こんにちは、毛糸です。
最近、会計学を数学の言葉で表現できないか、という問題に取り組んでいます。
本記事では数学(確率論)と会計の対比をしつつ、両者の大きな差異について述べたあと、経済学の枠組みで決まる「最適な会計」についてのアイデアをまとめます。
写像としての会計
会計学でもっとも有名な教科書の一つ『財務会計講義』には、
会計はこのような経済活動を所定のルールに従って測定し、その結果を報告書にとりまとめる。したがってその報告書は、経済活動という実像を計数的に描写した写像である。
と述べられています。
「写像」とは数学の言葉で、関数とほぼ同義です。
したがって、数学の言葉を用いて会計を形容するということは、「会計の報告書は写像である」という文脈で、すでに行われていたということです。
しかしながら、「会計は写像である」という立場を発展させて、会計学を数学的に厳密に扱おうとする研究は、あまりメジャーではないようです。
ただし、会計学において数理モデルを用いた研究は盛んに行われており、現代会計研究の重要な柱となっています。
そのような分野は「分析的会計研究」と呼ばれています。分析的会計研究では経済学や工学のツールを基礎とした数理的アプローチにもとづいて、経済主体の行動に対して会計が及ぼす影響を分析します。
会計と確率論
会計を写像として捉えるとき、会計は確率論と非常に似た設定であることがわかります。
【参考記事】
確率論のアナロジーとしての会計学と、それらの重要な差異
会計規則は確率論における確率変数に対比されますが、確率論と会計学の重要な差異は、その規則・確率変数が「どういうものであるべきか」を重視するか否かにあると、私は考えます。
通常、確率論において確率変数をいかに定めるかという問題は、重視されません。コイン投げゲームをするときに、表裏に何点を設定するかという点は、あまり大きな意味を持たないということです。
経済学ベースの会計
まず、会計とは、経営活動\( \Omega\)から会計情報\( B\)への写像\( A:\Omega\to B\)である、と定義します。
経営活動の\( \Omega\)は、確率論における標本空間に対応するもので、抽象的な集合です。
したがって(可測性など種々の条件を満たすとして)写像\( A\)は\( B-\)値確率変数とみなせます。
また、会計情報\( b\in B\)は\( n\)次元バランスベクトル\( (a_1(\omega),\cdots,a_n(\omega))^T,\sum_k a_k=0\)として表されるものを指すとします。
バランスベクトルとは複式簿記における試算表や仕訳を抽象化した概念です。
詳細は以下の書籍を参照してください。
バランスベクトルの各要素\( a_k(\omega)\)は経営活動\( \Omega\)から会計数値\( \mathbb{R}\)への関数ですが、この関数形はのちに定義する経済主体によって決定されます。
経済主体は会計情報から効用を得ると仮定します。
u:({a_k})_{k=1}^n \mapsto \bar{u}\in\mathbb{R}
\end{split}\end{equation}
会計情報(たとえば売掛金が100あるという情報)それ自体は消費対象ではありませんが、会計情報を参照する契約によりこの経済主体の消費水準が決まると考えれば、彼の効用関数は会計情報の集合上で定義されると考えられます。
経済主体は効用を最大化させるように、関数としての\( ({a_k})_{k=1}^n \)を決定します。
すなわち会計規則として採用可能なものの集合(関数の集合)\( {A}_k\)を所与としたとき
\max_{{a_k}\in A_k,k=1,\cdots,n}u({a_1},\cdots,{a_n})
\end{split}\end{equation}
この解として得られる最適な会計情報\( ({a^*_k})_k \)が、この経済主体が依拠したいと考える会計基準です。
会計基準が「民主的な方法」で決まるとき、市場に存在する多数の経済主体が思い描く最適な会計基準を「統合」したものが、会計基準として施行されます。
【参考記事】
「俺の会計基準」モデル|社会的選択論は会計を考えるツールになるか
以上が、経済学の枠組みで会計規則がどう決まるかという問題を考える際の基本的枠組みです。
この考え方に基づいて、なにか具体的な会計規則や現実の現象が説明できないか、引き続き研究していこうと思います。