簿記代数を理解してもらいたい気持ち
簿記代数という研究分野について聞かれることが増えました。
「これは布教のチャンス!」と思い,群の構造やベクトルの話をするのですが,だいたいポカンとされます。
【君の知らない複式簿記4】簿記代数の教科書『Algebraic Models For Accounting Systems』とバランスベクトル
私の説明が下手だというのもありますが,そもそも多くの人は群とかベクトルとか言われてもピンとこないと思われます。
もっと身近な例を挙げイメージを膨らませられる説明をすれば,もう少し興味を持ってもらえる気がしています。
たとえば,複式簿記はルービックキューブに似ている,なんて話はどうでしょうか。
「逆」の存在
ある仕訳をイメージしてみます。その仕訳には,かならず逆仕訳というものを考えることができます。
一方,ルービックキューブを回すという操作をイメージしみると,その逆手順が存在します。
「逆」の存在という性質に着目すると,複式簿記とルービックキューブは似ているのです。
操作をしても「保たれる」こと
仕訳をしても、帳簿が貸借不一致になることはありません。複式簿記は複式簿記からはみ出ることはなく,複式簿記の性質は保たれています。
ルービックキューブを回転させても、キューブの形は変わりません。ルービックキューブはルービックキューブでなくなることはありえず,ルービックキューブの性質は保たれています。
操作をしても「保たれる」という性質に着目すると,複式簿記とルービックキューブは似ているのです。
群という構造
「逆」が存在するとか,操作をしても「保たれる」というのは,極めて当たり前な性質に思えるでしょう。実際,こういったごく基本的な性質は、数学のいろいろなところに現れます。整数や,実数や,関数の集合などにも登場する概念です。
よく登場する概念には,名前をつける習わしがあります。
前述のような構造は群(ぐん)と呼ばれています。
複式簿記もルービックキューブも,数学的には群という共通の構造を備えています。群は量子力学にも使われていたりします。
全く異なる対象であるにも関わらず,その性質を抽象的に考察することによって,思わぬ共通点が見つかるのです。
こうした数学的性質を調べることによって,複式簿記をもっとよく理解しようというのが,簿記代数という研究分野です。