趣味で数学の勉強をしていると,周りの人から「仕事の中で数学がどう役立つの?」と聞かれることがしばしばあります。
この記事では,数学の仕事への役立ちについて,私が考えたことをまとめます。
直接には役に立たないという気づき
私の仕事の中で数学がどう役立つのか考えてみました。しかし,直接役に立ったケースがあんまり思い当たりません。私の仕事には,積分されたがってる関数なんか出てきませんし,動く点Pもいませんし,円に内接する三角形も出てきません。
じゃあそういう数学の知識とまったく関係ない仕事なのかというと、そうとも言い切れません。
私の仕事における数学の役立ちは,次の2つにまとめられると考えました。
- ツール化された数学の理解
- 数学「的」発想
ツール化された数学の理解
数学が仕事に役立つシーンのひとつめは、数学が既存のツールとして実装されているケースです。
たとえば、2つの会計数値系列の連動性を把握するために、散布図を描いて回帰直線を引いてみるというような分析を,しばしば行います。そこには数学が隠れてます。
回帰直線を手計算で求めようとすれば、一次式や微分の単元を理解していないといけません。2つのデータ系列が線形関係(一次式)にあると仮定して予測モデルを作り,予測誤差が最も小さくなるような係数を(微分によって)求めることになります。
しかし私たちはそんな計算をせずとも,GUIをポチポチすれば回帰直線が引けますし,傾きも簡単に求められます。
私たちが使うツールはその基礎に数学がありますが,多くの場合そのツールは「よくできている」ので,私たちがその背後にある数学を意識しなくてもいいようになっています。
この状況は一方では,数学を理解せずとも実務的な作業を行うことを可能にしているので,よいことです。
他方、背景にある数学を理解せずにツールを使うことになるので,危険性もはらんでいます。
数学的な議論には必ず前提条件があります。その前提条件を満たさないシーンでツールを使うと,思わぬ誤りを生じさせます。上述の回帰分析の例でも,間違った適用の仕方をすると,性質の全く異なるデータでも同一の結論が得られてしまうなどの危険があります。以下のツイートはそのいい例です。
この4つのデータセット、それぞれ線形回帰すると全部Y=3+0.5X+εになって、しかも決定係数や二乗平均平方根誤差も全部一致する。
統計にはウソが入る余地がありすぎる。これは数学じゃない。数学の中のひとつの単元として教えちゃいけない。統計学という独立したリテラシーとして教えなきゃいけない。 pic.twitter.com/2IiwOSnfgI
— 石松拓人🛰 (@notactor) September 18, 2019
単なる作業員として仕事に望むのであれば,ツールが依拠している数学をよく理解する必要はないのかもしれません。
しかし,業務の内容を理解し,目的を果たすためにツールを使うのだというスタンスに立つなら,数学を理解することは目的達成に役立つでしょう。そのツールが前提とする条件は満たされているのか,得られた結論は本当に依拠できるものなのかを批判的に検証するには,数学の理解が欠かせません。
数学「的」発想
数学が仕事に役立つシーンのもうひとつは,数学的な思考が役立つパターンです。
たとえば,データの中から特定の条件を満たすものを抽出する際にベン図を思い浮かべる,マクロを作成するときに複雑な条件分岐を書かないように論理を組み立てる,経済変数が会計数値に正負どちらの影響を与えるかを想像して分析する,などのシーンで,自分の仕事を数学的イメージとともに進めると,納得感が高まります。
また,個々の業務をひとつずつ覚えるのではなく,それらに共通する原則を見つけてから,具体例として業務を理解するという思考法も,数学の考え方に似ています。個々の業務から原理原則を導く帰納的思考と,原理原則から個々の業務を定義づける演繹的思考の組み合わせが,業務効率を上げるケースがあります。
このように,数学の概念を直接役立てるわけではないけれど,数学「的」な発想をすることで,業務品質が高まっている気がするケースは多々あります。
ただ,こうした数学「的」発想は,数学を勉強すれば身につくものなのかは,議論の余地があります。ビジネスパーソンが数学を学ぶモチベーションとしてこうした数学「的」発想ができるようになりたいという思いがあると耳にしますが,たとえば高校数学の問題集を解くとそれが叶うのかは,微妙なところです。この点については引き続き考えていきたいと思います。
まとめ
数学の知識が直接仕事に役立つケースは限定的です。しかし,数学の知識が間接的によい影響を与えることは多々あります。
こうしたベネフィットを頭に入れながら,自分の仕事に数学がどう活かせるかを考えることもまた,重要なことだと思います。