ものごとを抽象的に考えて気づく世界の広さと深さ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

毛糸ブログでは【君の知らない複式簿記】というシリーズの記事を提供しています。このシリーズでは私たちに馴染みの深い複式簿記を抽象化して考える方法をいくつか提示しています。

ものごとを抽象的に考えるのには理由があります。

本記事では、ものごとを抽象的に考えるとはどういうことか、抽象的に考えることの御利益は何なのかについて述べます。

 

抽象的とはどういう意味でしょうか。weblio辞書(実用日本語表現辞典)にはこう書いてあります。

抽象的とは、共通した要素を抜き出して一般化していること、または具体性に欠けていて実態が明確ではないことである。

もう少し縮めて「共通する性質に着目し、具体例を直接の考察対象としないこと」とも言えるでしょう。

 

抽象的に考える、の具体例

このブログで不定期にお送りしている【君の知らない複式簿記】では、複式簿記をベクトルとして表現したり、代数学の概念である加群として考察したりしています。

複式簿記は御存知の通り、取引を借方と貸方の二面で捉える帳簿記録の手法です。複式簿記に従って作成する仕訳や試算表はいつも借方と貸方が一致しますし、仕訳を追加したりキャンセルしたりできますし、それらの結果として複式簿記から逸脱するようなことにはなりません。これは簿記を学ぶ私たちにとっては当然の性質です。

しかし「当然です」で済ませてしまうと、私たちの思考はよく見知った複式簿記を超えた「普遍的な原理」にたどり着くことはできません。

私たちがよく見知った複式簿記を抽象化して考えることで、複式簿記のみを観察していたのでは気づけないことに気づけます。

例えば、複式簿記の「足し算ができる」「足しても何も変わらない仕訳がある(仕訳なし、というやつです)」「どんな仕訳にも逆仕訳を考えられる」といった性質に着目するとどうなるでしょうか。

これらの性質を持つ対象は、数学(代数学)の言葉で「群」といいます。群は回転や対称性に関係していて、たとえばあみだくじやルービックキューブは、ある種の群になっています。

複式簿記で成り立つ当たり前の性質に着目することで、複式簿記がルービックキューブの仲間であることが言えるのです。つまり、ものごとを抽象的に考えることで、具体例だけを観察していたのでは気付けないような類似性を見つけることができるというわけです。

別の概念(複式簿記に対する、ルービックキューブ)との類似性が見つかれば、その別の概念(ルービックキューブ)で成り立つ性質に似た性質が、もとの概念(複式簿記)でも成り立つのではないかと期待できます。

それはもしかしたら、今まで誰も知らなかった全く新しい発見になるかもしれないのです。

 

数学家に教わる抽象化の御利益

大学数学を学んだことのある人は、抽象化には比較的慣れていると言えます。大学数学では多くの概念に共通する性質を共通ルールとして議論を発展させていくスタイルをとることが多いからです。

私がよく視聴しているYouTubeチャンネル「龍孫江の数学日誌 in Youtube」にも、先日ちょうど抽象化の話が出ていたので、ご紹介しましょう。

動画内では数学家の龍孫江さんが、集合を用いて議論を進めること(≒抽象化すること)の御利益を次のように説明しています。

個々のものの特徴に引きづられることなく、考えたい性質に焦点をあてられる

私たちが考察したい具体的な対象には、さまざまな側面があります。しかし、具体的な対象が持っている性質というのは、考えたい性質に関係している側面もあれば、そうでない側面もあります。

「3の倍数について考えたい」としましょう。このとき6や9を具体例として考えると、「6は完全数」「9は平方数」のような側面を私たちは知っていますが、それらは「3の倍数」に関する普遍的な性質ではありません。したがって、「3の倍数の性質」を考える場合には、個別具体的な数を考えるのではなく、「3の倍数」の集合を考えることで、考察したい性質が浮き彫りになるのです。

つまり、具体的な対象を直接観察するのではなく、共通する性質を取り出して(つまり抽象化して)考えることが重要であるということです。

 

 

数学では、ある性質(のセット)を前もって提示し、その性質を備えるものを議論の対象としよう、という論理展開が行われます。この「ある性質(のセット)」を公理といいます。

公理に基づいて理論を組み立てることによって、前提を共有しつつそこから普遍的な命題を導くことができます。

 

まとめと参考文献

この記事では、ものごとを抽象的に考えるとはどういうことで、どんな効果があるのかについて述べました。ものごとを抽象的に考えることで、具体的な対象を観察していたのでは見えてこないものが見えてきます。他の世界との類似点に気づいたり、普遍の原理に気付くきっかけになります。

日常生活においても、ものごとを抽象的に捉えることで、今まで気づかなかったことに気付けるようになるかもしれません。

ものごとを抽象的に考えるには訓練が必要なので、なかなかイメージが沸かないかもしれません。一つの例として、数学における抽象化の方法は参考になります。下記は読み物としても数学書としてもおすすめです。あみだくじのお話も含まれています。


記事の中で触れた「複式簿記の群としての性質」については、以下の記事にまとめています。

【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*