Googlability(ググラビリティ)とIT学習

Googlability

Googlability(ググラビリティ、グーグラビリティ)という単語をご存じでしょうか。

Googleはインターネットを牛耳る大企業で、その検索エンジンを用いてネット検索することは「ググる」という動詞にもなっています。

英語圏でもgoogleという単語は動詞として使われていて、それに-able(~できる)の名詞形-ability(~できること)がくっついた単語が、googlabilityです。

つまり「ググりやすさ」「検索性の高さ」のような意味合いです。

IT学習にはGooglabilityが重要

ネット検索であらゆる知識にアクセスできる現代において、googlabilityは学習効率を左右する重要な要因です。

Googlabilityが高ければ自分が求める知識にアクセスしやすく、学習効率が高まります。

逆に、googlabilityが低いと、学習コストが高くなってしまいます。関連するページが少ない、別の意味の単語がたくさんヒットしてしまうなどの状態が、googlabilityが低い状態です。

例えば、プログラミング言語GoやJuliaは一般名詞としても多用される単語であり、googlabilityは低いです(代わりにGoLangなどで検索することが推奨されます)。

そもそもweb解説ページが少ない問題

無関係な単語がヒットしてしまうという問題のほかに、そもそも関連するwebページが多くないのも、IT学習を阻む要因です。

例えば、Excel VBAに比べ、パワークエリやパワーピボットの詳細な解説ページが少ないなどです。

この問題はその技術の利用者人口が増えていけば解決していく問題ではあります。しかし「新しもの好き」なユーザはこの問題を自ら解決せねばならないので、学習コストが高くつきます。

一方で、そうした問題をクリアできたユーザはその道で一歩先行く者になれるわけですから、挑戦する価値はあります。

逆に、IT分野でアドバンテージを得ることを目的としていない人は、低いgooglabilityや解説の少なさという学習コストが高くついてしまうため、技術が普及してから勉強するというスタンスでもいいのかもしれません。


複式簿記を貨幣測定から解き放つ研究たち

このブログで紹介する簿記代数の議論はすべて,あるひとつの価値尺度に基づいています。

貨幣を用いた価値尺度によって統一的に測定を行うことはギルマンの公準の一つ「貨幣測定の公準」として知られます。

しかし,複式簿記の最近の研究において,この要求を緩和した形での理論がいくつも提案されてきています。

たとえば出口先生の交換代数は,複式簿記の構造を代数的に表したうえで,貨幣以外の測定単位(kgとか個とか)を用いた簿記演算を可能にしています。

参考:出口弘,実物簿記を用いたマネジメント会計と監査-SDGSの目標実現のために-,CUC公開講座2021 第1回(LINK:CUC公開講座 2021年度

パチョーリ群の生みの親Ellermanも非貨幣尺度への簿記の拡張を行っています。彼はパチョーリ群を多次元に拡張し,財産会計に基づく経済学を創りました。

論文紹介:On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment (Ellerman 2014)

簿記・会計の公理を提示したRenesの2020年の論文においても,単一の貨幣尺度による測定という公理を緩和しようとしています。

複式簿記会計の公理:Renes(2020)の紹介

ここに挙げたような複式簿記の根本原理への問いかけは,まだまだつきません。興味のある方は簿記理論のテキストを開いてみるときっと楽しめると思います。


会計公理とヒルベルトプログラム

会計における諸理論を包括的に演繹できる「会計の公理」を打ち立てるのは難しいという考えについて,以下の記事で述べました。

会計公理の不可能性予想:会計理論全体を包括する公理の構築は不可能なのか

 

公理とはもともと数学に登場する用語ですが,では数学においては「数学における諸定理を包括的に演繹できる公理」があるのでしょうか。

群の公理や開集合の公理が存在することからもわかる通り,これらは他の公理から演繹されるものではありません。数学概念の定義に用いられる公理はさまざまありますから,数学という学問体系のすべてを網羅する公理がひとまとまりで認識されているわけではありません。

数学において「包括的な公理系」を見つける試みはあったのだろうかと思って調べていたとき思い出したのが,ヒルベルトプログラム(ヒルベルト計画)です。

ヒルベルトプログラムとは数学者ダフィット・ヒルベルトによって提唱された,数学に堅固な基礎を与えるための計画です。

数学の基礎付けのために踏むべきステップは3つです。

  1. 数学を形式的体系として表現する
  2. その無矛盾性を示す
  3. その完全性を示す

もしこれが叶ったなら

≪形式的証明の光が届かない暗闇はない≫(『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』p.303)

と形容することもできるでしょう。

ヒルベルトプログラムは「数学の包括的な公理系」を打ち立てるための試みではありませんでしたがが,数学そのものの完全さを証明したいという思いは,会計の公理を探す営みと近いような気もしています。

ちなみに,ヒルベルトプログラムにおける「形式的体系」とか「無矛盾性」とか「完全性」といった用語には明確な定義があり,一般用語とは意味が異なります。

ヒルベルトプログラムはゲーデルの不完全性定理によってその夢が破れることになりますが,だからと言って数学が基礎を欠く不安定なものであるということにはなりません。

ヒルベルトプログラムやゲーデルの不完全性定理に関しては,『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』でその証明や注意点が語られています。読み物としてもおもしよいので,是非チェックしてみてください。


会計公理の不可能性予想:会計理論全体を包括する公理の構築は不可能なのか

公理とはある数学概念を定義づける基本的命題や主張のことです。例えば,群の公理,ベクトル空間の公理などがあります。群の公理は「これこれという性質をもつものを,群とよぶ」という群の定義に用いられ,「これこれという性質」が公理にあたります。

公理とはなにか。証明不要の命題がもつ「論理の力」について

会計理論を公理的に扱おうとする動きは19世紀以降活発に起こりました。会計の公理化に取り組んだ研究者として注目したいのが,マテシッチと井尻です。

簿記・会計の公理化に挑んだ天才たち

会計公理研究は,会計の本質はどこにあるのかという視点を明らかにするという意味で,会計研究において極めて重要です。

理想的には,ある会計公理を定めれば,それのみに依拠して会計のさまざまな理論が導出できることが望ましいのです。例えば○○という公理から,減価償却を行う必要があるという命題を導いたり,××という公理から,親子会社間の取引は連結相殺消去しなくてはならないという命題を導いたりといった具合です。

しかし現代において会計理論を演繹的に導出できるような公理は設定できていません。概念フレームワークはそれに近いといえますが,しかし概念フレームワークによって会計の諸原則がすべて導けるわけではないため,公理とは言い難いと考えられます。

会計とはある種の決まりごとですが,それはとても複雑で,いくつかの特定の命題からすべて演繹することは絶望的です。

会計の公理化に挑戦した井尻先生は『新会計学辞典』(神戸大学会計学研究室編 1966)の「会計公理」の記述の中で,会計理論全体を包括する公理系の構築は不可能であろうと述べています。

井尻の不可能性予想とでも呼ぶべきこの予想は立証されているのか否か,私にはわかりません。もし立証されていれば,それは会計公理の不可能性定理とよぶべきでしょうし,反証されていれば会計公理が存在するということになります。

会計の公理化がどこまで可能で,どこから不可能なのかという範囲についてなら,私にも論じることはできそうなので,別の機会に述べたいと思います。

この記事は以下の書籍の第18章「簿記理論の公理系」を参考にしました。

論文紹介:On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment (Ellerman 2014)

この記事では,複式簿記におけるT勘定の代数構造についての論文”On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment” Ellerman(2014)を紹介します。

何についての論文か

“On Double-Entry Bookkeeping: The Mathematical Treatment”(以下Ellerman (2014))は,複式簿記の代数構造に関するの論文です。

複式簿記における勘定科目のTフォーム(T勘定図)が”差の群”(group of difference)としての性質を持つことを明らかにし,複式簿記が持つ数学的な構造を明瞭に示しています。

Ellerman (2014)はこの群をパチョーリ群と名付けました。

【君の知らない複式簿記7】T勘定とパチョーリ群

どこが面白いのか

Ellerman (2014)が面白いのは,複式簿記の数学的な取り扱いを初めて明らかにしたからです。

複式簿記の数学的な性質に言及した研究者は古くから存在していましたが,それらはほとんど注目されませんでした。

ド・モルガンやケイリーといった高名な数学者も複式簿記の数学的構造とその美しさについて考えを述べています。

しかし数学の正しい言葉遣いで複式簿記の性質を明確に述べたものはほぼなく,19世紀に入ってから見いだされた数学によって,やっと複式簿記の正確な数学的表現が得られました。

Ellerman (2014)は複式簿記の性質を代数的に正確な形で表現し研究した点が,独創的です。

どんな示唆があるか

Ellerman (2014)は複式簿記という実務的色合いの濃い対象を,純粋な数学的対象と位置づけたところに重要な意義があります。

複式簿記の代数構造が明らかになれば,その構造に基づいて会計システムを構築したり,複式簿記の新しい活用方法を模索したりできます。

簿記代数は何の役に立つのか

特に,複式簿記の新しい活用方法については,Ellerman (2014)の中で,会計数値を多次元ベクトルで表すという方向性を提示しています。

複式簿記は単一の貨幣尺度に基づく測定が前提とされますが,ベクトル会計システムを用いれば,異なる性質の取引や異なる品目の財をひとつの価値尺度で測定することなしに,複式簿記の枠組みで考察することが可能になります。

関連する文献

Ellerman (2014)は現代的な抽象代数の言葉で表現されています。これを理解するには,大学の初年度レベルの代数の知識が必要です。以下の書籍は私がこの文献を理解する際に参考にしました。

以下の記事はEllerman (2014)が提示した複式簿記の代数構造「パチョーリ群」について解説しています。

【君の知らない複式簿記7】T勘定とパチョーリ群

 

Ellerman (2014)とは異なる複式簿記の代数研究もあります。試算表や仕訳をベクトルで表現しその代数構造を探った研究があり,以下の記事はその研究書のレビュー記事です。

書評『Algebraic Models for Accounting Systems』複式簿記と会計システムの代数構造を解明する

会計帳簿の電子化,その歴史と概要

会計データはデータベースの形式でシステムに保持されますが,そのデータベースの性質はコンピュータの発展に伴って変容してきました。

この記事では,会計帳簿が電子化されてきた経緯を,技術的なメリット,デメリットに着目して解説します。この記事の内容は以下のテキストの第4章「帳簿の電子化と複式簿記の役割」を参考にしています。


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会計の本質を理解するために,データベースの知識が活かせる

「会計とは何か」という哲学的な問いかけに,どれだけの人が自信をもって答えられるでしょうか。

会計は写像であるとか,地図であるとか,言語であると言われます。

こうしたアナロジーを眺めていると,会計というのはものの見方であって,なんらかの方法と形式でビジネスのありようを写し取っているのだということに気づきます。

会計というものの見方がビジネスを写し取るにあたって,会計はビジネスのどんな要素に着目しているのでしょうか。

REA会計モデルはこの問いかけに対して,資源(resource),事象(event),主体(agent)の3つの要素に着目すると回答しています。

REA会計モデルとはなにか

どんな要素に着目して情報を整理するのかという視点は,データベースの設計にも求められます。データベース(DB)は,興味の対象をどのようにデータに写し取るのかを考える際に,対象や関係を把握します。そこでは「この世界のどんな構造に着目するか」という視点が求められています。

会計が写し取るビジネスの要素がわかれば,それをDBで表現できます。逆に,ビジネスの要素をDB表現できれば,その背後には会計的な見方があるとも考えられます。

複雑なこの世界のありようをDBという完結明瞭な形式の写し取るというプロセスについて理解することで,会計というビジネスの見方がどういう風になっているのかを理解する助けになります。

こちらのテキストは汎用的な会計データベースによって多様な会計目的を達成する可能性について論じています。

その参考文献にも挙げられている以下のテキストは,DBの数学的特徴やDBの操作について解説しています。

なぜ経理人材が足りないのか。その理由と対応策

公認会計士である私が決算支援という専門業務を提供する中で,多くの企業から「経理人材がいない」という悩みの声を聞きます。

なぜ経理人材がいないのでしょうか。新しいテクノロジーの導入によって経理業務は自動化され,経理スタッフはいらなくなったはずではなかったのでしょうか。

上場企業も中小企業もベンチャー企業も,経理の作業者・マネージャーがいないと嘆く理由について考えます。

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REA会計モデルとはなにか

この記事では会計データの概念モデルであるREA会計モデルについて説明します。

REA会計モデルは複雑な会計事象をシンプルに表現するための基本的な視点を提供してくれます。

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『AI時代に複式簿記は終焉するか』を読む

『AI時代に複式簿記は終焉するか』という研究書を見つけました。

この記事ではそのテキストの内容を,目次を眺めながら整理します。

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