財管一致に関する論文・書籍

財管一致とは,財務会計と管理会計の情報を(何らかの意味で)一致させることをいいます。

財管一致の再定義:「財管一致の現状と課題-管理会計からの考察-」(川野2018)を読む

財管一致はEPRシステムにおいて志向された考え方でもあります。多目的に使用可能な単一の会計帳簿は大福帳と呼ばれ,ERPにおけるデータベースの基本構造にもなっています。

大福帳型データベースは単一性の原則を満たすか

財管一致は2000年代以降のEPRの普及に伴いクローズアップされてきました。近年は学術研究においても注目されているようです。以下に主な文献を挙げます。

櫻井康弘,財管一致とは何か―会計情報システムの視点から―,専修商学論集,2018(PDFリンク

中嶋隆一,統一論題「「財管一致」から国際会計基準の適用を考える」~報告の概要~,国際会計研究学会 年報 2018 年度第 1・2 合併号PDFリンク

籔 原 弘 美, 緒 方 朱 実,会計の基礎理論と情報構造からみた会計システムのアーキテクチャ── SAP と Oracle EBS の比較を通じて,UNISYS TECHNOLOGY REVIEW 第 101 号,2009(PDFリンク

高橋賢,管理会計の再構築―本質的機能とメゾ管理会計への展開,中央経済社,2019(第Ⅱ部 情報システムとしての管理会計:財管一致の会計 第6章財管一致の会計)


非加法的測度とは,加法性を単調性に変えた測度のこと

渡辺澄夫,決定理論 と ベイズ法(PDFリンク)の最終ページに

◆ 人間の主観そのものの表現のために確率測度の一般化を考えたい人は「非加法的測度」を調べてみましょう(主観ベイズ法ではありません)。

とあったので調べました。

非加法的測度とは,測度\(\mu\)の定義における加法性の条件\(\mu(A\cup B)=\mu(A)+\mu(B)\)(\(A,B\)は互いに素な可測集合)を,単調性\(A\subseteq B\Rightarrow\mu(A)\leq\mu(B)\)に置き換えたもの。\(\mu\)が測度であれば単調性を満たすので,非加法的測度は測度の一般化になっています。

ググると以下のような資料が見つかります。

渡辺 俊一 ,非加法的測度の正則性について(PDFリンク

河邊 淳, 非加法的測度と非線形積分, 数学, 2016, 68 巻, 3 号, p. 266-292(J-STAGE

非加法的測度とそれに基づく積分(非線形積分)の応用は,上記の河邊2016のp.1と参考文献をご覧ください。

非加法的測度を学ぶ前に,通常の測度論があやしいという人は,測度論を復習してからの方がいいでしょう。

確率論・への応用を見据えて測度論を学べるテキストとしては,こちらの評価が高いようです。


「フィルトレーションが関手っぽい」と思って調べたら見つけた論文

フィルトレーション(情報増大系)は時間が進むにつれて情報が増えていくさまを記述できる確率論の概念です。

時間が進むという「動き」と,情報が「増える」という動きが,フィルトレーションという概念によって結び付けられています。

いわば構造を保っているわけです。

構造を保つというキーワードから想起される数学概念には,例えば準同型があります。

このほか,圏論における関手も,構造を保つ対応付けといえます。

この意味で,フィルトレーションは関手っぽいわけですが,そうした視点からフィルトレーションを扱った論文を見つけたのでメモしておきます。

足立高德,中島克志,琉佳勳,一般化フィルトレーションと二項資産価格モデル,オペレーションズ・リサーチ,2020年7月号(参考URL

 

2n式簿記

複式簿記の「複」を「二」ととらえると,二式簿記は三式簿記や四式以上に拡張できるのではと思えてきます。

そうしたアイデアを実現させたのが井尻先生の三式簿記の理論です。

【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

四式以上への拡張も可能なのかという疑問も当然湧いて出てきます。

この疑問に対して\( 2n\)式簿記を提唱する研究を見つけたので紹介します。

大貫裕二,交換代数による多元簿記とバリュー・マネジメント, 国際P2M学会研究発表大会予稿集,2013(J-STAGE

以前このブログでテンソル簿記なる概念を披露しました。仕訳や試算表がベクトル表現できるというアイデアを,行列やテンソル(多次元配列)へと拡張するというものです。

【君の知らない複式簿記5】簿記とベクトル、行列、そしてテンソルへ

テンソル簿記は\(2^n\)式簿記をイメージしており,\(2n\)簿記とは趣が異なります。

おそらく,\(2^n\)式簿記は\(n\)組の基底のテンソル積,\(2n\)簿記は\(n\)組の基底の直和なのではないかと考えています。

この記事で述べたような「複式簿記の拡張」に関する議論は今なお続いています。以下の書籍は複式簿記の本質的な構造に鋭く切り込む良書です,是非チェックしてみてください。


深谷圏について言及がある書籍『数物系のための圏論』

梶浦『数物系のための圏論』は圏論のホモロジー代数的側面に関する入門書です。


圏論のホモロジー代数的側面がそもそも入門的内容ではないので,このテキストも相当にハイレベルですが,興味深いトピックを数多く扱っています。

本書で語られる中心的な概念は,導来圏,三角圏,\( A_\infty\)圏で,これらは物理学における弦理論の定式化に用いられます。

\( A_\infty\)圏のなかで特別なものに深谷圏があります。

深谷圏の対象は D-Brane で、射は Stringであると考えることができます。

『数物系のための圏論』では深谷圏は第1章「背景と概観」に登場するだけですが,その基礎となる\( A_\infty\)圏については第7章で詳しく論じられています。

弦理論と深谷圏について完全に理解したい方は、以下の動画をご覧ください。

梶浦『数物系のための圏論』はAmazonでは中古のプレミア価格になっています。

サイエンス社からPDF形式の電子書籍が購入できるので,こちらを利用するのが便利です。

第1章「背景と概観」では数理物理において圏論がどう使われているのかを知ることができます。

第2章「集合論,環と加群の基礎」では代数学の基礎を復習しています。

第3章「ベクトル空間と加群のホモロジー代数」ではベクトル空間とその一般化である加群について復習し,ホモロジー代数の知識を整理しています。

第4章「導来圏」以降が本格的な内容です。以下に章目次だけ挙げておきます。

第5章「三角圏」

第6章「有限次元代数の表現理論」

第7章「\( A_\infty\)圏と三角圏」

より詳細な目次はサイエンス社のHPからどうぞ。

Googlability(ググラビリティ)とIT学習

Googlability

Googlability(ググラビリティ、グーグラビリティ)という単語をご存じでしょうか。

Googleはインターネットを牛耳る大企業で、その検索エンジンを用いてネット検索することは「ググる」という動詞にもなっています。

英語圏でもgoogleという単語は動詞として使われていて、それに-able(~できる)の名詞形-ability(~できること)がくっついた単語が、googlabilityです。

つまり「ググりやすさ」「検索性の高さ」のような意味合いです。

IT学習にはGooglabilityが重要

ネット検索であらゆる知識にアクセスできる現代において、googlabilityは学習効率を左右する重要な要因です。

Googlabilityが高ければ自分が求める知識にアクセスしやすく、学習効率が高まります。

逆に、googlabilityが低いと、学習コストが高くなってしまいます。関連するページが少ない、別の意味の単語がたくさんヒットしてしまうなどの状態が、googlabilityが低い状態です。

例えば、プログラミング言語GoやJuliaは一般名詞としても多用される単語であり、googlabilityは低いです(代わりにGoLangなどで検索することが推奨されます)。

そもそもweb解説ページが少ない問題

無関係な単語がヒットしてしまうという問題のほかに、そもそも関連するwebページが多くないのも、IT学習を阻む要因です。

例えば、Excel VBAに比べ、パワークエリやパワーピボットの詳細な解説ページが少ないなどです。

この問題はその技術の利用者人口が増えていけば解決していく問題ではあります。しかし「新しもの好き」なユーザはこの問題を自ら解決せねばならないので、学習コストが高くつきます。

一方で、そうした問題をクリアできたユーザはその道で一歩先行く者になれるわけですから、挑戦する価値はあります。

逆に、IT分野でアドバンテージを得ることを目的としていない人は、低いgooglabilityや解説の少なさという学習コストが高くついてしまうため、技術が普及してから勉強するというスタンスでもいいのかもしれません。


複式簿記を貨幣測定から解き放つ研究たち

このブログで紹介する簿記代数の議論はすべて,あるひとつの価値尺度に基づいています。

貨幣を用いた価値尺度によって統一的に測定を行うことはギルマンの公準の一つ「貨幣測定の公準」として知られます。

しかし,複式簿記の最近の研究において,この要求を緩和した形での理論がいくつも提案されてきています。

たとえば出口先生の交換代数は,複式簿記の構造を代数的に表したうえで,貨幣以外の測定単位(kgとか個とか)を用いた簿記演算を可能にしています。

参考:出口弘,実物簿記を用いたマネジメント会計と監査-SDGSの目標実現のために-,CUC公開講座2021 第1回(LINK:CUC公開講座 2021年度

パチョーリ群の生みの親Ellermanも非貨幣尺度への簿記の拡張を行っています。彼はパチョーリ群を多次元に拡張し,財産会計に基づく経済学を創りました。

論文紹介:On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment (Ellerman 2014)

簿記・会計の公理を提示したRenesの2020年の論文においても,単一の貨幣尺度による測定という公理を緩和しようとしています。

複式簿記会計の公理:Renes(2020)の紹介

ここに挙げたような複式簿記の根本原理への問いかけは,まだまだつきません。興味のある方は簿記理論のテキストを開いてみるときっと楽しめると思います。


会計公理とヒルベルトプログラム

会計における諸理論を包括的に演繹できる「会計の公理」を打ち立てるのは難しいという考えについて,以下の記事で述べました。

会計公理の不可能性予想:会計理論全体を包括する公理の構築は不可能なのか

 

公理とはもともと数学に登場する用語ですが,では数学においては「数学における諸定理を包括的に演繹できる公理」があるのでしょうか。

群の公理や開集合の公理が存在することからもわかる通り,これらは他の公理から演繹されるものではありません。数学概念の定義に用いられる公理はさまざまありますから,数学という学問体系のすべてを網羅する公理がひとまとまりで認識されているわけではありません。

数学において「包括的な公理系」を見つける試みはあったのだろうかと思って調べていたとき思い出したのが,ヒルベルトプログラム(ヒルベルト計画)です。

ヒルベルトプログラムとは数学者ダフィット・ヒルベルトによって提唱された,数学に堅固な基礎を与えるための計画です。

数学の基礎付けのために踏むべきステップは3つです。

  1. 数学を形式的体系として表現する
  2. その無矛盾性を示す
  3. その完全性を示す

もしこれが叶ったなら

≪形式的証明の光が届かない暗闇はない≫(『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』p.303)

と形容することもできるでしょう。

ヒルベルトプログラムは「数学の包括的な公理系」を打ち立てるための試みではありませんでしたがが,数学そのものの完全さを証明したいという思いは,会計の公理を探す営みと近いような気もしています。

ちなみに,ヒルベルトプログラムにおける「形式的体系」とか「無矛盾性」とか「完全性」といった用語には明確な定義があり,一般用語とは意味が異なります。

ヒルベルトプログラムはゲーデルの不完全性定理によってその夢が破れることになりますが,だからと言って数学が基礎を欠く不安定なものであるということにはなりません。

ヒルベルトプログラムやゲーデルの不完全性定理に関しては,『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』でその証明や注意点が語られています。読み物としてもおもしよいので,是非チェックしてみてください。


会計公理の不可能性予想:会計理論全体を包括する公理の構築は不可能なのか

公理とはある数学概念を定義づける基本的命題や主張のことです。例えば,群の公理,ベクトル空間の公理などがあります。群の公理は「これこれという性質をもつものを,群とよぶ」という群の定義に用いられ,「これこれという性質」が公理にあたります。

公理とはなにか。証明不要の命題がもつ「論理の力」について

会計理論を公理的に扱おうとする動きは19世紀以降活発に起こりました。会計の公理化に取り組んだ研究者として注目したいのが,マテシッチと井尻です。

簿記・会計の公理化に挑んだ天才たち

会計公理研究は,会計の本質はどこにあるのかという視点を明らかにするという意味で,会計研究において極めて重要です。

理想的には,ある会計公理を定めれば,それのみに依拠して会計のさまざまな理論が導出できることが望ましいのです。例えば○○という公理から,減価償却を行う必要があるという命題を導いたり,××という公理から,親子会社間の取引は連結相殺消去しなくてはならないという命題を導いたりといった具合です。

しかし現代において会計理論を演繹的に導出できるような公理は設定できていません。概念フレームワークはそれに近いといえますが,しかし概念フレームワークによって会計の諸原則がすべて導けるわけではないため,公理とは言い難いと考えられます。

会計とはある種の決まりごとですが,それはとても複雑で,いくつかの特定の命題からすべて演繹することは絶望的です。

会計の公理化に挑戦した井尻先生は『新会計学辞典』(神戸大学会計学研究室編 1966)の「会計公理」の記述の中で,会計理論全体を包括する公理系の構築は不可能であろうと述べています。

井尻の不可能性予想とでも呼ぶべきこの予想は立証されているのか否か,私にはわかりません。もし立証されていれば,それは会計公理の不可能性定理とよぶべきでしょうし,反証されていれば会計公理が存在するということになります。

会計の公理化がどこまで可能で,どこから不可能なのかという範囲についてなら,私にも論じることはできそうなので,別の機会に述べたいと思います。

この記事は以下の書籍の第18章「簿記理論の公理系」を参考にしました。

論文紹介:On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment (Ellerman 2014)

この記事では,複式簿記におけるT勘定の代数構造についての論文”On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment” Ellerman(2014)を紹介します。

何についての論文か

“On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment”(以下Ellerman (2014))は,複式簿記の代数構造に関するの論文です。

複式簿記における勘定科目のTフォーム(T勘定図)が”差の群”(group of difference)としての性質を持つことを明らかにし,複式簿記が持つ数学的な構造を明瞭に示しています。

Ellerman (2014)はこの群をパチョーリ群と名付けました。

【君の知らない複式簿記7】T勘定とパチョーリ群

どこが面白いのか

Ellerman (2014)が面白いのは,複式簿記の数学的な取り扱いを初めて明らかにしたからです。

複式簿記の数学的な性質に言及した研究者は古くから存在していましたが,それらはほとんど注目されませんでした。

ド・モルガンやケイリーといった高名な数学者も複式簿記の数学的構造とその美しさについて考えを述べています。

しかし数学の正しい言葉遣いで複式簿記の性質を明確に述べたものはほぼなく,19世紀に入ってから見いだされた数学によって,やっと複式簿記の正確な数学的表現が得られました。

Ellerman (2014)は複式簿記の性質を代数的に正確な形で表現し研究した点が,独創的です。

どんな示唆があるか

Ellerman (2014)は複式簿記という実務的色合いの濃い対象を,純粋な数学的対象と位置づけたところに重要な意義があります。

複式簿記の代数構造が明らかになれば,その構造に基づいて会計システムを構築したり,複式簿記の新しい活用方法を模索したりできます。

簿記代数は何の役に立つのか

特に,複式簿記の新しい活用方法については,Ellerman (2014)の中で,会計数値を多次元ベクトルで表すという方向性を提示しています。

複式簿記は単一の貨幣尺度に基づく測定が前提とされますが,ベクトル会計システムを用いれば,異なる性質の取引や異なる品目の財をひとつの価値尺度で測定することなしに,複式簿記の枠組みで考察することが可能になります。

関連する文献

Ellerman (2014)は現代的な抽象代数の言葉で表現されています。これを理解するには,大学の初年度レベルの代数の知識が必要です。以下の書籍は私がこの文献を理解する際に参考にしました。

以下の記事はEllerman (2014)が提示した複式簿記の代数構造「パチョーリ群」について解説しています。

【君の知らない複式簿記7】T勘定とパチョーリ群

 

Ellerman (2014)とは異なる複式簿記の代数研究もあります。試算表や仕訳をベクトルで表現しその代数構造を探った研究があり,以下の記事はその研究書のレビュー記事です。

書評『Algebraic Models for Accounting Systems』複式簿記と会計システムの代数構造を解明する