圏論の重要概念である「関手」は、圏と圏の構造を保つような対応関係です。
本記事では関手の定義とそのイメージについて述べます。
また、会計において関手がどこに現れるのかについても触れます。
関手の定義
\( \mathscr{ A }, \mathscr{ B }\)を圏とします。
【参考記事】圏(けん、category)【簿記数学の基礎知識】
\( F:\mathscr{ A }\to \mathscr{ B }\)が関手であるとは、
- 対象の間に\( \mathrm{ ob}\left( \mathscr{ A }\right)\to\mathrm{ ob}\left( \mathscr{ B }\right)\)という対応関係が存在(\( A\mapsto F(A)\)という対応)
- 射の間に\( \mathscr{ A }(A,A’)\to \mathscr{ B }\left(F(A),F(A’) \right)\)という対応関係が存在(\( f\mapsto F(f)\)という対応)
- \( \mathscr{ A }\)の射\( f,f’\)に対して\( F(f\circ f’)=F(f)\circ F(f’)\)が成立
- \( F(1_A)=1_{F(A)}\)
を満たすことをいいます。
関手のイメージ
圏というのは対象と射がなすシステムです。関手は圏の間の構造を保つような対応関係のようなものです。
『圏論の道案内』では関手のイメージとして、以下のような説明をしています。
日常生活で他人にものごとを説明する際、我々はよく言い換えや喩えといったことを行うが、これを数学的に捉えたものが関手なんだ。
もう少し具体的に述べてみましょう。
圏\( \mathscr{ A }\)に対象\( X\)から\( Y\)への射\( X\overset{f}{\rightarrow} Y\)があるとします。これを「\( X\)と\( Y\)の関係」と解釈してみましょう。
\( F:\mathscr{ A }\to \mathscr{ B }\)が関手であるとき、圏\( \mathscr{ B }\)において\(F( X)\overset{F(f)}{\rightarrow} (Y)\)という関係が成り立ちます。これは圏\( \mathscr{ A }\)における関係を圏\( \mathscr{ B }\)の置き換えていると解釈できます。いわば、圏\( \mathscr{ A }\)における関係を圏\( \mathscr{ B }\)で言い換えている、もしくは喩えているようなものです。
複式簿記への応用
会計は企業のビジネスの実態を会計情報に「写す」プロセスです。つまり、会計は写像です。
実は、企業の経営と会計情報をそれぞれ圏と捉えると、会計は関手になります。詳細は以下をご覧ください。
【参考記事】【君の知らない複式簿記8】会計は写像であり、関手である。
参考文献
圏論の基本的な内容や関手のイメージについては、こちらの書籍がおすすめです。対談形式で楽しく読めて、圏論の「こころ」が理解できます。
関手を含む圏論の基礎的な内容について、以下のテキストが参考になります。
このブログで不定期連載中の【君の知らない複式簿記】では、簿記の代数構造に関する研究結果を紹介しています。
【君の知らない複式簿記】シリーズはこちらからどうぞ。