超一般化中心極限定理と株式リターン

こんにちは、毛糸です。

先日こんなつぶやきをしました。

本記事では株価リターンを題材に、確率論における中心極限定理とその一般化についてまとめます。

中心極限定理とその一般化

「独立同分布の確率変数の和は正規分布に従う」というのが中心極限定理のざっくりとした内容です。

中心極限定理は確率論における重要な定理であり、それが成立するための前提条件がもちろんあります。

ある定理を、より広い範囲に適用できるようにしたり、前提条件を緩めたりした場合にも成り立つことを示す、というのは、数学においてはよく行われます。

こうした「一般化」は中心極限定理についても存在し、一般化中心極限定理という「拡張版の中心極限定理」では、確率変数の和は正規分布ではなく、べき乗則をもつ安定分布に従うことが示されます。

正規分布に従わない株価リターン

株式リターンの実際の分布は、正規分布よりも「レアな値が出やすい」ものであり、統計的には正規分布に従いません。

【参考記事】
日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件

ファイナンスの多くの理論では、リターンの正規性を仮定して結論を導いていますから、実際のリターンが正規分布ではないことについて危機感を覚える人もいるでしょう。

しかし実は正規分布でないケースにも、多くの理論は成り立ちます。

【参考記事】
株価リターンが正規分布でなくてもファイナンス理論は成り立ちます!

べき乗則と一般化中心極限定理

正規分布でなければ何なのだ、ということで注目されているのが、「べき乗則」を持つ分布です。

リターンが正規分布に従うとき、「レアな」リターンが実現する確率は、期待リターンから遠くなればなるほど急激に減っていきます。

しかし実際には、「レアな」リターンはそれほど急激に減っていくものではなく、「べき乗則」というゆったりとした減り方をしているという研究があります。

一般化中心極限定理の帰結として得られる安定分布はこのべき乗則に則った確率分布であり、実際の金融データへの当てはまりの良さが期待されています。

冒頭で述べた超一般化中心極限定理は、これを更に広範囲に拡張した定理のようです。

株価リターンに正規分布を仮定する理由

こんにちは、毛糸です。

先日こちらの記事で、日本株を始めとして株価リターンが正規分布に従っていないことを指摘しました。

【参考記事】
日本株式、米国株式、欧州株式、全世界株式の日次リターンが正規分布ではなかった件


多くの金融理論において、リターンは正規分布に従うという仮定がおかれています。

本記事では主に確率過程論の立場から、なぜこのような仮定がおかれているのかを説明します。

株価ではなくリターンをモデル化する

まず前提としてあるのは、株価は負にならない、ということです。

株価は会社財産の請求権であり、制度上追加的な支出を強制されることはない(株主にキャッシュアウトの義務はない)ので、価格は常に正になります。

したがって、株価をモデル化するにあたっては、価格が常に正値をとるような関数として定義するのが適切です。

指数関数\( y=e^x\)は実数\( x\)がどんな値をとっても正値をとるため、株価を表す関数として適切と考えられます。

時点\( t\)における株価\(S_t \)を
\begin{equation} \begin{split}
S_t=S_0 e^{Z_t}
\end{split} \end{equation}と表すと、株価は常に正値をとり、さらに指数の肩の\( Z_t\)は株価の幾何リターン(対数リターン)を示すという「よくできた」形になります。

したがって、正値をとる株価をモデル化するときには、株価\( S_t\)そのものではなく、収益率(幾何リターン)\( Z_t\)を確率過程として考えるのが好都合なのです。

市場が効率的で、過去の情報から収益率が予測できないという立場に立つと、独立増分性をもつ確率過程がよさそうということになります。

もしリターンの分布が時点に依らないと考えるなら、時間的一様性という性質を考えるのが適切です。

このとき、リターンを表す確率過程はレヴィ過程になります。

レヴィ過程は、連続なふるまいを決めるドリフトとGauss分散行列と、ジャンプの振る舞いを決めるレヴィ測度が決まると一位に定まる、という著しい性質があります。

特に見本経路が連続であるとき、レヴィ過程はドリフト付きブラウン運動になります。

したがって、収益率が独立増分で時々刻々取引が行われジャンプがないような株価のリターンは、数学的にはブラウン運動くらいしかないのです。

連続複利ベースの収益率がブラウン運動なら、価格は当然幾何ブラウン運動ということになります。

つまり、株価とリターンにふさわしい性質を検討していった結果、候補として残るのは、リターンが正規分布に従うようなもの(=ブラウン運動)しかない、ということです。

会計学と情報理論の融合、そして「会計学の基本定理」

「会計学の基本定理」という定理をご存じでしょうか。

「基本定理」とは数学のある分野で、極めて重要な意味を持つ中心的な命題につけられる名称です。

代数学の基本定理や微積分学の基本定理などが有名です。

しかし、会計学にもそうした定理があることを知っている方は少ないでしょう。

「会計学の基本定理」はその名の通り、会計学(の数理的側面)における極めて重要な主張、ということなのでしょう。

しかし、あまり広く知られている定理ではありません。

今回はそんな「会計学の基本定理」について、私がそれにたどり着いた経緯と、定理の主張を簡単にお話します。

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AIに仕事を奪われた私たちに何が出来るのか

こんにちは、毛糸です。

「AIやロボットによって、人間は単純作業から開放され、付加価値の高い業務に集中できる」

そんな声を聞きます。

本当にAIは私たちの仕事を楽にしてくれるのでしょうか?

本記事は「AIで私たちは単純作業から開放されるのか」という主張に対する私見を述べつつ、高付加価値業務にシフトすることの難しさに触れながら、来るべきAI時代を前に私達は何をすべきかを考察します。

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【投信定点観測】19週目|インデックス、ロボアドバイザー、アクティブファンドに積立投資

こんにちは、毛糸です。

【投信定点観測】2019年7月第3週(スタートから19週目)の損益の報告です。

今週末における損益率は1.77%(年率3.30%)です。

損益状況

商品ごとの含み損益率は以下のようになりました。【投信定点観測】開始から18週間経過時の含み損益率は1.77%(年率換算で3.30%)で、先週から0.54%のマイナスです。

インデックス投資信託の変動

米国の利下げが小幅なものにとどまるとの観測から、G-REITは週間で1.39%のダウン、一方のJ-REITは0.96%のアップとなり、J-REITの累積リターンは8.90%となっています。

ロボアドバイザーの振り返り

ロボアドバイザーのWealthNavi(ウェルスナビ)は今週-0.81%(含み損益1.44%)、THEO(テオ)は今週-0.99%(含み損益0.28%)でした。

今週の含み損益ランキングは、【投信定点観測】の全14の投資先のうち、WealthNaviは第8位、THEOは第11位です。

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アクティブファンドの変動

日本株式に投資するアクティブファンド、ひふみ投信は、インデックスであるTOPIXに対して優位なパフォーマンスを上げています。

まとめ

【投信定点観測】を始めて19週、累積リターンを見るとJ-REITの+8.90%から、日本株式(TOPIX)の-1.65%まで、資産クラスによって明暗が別れています。

投資を行おうと考えるとき、多くの方は自国株式(つまり日本株)を対象にしますが、現状、日本株は数あるインデックスの中でもパフォーマンスが劣っています。

だからといって今後も日本株式のリターンが低くあり続けるわけではありません。

将来のリターンを予測するのは大変困難なことなので、個人投資家は広く分散した投資によって、リスクを低減するのが王道でしょう。

引き続き、投資信託による「コツコツ」積立投資で、安定的な資産形成を目指していきます。

引き続き積立投資の状況をリポートして参りますので、もしよろしければSNSでのシェアよろしくお願い致します!

「ブロックチェーンで監査はなくなる」という誤解について

こんにちは、毛糸です。

AIやブロックチェーンなど、新しいテクノロジーが次々と生まれては、またたくまにビジネスに適用されていくのが今の時代です。

テクノロジーは我々の仕事を効率化し、人間がより人間らしく働くことの後押しをしてくれると期待されていますが、

一方で「仕事を奪われる」という脅威論もしばしば見られます。

本ブログの記事「AIで会計士の仕事(監査)はなくなるのか」に対するひとつの数理的整理では会計の数理モデルを用いて、会計のプログラム可能性という観点から、監査という仕事がAIに代替されるかどうかを考察しています。

ブロックチェーンの会計への応用と監査不要論

AIとともに会計分野への応用が期待されているのが、ブロックチェーンです。

ブロックチェーンはその改ざん困難性から、会計帳簿に活用することで、会計情報の正確性を担保できるのではないかと考えられています。

ある取引について、その当事者2社の会計帳簿に記帳を行うと同時に、その内容をブロックチェーンにも書き込むことで、当事者の会計情報の正確性を担保する仕組みは、ブロックチェーン式三式簿記と呼ばれています。

【参考記事】
【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

ブロックチェーン式三式簿記は、ブロックチェーンの改ざん困難性を会計情報の検証可能性に対応付けるという意味で新しい会計のあり方ですが、人によってはこの事をもって監査不要論を唱える方もいるようです。

企業の仕訳データをブロックチェーンに記録してオープンにしておけば、市場参加者がこれを確かめるので、監査は要らない

というのが、彼らの主張です。

監査における実態判断

たしかにブロックチェーン上の会計データは改ざん困難であり、これを外部から検証可能な状態にしておけば、市場原理によって監査は不要になるとも考えられます。

しかしながら、経済活動を適切に会計数値に写像しているかについて、ブロックチェーンは何ら保証していません。

例をあげましょう。

売上100万円、という会計情報がブロックチェーンに記録されており、100万円の領収書が公開されていたとします。

もしこの取引が通常の売上取引であれば、ブロックチェーン上の会計情報は領収書という証憑によって保証され、会計数値が適切であることを市場参加者が判断できます。

しかし、もしこの取引の裏で「商品を数日後に返却する約束」があったとすればどうでしょう。

この場合、当該取引の実態は商品を担保とした短期の借入であり、財務活動ですので、売上を認識するのは妥当ではありません。

当然、このような「踏み込んだ判断」を市場参加者が行うのは困難です。

現在の監査手続きにおいては、こうした「取引の実態」に即した会計処理が行われているかを総合的に判断し、企業の会計情報が適切であるかを判断しています。

つまり、ブロックチェーンは記録された会計情報が改ざんされていないことは保証できても、記録された会計情報が取引の実態を適切に示しているかについては、何ら保証しないのです。

したがって、ブロックチェーン式三式簿記によって監査は不要になる、という主張は、監査を矮小化した考えに基づく誤った理解と言えます。

ただ、実態判断を伴わないような標準的な取引や、会計情報と経済活動の対応関係が明確な取引に関しては、ブロックチェーンを使うことで監査上の判断を効率化できる余地はあります。

記事「AIで会計士の仕事(監査)はなくなるのか」に対するひとつの数理的整理でも述べたとおり、経済活動と会計ルールがプログラム可能であれば、コンピュータによって監査判断が行うことは可能です。

重要なのは「0か1か」の議論に陥ることなく、テクノロジーの性質を正しく理解したうえで、ビジネスへの適用可能性を模索していくことだと考えます。

参考文献

下記書籍はブロックチェーン技術の基礎とその応用を、実例とともに紹介する優れたテキストです。
 
本記事で登場したブロックチェーン三式簿記の考え方にも触れており、ブロックチェーンの可能性を知る上で良い教材になります。

 

「AIで会計士の仕事(監査)はなくなるのか」に対するひとつの数理的整理

こんにちは、毛糸です。

AI(人工知能)という言葉が広く知られるようになり、Deep learningのようなブレイクスルーがビジネスにも応用されつつあります。

AIは時折「人間の仕事を奪う」という文脈で脅威的な存在として語られることもあり、2013年のカール・ベネディクト・フレイとマイケル A. オズボーンの論文
「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」(pdfリンク)

では多くの職業がコンピュータに取って代わられる可能性があることが示されています。

論文内に示される代替確率ランキングでは、Bookkeeping, Accounting, and Auditing Clerks(簿記、会計および監査職員)は702の職業のうち、代替確率が低い順に671位、代替されやすさでいえば31位に上がっています。

こうした状況の中で「AIで会計士の仕事(監査)はなくなるのか」という話題がしばしば取り上げられます。

本記事ではこの問いに対して、会計の数理モデルに基づく整理を述べ、AIによる監査の代替について考察します。

プログラム可能な監査領域は容易に代替可能

現在のAIの実態は、コンピュータ言語によるプログラムないしアルゴリズム(計算手順)です。

AIによって代替できる仕事は、それがプログラム可能であることが必要条件です。

したがって、監査のうち、プログラム可能な手続きならば代替可能、そうでない部分は不能ないし困難です。

また、代替可能=代替実行ではないことにも注意が必要です。

代替可能であっても、コストベネフィットの観点から、代替しないことはありえ、そこには必ず経済性が求められます。

以下では会計と監査を数理モデルとして単純化し、その構成要素がプログラム可能であるかどうかを考えることで、監査がAIによって代替可能なのかどうかを判断します。

写像としての会計

会計\( A\)を「経済活動\( \Omega\)から会計情報\( B\)への写像」と考えましょう。

「会計は写像である」というのは会計学の常套句で、会計学の有名なテキスト『財務会計講義』にも以下のような記載があります。

会計はこのような経済活動を所定のルールに従って測定し、その結果を報告書にとりまとめる。したがってその報告書は、経済活動という実像を計数的に描写した写像である。

会計は、経済活動を報告書に対応付ける写像(関数)のようなものである、ということです。

会計学を写像と定義した場合、会計は確率論のアナロジーとして捉えることができます。

【参考記事】
確率論のアナロジーとしての会計学と、それらの重要な差異

会計規則を写像\( A:\Omega\to B\)と考えたとき、ある経済活動\( \omega\in\Omega\)に対して、会計情報\(b\in B \)を対応させる経営者の主張に対して、

\( b=A(\omega)\)であることを立証するのが監査である、と捉えることができます。

経営活動、会計写像、会計情報のプログラム可能性

会計情報\( b\)は、試算表や有価証券報告書という形式を通じてデータとして扱うことができ、プログラム可能です。

したがって、経済活動\( \omega\in\Omega\)と会計規則\( A\)がプログラム可能ならば、監査はプログラム可能であると言えます。

企業の経済活動\( \omega\in\Omega\)がプログラム可能か?というのはたとえば

「商品を売った」という経済活動(収益認識を伴う営業活動)と

「商品を売った(実はあとで返品する約束をしていた)」(商品担保借入としての財務活動)という経済活動を、

全く別の経済活動としてプログラム言語として記述可能か、というような話です。

会計規則\( A\)がプログラム可能か、というのは、たとえば

「仮想通貨という全く新しい資産(と呼べるかすらわからない対象)を貸借対照表にいくらで載せるべきか」

というような、今までにない経済活動を会計情報として表現するルールがプログラム言語として記述可能か、というような話です。

プログラム可能と思われる経済活動と会計規則の例をあげましょう。

債権債務関係を示す契約書が電子化されており(経済活動\( \omega\)がプログラム可能であり)、

債権債務はその金額を資産負債の額とするというルール(会計規則\( A\)がプログラム可能である)ならば、

財務諸表における債権金額\( b\)が会計基準の要請\( A(\omega)\)に一致しているか否かをコンピュータが判断することができるため、コンピュータによって監査を行うことは可能です。

実際、確認状プラットフォームなどの環境が整えば、これに近いことが行われると考えられます

会計のプログラム不可能性

しかし、複雑化する企業の経済活動\( \omega\in\Omega\)がすべてプログラム可能とは到底思えないうえに、

あらゆる経済活動に細則的な会計規則\( A\)を設定することは現実的でないので、

これらをすべてプログラムするのは不可能(むしろこれら大部分はプログラム不能)と言って良いでしょう。

したがって、監査が完全にAIに代替されることはないと結論付けられます。

追記

経済活動\( \Omega\)と会計写像\( A:\Omega\to B \)がプログラム可能であれば機械に代替可能、といいましたが、\( A\)はプログラム可能である必要はないかもしれません。

経済活動\( \Omega\)と会計情報\( B\)がプログラム可能なデータであれば、写像\( A\)はDeep Learningなどの関数近似器を使って学習させられる可能性があります。

ただ、この写像がその時点での「あるべき」会計であるかはわかりません。

例えば、100円で商品を掛売りしたとき

(売掛金,売上)=(100,-100)

という仕訳を切るのが現在の会計慣行ですが、

経済全体が困窮してきて

「売上にかかる信用コスト分は収益認識しない」

というような会計基準が適用された場合に、従来の会計処理から学習した「近似会計写像」による会計情報は、もはやあるべき会計情報ではなくなります。

実際、金融商品会計では、従来明示的に扱われてこなかった取引相手の信用リスクを、金融商品の時価に織り込む(CVAと呼ばれます)流れになっており、会計基準はその時々の実務的要請に従います。

機械に代替されるであろう会計士の仕事

経済活動と会計ルールがプログラム可能で、かつ機械に代替させることで監査人の利潤が高まるなら、その部分は代替が進むと考えられます。

仕訳テストなどはその好例です。

従来人間がデータベース管理ソフトを用いてあれこれ行ってきた仕訳分析が、AI(とまで言わずとも簡単なプログラム)で代替される動きはかなり進んでいます。

プログラム可能でコストベネフィットの高い領域は、合理的な組織であれば躊躇なくコンピュータに代替されるものと思われます。

来るべきAI社会に向けて、新しい技術を正しく理解し、脅威ではなくビジネスツールとして役立たせることができれば、移り変わる社会の荒波にも飲まれることなく進めることでしょう。

奨学型勉強会|学びを対価としたパーソナルファイナンスの提案

こんにちは、毛糸です。

先日こういったつぶやきをしました。

最近、社会人の勉強会や学習・研究コミュニティが普及しています。

SNSの発達やチャット・通話・資料共有アプリの普及によって、同じ興味関心を持つ人が気軽に集まり勉強することが簡単にできるようになっています。

私も会計×ITを軸にしたコミュニティPyCPAの運営者のひとりとして勉強会を企画することもあります。

【参考記事】
PyCPAで勉強会を開催する、もしくはリクエストする方法

そんな社会環境の中で、「お金はあるけど時間がない社会人」と「お金はないけど時間はある学生」を上手くマッチングさせることができれば、相互にメリットのある勉強会ができるのではないか、というアイデアを思いつきました。

本記事ではこの「奨学型勉強会」についてまとめます。

社会人と学生の補完関係

社会人は経済的な余裕はありますが、業務に忙殺され、日々の生活の中で興味関心を深めていく余裕を持ちづらい人が多いことと思います。

専門的な勉強をするなら、ある程度腰を据えてテキストや論文に取り組む必要がありますが、多くの社会人には時間の捻出がハードルになりがちです。

【参考記事】
学習意欲を持ち続けるための心がけ4つ



繁忙期にも学びを止めないための3つの心がけ

この点、学生は社会人に比べ学術研究に割ける時間の割合が多く、興味関心を深める自由が比較的大きいと思われますが、一方で専門書は高価なものも多く、書籍の購入をためらうケースもあります。

ここに「お金はあるけど時間がない社会人」と「お金はないけど時間はある学生」という相互補完的な関係が見いだせます。

つまり、社会人がお金を出して学生を支援する代わりに、学生が社会人のために研究内容を提供するという関係が築ければ、両者が自分の足りない部分を補い、ともに知的欲求を満たすことができます。

奨学型勉強会の仕組み

具体的には、社会人がお金を出してテキストを学生に買い与え、その対価としてテキストの内容を学生から社会人に講義するような勉強会、すなわち「奨学型勉強会」によってマッチングが成立するのではないかと考えます。

社会人は気になるテキストの内容の要約を「お金で買う」ことができ、学生はアウトプットを約束する代わりにテキスト代を工面できます。

意欲ある学生ならば、きっとゼミなどで発表の場を持つでしょうから、この勉強会のために追加的な負担が生じることは少ないと思われます。

社会人側も、何人か集まって教科書代を工面するくらいであれば、比較的低負担に支援が行えるでしょう。

問題意識豊富な社会人と柔軟な発想の学生が共に勉強することで、新しいアイデアの創出にもつながると期待されます。

ちなみに、説明上「社会人」「学生」という言葉を使いましたが、資金提供者(パトロン)と発表者(奨学生)の区別がつきさえすれば、社会的役割に関係なく「奨学型勉強会」は行えるでしょう。

個人的にこの「奨学型勉強会」は是非やってみたいと思っており、現在テキストを選定中です。

パトロンとして・奨学生として賛同していただける方は、Twitterでお知らせください

会計と保険数理のとある類似|「サープラス」について

こんにちは、毛糸です。

最近、企業は配当をどのように決定しているのか?という疑問をよく考えます。

その疑問に答えるべく、経済学的なモデルを使って分析を行っているのですが、その中で会計と保険数理の共通点に気づきました。

会計と保険は「サープラス」というキーワードを、全く同じ概念として共有しています。

本記事では配当(dividend)をいくら支払うかという問題を、企業会計と保険数理の面から考えたときに現れる「サープラス」という共通点についてまとめます。

会計学におけるクリーンサープラス関係

企業(株式会社)の会計ルールにおいて、配当は純資産を分配する性格をもちます(実態としては現預金の支払いです)。

第\( t\)期の純資産額を\( B_t\)と表すことにすると、\( B_t\)は前期の純資産額\( B_{t-1}\)にその期の利益\( e_t\)を加え、そこからその期の配当\( d_t\)を支払ったのこりが\( B_t\)になるという関係が考えられます。
\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}

この関係をクリーンサープラス関係(Clean Surplus Relation)と言います。

サープラスとは「余剰」を意味し、会計学では資産から負債を引いた余剰、つまり純資産の変動が、利益と配当以外で「汚されていない(クリーンな)」状態を表しています。

日本の会計基準には、一部利益を介さず直接純資産を増減させる取引(その他有価証券評価差額金など)がありますので、クリーンサープラス関係は成り立っていませんが、会計数値と配当というキャッシュフローを結びつける関係式として重要です。

保険数理におけるサープラス過程

保険数理においては、保険会社の保険料収入から保険金の支払いを引いた残りをサープラスやリザーブと呼びます。
時点\( t\)におけるサープラス\( r_t\)は、取引開始時点のサープラス\( r_0\)に、それまでの累積保険料収入\( p(t)\)を加え、累積保険金支払い額\( U(t)\)を引いた額として決まります。
\begin{equation} \begin{split}
r_t=r_0+p(t)-U(t)
\end{split} \end{equation}

保険契約においては保険料収入のうち保険金支払いに充てられなかった超過分を配当として支払うものもあります。

この場合、サープラス\( r_t\)の一期前からの変化は、配当を\( d_t\)とすると
\begin{equation} \begin{split}
r_t=r_{t-1}+\Delta p(t)-\Delta U(t)-d_t
\end{split} \end{equation}
と表されます。\( \Delta p(t)\)と\( \Delta U(t)\)はそれぞれ、累積保険料と累積保険金支払い額の差分です。

このようにして決まるサープラスの列\( \left\{ r_t\right\}\)は、サープラス過程と呼ばれ、配当決定や倒産確率の計算に用いられます。

2つの「サープラス」の共通点

会計におけるクリーンサープラス関係
\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}と、保険数理におけるサープラス過程の変動
\begin{equation} \begin{split}
r_t=r_{t-1}+\Delta p(t)-\Delta U(t)-d_t
\end{split} \end{equation}は、その構造が極めて類似しています。

クリーンサープラス関係における利益\( e_t\)を、収益\( R_t\)と費用\( C_t\)とに分解して
\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+R_t-C_t-d_t
\end{split} \end{equation}と表現すれば、さらに対応関係がはっきりするでしょう。

「余剰の分配」という意味では、企業会計における配当も、保険契約における配当も、全く同じということがわかります。

これまでの・今後の研究

保険契約における配当をいかに決定するかという問題は比較的古くから、保険数理の問題として研究されており、クラメル・ルンドベルイモデルなどが有名です。

一方、企業会計における最適な配当に関する研究はそれほど進んでいないようです(MMの配当無関連性命題という古典的な結果はあります)。

いずれの問題も、最近は経済学の枠組みのなかで統一的に議論されており、確率制御問題の応用としての期待効用最大化問題の解として、最適配当が決定されます。

本ブログの記事「保険数理と金融工学の融合について」では、保険とファイナンスの接近についてまとめていますので、興味のある方は合わせて参照してみてください。

保険数理におけるサープラス過程と最適配当に関しては、Taskar2000 “Optimal risk and dividend distribution control models for an insurance company“に詳しく論じられています。

「年○%で回せるとすると」←いや、そのりくつはおかしい

こんにちは、毛糸です。

先日の金融庁が「老後に2,000万円必要です」という報告書を出して以降、SNSでは資産運用に関する話題が増えています。

【参考記事】
【年金は頼れない?】「老後までに2,000万」報告書を読んだあとに私たちが取るべき行動

とくに、インフルエンサーと呼ばれる人たちを中心に、インデックス投資などを勧める声が上がっており、良い傾向だと感じます。ただ、一部では正確な理解に基づかない発言も見られ、その最たる例が以下のような主張です。

年利○%で30年運用すれば、老後に2,000万円は余裕。

この○%には、3とか6とか下手すると10%とかいう数字が入ってくることが多いのですが、年利6%で30年間運用する、という仮定は、はっきりいって乱暴です。

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