この記事では自然変換(natural transformation)の定義を紹介したあと、会計という関手の自然変換について触れます。
本記事の内容は以下の書籍を参考にしています。
自然変換の素朴なイメージ
圏とは素朴にいえば、適当な共通項をもつ「対象」と、その間に存在する関係を示す「射」からなる、構造を持ったまとまりです。
【参考記事】圏(けん、category)【簿記数学の基礎知識】
関手とは、ある圏の構造を保ちながら別の圏に対応付ける写像のようなもので、アナロジーのようなものです。
【参考記事】関手(functor) 【簿記数学の基礎知識】
自然変換というのは、この関手が複数存在する場合に、関手同志の関係が「整合的である」ことを意味しています。
関手という圏と圏の対応関係が2つ存在していたときに、それらは自然変換によって「構造を保ちながら」結び付けられます。
自然変換の定義
\( \mathscr{ A },\mathscr{ B }\)を圏とし、\( F,G\)を関手とします。
自然変換\( \mu:F\to G\)とは、\( \mathscr{ B }\)の射の族\( \left( F(A)\overset{\mu_A}{\rightarrow}G(A)\right)_{A \in \mathscr{ A }}\)であって、\( G(f)\circ\mu_A=\mu_{A’}\circ F(f)\)となるものをいいます。
射\( \mu_A\)は\( \mu\)の成分といいます。
複式簿記への応用
会計を、経済状態の圏から会計情報への関手と考えるとき、会計関手にはいろいろなものが考えられます。
たとえば、財務会計や税務会計は、いずれも「経済状態から複式簿記による会計情報」への写像であって、「経済状態の変化を複式簿記による会計情報の変化」に対応付けています。
したがって、このような2つの会計関手が存在するときに、それらの間に自然変換が存在するかは興味深い問題です。
財務会計と税務会計の間の自然変換は、実務的には「財税差」と呼ばれるものであり、自然変換として定式化できます。
参考文献
圏論の基礎的な内容を扱うテキストとして、以下が挙げられます。明快な語り口と豊富な例によって、無味乾燥になりがちな圏論をイメージ豊かに学ぶことが出来ます。
圏論に関する入門的な書籍として、以下もおすすめです。圏を考える意味やイメージ、圏論がどんなことに役立つのかを、対話形式で学べます。
会計システムの代数的表現やその準同型については、こちらのテキストで扱われています。いわゆる簿記代数の(おそらく唯一の)テキストです。
このブログで不定期連載中の【君の知らない複式簿記】では、簿記の代数構造に関する研究結果を紹介しています。
【君の知らない複式簿記】シリーズはこちらからどうぞ。