代数的構造の関係を図示してみた(マグマ、半群、モノイド、群、アーベル群、環、可換環、整域、体)

こんにちは、毛糸です。

本記事では、代数学において考察対象となる代数的構造について整理します。

群や環といった基本的な代数的構造が、それぞれどういう包含関係になっているのかを、図を用いてまとめます。

群・環・体、代数的構造の包含関係

群や環などの代数的構造は、包含関係をイメージしながら整理しておくと便利です。

たとえば

群の演算(加法)が可換であって、乗法についても閉じており、乗法の結合法則と加法乗法の分配法則が成り立つものが、環である。

というふうに、条件の緩い代数的構造(群)から始めて、条件を追加していくことでより複雑な構造(環)を得ることが出来ます。

この代数的構造の包含関係を図示したものが以下です。

この図は、こちらのページ「群・環・体 (大人になってからの再学習 )」に掲載されている同様の図を参考にして、群よりも単純な代数的構造を明示し、表現を修正したものです。

なお、上の図では条件が追加されるごとに領域が大きくなっていますが、これは「集合の大きさ」を表してはいません。

条件が厳しくなれば、集合としては「狭まっていく」ので、イメージとしては以下のような感じです。

諸注意

代数的構造の包含関係図はあくまでイメージであり、正確でない表現を多分に含んでいます。

そもそも代数的構造は、ある集合と、その上の二項演算をセットで考えるものですが、上の包含関係図ではその「ある集合」とその元についての説明は省かれています。

つまり、上の包含関係図におけるマグマの説明

\(a \)と\(b \)が含まれるなら\( a+b\)も含まれる

は、

集合\( M\)の任意の元\( a\)と\( b\)について、二項演算\(+ \)が定義されていて、\( a+b\)が\( M\)の元であるとき、\( \left( M,+\right)\)をマグマと呼ぶ。

と述べるのが正確です(しかし前者の説明でも雰囲気はわかるでしょう、そのための図解です)。

また、たとえばマグマの条件を「加法について閉じている」と表現しており、二項演算を「\( +\)」で表していますが、一般にはマグマは二項演算について閉じていればよく、加法である必要はないですし(むしろ乗法と呼ぶほうが多いのかも)、二項演算を「\( +\)」で表す必然性もありません。

ただ、条件列挙の順序の観点から、群・環・体の包含関係のイメージを持つための「方便」として、あえて加法と言い「\( +\)」の記号を使っています。

その他の説明も、似たような理由から正確でない部分を含んでいますが、この図の趣旨は基本的な代数的構造の関係を直感的に捉えることですので、ご容赦ください。

正確な定義はテキストに載っていますから、そちらを参照していただくことにして、包含関係図はあくまで「直感的理解」のための使うのが良いでしょう。

代数学を理解するためのテキスト・参考書

群や環といった基本的な代数的構造を理解するためのテキストとしては、以下が入門的です。

解析学(微積分)が好きだけど、群や体の定義くらいは知っておきたい、という方は、解析学の名著「解析入門Ⅰ」の最初に、実数体を定義する際に基本的な概念が登場します。

代数学の基本的なところから始めて、最近注目を浴びている圏論も勉強したいという方は、こちらの本がまとまっています。

行列の基本、最初の一歩

こんにちは、毛糸です。

最近、有志を集めてデータサイエンスの実践的手法を学ぶ勉強会を開催しています。

その勉強会で教材にしているのが、『東京大学のデータサイエンティスト育成講座』です。


本書はプログラミング言語Pythonを用いて、データ分析の手法や応用について解説する、大変良いテキストです。

データ分析と数学

データ分析の手法を学ぶには、統計学をはじめとする数学の知識が必須です。

とくに、昨今話題のAI・機械学習・データアナリティクスといったトピックスを理解するには、高校数学以上のやや高度な数学が不可避になっています。

具体的には、微分積分学(解析学)や行列(線形代数学)についての大学初級レベルの知識がまず求められます。

しかし、かんたんな微積分はさておき、行列に関しては、高校時代に文系課程を修了した人や、若い世代の人は、高校数学の範囲内で勉強してこなかったため、

いざデータ分析の勉強をしてみようと思っても、テキストの最初からちんぷんかんぷん、ということが多々あります。

本記事ではこの「行列」に関する「最初の一歩」を踏み出すことを目的として、高校レベルの行列について基本的な事項をさらっと整理しておきます。

行列とはなにか、その定義とイメージ

私たちが数学でよく目にするのは、整数\( 1\)とか、変数\( x\)とか、関数\( f(x)\)だったりします。

これらの文字や数字は、今までは「単体で」目にすることが多かったでしょう。

しかし、これら文字や数字を

並べて、まとめる

ことで、計算が簡略化されたり、数式が見やすくなったりと、いろいろと嬉しいことが起こります。

本記事で解説する行列(行列、martixマトリックス)とは、「文字や数字を長方形に並べ、両側をカッコでくくったもの」のことです。

行列は次のように表します。

\begin{equation} \begin{split}  \left( \begin{array}{ccc} 1 & x & 5 \\ y & 0 & 7 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}
このようにして作った行列の、ヨコ方向のまとまりを「行(row)」、タテ方向のまとまりを「列(column)」といいます。

上の行列において、行は2つあり、
\begin{equation} \begin{split} 第1行 = \left( \begin{array}{ccc} 1 & x & 5 \end{array} \right)\\ 第2行 = \left( \begin{array}{ccc} y & 0 & 7 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}
です。

上の行列において、列は3つあり、
\begin{equation} \begin{split} 第1列= \left( \begin{array}{c} 1 \\ y \end{array} \right), 第2列= \left( \begin{array}{c} x\\ 0 \end{array} \right), 第3列= \left( \begin{array}{c} 5 \\ 7 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}
です。

行列の大きさ・サイズは、行数と列数によって言い表すことが出来ます。

行数が\( m\)、列数が\( n\)の行列を「\( m\times n\)行列」といいます。

正方行列とはなにか

「文字や数字を長方形に並べ、両側をカッコでくくったもの」が行列ですから、長方形の特別な場合である正方形に並べることがあっても構いません。

正方形に並べるとき、行数と列数は一致しますので、「\( n\times n\)行列」が作れることになります。これを正方行列といいます。以下の行列\( A\)は\( 3\times 3\)行列です。

\begin{equation} \begin{split} A = \left( \begin{array}{ccc} 1 & x & 5 \\ y & 0 & 7\\ -2& 0.4 & z\\ \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

行列の要素・成分

行列のなかに置かれている数字や文字は「成分」もしくは「要素」と呼ばれ、行数と列数を指定することで特定してあげることが出来ます。

上の行列\( A\)における\( y\)は、2行目・1列目の成分です。

行列の成分を文字を使って表すこともあり、たとえば行列\( A\)の\( i\)行目・\( j\)列目の成分を表すときに\( a_{ij}\)と表したりします。

上の行列\( A\)では
\begin{equation} \begin{split} a_{2,1}&=y\\ a_{3,2}&=0.4 \end{split} \end{equation}
です。

行列の足し算(加算)と引き算(減算)

数字が足し引きできたのと同様、行列も足し引きできます。

行列は「長方形に並べた要素」のことでした。

行列を足し引きしたければ、「要素ごとに足し引きする」のが自然でしょう。

\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)+ \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} a+p & b+q \\ c+r & d+s \end{array} \right) \end{split} \end{equation}
\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)- \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} a-p & b-q \\ c-r & d-s \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

このように足し算引き算を考える上で大切なことは、足し引きする行列の行と列の数が一致している必要がある、ということです。

例えば\( 2\times 3\)行列と\( 2\times 4\)行列を足すことはできません。

行列の実数倍

行列を実数倍(定数倍)するときも、「要素ごとに掛け算する」というルールで計算できます。

\begin{equation} \begin{split} k\times \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} ka & kb \\ kc & kd \end{array} \right) \end{split} \end{equation}


行列同士の掛け算(乗法)

行列に実数を掛けるのは簡単でしたが、では「行列と行列を掛ける」ことはできるのでしょうか。

実は、ここが行列を勉強するときの最初のつまづきポイントです。

最初は「要素ごとに掛け算したらいいのでは?」と思うでしょう。

つまり掛け算を(あえて\( \times\)と書かずに)\( \circ\)と書いて
\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\circ \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} ap & bq \\ cr & ds \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

として掛け算するのが自然だ、と思いたくなります。

この掛け算をアダマール積とか要素積といいます。

しかし、この掛け算は「ベクトルの内積」と相性がよくありません(内積についてはこちらのサイトを参考にしてください)。

ベクトルの内積については別の機会に説明をしますが、ここでは「要素ごとの掛け算は、行列同士の掛け算としてはあまり適当でない」ということを押さえておいてください。

「要素のまとまり」を考える行列においては、実は以下のようなルールで、行列同士の掛け算を考えると都合がいいとされています(掛け算記号\( \times\)は省略して書くのが通常です)。
\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right) \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc} ap+br & aq+bs \\ cp+dr & cq+ds \end{array} \right) \end{split} \end{equation}
この掛け算のルールを言葉で表現すると、「左の行列の各行と、右の行列の各列の内積を並べる」ということになります。

より詳しい内容は参考文献に書いてありますので、是非読んでみてください。

行列の掛け算は、右の行列の列数と、左の行列の行数が一致している必要があります。

つまり\( l\times \underline{m}\)行列と\(\underline{m}\times n \)行列のようなセットでないと、計算することが出来ません。

また、行列\( A\)と\( B\)の掛け算であっても、\( AB\)と\( BA\)は一致しないことがあります。つまり、行列\( A\)に、行列\( B\)を右から掛けるか、左から掛けるかによって、答えが変わるのです。

行列の掛け算のポイントをまとめるます。

  • 要素ごとの掛け算は、あまり適当でない
  • ちょっと複雑な計算によって、掛け算を定義する(右の行列の行と、左の行列の列の、内積をならべる)
  • 右の行列の列数と、左の行列の行数が一致している必要がある
  • 行列を右から掛けるのと左から掛けるのとで、答えが変わる


単位行列とはなにか

さて、すこし頭の体操です。

以下のような「\( 1\)を斜めに並べ、他の要素は\( 0\)」になるような正方行列\( E\)(ここでは\( 2\times 2\)行列)を考えてみましょう。
\begin{equation} \begin{split} E= \left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

このとき、\( 2\times 2\)の正方行列\( A\)について
\begin{equation} \begin{split} AE=EA=A \end{split} \end{equation}が成り立ちます。実際に計算してみてください。

\( E\)は右から掛けても左から掛けても、掛けられる行列\( A\)がそのまま返ってきます。

「どんな実数も1を掛けると、掛けられた数がそのまま返ってくる」のと似ていますね。

この「\( 1\)を斜めに並べ、他の要素は\( 0\)」になるような正方行列\( E\)を単位行列といい、「行列の世界での\( 1\)のような役割」を果たします。

逆行列とはなにか

実数を考えたとき、かならずそれに逆数が存在することを、私たちは知っています。

実数\( a\)に「ある実数\( x\)」を掛けた答えが\( 1\)になるような実数のことを、\( a\)の逆数と言うのでした(この\( x\)はつまり\( \frac{ 1}{ a}=a^{-1}\)のことです)。

\( 2\)の逆数は\( \frac{ 1}{ 2}\)ですし、\( \sqrt{3}\)の逆数は\(\frac{1 }{ \sqrt{  3}}=\frac{\sqrt{ 3 }}{ 3} \)です。

行列にも逆数のようなものが存在します。

つまり、行列\( A\)に「ある行列\( X\)」を掛けた答えが単位行列\( E\)(行列の世界での\( 1\)の役割)になるような行列のことを、\( A\)の逆行列といい、\( A^{-1}\)と表します。

数式で表すと

\begin{equation} \begin{split} AX=XA=E \end{split} \end{equation}となるような行列\(X \)が、\(A \)の逆行列です。
\begin{equation} \begin{split} AA^{-1}=A^{-1}A=E \end{split} \end{equation}と書いても同じことです。

逆行列なんてどこで使うんだ、と思われる方もいるでしょう。

私たちが方程式\( ax=1\)を解くときに、\( a\)の逆数\(\frac{ 1}{ a} \)が登場して\( x=\frac{ 1}{a }\)と解くことができたように、

行列を使って方程式を解くときなどに、逆行列は大活躍します。

行列\( A\)の逆行列\( A^{-1}\)の求め方や、逆行列を使った方程式の解き方は、参考文献のテキストに説明されています。

参考文献

本記事の参考にした『もう一度高校数学』は、高校1年生の数学から初めて、微積分や行列など、AIやデータ分析を理解するために必須の数学をイチから学び直せる良書です。

とくに、2012年の指導要領改訂で高校数学から消えてしまった

数学C 行列

が解説されている点がおすすめできます。

文系社会人がデータ分析やAIの技術を学ぼうとしたとき、行列についての予備知識が皆無なので、テキストの最初から意味がわからない、ということが多々ありますが、

この本で(旧課程の)高校レベルの知識を身につけておけば、データ分析のテキストの理解もスムーズに進むでしょう。

もう一度高校数学』はテキストの構成が、高校の教科書のように無味乾燥ではないのでとっつきやすいです。



経理は利益を生まないのか?【No】企業価値に貢献します!

こんにちは、毛糸です。

経理は利益を生まないという人がいます。

 
確かに、営業職とは異なり、経理は時間をかけることで収益が得られるものではありません。
 
しかし、だからと言って経理の仕事を軽視にするのは、短絡的な思考と言わざるを得ません。
 
経理、もしくは企業情報の開示・IRというのは、資本市場において企業がお金を調達するために果たさなくてはならない義務です。
 
義務であると同時に、経理が十分に役割を果たすことで、企業のビジネスを多くの投資者に知ってもらうことができ、それによって企業の資金調達にかかるコスト(資本コスト)ができると期待されています。
 
つまり、経理の仕事は、企業価値を高めるのに役立つということです。
 
企業の目的の一つは、利益を獲得し、企業価値を高め、投資者にリターンをもたらすことです。
 
営業職のいう「我々は収益に貢献している」というのは、企業価値向上の1つのルートにすぎません。
 
経理職も、資本市場における義務を果たし、投資者に企業内容を開示することで資本コストを下げるというルートを通じて、企業価値向上に貢献します。
 
したがって、経理は決して「仕方なくやるもの」ではなく、むしろ収益機会の不確実性の高い現在の事業環境の中で、企業価値向上のために行わなければいけない必須業務なのです。
 
経理職のみなさんには、是非このことを認識して、ご自分の業務に誇りを持ってほしいと思います。
 

中小企業における「人材」の意味と採用活動

こんにちは、毛糸です。

私は会計士資格を武器に、大企業の決算支援の仕事をしています。

いわゆる会計事務所に所属していますが、職員は会計士有資格者が100人程度の中小事務所です。

私の所属する会計事務所の主な業務内容は、大手企業の決算支援や、上場準備支援です。

夏場は決算シーズンから外れており、比較的自由に過ごすことができます。

自由に、といっても暇を持て余しているわけではなく、新しい会計トピックに追いついたり、ビジネスに関連するテクノロジーに関する勉強をしたりして過ごします。

しかし、こういった自己研鑽と同じくらい大切なことが、仲間の募集、すなわち採用活動です。

会計事務所、とくに中小事務所において、事業の成否を左右するのは人材です。

大手会計事務所であれば、社内の教育力も十分にあり、また組織内に十分なスキルを持つ専門家をたくさん抱えることができますが、中小事務所ではそうはいきません。

中小事務所では、ゼロから教育を施すほどの投資を行える余力はなかなかないのが通常ですし、さまざまなスキルを持つ専門家たちを多数抱えるのも難しいのです。

したがって、優れた人材を、適時に確保することが極めて重要です。

いくら市況がよく、会計事務所への業務依頼が活発であっても、人材がなければ収益には一切結びつきません。

中小会計事務所においては人材の確保は業務拡大の必要条件なのです。

幸運にも、私のいる会計事務所は労務管理が行き届いた、働きやすい職場です。

決算支援という「目の前のお客さんに喜ばれる仕事」にも誇りをもっていますし、大変充実したキャリアを歩んでいます。

こういう私自身の充実した毎日を売り文句にしながら、同じ志を持って働ける仲間を見つけていこうと思います。

会計とファイナンスをつなぐもの|クリーン・サープラス関係とアクルーアル

こんにちは、毛糸です。

最近、会計とファイナンス(金融経済学)との調和について考えています。

会計では当然ながら、資産や利益といった会計情報を扱います。

一方、ファイナンスでは株式市場についての分析を行うことから、特に実証分析において、会計情報が極めて重要になってきます。

しかしながら、投資理論や金融意思決定の理論的研究においては、会計情報を明示的に扱うものは多くありません。

ファイナンスでは基本的には、キャッシュフローや資産が分析の中心になります。

そんな会計とファイナンスですが、両者をつなぐ重要な関係式があります。

それがクリーン・サープラス関係、そしてアクルーアルです。

本記事では会計とファイナンスをつなぐこれらの概念についてまとめます。

クリーン・サープラス関係

会計とファイナンスをつなぐ重要な関係式の1つが、クリーン・サープラス関係です。

クリーン・サープラス関係とは、期末の資本は、期首の資本に利益を加え、配当を控除した額として求まる、という関係式のことです。

時点tにおける資本を\( B_t\)、利益を\( e_t\)、配当を\( d_t\)とすると、クリーン・サープラス関係は以下のような関係式として表されます。
\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}

クリーン・サープラス関係は、資本や利益という会計数値と、配当というキャッシュフローをつなぐ関係式であり、会計とファイナンスの重要な接点です。

詳細は下記の記事を参考にしてください。
会計数値の時系列構造を決める関係式|クリーン・サープラス関係、金融資産関係、営業資産関係

株価の評価モデルである配当割引モデルに、クリーン・サープラス関係を適用すると、株価と会計数値(資本と残余利益)の関係式が得られます。
【参考記事】
上述のクリーン・サープラス関係は2時点間の資本の関係を表した差分方程式ですが、これを微分方程式として表すこともできます。
【参考記事】

アクルーアル

会計とファイナンスをつなぐもう一つの重要な概念が、アクルーアルです。

現代の会計では、収益と費用、そしてその差額である利益は、キャッシュフローとは一致しません。

たとえば、今月の家賃を来月10日に支払う、というような契約場合には、月末においては支出が行われていないにもかかわらず、費用を認識します。

こうした費用認識のルールは、発生主義(accrual basis)とよばれます。

収益も同様、認識した額とキャッシュフローの範囲がズレることがあります。

したがって、収益から費用を控除して計算される利益は、キャッシュフローを伴う部分と、キャッシュフローを伴わない部分に分解できます。

この、キャッシュフローを伴わない利益を、アクルーアルと呼びます。

利益はキャッシュフローとアクルーアルの和であり、利益からアクルーアルを控除したものがキャッシュフローです。

利益=キャッシュフロー+アクルーアル

ファイナンスで扱われるのはキャッシュフローですから、これにアクルーアルの調整を行うことで、会計上の概念である利益と結び付けられることになります。

証券会社が潰れたら?分別管理のまとめと暗号資産取引業者との対比

こんにちは、毛糸です。

先日こんなツイートをしました。

本記事ではこのつぶやきを掘り下げて、証券会社においてある資産の保全に関する制度(分別管理)と、暗号資産取引業者における似たような規制についてまとめます。

証券会社が破綻・倒産した場合、預けている証券やお金はどうなるのか?

証券会社が破綻した場合に、預けている資産はどうなるのでしょうか?

破綻している会社に預けていた人が悪い、と自己責任で片付けられてしまうのでしょうか?

いいえ、そうではありません。

証券会社は顧客の資産を自社資産と分けて管理している(分別管理)ので、会社が倒産しても誰かに取られてしまうようなことはありません。

参考
今さら聞けない!投資Q&A-証券会社が倒産した場合、預けている証券やお金はどうなるの?

そもそも、証券会社に預けている資産は、証券会社のものになったわけではなく、あくまで顧客の資産を一時的に預かっているだけなので、証券会社が破綻しても差し押さえ等の対象にはなりません。

参考
株券の保管振替制度Q33.【参加者の破綻】証券会社を通じ株券を<ほふり>に預けた後、その証券会社が破綻した場合、自分の株券はどうなるのでしょうか?

上場株式の場合、第三者の機関(ほふり)で区分して管理したり、金銭は、信託銀行に信託財産として管理されています。
参考

分別管理の制度:金融商品取引法、金融庁・証券業協会・会計士の検査・監査

証券会社の分別管理は金融商品取引法に定められており、違反すれば罰則があるほか、金融庁の検査・日本証券業協会の監査・公認会計士によるチェックが行われます。
また、破産の懸念があるような場合には、日本証券業協会が特別監査に入り、厳しく監督されることになります。

セーフティーネットとしての投資者保護基金(いわゆるペイオフ)

分別管理を前提とすれば、仮に破綻した場合でも、顧客の財産は返還されます。
しかし、万が一破綻時に何らかの事故(事務ミスなど)が発生するなどにより、円滑に返還できなくなった場合に備えて、投資者保護基金から1,000万円まで補償が行われることになっています。
銀行が破綻したときに預金保険機構が保証を行うのと同様、証券にも類似の制度が定められているということです。

暗号資産(仮想通貨)の分別管理と、証券会社との比較

暗号資産(仮想通貨)に関しても、暗号資産取引業者は分別管理を行うことが定められています。
顧客の金銭に関する分別管理は、金銭信託として信託銀行を使うので証券会社と同様のルールです。
顧客の暗号資産については、「自己の暗号資産と分別して管理」し、「業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、顧客の暗号資産を信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理すること」が求められるとされています。
証券会社が上場株式について行う分別管理とはやや内容が異なっていますね。
証券会社における有価証券の分別管理が「第三者機関における区分管理」であるのに対して、
暗号資産交換業者の暗号資産の分別管理「コールドウォレット等での管理」となっており、管理の仕方が異なっています。

分別管理と公認会計士制度:合意された手続から保証業務へ

証券会社の分別管理も、暗号資産取引業者の分別管理も、それが規則に則って適切に行われているかどうかを確かめるため、会計士による保証を受けなくてはいけません。
参考
分別管理は従来「合意された手続」でしたが、最近「保証業務」に変わったようです。
会計士による確認作業から、会計監査と同じようなレベルに高まった、というイメージでしょう。

確率制御のテキスト|停止時刻までの最適化問題についてのメモ

こんにちは、毛糸です。

最近、確率制御の勉強をしています。

確率制御とは、確率的に変動する状態に依存して値が決まる目的関数を最小化するように、目的関数や状態に働きかけるような制御変数を決める問題のことです。

たとえば製造業において、製品の価格(状態変数)が自社の供給量(制御変数)によって決まる場合に、コストを最小化するにはどのように供給量をコントロールすべきか、というような問題を扱うことが出来ます。

私はこの確率制御の理論を、会計学に応用できないか試行中です。

確率制御は確率論の応用的トピックですが、日本語の本もいくつか出ています。

確率制御の基礎と応用 (ファイナンス・ライブラリー)』は経済学やファイナンスへの応用を見据えながら、確率制御の基本的事項と応用的内容を解説した本です。

確率微分方程式とその応用』は確率論の基礎知識をコンパクトに解説しつつ、確率制御や工学・ファイナンスへの応用にも章を割いて説明している良書です。

確率論ハンドブック』は確率解析の祖、伊藤清氏が生前構想したという現代確率論の総合解説書であり、確率論の基礎と応用について、その内容と参考書が多数載っています。

私も確率制御の勉強をするに当たり、『確率論ハンドブック』の該当の章を読み込みました。

確率論ハンドブック』の確率制御の章は有限区間の場合しか扱っていませんが、ファイナンスや経済学の文脈においては、期間が無限のものや、停止時刻までの区間を考える必要があります。

そういった応用的な確率制御の理論については、『確率論ハンドブック』のなかのリファレンスで、以下の書籍を参照せよと書いてありました。

Controlled Markov Processes and Viscosity Solutions』はまず、確率的でない決定論的な最適制御理論からはじめ、粘性解(Viscosity solution)と呼ばれる広い意味での「解」について解説したあと、確率制御の解説に移ります。

確率制御についての専門書だけあって、『確率論ハンドブック』でさらっと述べられた内容はすべて厳密な形で説明してありますし、無限期間の問題や停止時刻までの最適化問題についても扱っています。

確率制御の深い理解を得たいときに手に取る本としては、とても良い選択だったと思います。

AIに振り回される会社の共通点|道具としてのAIへの向き合い方

こんにちは、毛糸です。

AI(人工知能)というバズワードはビジネスの世界でもよく聞かれるようになりましたが、その具体的な内容を理解できている人は多くない印象です。

ディープラーニングをはじめとする機械学習などのアルゴリズムないしプログラムがAIの正体ですが、当然使いどころや適した分野というのがあります。

しかし、ことビジネスの文脈においては、どうも「AIってのを使えば今までにない収益機会が得られたり、驚異的なコスト削減ができる」という夢物語が散見されます。

当然、AIはそんな魔法ではありません。

ディープラーニングでできるのは大量のデータから共通点を見つけ出し、新しいデータを分類することであり、「ねぇAI、コスト分析して?」とお願いするだけでレポートが作れるわけではありません。

記事の中でもAIへの理解の浅さに警鐘が鳴らされています。

必要なのは課題に対して適切な解決策を立案し実行できることであって、AIを使うことが目的になってしまっては主従逆転です。

AIはあくまで道具です。

道具に振り回されることなく、道具の性質をよく理解したうえで、使うべき時にその道具を使えるようにしたいものです。

会計情報で株価は予測できるのか

こんにちは、毛糸です。

会計は、企業がどのような経済活動を行っているのかを、企業外部の株主や債権者に報告するルールであり、言語でもあります。

会計が果たす役割にはいろいろあり、「自分が託したお金がどのように運用されているか」を知らせるためだったり、その企業の「価値」がどれくらいなのかを投資家が推測するためだったりします。

後者のような会計の役割を「意思決定有用性説」と呼びます。

投資の意思決定に有用であるために会計はあるのだ、ということですね。

この目的が果たされているなら、会計情報を使うことで、投資の成果の予測が出来るのではないかと考えられ、実際に多くの投資家は会計情報(利益やキャッシュフローや財務健全性など)から、投資の成果が得られそうな会社を選定しています。

一方で、ファイナンス(金融工学)の立場は、会計の果たす役割についてやや否定的です。

ファイナンスにおける「効率的市場仮説」によれば、投資家はすでに公開されている情報を用いるだけでは、超過収益は得ることが出来ないとされます。

市場に公開された情報は瞬く間に投資家の知るところとなり、その内容がポジティブならば、瞬時に株価に織り込まれ、蓋然性の高い収益機会はなくなってしまうと考えられているからです。

会計情報により株価リターンは予測できるのか、もしくは超過収益が得られるのか、という研究は、実務家・研究者を問わず多くの市場参加者が行っています。

個人的には効率的市場仮説とそこから演繹される理論体系が好きなので、これを信じていますが、実証研究では会計情報に関する多くの収益機会(会計アノマリー)の存在が指摘されています。

先入観を持たず、これらの研究を追っていきたいと思います。

30歳になって思い知る、高校数学の大切さ

こんにちは、毛糸です。

数学は科学を語る「言葉」として広く受け入れられており、物理学やAIなどのテクノロジーも数学によって記述され、その確かさが証明されます。

社会科学も昨今、数学による分析が多く取り入れられ、経済学や会計学においても数学が用いられています。

最近読んでいる会計学のテキスト『Equity Valuation』にも、数学が用いられており、論理性と検証可能性を要する議論には、数学はなくてはならないものとなっています。

【参考記事】
会計を数学的・経済学的に表現する方法を考える

 
 

AIなどのテクノロジーを理解するために数学が必要なこともあってか、社会人になってから数学を学び直す人は増えているようです。

私が参加している勉強会でも、数学を扱うセミナーは大変好評です。

【参考記事】
【数学ガール】社会人の数学再入門に

 
数学は物事を抽象化し、その構造を浮かび上がらせ、論理の力で結論を導きます。
 
こういった考え方は、数式の展開や計算にとどまらず、日常生活で多くの気づきを与えてくれます。
 
【参考記事】
 
 
私は今年30歳になりましたが、未だに研究意欲を持ち続けており、ビジネスのなかで問題意識を見つけては、これを数学的に解決しようと日夜励んでいます。
 
ときには高校数学で学んだことを復習する必要にかられたりもして、あの頃の勉強はたしかに役に立っているなぁと感慨深くなることもあります。
 
是非、日常に数学のある生活を送る人が増えてほしいと思います。
 
【参考記事】