
  • 財産
  • 資本
  • 利力
は、ニュートン力学における
  • 位置
  • 速度
  • 加速度
に対比されます。

井尻先生は、損益(PL)をBS項目の変化ととらえるところから、拡張を試みました。

BSの差分(極限の世界での微分)としてPLを定義することで、複式簿記は拡張したのです。

井尻先生が発見した微分的三式簿記は彼自身によって「利速会計」と呼ばれ、企業の業績評価に利用できる新しい会計として本にもなっています。

ブロックチェーン的三式簿記

近年、「複式簿記の拡張」とは別の側面から「三式簿記」と呼ばれる概念が生まれました。
それが「ブロックチェーン的三式簿記」です。

これは、取引の当事者2者に加え、当該取引をブロックチェーンに記録することで、会計情報の正確性を担保しようとする試みのことです。

ブロックチェーン的三式簿記は会計情報の正確性や透明性を高める新しい手法として注目されていますが、複式簿記という技術そのものを再定義するものではなく、複式簿記を用いた会計情報の記録手段と考えられるので、私はこれを「複式簿記の拡張」とは位置づけていません。

井尻の三式簿記は「複式簿記の拡張」と呼べるか?

時制的・微分的三式簿記を発見した井尻先生は、複式簿記の拡張に際して考慮すべき2つのポイントを挙げています。
1つが旧システムの保存性=拡張された簿記が複式簿記を包含すること、もう1つが新システムの必然性=旧システムから論理的に導かれるものであることです。
井尻先生が自ら結論づけているように、時制的三式簿記は「三式簿記ではない」のですが、微分的三式簿記は保存性・必然性を満たす「複式簿記の拡張」になっているように思えます。

しかし、利力という新たな会計概念の理解や測定といった実務的困難さゆえ、現状有用なものとはみなされていません。

複式簿記が会計計算技術であるという前提に立てば、微分的三式簿記はその概念の普及と利力の測定インフラの整備が必要です。

終わりに

現代の日本の会計研究界において「複式簿記の拡張」というテーマに取り組んでいる研究者はどれくらいいるのでしょう。
社会に広く浸透している複式簿記は、果たして完成された概念なのか、それとも更に高い次元に至る可能性を秘めているものなのか、個人的にじっくり研究していきたいと考えています。

最近読み進めている『Algebraic Models For Accounting Systems』という書籍は、複式簿記の代数的構造に着目した、異色の会計専門書です。

複式簿記そのものが持つ構造・性質を深く理解すれば、複式簿記の拡張も可能になるかもしれません。

私は、井尻先生に挑戦したいと思います。

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