本記事では、順序群・順序環・順序体の定義をまとめています。
これらは群・環・体という代数構造に順序の概念を入れたものであり、これにより演算と整合的な「元の正負」を扱えるようになります。
元の正負は、複式簿記における借方と貸方の概念に繋がります。
順序群の定義
\( X\)を群、\( \leq_p\)を\( X\)上の半順序とし、\(x,y\in X \)に対して\(x\neq y \)かつ\( x\leq_p y\)のとき\( x<_py\)と表します。次の条件が満たされるとき、\( X\)を順序群といいます。
- \( x,y,z\in X\)に対し、\( x<_p y \Rightarrow xz<_p yz,zx<_p zy\)
群はあらっぽくいえば、足し算・引き算が可能な集合です。順序群はその性質を保ちつつ、元の正負を扱えるようなものと考えられます。
群\( X\)の単位元を\(e \)とするとき、\( e<x\)を満たす\( x\in X\)を正元といいます。
正元の集合\( P=\left\{ x\in X|e<x\right\}\)について、
- \( P\)は\( e\)を含まない部分半群
- 任意の\(a\in X \)に対して\( aPa^{-1}\subset P\)
をみたせば、\( P\)を正元全体とするような\( X\)の順序群の構造が一意に定まります。
正元\(x\in P\)の逆元の集合を\( P^{-1}\)と表します。
順序群における順序とは半順序を意味しますが、全順序集合としての群を考えることも可能です。群\( X\)が全順序集合であるための必要十分条件は
X=P\cup P^{-1}\cup \left\{e \right\}
\end{split} \end{equation}
順序環の定義
\( X\)を環、\( \leq_t\)を\( X\)上の全順序とし、\(x,y\in X \)に対して\(x\neq y \)かつ\( x\leq_t y\)のとき\( x<_t y\)と表します。次の条件が満たされるとき、\( X\)を順序環といいます。
- \( x,y,z\in X\)に対し、\( x<_t y\Rightarrow x+z<_t y+z\)
- \( x,y,z\in X\)に対し、\( x<_t y,0<_tz\Rightarrow xz<_t yz,zx<_t zy\)
環はあらっぽくいえば、足し算・引き算・掛け算が可能な集合です。順序環はその性質を保ちつつ、元の正負を扱えるようなものと考えられます。
順序体の定義
順序環の定義における\( X\)が体であるとき、順序体といいます。
この場合、順序とは全順序を意味しますが、半順序として定義する場合もあるようです(参考文献参照)。
体はあらっぽくいえば、足し算・引き算・掛け算・割り算が可能な集合です。順序体はその性質を保ちつつ、元の正負を扱えるようなものと考えられます。
複式簿記への応用
順序群、順序環、順序体では、元の正と負を扱うことが出来ます。
元の正負が定まれば、「正は仕訳の左側、負は仕訳の右側に書く」というルールを定めることができ、これにより借方・貸方を定義することが出来ます。
参考文献
順序環・体の定義は以下のテキストを参考にしました。
順序群の定義と半順序による順序体の定義については、こちらを参考にしました。
このブログで連載中の【君の知らない複式簿記】では、簿記の代数構造に関する研究結果を紹介しています。
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