こんにちは、毛糸です。
2019/7/12,13,14に、日本経営分析学会・日本ディスクロージャー研究学会の年次大会が行われました(プログラムPDFはこちら)。
両学会はこのたび合併することなり、新たに
日本経済会計学会 The Accounting and Economic Association of Japan(AEAJ)
として生まれ変わりました。
今回開催された大会においては、会員総会と講演会・研究報告会が催されました。
会員総会では日本経営分析学会・日本ディスクロージャー研究学会の財務報告や、日本経済会計学会 The Accounting and Economic Association of Japan(AEAJ)の会則等について審議が行われました。
私が参加した大会2日目の7/13には、学会賞受賞のテキストを著した研究者による講演が行われました。以下ではその内容をまとめます。
浅野敬志先生「資本市場の変容と会計研究の方向性」
首都大学東京の浅野敬志先生による著書『会計情報と資本市場』の紹介と概略についてお話されました。
『会計情報と資本市場』では、
- 会計情報の変容
- 経営者による会計の選択
- 会計目標の達成
に着目した仮説検証型の実証分析を行っています。
本公演ではこの他に、資産運用の側面から見た会計情報の有用性について語られました。
クオンツ運用、スマートベータ、市場の効率性、会計情報
昨今の「定量的な資産運用」(クオンツ運用)には、AI・ビッグデータの活用と、スマートベータ(ファクター投資)という2つの新潮流があります。
特に後者については会計情報による指標も用いられ(MSCIクオリティ指数など)、本公演ではこの部分に着目しています。
会計情報は過去情報であり、効率的市場においては超過リターンに寄与しないと考えられます、実証的には会計情報を用いた投資が超過収益を生むことが多くの研究で明らかになっています。
たとえば、総資産売上総利益率の高い企業を買い、低い企業を売るとリターンが得られるような戦略が知られており、これらは効率的市場という前提に反する「アノマリー」と考えられています。
会計情報、とくに売上総利益がなぜリターンに寄与するのかという理由は、投資家の行動バイアスや裁量余地が少ないためと考えられています。
売上総利益のほかにも、キャッシュベースの営業利益がリターンに寄与するという研究もあります。
会計情報の(いくつかの意味での)質は指数として定量化されており、それはクオリティファクターと呼ばれます。
クオリティ・ファクターは、企業の割安感を示すバリュー・ファクターと、負の相関があることがわかっています。
つまり、バリュー投資は、低収益性企業への投資を意味します。
統計的には、クオリティ投資のリターン>バリュー投資のリターンであるようです。
ファクター投資の普及により超過リターンは徐々に小さくなっていくと考えられており、事実、有名なアノマリーであった「アクルーアル・アノマリー」は解消しつつあります。
結局のところ、残余利益モデルやDCFモデルによって、会計情報と株価の関係を見出し、ファンダメンタル分析を行うこと重要になるということです。
会計情報の機能「投資意思決定支援機能」を重視するならば、市場が十分に効率的であるという前提を持たず、財務情報の改善に努めるべきで、投資家は「会計の質」を判断して業績予測や価値評価を行う必要があります。
ビジネスと会計は複雑化しており、会計情報はわかりにくくなっていると言われていますが、経営者は中期やMD&Aでこれを補完し、投資家と対話することが求められます。
田口先生「Disclosure is a gift that encourages trust and reciprocity」
同志社大学の田口聡志先生の著書『実験制度会計論』で論じられた、実験会計学のお話です。
本書は理論と実験により、制度と情報の仕組みを探る挑戦的なテキストです。
会計を抽象化したエッセンスをモデル化し、情報のもとでの仕組みと人間の相互作用を分析しています。
通常、情報開示によって、情報を持つ者の優位性は低下します。
従来、長期的関係により評判向上につながってきましたが、近年はより短期主義的に、直接的に信頼を向上することが求められています。
ゲーム理論を用いたモデル分析によれば、意図的な情報開示は社会の信頼と互恵を活性化する(gift exchange)ことが明らかになります。
また、外部要求による開示のほうが信頼性が高いこともわかります。
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