会計を企業の状態から会計情報への写像と見たとき、異なる2つの状態が「似ている」ならば、アウトプットとしての会計情報も「似ている」ことが期待されます。
本記事では企業の状態が「似ている」ことを数学的に同定式化するかについて考えます。
会計情報が「似ている」
会計情報の「似ている」度合いから企業の状態の「似ている」度合いを推し量れるという性質は、会計の忠実性とよばれる性質です。
【参考記事】会計と圏論における「忠実」:概念フレームワークと関手の定義に触れながら
会計情報はバランス加群のような扱いやすい数学的概念に対応付けられるので、「似ている」ことを表現することもしやすいと思われます(例えば、2つのバランス加群に準同型が存在するとか、適当な距離を定めそれが小さいとか)。
企業状態が「似ている」
一方、企業の状態が似ているということを形式的に述べるよい方法は、あまりつかめていません。
企業の状態遷移と会計情報が整合的であるということはわかっているのですが、2つの異なる状態の類似度や、2つの企業の違いという話になると、そういった原始的な性質をさらに具体化する必要があります。
【参考記事】【君の知らない複式簿記8】会計は写像であり、関手である。
企業が似ている・異なっているという判断材料には、いろいろあり、例えば事業領域(ビジネスドメイン)が一致しているだとか、生産する財サービスが互いに代替財になっているといった視点があるでしょう。
企業状態を投資リターンの確率分布で考える
ここで思い出すのは、「会計情報は投資家の意思決定に有用であるべし」という考え方です。会計用語で意思決定有用性とよばれる会計の基本的性質です。
投資家の(不確実性下の)意思決定においては、投資リターンの確率分布の情報が必要です。
したがって、会計の意思決定有用性の一つの側面として、会計情報の違いから投資リターンの確率分布の違いがわかることが期待されていると考えられます。
確率分布の違いを表す数学概念には、ラドンニコディム微分やカルバックライブラー情報量やワッサースタイン距離というのがあるそうなので、会計情報の違いはこれら概念によって特徴づけられる可能性があります。
カルバックライブラー情報量はシャノンの情報理論における相互情報量と関係があり、相互情報量は会計数値との関係が既に研究されています。
【参考記事】会計学と情報理論の融合、そして「会計学の基本定理」
このように考えると、会計情報は情報理論や確率論の言葉を借りてこそ本質を見極めることができる気がしてきます。
【参考記事】確率論のアナロジーとしての会計学と、それらの重要な差異