金融

理論・モデルの意義と、理論と現実の差異を知ったあとにとるべき行動

こんにちは、毛糸です。

先日の記事で、主要な株価指数から計算する日次リターンが、正規分布に従わないことを確かめました。
>>日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件

リターンが正規分布に従うというのは、ファイナンス(金融工学)においてしばしば仮定されることですが、現実には成り立っていないということです。

この記事を見て「ファイナンス理論は嘘だった!」と受け取る方もいたようです。

しかし、このような態度は学術的に価値あるものではないように思います。

本記事では「リターンは正規分布でない」とわかったあとに我々が考えるべきことは何か、ファイナンスの数理モデルにおいて正規分布を仮定していたのにはどういう意味があったのかということについて考えてみたいと思います。

正規分布の仮定と現実の分布の差異

ファイナンス理論ではしばしば、資産価格のリターンは正規分布に従うと仮定されます。

分散投資の理論的根拠とも言われるマーコウィッツの平均分散分析や、シャープらのCAPM(資本資産価格モデル)も、リターンが正規分布に従うときに成り立つ命題です。

また、ファイナンスの数理分析が広がる契機となったブラック・ショールズモデルも、資産の瞬間的な収益率が正規分布に従うという性質を持ちます。

マートンの最適ポートフォリオ理論も、ブラック・ショールズモデルと同様、瞬間的な収益率が正規分布に従うような資産を考えるときにエレガントな結果が得られることがわかっています。

このように、「リターンが正規分布に従う」というのは、教科書的なファイナンスの世界ではスタンダードな仮定であり、その前提を基に膨大な研究成果が蓄積されています。

ところが、下記記事で分析している通り、主要な株価指数の日次リターンは、正規分布に従っていません。
>>日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件

 

理論の前提が現実を捉えきれていないというこの状況を「理論の敗北」と捉える人もいるでしょう。

しかし、そういった考え方は果たして適切なのでしょうか。

数理モデルを考える意味とは

この世の現象を完全に説明できる「万能の理論」などというものはありません。

縮尺1:1の地図は役に立たない

というのは、数理モデルを扱うを行う人がよく使う格言ですが、現実を捨象し分析に関係ある部分を抽象化して考える「モデル分析」を行う場合には、どうしても現実と不整合な部分が出てこざるを得ません。

ファイナンスにおける正規分布の仮定も、こうした「抽象化」の産物です。

つまり、現実にはリターンが正規分布に従っていないことはわかっているけれども、ファイナンスにおいて重要な意味をもつ「リスク」に関する洞察が得られやすく、数学的にも扱いやすいため、正規分布を仮定しているのだということです。

分析したい対象によって、捨象すべき部分は思い切って捨て去る、そうすることでシャープな結論が得られ、世界を理解することにつながります。

リターンが正規分布に従わないという現実はたしかにありますが、リターンの分布という特徴を敢えて捨象することで、ファイナンスは多くの発見を生み出してきたということです。

理論の前提が現実とが整合していなくとも、分析対象について良い考察が得られれば価値がある。

これが科学的態度です。

理論が現実と違うとわかった私たちが、このあと考えるべきこと

リターンの正規性という理論の前提は、現実には成り立っていない。

それを知った私たちは、その後どんな態度をとるべきでしょうか。

間違っても「理論の前提がおかしい!既存理論は無意味だった!」と吹聴してはいけません。

理論はあくまで分析に必要なもののみをすくい取り、関係ない部分を捨象しているので、モデルと現実が乖離するのは当たり前です。

悲しいことに、投資家の間では、過去何度も、こうした建設的でない批判が繰り返されてきたようです。
参考記事>>分散投資を批判した後の対案がそれ以上に酷い法則-梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)

現実とモデルが違うなんてことはみんなわかっていて、わかっていてなお有用だから、使われているわけです。

理論と現実の差異に気づいたあとに取るべきスタンスは

  1. 理論と現実の差を受け入れ、単純化した世界(モデル)で成り立つ命題を受け入れる
  2. 理論と現実の差を埋めるような、新たな手法やモデルを開発する
のいずれかであると私は考えています。

もし標準的なモデルが自分の分析において不都合なら、自分に必要なモデルを自分で作ればいいだけの話です。

事実、多くの研究者が、資産リターンが正規分布に従わない場合に成り立つ定理をたくさん発見しています。
たとえば下記の書籍では、資産リターンが正規分布に従わない場合においても、平均分散分析やCAPMがなお成立することを証明しており、リターンが正規分布に従わない場合にも分散投資は意味のある投資手法であることがわかります。

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理論と現実の(あって当たり前の)差異について、批判するのではなく、理論の価値を認識し、必要なら自分でよりよい理論を構築することが、社会的に意味のある態度だと思います。

まとめ

ファイナンス理論で仮定される「リターンの正規性」は、実際には成り立っていません。

しかしこれは「理論の敗北」ではありません。

理論は、現実の問題の本質的な部分を抽象化して取り出し、その他の部分はきっぱり単純化することで、深い洞察を得ており、「リターンが正規分布に従う」という仮定も、こうした単純化の一環です。

理論と現実が異なっていると気づいたなら、その差異を受け入れるか、より現実的なモデルを自分で作ってみるのが、社会的に意義ある態度です。

日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件

こんにちは、毛糸です。

先日、ファーマ−フレンチの3ファクターモデルのデータが無料で手に入るという記事を書きました。
>>ファーマ-フレンチの3ファクターモデルのデータを入手する方法


ここで手に入るデータには、市場ポートフォリオのリターンデータが含まれています。

本記事ではこの市場ポートフォリオのリターンデータが、ファイナンスでしばしば仮定される「正規分布」に従わないことを確かめてみます。

日本、アメリカ、ヨーロッパ、全世界の市場ポートフォリオ

ファーマ−フレンチの3ファクターモデルに用いるヒストリカルデータには、市場ポートフォリオの日次リターンが含まれます。
市場ポートフォリオとは、各地域の時価加重平均ポートフォリオのことです。
フレンチ教授のwebページから取得できるデータの中で、Mkt-RFというのが市場ポートフォリオのリターンと安全資産リターン(米国短期証券)の差を表しており、別にあるRFの列を足してやることで、市場ポートフォリオのリターンが計算できます(通貨は米ドル建てです。
市場ポートフォリオは各地域の株式市場の時価総額を反映した指数ですから、日本、アメリカ、ヨーロッパ、全世界の各市場の株式指数と考えて良いでしょう。
データは1990/7/2から2019/4/30までの7,522日分あります。
以下では各地域の市場ポートフォリオデータをもとに、株価の日次リターンの平均(期待リターン)、標準偏差(リスク)、歪度と尖度を計算し、日次リターンが正規分布に従うかを確かめます。
本記事の分析手法は、下記記事を参考にしています。
分析には統計プログラミング言語Rを用います。Rの使い方や投資理論への活用については、下記書籍が参考になります。


日本株式のリターン、リスク、正規性

mean()関数を使って計算した日本株式の日次期待リターンは0.01%、1年250営業日を乗じて計算する年率換算の期待リターンは3.8%でした。
sd()関数を使って計算した日本株式の日次リスクは1.37%、1年250営業日の平方根を乗じて計算する年率換算のリスクは21.7%でした。
分布の偏りを示す歪度は0.12(正規分布ならば0)、分布の尖り具合を示す尖度は 8.2(正規分布ならば3)でした。
データが正規分布に従うかを示すシャピロ・ウィルク検定を実施したところ、「正規分布に従う」という帰無仮説は棄却され、日本株式の日次データは統計的には正規分布に従わないことがわかりました。
データをQ-Qプロットしてみたところ、正規分布であればデータは一直線に並ぶべきところ、以下のようになりました。

米国株式のリターン、リスク、正規性

mean()関数を使って計算した日本株式の日次期待リターンは0.04%、1年250営業日を乗じて計算する年率換算の期待リターンは10.5%でした。
sd()関数を使って計算した日本株式の日次リスクは1.06%、1年250営業日の平方根を乗じて計算する年率換算のリスクは16.8%でした。
分布の偏りを示す歪度は-0.21(正規分布ならば0)、分布の尖り具合を示す尖度は 11.6(正規分布ならば3)でした。
データが正規分布に従うかを示すシャピロ・ウィルク検定を実施したところ、「正規分布に従う」という帰無仮説は棄却され、米国株式の日次データは統計的には正規分布に従わないことがわかりました。
データをQ-Qプロットしてみたところ、正規分布であればデータは一直線に並ぶべきところ、以下のようになりました。

欧州株式のリターン、リスク、正規性

mean()関数を使って計算した日本株式の日次期待リターンは0.03%、1年250営業日を乗じて計算する年率換算の期待リターンは3.8%でした。
sd()関数を使って計算した日本株式の日次リスクは1.11%、1年250営業日の平方根を乗じて計算する年率換算のリスクは8.1%でした。
分布の偏りを示す歪度-0.14(正規分布ならば0)、分布の尖り具合を示す尖度は 10.5(正規分布ならば3)でした。
データが正規分布に従うかを示すシャピロ・ウィルク検定を実施したところ、「正規分布に従う」という帰無仮説は棄却され、欧州株式の日次データは統計的には正規分布に従わないことがわかりました。
データをQ-Qプロットしてみたところ、正規分布であればデータは一直線に並ぶべきところ、以下のようになりました。

全市場株式のリターン、リスク、正規性

mean()関数を使って計算した日本株式の日次期待リターンは0.03%、1年250営業日を乗じて計算する年率換算の期待リターンは7.8%でした。
sd()関数を使って計算した日本株式の日次リスクは0.87%、1年250営業日の平方根を乗じて計算する年率換算のリスクは13.8%でした。
分布の偏りを示す歪度-0.25(正規分布ならば0)、分布の尖り具合を示す尖度は 10.7(正規分布ならば3)でした。
データが正規分布に従うかを示すシャピロ・ウィルク検定を実施したところ、「正規分布に従う」という帰無仮説は棄却され、全世界株式の日次データは統計的には正規分布に従わないことがわかりました。
データをQ-Qプロットしてみたところ、正規分布であればデータは一直線に並ぶべきところ、以下のようになりました。

まとめ

フレンチ教授が公開している市場ポートフォリオの日次データを使って、日本、アメリカ、ヨーロッパ、全世界の株式リターンの分析を行いました。
その結果、いずれの地域でも、日次リターンは正規分布に従わないことがわかりました。
ファイナンスの多くの研究ではリターンは正規分布に従うと仮定されていますが、実際のデータはそうではないようです。
本ブログでたびたび登場する「投資シミュレーションプログラム」はリターンが正規分布に従うことを仮定していますので、本記事の結果を重く受け止めるならば、改善する必要があります。
この点については、近く改良版を公開しますので、ご期待下さい。

ファーマ-フレンチの3ファクターモデルのデータを入手する方法

こんにちは、毛糸です。

本記事ではファーマ-フレンチの3ファクターモデルを使うにあたり必要となる、市場ポートフォリオ、時価総額(SMB)ファクター、簿価時価比率(HML)ファクター、無リスク金利のデータを入手する方法を解説します。

上記データは、ケネス・フレンチ教授のホームページから無料で、1990年からの長期にわたる時系列データが手に入ります。

ファーマ-フレンチの3ファクターモデル(Fama-French three factor model)のヒストリカルデータ

ファーマ-フレンチの3ファクターモデル(以下、FF3)に必要なデータは、ケネス・フレンチ教授ホームページのDATA LIBRARY(リンクはこちら)から、無料で取得できます。
上記ページの「Developed Market Factors and Returns」には、全市場ベースのFF3データのほか、北米、ユーロ圏、日本などの地域別のデータが提供されています。
[Daily]データでは、1990年7月2日以降の日次データが提供されています。

各ファイルは、市場ポートフォリオ、時価総額(SMB)ファクター、簿価時価比率(HML)ファクター、無リスク金利のデータからなります。

このほか、上記サイトではファーマ-フレンチの5ファクターモデルに必要な収益性ファクターと投資ファクターや、モメンタムファクターも提供されています。

これらデータを使えば、Rなどで簡単に投資分析をすることが可能です。

金融データの分析方法については、下記の書籍が参考になります。

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ビットコインFX|期待リターンと熱狂する理由

こんにちは、毛糸です。

2017年頃の仮想通貨バブルは「億り人」という言葉を生むほど、高い収益機会として注目され、一攫千金の夢を見させてくれました。
>>ビットコインはバブルである

仮想通貨バブルの狂乱を演出したのが、ビットコインFXに代表されるレバレッジつき証拠金取引です。
本記事では、ビットコインFXの期待リターンがプラスと考えられることを説明し、それがビットコインFXの人気となったこと、「レバレッジ」が重要な意味をもっていたことを説明します。

通貨FXの期待リターンは0

通常の外国為替証拠金取引(以下、通貨FX)は、理論的には期待リターンが0であると考えられています。
通貨変動の期待リターンと、国内外の金利差に相当するスワップポイントが相殺されるため、一定の仮定のもとでは期待リターンになる0の「フェアゲーム」です。
為替レートというのは、国内と海外の金利運用による収益を予見して決まっているため、たとえ外貨建ての金利がとても高く魅力的に見えても、通貨変動によってリターンが打ち消されます。
期待リターンが0ということは、通貨FXでレバレッジをかけても、リスクばかり大きくなるだけで期待リターンはあがりません。
したがって「理論的には」通貨FXでレバレッジをかける意味はありません。

FXや外貨預金の期待リターンに関しては、下記書籍に説明があります。

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ビットコインFXに金利平価は働かない

ビットコインFXも同じく期待リターンは0なのでしょうか。
ビットコインが通常の通貨(いわゆるフィアット)と異なる点は、ビットコインが通貨圏を形成しているとはいい難く、ビットコイン建ての運用を行っているプレイヤーが通貨ほど多くない点です。
ビットコイン建て債券の発行がないわけではありませんが、ビットコインとフィアットの交換レートを考慮し裁定(アービトラージ)が起こるほど、自由かつ頻繁に行われているわけではありません。
したがって、通貨FXの期待リターンが0であるという「理論」の前提が、ビットコインFXでは成り立っていない可能性が大いにありえます。
ややテクニカルな話ですが、通貨FXの期待リターン0というのは、金利平価と呼ばれる理論に基づいており、これには通貨の売買と各国での自由な運用が前提となっています。
ビットコインはこの前提が成り立っていないため、ビットコインFXの期待リターンは0とはかぎりません。

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ビットコインFXの期待リターン

ビットコインFXの期待リターンは0ではなく、おそらくは正であると考えられます。
ビットコインFXには(取引所にもよりますが)スワップポイントがあり、売り買いどちらのポジションであっても、一定率を支払うような取り決めになっていることが多いようです。
上記サイトの例では、一日あたり建玉金額の0.04%が手数料として徴収されます。
一方、ビットコイン価格のヒストリカルデータから算出した日次リターンは0.28%ほどでしたので、スワップポイント(と言う名の手数料)を控除してもなお、統計上プラスのリターンが得られることになります。

ビットコインFXの狂乱の理由

期待リターンがプラスであるということは、ビットコインFXでレバレッジをかけることによって、期待リターンを高められます。
期待リターン0の通貨FXであればは、何倍レバレッジをかけても期待リターン0のままですが、ビットコインFXの期待リターンが正であれば、レバレッジをかける意味もあります。
ビットコインFXがあれほど人気を博した理由の一つは、通貨FXとは異なり、レバレッジが言葉通り収益に「てこ」を加えられるためだったのかも知れません。
もちろん、レバレッジで高まるのはリターンだけではありません。
レバレッジをかけることによりリスクも相当高いものとなり、またレバレッジの本質は他人資本を借りてくること(つまり借金)なので、運が悪ければ破産することもあります。
レバレッジのリスクに関しては、下記の記事が参考になります。

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d.id=a,e=c.getElementsByTagName(“body”)[0],e.appendChild(d))})
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msmaflink({“n”:”ガチ速FX 27分で256万を稼いだ鬼デイトレ”,”b”:””,”t”:””,”d”:”https://images-fe.ssl-images-amazon.com”,”c_p”:””,”p”:[“/images/I/51vIopi1L0L.jpg”],”u”:{“u”:”https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%83%81%E9%80%9FFX-27%E5%88%86%E3%81%A7256%E4%B8%87%E3%82%92%E7%A8%BC%E3%81%84%E3%81%A0%E2%80%9C%E9%AC%BC%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%AC-%E5%8F%8A%E5%B7%9D%E5%9C%AD%E5%93%89/dp/4827211817″,”t”:”amazon”,”r_v”:””},”aid”:{“amazon”:”1251300″,”rakuten”:”1249750″,”yahoo”:”1251299″},”eid”:”bLq6y”});

まとめ

通貨FXは理論上、期待リターンが0ですが、ビットコインFXは通貨FXで成り立つ前提が成り立たないため、期待リターンが0とは限りません。
実際のデータから推計した期待リターンは、スワップポイントを控除してもプラスであり、ビットコインFXの期待リターンは正であると考えられます。
この場合、レバレッジをかけることで期待リターンは増幅され、これが2017年のビットコインバブルの狂乱の一原因であったと思われます。
しかし、レバレッジをかけることでリスクも激増し、破産確率が増すことには十分注意が必要です。

Rで多次元正規分布に従う乱数を生成する(年金運用の例題付き)

こんにちは、毛糸です。

ファイナンス(金融工学)において、正規分布は資産の収益率をモデル化するために頻繁に用いられます。

投資対象となる資産は通常1つだけではなく、複数資産を扱いたいことも多いですから、その場合には多次元の正規分布を考えなければなりません。

本記事では統計プログラミング言語Rで多次元正規分布に従う確率変数ベクトルを生成する方法について説明します。

ライブラリ「MASS」による多次元(多変量)正規分布の乱数発生

多次元(多変量)正規分布に従う確率変数ベクトルは、多変量解析用パッケージのMASSのmvrnorm()を使って発生させることが出来ます(公式リファレンスのPDFはこちら)。

mvrnorm()は、発生させる確率変数ベクトルの個数n、期待値ベクトルmu、分散共分散行列Sigmaを与え、n組の確率変数ベクトルを返す関数です。

例えば、( mu=(1,1))、分散共分散行列( Sigma=left(  begin{array}{cc}1&0\0&1end{array}right))の2次元正規分布に従う確率変数( (x_1,x_2))を発生させるには、以下のように記述します。

#MASSライブラリを読み込む
library(MASS)
#期待値ベクトル
mu0<-c(1,1)
#分散共分散行列
Sigma0<-rbind(
  c(1,0),
  c(0,1)
)
#多次元正規分布に従う確率変数ベクトルを1組発生
mvrnorm(1,mu0,Sigma0)
#[1]  1.8590647 -0.6548381

参考>> 元データ分析の会社で働いていた人の四方山話_多変量正規分布

例題:年金資産の収益率

MASSライブラリを用いた多次元正規分布の乱数発生方法がわかったところで、応用例を考えてみましょう。
私たちの年金運用のシミュレーションです。
年金積立金は4つのリスク資産に投資されており、その収益率は正規分布に従うと仮定されています。
期待収益率と分散、相関係数の推定値は公表されており、これに基づいて投資が行われています。

(出所:https://www.gpif.go.jp/gpif/portfolio.html)

年金の期待収益率(投資4資産+余剰資金の短期資産と賃金上昇率の6次元)と分散共分散行列から、年金資産の収益率を乱数として発生させてみましょう。

分散共分散行列( Sigma)については、標準偏差ベクトル( S=(sigma_1,cdots,sigma_n))と相関係数行列( P)を用いて

[ begin{split}
Sigma=diag(S) cdot P cdot diag(S)
end{split} ]で表せます。ただし( diag(S))は( S)を対角成分に持つ対角行列で、「( cdot)」は通常の行列積(Rでは%*%)です。

#各資産クラスの期待リターン
mu<-c(2.6/100, 6.0/100, 3.7/100, 6.4/100, 1.1/100)
#各資産クラスの分散(標準偏差の2乗)
sigma<-c(0.047,0.251,0.126,0.273,0.005)
#相関行列
Rho<-rbind(
    c(1,-0.16,0.25,0.09,0.12),
    c(-0.16,1,0.04,0.64,-0.1),
    c(0.25,0.04,1,0.57,0.15),
    c(0.09,0.64,0.57,1,-0.14),
    c(0.12,-0.1,-0.15,-0.14,1))
#分散対角行列
sigma_diag<-diag(sigma)
#分散共分散行列
Sigma<-sigma_diag%*%Rho%*%sigma_diag
#多次元正規分布の発生
X <- mvrnorm(10000, mu, Sigma)

結果の確認

こうして得られた6次元確率変数ベクトルの1万個について、標本平均と標本標準偏差を計算すると、大数の法則により、パラメタとして与えたmuとsigmaに近くなるはずです。

Xは、行にサンプル数n、列に確率変数ベクトルの要素が並んでいます。列に対して平均meanと標準偏差sdを適用するには、apply(X,MARGIN=2,mean)という関数を使います。MARGIN=1はXの「列」方向に関数を適用するという意味です。
参考>>24. apply() ファミリー

#各要素の平均を計算(経済中位ケース)
apply(X,2,mean)*100
#[1] 2.591798 5.739046 3.773379 6.390514 1.097378 2.793776
#各要素の標準偏差を計算
apply(X,2,sd)*100
#[1]  4.6795340 25.1717768 12.6962985 27.2644081  0.5005285  1.9114364

いずれも理論値に近い値になっています。

まとめ

MASSライブラリを用いて多次元正規分布に従う確率変数ベクトルを生成する方法をまとめました。
多次元正規分布はファイナンスにおいてよく目にするため、しっかり使いこなせるようにしておきましょう。

外国債券は投資に値するか?分散投資、期待リターン、金利平価からの考察

こんにちは、毛糸です。

個人の資産運用は、分散投資が基本と言われます。

特に、異なる値動きをする資産クラスに分散投資することが重要とされ、国内と外国の株式と債券の4資産は「伝統的4資産」と呼ばれています。

しかし、この伝統的4資産のうち、外国の債券に関しては、実は組み入れる必要はないのではないか?という意見があります。

本記事ではこの意見について深掘りします。

ある一定の条件のもとでは「外国債券は組入不要」であることがわかりますが、しかしその条件が現実に成り立っているかは微妙なので、実際には外国債券にも意味があるということを説明します。

外国債券必要論

国内と外国の株式と債券、計4つの資産クラスは、値動きのパターンが異なっており、これらに分散投資することでリスクを低減できるとされています。

値動きのパターンが異なるもの (統計学の言葉で言えば、相関係数が小さいもの)を組み合わせることにより、ポートフォリオのリスクは個々の資産のリスクの合算よりも小さくなります。

これを「分散効果」といい、確率論によって数学的に証明できます。

多数の資産に分散投資することが最善であるというのは、ノーベル経済学賞を受賞したマーコウィッツによる平均分散分析に始まる「現代ファイナンス論」の結論として有名です。

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外国債券不要論

分散投資投資を享受するためには、外国債券の組入には意味がありそうです。

しかし、投資信託によるインデックス投資の指南書『お金は寝かせて増やしなさい』には、外債について以下のようなネガティブなコメントが書かれています。

一見、魅力的に見える高金利の外貨は、長期的には通貨自体が安くなって金利差は相殺されてしまうという考え方があります(金利平価説といいます)。この考え方に従うと、外国債券クラスの期待リターンは、結局、国内債券の期待リターンと同じということになります。

つまり、外債の高利回りは、運用通貨が安くなることで相殺されると考えられるため、為替リスクを取る価値がないのでは、ということです。

実は、金利(債券)と通貨は、両者を同時に考慮して、それぞれの価格(レート)が決まります。

ややテクニカルな話になりますが、通貨の先渡価格とスポット・レートの関係式「フォワード・パリティ」と、国内外の金利と先渡価格の関係式「カバー付き金利平価」が成り立てば、金利利益は通貨損失とちょうど等しくなり、相殺されます。この関係を「カバーなし金利平価」といいます。
参考>>FXの期待リターン、億り人になれる確率、破産する確率

したがって、理論上は、海外無リスク債券の収益率は、国内の無リスク債券の収益率と一致するはずなので、海外の高金利な無リスク債券に投資することに意味はない(為替リスクがあるぶんネガティブ)ということになります。

外国債券は投資に値しない、という説明に対する反論

ただし、上記のような「外国債券投資は無意味」という主張には、いくつか前提があります。

1つは「カバーなし金利平価が実際に成り立つ」ということ。

もう1つが「外国債券は、為替影響を除いて、国内債券と同じリスクである」ということです。

カバーなし金利平価は成り立つか?

「フォワード・パリティ」と「カバー付き金利平価」が成り立てば「カバーなし金利平価」が成り立ち、外国無リスク債券の期待リターンは国内無リスク債券の期待リターンと一致します。

カバー付き金利平価については、実際にかなり正確に成り立っているらしいのですが、実はフォワード・パリティが成り立つかについては諸説あります。

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フォワード・パリティは、実は投資家がリスクに対してリターンを要求しないという仮定しないと成り立たないので、おそらく現実にはあまり成り立っておらず、したがって金利・為替リターンはゼロではないと考えられます。

したがって、「外国債券の期待リターンは国内債券と同じで、為替リスクを余計に取っている」というのは、正しくない可能性があります。

外国債券投信は為替影響を除けば国内債券と同じリスク?

仮にカバーなし金利平価が成り立ち、金利と通貨が相殺されるとしても、異なるリスクを持つ資産は当然ながらリターンも異なります。

つまり、安全資産に近い国内債券と、国家レベルで破綻する可能性がある外国の債券とでは、内在するリスクが異なるため、通貨変動考慮後のリターンも異なるのではないかいうことです。

たとえば、日本の国債とギリシャの国債が通貨変動を考慮したら同じ、と言われても、ギリシャ国債を通貨ヘッジ付きで買う人は少ないのではないでしょうか。

もし、外国債券インデックスに連動する投資信託が無リスク資産にのみ投資しているのであれば、通貨変動調整後のリターンは国内の無リスク債券のリターンに近いはずですが、海外の国債・債券には相応のクレジットスプレッドが載っていると考えられ、これを考慮すると外国債券の通貨変動考慮後のリターンが国内債券のリターンと一致するとは限りません。

新興国債券の高いパフォーマンス

事実、新興国債券インデックス投信は過去優れたリターンを上げています。

「通貨変動考慮後での外国債券の期待リターンは国内債券とおなじくらい」と主張するには新興国債券のリターンが「ありえる話」であることを統計的に示す必要があります。

これについては深く検証していませんので、今後の課題とします。

まとめ

「外国債券は投資に値しない」という主張についていくつかの視点から考察してみました。

今回得た結論は、

  • いくつかの仮定に基づけば理論上外国債券の超過リターンはなさそう
  • この「いくつかの仮定」が怪しい
  • 外国債券にクレジットスプレッドが載っていれば外債投資の意味はある
  • 新興国債券では事実、上手く行っていた
ということです。
インデックスファンドへの積立投資をリポートする【投信定点観測】では、外国債券インデックスファインドにも投資を行っています。
今回の考察が妥当かどうかは、自分の投資成果も踏まえて考えてみたいと思います。

ドルコスト平均法と一括投資の比較シミュレーション|リスク、リターン、損失確率

こんにちは、毛糸です。

手軽な投資手法として有名なドルコスト平均法は、専門家でもその有効性に関して評価が分かれており、分析するのは簡単ではありません。

分析が難しい理由は、対象とするデータ期間によって結果が変わってしまったり、確率論の手法が単純には適用できないためです。
参考記事>>ドルコスト平均法の検証が難しい理由

本記事ではこのような困難さを伴うドルコスト平均法に関して、シミュレーションによってその有効性を検証してみたいと思います。

検証の結果、ドルコスト平均法は一括投資に比べてリスク・リターンともに低くなり、また将来時点の損失確率が一括投資よりも大きくなることがわかりました。

 

検証方法

検証には投資シミュレーションプログラムVer2を使用します。

参考記事>>積立投資をシミュレーションするプログラムを作った(投資シミュレーションプログラムVer2)

投資シミュレーションプログラムVer2は積立投資を行った場合に将来の資産額がどのような分布を描くかをシミュレーションするプログラムです。
シミュレーションはモンテカルロ法という手法を利用しており、確率論に立脚した統計的推論に基づいて将来を予測します。
本記事では、月額1万円のドルコスト平均法による積立投資をした場合の将来の資産分布と、それと同じ総投資額を一括で投資した場合の資産分布を比較し、将来時点のリスクとリターンを比較します。

ドルコスト平均法と一括投資の比較をしたいので、使用する期待リターンとリスクは条件を揃えればなんでもいいのですが、ここでは年金の基本ポートフォリオの期待リターン4.57%と、リスクを示す標準偏差12.8%を使うことにします。レバレッジはかけません。
参考記事>>年金のリスクとリターンを統計プログラミング言語Rで計算してみた

投資期間は、1年・10年・30年・50年とします。

ドルコスト平均法と一括投資の比較

投資シミュレーションプログラムVer2を用いたシミュレーション結果は、以下のとおりです。シミュレーション回数は1万回です。

投資期間1年

投資月数は1年*12ヶ月=12ヶ月、総投資額は12万円です。

ドルコスト平均法

当初投資額0円、月1万円の積立投資をします。

1年後の資産額の期待値12.26万円、中央値12.26万円です。

1年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは2.21%です。

1年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは7.09%です。


1年時点で損失を被る確率は39.64%です。

一括投資

当初投資額12万円の一括投資をします。

1年後の資産額の期待値12.57万円、中央値12.50万円です。

1年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは4.80%です。

1年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは13.36%です。


1年時点で損失を被る確率は38.11%です。

投資期間10年

投資月数は10年*12ヶ月=120ヶ月、総投資額は120万円です。

ドルコスト平均法

当初投資額0円、月1万円の積立投資をします。

10年後の資産額の期待値151.46万円、中央値146.30万円です。

10年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは26.22%です。

10年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは31.63%です。


10年時点で損失を被る確率は20.04%です。

一括投資

当初投資額120万円の一括投資をします。

10年後の資産額の期待値189.57万円、中央値173.92万円です。

10年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは57.97%です。

10年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは66.69%です。


10年時点で損失を被る確率は17.58%です。

投資期間30年

投資月数は30年*12ヶ月=360ヶ月、総投資額は360万円です。

ドルコスト平均法

当初投資額0円、月1万円の積立投資をします。

30年後の資産額の期待値765.48万円、中央値673.64万円です。

30年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは112.63%です。

30年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは108.04%です。


30年時点で損失を被る確率は7.39%です。

一括投資

当初投資額360万円の一括投資をします。

30年後の資産額の期待値1406.71万円、中央値1099.39万円です。

30年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは290.75%です。

30年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは310.57%です。


30年時点で損失を被る確率は5.53%です。

投資期間50年

投資月数は50年*12ヶ月=600ヶ月、総投資額は600万円です。

ドルコスト平均法

当初投資額0円、月1万円の積立投資をします。

50年後の資産額の期待値2286.82万円、中央値1820.05万円です。

50年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは281.31%です。

50年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは284.51%です。


50年時点で損失を被る確率は2.75%です。

一括投資

当初投資額600万円の一括投資をします。

50年後の資産額の期待値5794.77万円、中央値3921.94万円です。

50年後の資産額を総投資額で割ったトータルリターンは865.79%です。

50年後の資産額の標準偏差を総投資額で割ったトータルリスクは1072.02%です。


50年時点で損失を被る確率は1.93%です。

考察

ドルコスト平均法と一括投資のトータル・リターンとリスクは以下のようになりました。

この結果から、次のようなことがわかります。

長期になるほどリターン・リスクは上がる

ドルコスト平均法と一括投資のどちらの方法によっても、投資年数が長くなればなるほど、トータルのリターンとリスクは大きくなります。

ときおり「長期投資は安全」という主張を目にしますが、将来時点の資産の変動性をリスクと呼ぶ限りにおいて、長期の投資はリスクを増大させます(その裏でリターンという報酬も大きくなります)。
参考記事>>長期投資は【安全ではない】ことをシミュレーションで証明する

ドルコスト平均法より一括投資の方がハイリスク・ハイリターン

投資期間が同じならば、ドルコスト平均法よりも一括投資の方がリターン・リスクともに高いです。

これは、投資総額が同じであれば、ドルコスト平均法のほうが資金の待機時間が長く、リスクにさらされる期間と金額が小さくなるためです。

投資期間が短ければ、おおよそドルコスト平均法の2倍程度が一括投資のリターン・リスクになりますが、期間が長くなればなるほど複利の効果によって幅が大きくなってきます。

損失確率

損失確率についてまとめたのが以下の表です。

この表からわかることは、①投資が長期になるほど損失確率は小さくなる、②ドルコスト平均法よりも一括投資の方が損失確率が低い、ということです。

投資年数が同じであれば一括投資の方がハイリスク・ハイリターンですが、損失確率という別の「リスク(危険性)」の尺度で考えると、一括投資の方が安全である(損失が生じにくい)ということは驚きに値します。

まとめ

モンテカルロ法を用いた投資シミュレーションプログラムによって、ドルコスト平均法と一括投資の比較を行いました。

結論として

  1. いずれの方法でも長期投資はリスクとリターンを増大させる
  2. ドルコスト平均法より一括投資の方がハイリスク・ハイリターン
  3. ドルコスト平均法より一括投資の方が損失確率が小さい
ことがわかりました。
ドルコスト平均法の有効性に関する研究はあまり知られていないので、引き続き他の視点からも検証してみたいと思います。

積立投資をシミュレーションするプログラムを作った(投資シミュレーションプログラムVer2)

こんにちは、毛糸です。
先日開発した「投資シミュレーションプログラム」は、年金運用やFXなど幅広い投資活動の分析に役立っています。
最初のバージョン以降、レバレッジと撤退の意思決定を考慮したり、ベクトル演算による高速化を行うなど、改善を続けてきました。
しかしながら、投資シミュレーションプログラムは実際の投資活動をリアルに分析するツールとしてはまだ不十分です。
今回、投資シミュレーションプログラムを更に改良し、積立投資の分析ができるようなプログラムにアップグレードしたので、その内容を解説します。

 

投資シミュレーションプログラムver2の改善点

今回アップデートする投資シミュレーションプログラムでは、「追加投資」の分析が行えるようになります。
従来の投資シミュレーションプログラムでは、投資期間を決めたら、期初に一括投資を行い、その後資金の出し入れは行わない前提で計算を行っていました。
しかし、実際の投資活動においては、投資資金の出し入れが行われることが通常であり、広く利用されている投資手法であるドルコスト平均法も、定期的な積立を行うものです。
今回アップデートする投資シミュレーションプログラムでは、投資期間中の資金の出入りスケジュールを計算に織り込むことができるようにします。
これにより、追加投資や引き出し、積立投資など、より現実的な分析が可能になります。
参考記事>>ドルコスト平均法の検証が難しい理由

コード例

投資シミュレーションプログラムでは、投資スケジュールを設定することで、投資期間中の追加投資や資金の引き出しが可能になります。
具体的には、投資スケジュールを時間区分の数だけ設定し、これを期中の投資時価に反映させます。
最終的な投資時価は期中の投資スケジュールを反映させたものになり、この投資時価を何万パターンも発生させることで、将来をシミュレーションします。

資金の出入りを反映させるに伴い、まず期間を原則として月数とするようにし、投資月数をhorizonという変数に格納します。

#投資年数(自由入力)
Year<-1
#1年あたりの月数(通常は12)
Month_par_year<-12
#投資月数
horizon<-Year*Month_par_year#monthes

また、投資期間中の資金の出入りを、inv_schedule変数に格納します。たとえば、毎月1万円の積立投資を行う場合には、指定した数字を繰り返す関数rep()を用いて、以下のように記述します。

#投資スケジュールを入力(自由入力)
inv_schedule<-rep(1,horizon)

投資のリスク・リターンも、月次ベースに直します。

#年率期待リターン(期待収益率μ、自由入力)
mu<-7/100
mu_par_month<-mu/Month_par_year
#年率リスク(標準偏差σ、自由入力)
sigma<-12.88/100
sigma_par_month<-sigma/(Month_par_year)^0.5

シミュレーションを行う繰り返し計算の部分に、前述のinv_scheduleの各要素を足すように変更します。

#シミュレーション開始
for (s in 1:sample){
        for ( t in 1:horizon){
            #撤退していれば計算を飛ばす
            if(W[s]==1) break
            #今年の資産額=前年の資産額*(1+レバ比率*収益率)
            A[s,t+1]<-A[s,t]*(1+Lev*z[s,t])+inv_schedule[t]
            #もし資産額が撤退額を下回ったら撤退目印を立てる
            if(A[s,t+1]<Withdraw)W[s]<-1
        }
}
以上を加味した、投資シミュレーションプログラムver2.0のコードは以下のとおりです。
#投資年数(自由入力)
Year<-1
#1年あたりの月数(通常は12)
Month_par_year<-12
#投資月数
horizon<-Year*Month_par_year#monthes
#シミュレーション回数(自由入力、多いほど正確だが時間がかかる)
sample<-1000
#シミュレーション数値を格納する行列
A<-matrix(0,sample,horizon+1)
#初期投資額を入力(自由入力)
initial<-1000
#投資スケジュールを入力(自由入力)
inv_schedule<-rep(1,horizon)
#シミュレーション数値に初期投資額を入力
A[,1]<-initial
#年率期待リターン(期待収益率μ、自由入力)
mu<-7/100
mu_par_month<-mu/Month_par_year
#年率リスク(標準偏差σ、自由入力)
sigma<-12.88/100
sigma_par_month<-sigma/(Month_par_year)^0.5
#レバレッジ比率
Lev<-1
#撤退をカウントする目印
W<-rep(0,sample)
#撤退額を設定
Withdraw<-0
#乱数を生成(ランダムな投資収益率)
set.seed(1234)
x<-rnorm(sample*horizon,mu_par_month,sigma_par_month)
#乱数(ランダムな収益率)を行列形式に変換
z<-matrix(x,sample,horizon)
#シミュレーション開始
for (s in 1:sample){
        for ( t in 1:horizon){
            #撤退していれば計算を飛ばす
            if(W[s]==1) break
            #今年の資産額=前年の資産額*(1+レバ比率*収益率)
            A[s,t+1]<-A[s,t]*(1+Lev*z[s,t])+inv_schedule[t]
            #もし資産額が撤退額を下回ったら撤退目印を立てる
            if(A[s,t+1]<Withdraw)W[s]<-1
        }
}
#シミュレーション結果の期待値を表示
paste(Year,"年後の資産額の期待値は",mean(A[,horizon+1]))
#シミュレーション結果の中央値を表示
paste(Year,"年後の資産額の中央値は",median(A[,horizon+1]))
#損する確率を表示
paste("損失を被る確率は",length(A[,horizon+1][A[,horizon+1]<initial])/sample)
#億り人になれる確率を表示
paste("億り人になれる確率は",length(A[,horizon+1][A[,horizon+1]>10000])/sample)
#破産する確率を表示
paste("破産する確率は",sum(W)/sample)
#将来の資産額の確率分布(ヒストグラム)を表示
hist(A[,Year+1])

 

まとめ

投資シミュレーションプログラムをアップデートし、期中の資金の出入りを考慮できるようになりました。
これにより、積立投資のシミュレーションや、資金の引き出しについての分析が行なえます。
具体的なシミュレーションの例は、近日公開予定です。

ドルコスト平均法の検証が難しい理由

こんにちは、毛糸です。

日本の年金制度に対する不透明感から、資産運用の必要性を感じている人も増えてきていることと思います。
資産運用の「王道」として挙げられるのが、投資信託などを毎月定額で積み立て購入する手法「ドルコスト平均法」です。
ドルコスト平均法は初心者でも実施できる効果的な投資手法として紹介されることも多いですが、実はその有用性については評価が分かれています。
本記事ではドルコスト平均法の有効性を検証することが難しい2つの理由を解説します。

ドルコスト平均法とは

ドルコスト平均法は投資手法の一つであり、決まった期間ごと(たとえば一ヶ月ごと)に一定の金額を投資することを指します。

ドルコスト平均法は投資の平均買い付け価格を下げる効果があるとされています。

ドルコスト平均法の考え方は単純で、手軽に行える投資手法であり、上記のような「効果」があるとされているため、人気の手法です。

しかし、ドルコスト平均法が投資手法として優れているのかというのは、学術的には肯定的な意見も否定的な意見もあり、科学的に立証された方法ではありません。

資産運用の初心者におすすめの入門書『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』には、ドルコスト平均法について、

三流ファイナンシャルプランナーが書いたんじゃない?

早めに買ってお金に働いてもらう期間が長いほうが、現時点の判断としては正しい。

と書かれており、ドルコスト平均法に否定的です。

このように、専門家の間でもドルコスト平均法の有効性については判断が分かれています。

以下ではなぜドルコスト平均法の検証が難しいのか、2つの理由を挙げます。

データ期間に依存する

ドルコスト平均法に関する設例の多くは、資産価格が上げ下げを繰り返すようなケースがほとんどです。

こういうケースにおいては、ドルコスト平均法によって、買い付け単価の平均は小さく抑えられます。

出典:三井住友DSアセットマネジメントhttps://www.daiwasbi.co.jp/fundcollege/investment/about/index4.html

しかし、これはあくまで「そういう相場だから有利だった」という話で、これからも上げ下げを繰り返すような相場になるとは限りません。
時には今を「底」として右肩上がりで資産価格が上昇する場合もあり、そのときは当初一括購入するのが、最も買い付け単価を安くする方法です。
このように、ドルコスト平均法の検証につかうデータ次第では、ドルコスト平均法が有利とも不利とも言えることになります。

したがって、特定期間のデータに依拠したドルコスト平均法の分析は説得力にかけるものがほとんどです。

データ期間に依存しない一般的なケースでの分析が難しいことが、ドルコスト平均法の分析を難しくする要因のひとつとなっています。

確率論の問題として扱いづらい

投資を確率論の立場から検証するのがファイナンス理論です。
ブラック・ショールズ式を厳密に証明しノーベル賞を受賞したロバート・マートンも、確率論に基づく最適ポートフォリオの研究をしています。
ファイナンス理論において投資を分析するのは今やメジャーとなっていますが、しかし、ドルコスト平均法は標準的なファイナンス理論とあまり相性がありません。
標準的なファイナンス理論では、資産価格が対数正規分布に従うと仮定されます。
参考記事>>年金のリスクとリターンを統計プログラミング言語Rで計算してみた
ドルコスト平均法は、異なる時点で一定金額を買い付ける手法であり、その際の購入量は一定金額÷資産価格で求められます。

計算によって、この購入量もまた、対数正規分布に従うことがわかります。

数式で書くと、時点\( t\)において資産価格が\( S_t\)だったときに、一定額\( A\)を投資したときの購入量\(Q_t \)は、以下のように表すことができ、これは対数正規分布に従います。

\[ \begin{split} Q_t=\frac{A }{S_t }=\frac{ A}{ S_0}e^{-(\mu-\frac{ 1}{ 2}\sigma^2)t-\sigma W_t}\end{split} \]
ただし、\( \mu\)は資産の期待リターン、\( \sigma\)はリスク、\( W_t\)は正規分布に従う確率変数です。

さて、ドルコスト平均法によった場合、購入は何度かに分かれて行われるため、最終的な投資量は各回の購入量の和、すなわち対数正規分布の和になります。
対数正規分布の和は、数式で簡潔に表現することができません。
参考記事>>対数正規分布の和、幾何ブラウン運動の和、リスク資産ポートフォリオ
正規分布であれば、正規分布の和は再び正規分布になり、簡潔に表現することができますが、対数正規分布の和は扱いやすい確率分布にはなりません。
したがって、確率論を使ってドルコスト平均法の定量的な議論を行うのは難しくなります。
もちろん、資産価格が対数正規分布に従わない別のモデルを考えればこの限りではありませんが、いずれにせよ、確率論で扱うような簡潔な形で扱うのは難しく、これがドルコスト平均法の検証が困難な理由です。

まとめ

ドルコスト平均法は簡単に実施できる投資法として人気ですが、その検証は簡単ではありません。
データに依存しますし、確率論の道具を使うことができないからです。
これらを踏まえ、ドルコスト平均法の検証には、シミュレーションが有効なのではないかと考えています。
近く、シミュレーションを用いたドルコスト平均法の検証をしてみたいと思います。

「日本株に投資すると長期的には損」は本当か?

こんにちは、毛糸です。
先日公表された金融庁の報告案「高齢社会における資産形成・管理」のなかで、日本の年金に対する不透明性が示され、国民一人ひとりが自助努力による資産運用を行うべき、ともとれるメッセージが投げかけられました。
これを読んで投資を始めようとした人の中には、こんな考えを抱いている人もいるでしょう。

日本は高齢化が進み、人口も減少している。国の借金も増え続けているし、日本株式に投資しても損をするのは目に見えているから、日本株は買わないようにしよう。

さて、この考え方は正しいのでしょうか?
資産運用の初心者におすすめの入門書『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』には、こういった考え方について、

『低成長だから、株価は下がる』というのは誤り

と解説しています。
本記事ではなぜ「日本株は下がる」と考えるのが誤りなのか、ファイナンス理論の考え方と合わせて解説します。

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株式市場の効率性

株式市場には膨大な数のプレーヤーが参加しており、個々の投資家が様々な思惑で株式を売買しています。
もし国家レベルで先行きが怪しくなった場合、多くの投資家はすぐさまその情報を察知し、その国の企業の株価が下がる前に投資を清算しようとします。
そうすると、需要(買い)より供給(売り)が多くなり、株価が下がります。
情報が早く伝わるほど、そしてプレーヤーが多いほど、株価は情報を折り込みやすくなり、情報を手に入れることで得られる超過リターンはなくなっていきます。
ファイナンス理論ではこれを「市場の効率性」とよび、過去から現在までに公表された情報を使って超過リターンが得られないほど効率的であることを「セミストロングフォームで効率的」といいます。
多くの研究で、株式市場はセミストロングフォームで効率的であると考えられています。
したがって、過去に公表され世間に知れ渡った情報は、すでに現在の株価に織り込み済みであると考えられます。

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高齢化・低成長な日本の先行きは株価に織り込み済み

日本が超高齢化社会であり、社会保障や企業の雇用維持に限界が来つつあることは、周知の事実です。
したがって、株式市場が効率的ならば、これらネガティブな見通しは、すでに株価に織り込まれていると考えられます。
もし織り込まれていないなら、「日本はもうダメだ」と確信する投資が日本株に売りを浴びせることで高いリターンが得られます。
しかし市場参加者は自分の信念に従い、「先は暗そう」だと考えている人は既に売りポジションを持っているもしくは投資を清算しているはずで、その投資行動の結果として現在の株価が形成されているわけですから、現在の株価に日本の暗い未来は織り込み済みなのです。

日本株は下がるのか、上がるのか

もちろん、日本の先行きに関して、さらにネガティブな情報がもたらされれば、日本株はさらに値下がりすることもあります。
しかし、こういう「予想外」の情報は、事前には予測し難いものです。
逆に、日本が今考えられているより少しはマシな社会になりそうだという見通しがたてば、株価はむしろ上がっていくでしょう。
したがって「日本は低成長だから、投資の旨味はない」という考えは、妥当ではないのです。
日本株は上がるのか、下がるのかという質問に確かな答えを出すのは不可能ですが、現在の見通しより良くなれば上がり、悪くなれば下がる、ということは言えるでしょう。

まとめ

市場の効率性という考え方に触れながら、「日本は低成長だから株価は上がらない」という考え方が適切ではないことを説明しました。
日本株が上がるか下がるかは、今の日本の将来見通しが今後好転するのか、悪化するのかにかかっています。
もし「世の中の人が考えるより確かな信念で、私は上がると思う!」と考える人が増えれば、株価は自然に上がっていくでしょう。

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