擬似逆行列【簿記代数のための数学】

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本記事は擬似逆行列に関するメモです。

擬似逆行列は逆行列を持たないような行列(正則でない正方行列や、非正方行列)に対しても定義でき、逆行列に近い性質を示します。

擬似逆行列は線形代数やグラフ理論において現れし、簿記代数においても有向グラフとの関わりの中で登場します。

擬似逆行列(一般化逆行列)の定義と性質

(ムーア・ペンローズの)擬似逆行列は、ある行列\( A\)に応じて決まる行列\( X\)で、逆行列に類似した性質を満たすものをいいます。擬似逆行列の定義にはいくつかありますが、ここでは以下のような性質を持つものような行列\( X\)であると定義しましょう。

\begin{equation} \begin{split}
AXA&=A\\
XAX&=X
\end{split} \end{equation}

このような\( A\)の擬似逆行列\( X\)を\(A^+ \)と書きます。

 

擬似逆行列は、逆行列を持たないような行列にも定義できます。例えば、行列式が0になってしまうような(つまり正則でない)正方行列や、正方行列ではない行列に対しても定義できます。

ところで、逆行列は

\begin{equation} \begin{split}
YA&=E\\
AY&=E
\end{split} \end{equation}

となるような行列\( Y\)のことです(\( E\)は単位行列)。上の式に左から\( A\)を、下の式に左から\( Y\)をかけると
\begin{equation} \begin{split}
AYA&=A\\
YAY&=Y
\end{split} \end{equation}
が成り立ちます。

したがって、擬似逆行列の性質は通常の逆行列でも成り立つことがわかります。つまり、擬似逆行列は逆行列の一般化であるといえます。擬似逆行列を一般化逆行列とか一般逆行列ともいいます。

 

 

例題

次のような\( 6\times 7\)行列\( A\)の擬似逆行列を求めてみます。

\[
A=\left(
\begin{array} {rrrrrrr}
-1 &-1 &-1 &1 &0 &0 &0\\
1 &0 &0 &0 &-1 &1 &0\\
0 &1 &0 &0 &0 &-1 &-1\\
0 &0 &0 &-1 &0 &0 &0\\
0 &0 &0 &0 &1 &0 &0\\
0 &0 &1 &0 &0 &0 &1
\end{array} \right)
\]

逆行列は正方行列にしか定義できませんので、\( A\)の逆行列は存在しません。しかし擬似逆行列は求めることが出来ます。

\( A\)の擬似逆行列\(A^+ \)は

\begin{equation} \begin{split}
AA^+A&=A\\
A^+AA^+&=A^+
\end{split} \end{equation}

が成り立つような行列です。行列の積が定義できるよう、\( A^+\)は\(7\times 6 \)行列でなくてはなりません。

\(A=(a_{ij}) \)に対して\( A^+=(a^+_{ij})\)とおき、条件式を満たすような\(a^+_{ij} \)を気合と根性で計算してもよいのですが、今は表計算ソフトなどでも簡単に計算できますので、利用しましょう。

Excelのソルバー機能を用いて求めた\(A \)の擬似逆行列\( A^+\)は

\[
A=\left(
\begin{array} {rrrrrrr}
0 &1 &0 &0 &1 &0\\
0 &0 &1 &0 &0 &0\\
0 &0 &0 &0 &0 &1\\
0 &0 &0 &-1 &0 &0\\
0 &0 &0 &0 &1 &0\\
0 &0 &0 &0 &0 &0\\
0 &0 &0 &0 &0 &0
\end{array} \right)
\]

となります。Google spreadsheetで実際に性質を満たしているかを確かめています。

 

簿記代数との関係

擬似逆行列は簿記代数のどのようなシーンで登場するのでしょうか。

簿記代数では、残高の動きを有向グラフで表現します。有向グラフを考察することで期中の取引を推測することが可能です。

有向グラフは線形代数と関係があり、取引推定においても線形代数の考え方を利用しますが、その際に「勘定数×取引数」の行列が登場します。この行列が正則行列であれば、逆行列を掛けるという操作を通じて期中の取引を完全に把握することが可能になります。

しかし残念ながら、取引数は勘定数よりも多いことが通常なので、行列は「横長」になり、逆行列を定義できなくなります。

そこで擬似逆行列が登場します。

擬似逆行列を使うことで期中の取引の「候補」を見つけることが可能になります。この候補の中から最適な選択肢を見つけ出すことで、期中の取引を推定できるようになるのです。

 

参考文献

こちらのテキストに擬似逆行列の詳しい解説があります。

以下のスライドでは線形代数の視点から擬似逆行列について解説しています。

 

擬似逆行列を用いた取引の推定問題は、以下の論文で展開されています。

Inferring Transactions from Financial Statements, Arya et al., 2000, Contemporary Accounting Research(doi)

 

会計システムの有向グラフについては、以下の記事をご覧ください。

【君の知らない複式簿記6】矢印簿記で仕訳をビジュアライズ

 

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