会計には、異なるルールのさまざまな会計があります。例えば、財務会計や税務会計、日本基準と国際基準、連結と単体などは、同じ取引に対して異なる会計を適用することで生じる差異です。
本記事ではこの会計ルールの違いを、圏論における「自然変換」と関連付けてみたいと思います。
会計圏論と自然変換
異なる会計ルールの差異は、経済状態の圏から会計状態の圏への関手の違いとして表せます。たとえば、財務会計と税務会計の違いは、財務会計を意味する会計関手と税務会計を意味する会計関手の違いとして表せます。
2つの圏の間に2つの関手が存在していて、それら関手が「整合的」であるようなとき、自然変換であるといいます。
【参考記事】自然変換【簿記数学の基礎知識】
以下では会計ルールの差異が自然変換であるという命題を示します。
会計の違いは自然変換
経済状態の圏 \mathscr{ S }から会計情報の圏 \mathscr{ A}への関手 C,Dが存在するとしましょう。関手C,D は、企業の経済状態とその変化を、企業の試算表とその変化(つまり仕訳)に対応付ける規則であり、会計を数学的に表したものです。
C(\Omega),D(\Omega)は経済状態をバランス加群として表したもので、いずれも \mathrm{Bal}_n^\sigma(R)の部分集合です。バランス加群の定義は以下をご覧ください。以下 \mathrm{Bal}と略します。
【参考記事】複式簿記会計の公理:ひとつの提案として
C(f),D(f)は経済状態の変化をバランス加群上の取引として表したもので、いずれも写像 \mathrm{Bal}\to \mathrm{Bal}の集合の部分集合です。
ここで、写像 \mu:C(\Omega)\to D(\Omega)が存在するとします。\mu はバランス加群 \mathrm{Bal}から \mathrm{Bal}の写像でもあるので、 \mathrm{Bal}上の取引といえます。
会計情報の圏 \mathscr{ A}における2つの射 \tau_C=C(f):C(\Omega)\to C(\Omega)と \tau_D=D(f):D(\Omega)\to D(\Omega)について、これらはバランス加群上の取引であり
したがって、 \mu:C\to Dは自然変換の定義を満たします。
\mu:C\to Dはいわば会計ルール Cから会計ルール Dへの調整手続きです。
日本基準に基づく会計情報からIFRSや米国会計基準に基づく会計情報への調整手続きはGAAPコンバージョンとよばれています。
したがって、「コンバージョンは自然変換である」といってもよいでしょう。
会計関手 C,Dは会計基準のみならず、連結会計と個別会計(の合算)の違いと考えることもできますし、財務会計と税務会計の違いと考えることもできます。
連単差と考えた場合、自然変換は連結修正仕訳に対応しています。財税差と考えた場合、自然変換は別表四に対応しています。
参考文献
圏論の基礎的な内容と自然変換については、以下のテキストを参考にしました。
会計の圏的アプローチに必要なバランス加群は、以下のテキストで導入されたものです。
【君の知らない複式簿記】シリーズはこちらからどうぞ。