【君の知らない複式簿記 補遺】BSの微分はPLである、とはどういうことか

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この記事では

BSの微分はPLである

とはどういうことかについて解説します。

 

期首試算表

期首(時点t)の試算表が次のように与えられているとします。ある時点を固定すると、その時点での各勘定の残高が定まるので、各勘定の残高は時点tの関数として表せます。

\begin{equation} \begin{split}  \begin{array}{cr|cr} \hline 資産 & a(t) & 負債 & l(t)\\ & & 純資産 & e(t)\\ 費用 & c(t) & 収益 & r(t)\\ \end{array}\end{split} \end{equation}

期首時点で損益科目(費用、収益)の計上額は\( 0\)なので

\[ \begin{split}  \begin{array}{cr|cr} \hline 資産 & a(t) & 負債 & l(t)\\ & & 純資産 & e(t)\\ 費用 & 0 & 収益 & 0\\ \end{array}\end{split} \]

です(期首の再振替仕訳による損益は、期中損益に含めます)。

期末試算表

\( \Delta t\)経過後の時点(\(t+\Delta t\))を期末とし、その時点の試算表が以下のようになったとしましょう。

\[ \begin{split}  \begin{array}{cr|cr} \hline 資産 & a(t+\Delta t) & 負債 & l(t+\Delta t)\\ & & 純資産 & e(t+\Delta t)\\ 費用 & c(t+\Delta t) & 収益 & r(t+\Delta t)\\ \end{array}\end{split} \]

制度会計では、\( \Delta t\)は\( 1\)(年)だったり\( 3\)(ヶ月)だったりします。

実務上の可否はさておき、この\( \Delta t\)は限りなく0に近づけられるとします。限りなく高い決算遂行能力があれば、これは可能です。つまり、以下の議論においては、実務的な作業効率や期末試算表を得るための能力限界は捨象します。

 

差額試算表

さて、期末試算表から期首試算表を控除した差額試算表はどうなるか考えます。勘定科目ごとに差をとって

\[ \begin{split}  \begin{array}{cr|cr} \hline 資産 & a(t+\Delta t) -a(t)& 負債 & l(t+\Delta t)-l(t)\\ & & 純資産 & e(t+\Delta t)-e(t)\\ 費用 & c(t+\Delta t) & 収益 & r(t+\Delta t)\\ \end{array}\end{split} \]

と表せます(時点tにおける損益科目は0でしたね)。

ここで変数\( x\)の差分\( x(t+\Delta t) -x(t)\)を\( \Delta x(t)\)と表す差分の表記ルールを使うと、差額試算表は

\begin{equation} \begin{split}\begin{array}{cr|cr} \hline 資産 & \Delta a(t)& 負債 & \Delta l(t)\\ & & 純資産 & \Delta e(t)\\ 費用 & c(t+\Delta t) & 収益 & r(t+\Delta t)\\ \end{array}\end{split} \end{equation}

とも表せます。

試算表の貸借は一致する(借方残高の和と貸方残高の和は一致する)ので

\[ \begin{split}
\Delta a(t)+c(t+\Delta t)&=\Delta l(t)+\Delta e(t)+r(t+\Delta t)\\
\Leftrightarrow \Delta a(t)-\Delta l(t)-\Delta e(t)&=r(t+\Delta t)-c(t+\Delta t)\\
\end{split} \]

が成り立ちます。この式は試算表の貸借が一致するという複式簿記の原理から成り立つ恒等式です。

 

貸借対照表

左辺は「資産\( a\)の期首・期末差額-負債\( l\)の差額-資本\( e\)の差額」を表しており、「資産\( a\)-負債\( l\)-資本\( e\)の期首・期末差額」でもあります。

一点注意があります。

この資本\( e\)には、期中損益を含みません。つまり貸借対照表の純資産の部から当期純利益相当分を控除したものが\( e\)です。

この\( a-l-e\)は(純利益部分を除く)貸借対照表と考えることができるので、

\begin{equation} \begin{split}
\mathrm{BS}=a-l-e
\end{split} \end{equation}
と置きます。\(\mathrm{BS}\)は貸借対照表そのものではなく、貸借対照表をイメージした1つの変数です。

こう定義すると、資産・負債・資本の差額について

\[ \begin{split}
&\Delta a(t)-\Delta l(t)-\Delta e(t)\\
=&(a(t+\Delta t) -a(t))-(l(t+\Delta t)-l(t))-(e(t+\Delta t)-e(t))\\
=&\left\{ a(t+\Delta t)-l(t+\Delta t)- e(t+\Delta t)\right\}-\left\{ a(t)-l(t)-e(t)\right\}\\
=&\mathrm{BS}(t+\Delta t)-\mathrm{BS}(t)\\
=&\Delta \mathrm{BS}
\end{split} \]
と表せます(差分の表記ルールを再度用いました)。

 

損益計算書

収益\( r\)と費用\( c\)の差額は損益計算書で計算するものです。そこでこの差額を

\begin{equation} \begin{split}
\mathrm{PL}=r-c
\end{split} \end{equation}
と定義します。時点を明示すると\(\mathrm{PL}(t+\Delta t)=r(t+\Delta t)-c(t+\Delta t) \)です。\(\mathrm{PL}\)は損益計算書そのものではなく、損益計算書(のボトムラインとしての当期純利益)をイメージした1つの変数です。

時点\( t\)から\( t+\Delta t\)までの期間にかかる損益\( \mathrm{PL}(t+\Delta t)\)は適当な関数\(\pi (t)\)を用いて

\begin{equation} \begin{split}
\mathrm{PL}(t+\Delta t)=\pi (t)\Delta t
\end{split} \end{equation}
と近似できます(文系なので許されます。テイラー展開できるとして1次の項まで近似してください)。

\(\pi (t)\)は単位時間あたりの損益(損益密度)と解釈できます。

 

PLはBSの微分であるとはどういうことか

以上のことから、\( \mathrm{BS}\)と\( \mathrm{PL}\)の以下の関係式が得られます。

\begin{equation} \begin{split}
\Delta \mathrm{BS}=\mathrm{PL}(t+\Delta t)
\end{split} \end{equation}

すなわち、

BSの差分はPLである

ことが示されました

また、損益密度\(\pi (t)\)を使い、\( \Delta t\to 0\)の極限を取れば、この式は微分の形

\begin{equation} \begin{split}
\mathrm{d} \mathrm{BS}=\pi (t)\mathrm{d}t
\end{split} \end{equation}

と書けます。\(\pi (t)\mathrm{d}t\)は微小期間における損益発生額と解釈できますので、

\begin{equation} \begin{split}\mathrm{d} \mathrm{BS}=\mathrm{PL}(t+dt)\end{split} \end{equation}
と表してもいいでしょう(極めて形式的な書き方ですが)。

これにより、

BSの微分はPLである

ことが示されました。

微分を積分の逆演算とみて

PLの積分はBSである。

という主張もできます。

 

いくつかの疑問に関する答え

当たり前では?

はい。複式簿記の原理に照らして当たり前の性質です(数学的に荒っぽい議論はありますが)。

貸借対照表と損益計算書は連携している、という財務諸表のキホンを堅苦しく述べただけ、と言ってもいいでしょう。

資本取引とかその他包括利益とか、PL通らないBS増減あるけど?

はい。そのような取引は変数BSの中でネッティング(相殺)されていますので、織り込み済みです。

上述のBSとは、資産から、負債と純資産(ただし当期純利益を除く)を控除したものを指していますので、例えばその他有価証券の評価損益がOCIに上がっていてもネットされ、変数としてのBSには表れません。

PLはBSの微分、ということと、クリーン・サープラス関係は、似ていますが違う概念です。

BS差額というとキャッシュフロー計算書の方が近そうだけど

はい。貸借対照表のうち現預金項目だけ取り出して、上述の議論と同様の方法で、キャッシュフロー計算書も微分概念で捉えられます(宿題とします)。

BSかPLどちらかわかればいいってこと?

いいえ。上述の関係式は、財産の内訳と損益の内訳に関する情報を含みません。したがって、それらの内訳を開示するため、貸借対照表も損益計算書も作成する必要があります。

上述の式は「ネット財産の増分=損益」を示しているに過ぎないので、資産いくら負債いくらという財政状態や、売上いくら販管費いくら、という細分化された情報については何ら述べていません。

損益計算書によって「ネット財産の増分」はわかりますが、それだけでは貸借対照表にはなりません。

PLに不確実性あるよね?

はい。将来の不確実性を取り入れたければ、期末試算表の各勘定の金額を確率変数とみなしてください。

その場合でもBSの差分がPLであるという関係は維持されます(微分可能性の議論が出てきますので、荒っぽい近似や極限操作には注意です)。

資産負債アプローチってやつ?

直接の関係はありません。資産負債アプローチは資産負債に積極的定義を与え費用収益を従属的に扱う考え方です。

上述の議論は試算表の勘定科目を適当に定義してからの複式簿記の操作が重要なので、もし収益費用アプローチで捉えても同じ結論に至ります。

なんで微分?差分じゃん

はい、差分です。でも、差分より微分の方がかっこいいじゃないですか。数学わかってるぞーみたいな。

あとは、微分(連続的操作)の方が解析学を活用しやすいというのもあります。

制度会計では年一回の決算、年四回の四半期決算が要求されますが、そのような期間の違いも、微分として定義しておいて適当な期間で積分して扱う方が楽です。

 

BS(PL)がわかればPL(BS)がわかるの?ありえなくない?

SKIN(Sonna Koto Itte Nai)です。

あくまで貸借対照表,損益計算書科目の合計値が連動しているだけであって、その内訳項目(売掛金とか土地とか借入金とか売上とか支払利息とか)に関して成り立つ性質ではありません。

参考文献

貸借対照表と損益計算書の連携概念としては、クリーン・サープラス関係が重要です。

会計数値の時系列構造を決める関係式|クリーン・サープラス関係、金融資産関係、営業資産関係

 

BSの微分がPLであるという関係は、微分的三式簿記へと発展していきます。

【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

 

微分式三式簿記は以下のテキストに説明があります。

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