このブログでは複式簿記の数学的な表現についていくつか記事を書いています。
【参考記事】【君の知らない複式簿記】目次まとめ
複式簿記における仕訳や試算表は、ベクトルとして表現できます。このとき、勘定科目は「座標系」と解釈することが可能です。
現金100円、売掛金120円、…、借入金50円、資本金100円、というふうに、各勘定科目について金額を1つずつ指定するとある時点の試算表(会計の状態)が得られますよね。
その意味では「縦横高さを指定すると位置が定まる」という物理的な空間と、設定はさほど変わらないのです。— 毛糸@博士課程 (@keito_oz) December 19, 2020
複式簿記のベクトル表示
複式簿記における仕訳や試算表は、ベクトルとして表現することが出来ます。あらかじめベクトルの各要素に勘定科目を対応付けておき、各勘定の数値を「借方金額は正、貸方金額は負」で表すことで、仕訳や試算表をベクトルとして表せます。
貸借が一致している仕訳や試算表をベクトル表示したものを、バランスベクトルといいます。
【参考記事】【君の知らない複式簿記4】簿記代数の教科書『Algebraic Models For Accounting Systems』とバランスベクトル
座標系としての勘定科目
勘定科目とその金額を指定すると、試算表を特定できます。これはちょうど、縦・横・高さの座標を指定すると、3次元空間の位置が特定できるのと似ています。
3次元空間の座標系の3軸に「縦・横・高さ」というラベルを付与するのと同じように、\( n\)個の勘定(現金、売掛金、…、借入金、…、資本金、…当期純利益)というラベルを用意し、それらの金額を指定することで、会計的な「位置」を一点指定できます。
このとき、勘定科目は座標系のラベル(基底)としての意味を持ち、各勘定科目の残高は座標とみなせます。
ただ、座標系といっても、任意の2軸が直交するとは限りません。「現金」軸と「売掛金」軸とが直交することの会計的な意味、もしくは直交を定義するための内積の取り方については、まだ研究されていないように思います。
また、\( n\)個の勘定をもつ簿記において、\( n-1\)個の勘定科目の金額を指定すると、\( n\)個目の勘定科目の金額は一意に定まります。これは、仕訳や試算表は借方と貸方の金額合計が一致するという性質によります。試算表をバランスベクトルとして表現したときは、要素和がゼロになることを意味します。
したがって、座標軸の数(ベクトルの要素の数)は\( n\)個ですが、次元は\( n-1\)次元以下です。
参考文献
ベクトル空間の基礎を丁寧に解説したテキストとして、以下が参考になります。座標の意味や「数ベクトルは基底と座標の積」という表し方がよく理解できます。
より発展的な教科書として、以下は長きにわたり愛される名著です。
【君の知らない複式簿記】シリーズでは、複式簿記をベクトルや行列であらわすというアイデアについて解説しています。記事一覧はこちらからどうぞ。