会計学の「物理学化」に必要なこと

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簿記や会計を数学の枠組みで捉え直す。そんな取り組みを、これまで多くの研究者が試みてきました。

数学の言葉を用いつつ、数学とは異なる学問体系としての会計学は確立できるのか。

すでにそうした試みが成立している分野としての物理学をイメージしながら、会計学が物理学のような「独自の数理体系」として成立するための条件について考えます。

物理学と数学の関係

物理学は数学の言葉を用いつつ、物理現象を記述するための独自理論を持っています。たとえば、運動方程式やフックの法則のような物理法則は、現実世界の物理的対象を観察して得られた法則です。

そういった「物理学ならでは」の法則は、微分方程式のような数式によって記述されています。しかしそれらは数学「だけ」を研究していても発見できません。物理法則は現実の物理現象を観察し仮説検証して初めて理論として認められます。

物理学と数学の関係について、『数学ガール/ポアンカレ予想』において数学ガールのテトラちゃんはこんな発言をしています。バネの伸び縮みを表す微分方程式を解いて、バネの位置を表す数式を得た場面のフレーズです。

数式を変形しても、ちゃんと意味があるのが不思議です。数式という《生きた言葉》は、すごいです。まるで、まるで意味を作り出しているみたいじゃありませんか!

微分方程式って、まるで、自然がささやく《たとえ話》を書き留めたものみたいです。

 

物理学は、物理法則を数学の言葉で表現し、数学の世界で数学的な結論を得て、それを再び物理学の言葉に解釈し直すことに成功しています。まさに数式を《生きた言葉》として使えているのです。

 

会計学の物理学化は可能か

物理学のように、数学と上手に共生しながら独自の理論体系を作ることは、会計学にも可能なのでしょうか。

私は可能だと考えています。しかし、それには条件があります。

物理学では、物体の運動や力や仕事という概念を数学的に表現しています。そして同時に、物理法則という物理学固有の法則を持っています。もし物理法則がなければ、物理学は単に物理現象を数理的に表現した「だけ」のものになってしまいますから、独自の数理的体系とは言えないでしょう。

数学の言葉を使いつつも、物理学固有の法則が存在していることが、数学とは別の学問体系として物理学が成り立っている条件なのだと私は考えます。

そして、会計学が独自の理論体系を確立できるかどうかという問いかけは、物理学における物理法則に対応する会計学独自の法則が得られるかどうかにかかっていると考えています。

つまり、会計学は独自の数理的体系として確立するためには、会計の諸現象を数理的に表しつつ、会計学独自の法則を見つけることが必要だということです。

 

現在、会計や複式簿記を数学の言葉で表すことに、私たちは成功しつつあります。たとえば、分析的会計研究や簿記代数と呼ばれる研究領域がその例です。

こういった研究分野は、数学の言葉を使いつつ、会計学独自の仕組みや性質を使うことで、理論を発展させています。

会計学の数理的研究はまだまだ発展途上ですが、こうした取り組みが更に広がっていけば、会計学が独自の理論体系を持つこと、すなわち会計学の「物理学化」が果たせるのではないかと思います。

 

参考文献

数学ガールシリーズは、高校生の「僕」と数学ガールたちが織りなす青春小説です。数学のちょっとした疑問から、何世紀も人類を阻んできた大定理まで、数学の奥深さ・世界の広さを知ることができます。

 


分析的会計は数学を用いた会計学の一分野です。企業や投資家の合理的行動を経済学(ゲームや情報)の理論を背景にモデル化し、会計の仕組みや影響について数理的な分析を行います。会計制度や企業の開示行動の分析を数学的に考察する、エキサイティングな分野です。

 

簿記代数は複式簿記の性質を代数の言葉で表現し、複式簿記の構造を探る分野です。あまり馴染みのない分野ですが、このブログではいくつか記事を書いているので、ぜひご覧ください。

【君の知らない複式簿記】目次まとめ

 

 

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