【君の知らない複式簿記 補遺】ブロックチェーン的三式簿記の3つの解釈

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6世紀に渡り会計の基本言語であり続けている複式簿記。

そんな複式簿記が、最新のテクノロジーであるブロックチェーンによって進化しようとしています。

ブロックチェーン的三式簿記と呼ばれる新たな簿記です。

この記事ではブロックチェーン的三式簿記について2つの解釈が存在することを解説します。

ブロックチェーン的三式簿記とはなにか

ブロックチェーン的三式簿記とは、ブロックチェーンによって拡張された複式簿記のことをいいます。

ブロックチェーンという一種のデータベース構造や、ブロックチェーンの改ざん困難性・事後検証可能性という性質は、既存の複式簿記の概念を拡張する可能性を秘めています。

ブロックチェーン的三式簿記に関する文献をいくつか見てみると、明確に異なる3つの意味で用語が用いられていることに気づきます。

1つ目は「三者」記入としての三式簿記、2つ目は「三方」記入としての三式簿記、3つ目は「三時」記入としての三式簿記です。以下でそれらを詳しく見ていきましょう。

 

「三者」記入としての三式簿記

ブロックチェーン的三者簿記の意義

ブロックチェーン的三式簿記の1つ目の解釈は、「三者」記入としてのブロックチェーン的三式簿記です。

これをブロックチェーン的三者簿記とよぶことにします。

ブロックチェーン的三者簿記とは、ある一つの取引に対して、

  1. 自分の会計帳簿
  2. 取引相手の会計帳簿
  3. ブロックチェーン

の3つの帳簿に記録するような方法のことをいいます。

従来の複式簿記では、ある取引(例えば商品を購入した、固定資産を売却した、など)が発生したとき、その取引の主体である自分と、取引の相手方の二者の帳簿に記録が行われました。

ブロックチェーン的三者簿記では、自分と相手の他に、ブロックチェーンにもその取引を記録します。

ブロックチェーンは改ざん困難で事後的に検証がしやすいと言われています。取引をブロックチェーンに記録しておくことで、自分や相手が会計情報を操作(粉飾)するのが難しくなり、仮に改ざんされたとしてもブロックチェーンのデータに基づいてこれを察知することができます。

【参考記事】ブロックチェーンは会計界のゲームチェンジャーとなるか-Deloitteのホワイトペーパーを読む-

 

三式簿記が三者簿記なら、複式簿記は二者簿記だったのか?

自分・取引相手・ブロックチェーンの「三者」記入を三式簿記とよぶなら、従来の複式(二式)簿記における「複式」とは、自分と取引相手の「二者」を示していたと解釈するのが自然でしょう。「○式」の意味合いが変わってしまっていたら、それは三式簿記が複式簿記の拡張であるとは言えないからです。

「複式」をどう解釈するのかという点については、様々な説があります。損益をBSとPLの両面で計算することを意味するという説、借方と貸方の二面的記入だという説、原因と結果であるという説、ストックとフローであるという説など、いろいろあります。

「複式」を「二者」性として解釈するという立場は、渡邉『会計学の誕生』に、関連する記載があります。同書序章より、以下に引用します。

簿記が企業間の取引を記録する技法として産声を上げたのであれば、簿記は、その誕生当初から取引を二面的に捉えていたことになります。なぜなら、取引は、通常、二者(取引の主体と客体)の間で行われるため、売り主と買い主の両者の記録が必要になるからです

この必然の結果として、簿記は、借主(借方)と貸主(貸方)の二重記録、したがって複式簿記として歴史の舞台に登場することになります。しかも、それが損益計算と結びつく時、フローとストック、別の視点からは原因と結果と言う二面からの計算になります。

この文章では、複式簿記の誕生当時から、一つの取引に対し二者の記録を伴っていたことが示されています。その後、借方貸方、フローとストック、原因と結果という二面的計算による損益計算へと進化した複式簿記ですが、歴史的には「二者簿記」という解釈も可能だったと考えられます。

この意味では「三者」記入としてのブロックチェーン的三者簿記は複式簿記の拡張といえるでしょう。

 

「三方」記入としての三式簿記

ブロックチェーン的三方簿記の意義

ブロックチェーン的三式簿記の2つ目の解釈は、ブロックチェーン的三式簿記の「三式」を、借方・貸方に続く3つ目の「方」と解釈するという考え方です。

これをブロックチェーン的三方簿記とよぶことにします。

ブロックチェーン的三方簿記は、『ブロックチェーン・レボリューション』タプスコット,タプスコット(2016)における以下の記載に見られます。

現在、企業は複式簿記を使っている。つまり、1つの取引を借方と貸方の2つに分けて記録するやり方だ。ここに3つ目の欄として、ブロックチェーンを追加するのはどうだろう。複式簿記ならぬ「三式簿記だ」。

この文章はまさに、借方・貸方に続く3つ目の「方」として、ブロックチェーンを利用できるということをいっています。

タプスコット,タプスコット(2016)では、三方簿記の便益として

  • 会計士が効率的に情報を検索・チェックできる
  • 記録が透明化される
  • 数字をごまかすことは不可能

といった点を挙げています。改ざん困難性は三者簿記のメリットでも挙げましたが、三方簿記でも享受できます。

三方簿記は借方・貸方という複式簿記の本質的な構造を変えるものであるため、その有用性が認識されれば、大きな社会的インパクトをもたらす可能性があります。

三者簿記との関係

ブロックチェーン的三方簿記の考え方は、前述の三者簿記とは異なります。

取引記録をブロックチェーン上で行うという意味では三者簿記に類似していますが、三者簿記は「記録者が三」であることを意味していた一方、三方簿記は「記録欄が三」であることを意味しているため、その意味合いは全く異なります。

三者簿記においては、Inter-Companyの記録をブロックチェーンが担います。

三方簿記においては、Intra-Companyの記録をブロックチェーンが担います。

 

「三時」記入としての三式簿記

ブロックチェーン的三時簿記の意義

ブロックチェーン的三式簿記の3つ目の解釈は、ブロックチェーン的三式簿記の「三式」を、3つの時制(三時)と解釈するというものです。

これをブロックチェーン的三時簿記とよぶことにします。

この考えは『会計学と租税法の現状と課題』「第7章 ブロックチェーンにおける三式簿記の意義」坂上(2019)と、そこで引用される『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』岡田(2018)で示された考え方です。

ブロックチェーン的三時簿記は、過去・現在・未来の3つの時制のデータを一つの帳簿(ブロックチェーン)に記録する方法です。

ブロックチェーンにおける3つの時制のデータとして、坂上(2019)は以下のように整理しています。

  • 過去データ:自分宛に送金した送金者のアドレスと送金額
  • 現在データ:現在の自分の保有額
  • 未来データ:UTXO(Unspent Transaction Output)

三時簿記と井尻の時制的三式簿記

「三時」記入としてのブロックチェーン的三式簿記は、井尻の時制的三式簿記に類似しています。

井尻の時制的三式簿記とは複式簿記のひとつの拡張です。複式簿記における「財産=資本」という等式を「現在=過去(の累積)」と解釈し、これを「未来=現在=過去」という等式に拡張しようというのが、時制的三式簿記のアイデアです。

【参考記事】【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

坂上(2019)は井尻の時制的三式簿記とブロックチェーン的三時簿記とを以下のように比較しています。

過去 現在 未来
井尻[1984] 払い込まれた資本 現在の純財産 将来の目標資本
ブロックチェーン 自分宛の送金 現在の保有額 将来の支出と残額

(出所:坂上p.103)

この比較表からも分かる通り、井尻の時制的三式簿記とブロックチェーン的三時簿記は、それが扱う時制と各時制の意味合いがよく似ています。

ただし、井尻の時制的三式簿記における未来時制は目標資本である一方、ブロックチェーン的三時簿記は将来支出(いわばこれからの財産流出)と考えている点で大きく異なっています。坂上(2019)も未来時制に関する差異について”その内容は本質的に異なるものだ”と述べています。

ブロックチェーン的三時簿記は未来の情報を含むという意味で、複式簿記にはない視座を提供していると言えますが、井尻の時制的三式簿記の一種と考えるのは難しそうです。


まとめ

本記事ではブロックチェーン的三式簿記に3つの解釈が可能であると言う点について述べました。

  1. 自分・取引相手・ブロックチェーンの「三者」に記入する簿記
  2. 借方・貸方・ブロックチェーンの「三方」に記入する簿記
  3. 過去・現在・未来の「三時」の情報をブロックチェーンで管理する簿記

三者簿記は複式簿記の歴史から見て、複式簿記の拡張概念と位置付けてもよいように思われます。

三方簿記は複式簿記の構造を根底から覆す可能性を秘めています。

三時簿記は井尻の時制的三式簿記との類似性が見られるほか、複式簿記にはない未来視点の情報を含み、考察する価値があります。

SNSやネット記事ではブロックチェーン的三式簿記に関して様々な誤解、混乱が見られます。この記事に述べた内容に基づきそれらの差異を認識することで、有用な議論を進めることができるでしょう。

参考文献

ブロックチェーン的「三者」簿記を考えるための基礎として、複式簿記の「二者」性を確かめる必要がありました。以下の書籍では複式簿記が自分と相手の二者の記入を要する点が、歴史的経緯と共に述べられています。文庫で読めるのでおすすめです。


借方・貸方に続く第三の「方」にブロックチェーンを活用するという考え方は、以下のテキストに述べられています。本書はブロックチェーンの技術とその社会的影響に関する草分け的な本です。ブロックチェーンが如何に革命的か、そのロマンに触れられます。


ブロックチェーンに現在・過去・未来の3つの時制が含まれ、これが三式簿記と解釈できるという見解は、以下のテキストに述べられています。

ブロックチェーン的三式簿記に関する学術研究として重要な坂上(2018)「ブロックチェーンにおける三式簿記の意義」は、以下の論文集に含まれています。坂上(2018)ではブロックチェーン的三時簿記の解釈と井尻の時制的・微分的三式簿記の関係、およびそれらの研究の意味合いや誤解について考察しています。

ブロックチェーン的三式簿記とも関係する井尻の時制的・微分的三式簿記については以下の記事でも考察しています。
【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

このほか、複式簿記のちょっと変わった側面については、【君の知らない複式簿記】シリーズとしてまとまっています。こちらからどうぞ

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