会計

【君の知らない複式簿記5】簿記とベクトル、行列、そしてテンソルへ

 

複式簿記における試算表や仕訳はベクトルとして表現できることを、以下の記事で紹介しました。

【君の知らない複式簿記4】簿記代数の教科書『Algebraic Models For Accounting Systems』とバランスベクトル

本記事では複式簿記の「ベクトル」を、「行列」や「テンソル」へと拡張するアイデアについて述べます。

 

バランスベクトルとその性質

複式簿記のベクトル表現は、勘定科目をベクトルの各要素に対応させ、借方に置かれる勘定の金額はプラス、貸方に置かれる勘定の金額をマイナスとして表すことで得られます。

\[ \begin{array}{cr|cr} \hline
資産 & a & 負債 & l\\
& & 純資産 & e\\
費用 & c & 収益 & r\\
\end{array}
= \left(
\begin{array}{r}
a\\
-l\\
-e\\
-r\\
c \end{array} \right)
\leftarrow \left(
\begin{array}{c}
資産\\
負債\\
純資産\\
収益\\
費用
\end{array} \right)\]

このようにして試算表をベクトル表示したものを、バランスベクトルといいます。

 

試算表の借方・貸方の合計額は一致するというのが、複式簿記の大原則です。つまり

\begin{equation} \begin{split}
借方合計金額&=貸方合計金額\\
\Leftrightarrow a+c&=l+e+r
\end{split} \end{equation}

が成り立ちます。右辺を移項すると

\begin{equation} \begin{split}
a-l-e-r+c&=0\\
\Leftrightarrow\left( 1,1,1,1,1\right)\left(
\begin{array}{r}
a\\
-l\\
-e\\
-r\\
c \end{array} \right)&=0
\end{split} \end{equation}

であることがわかります。2つ目の等式は\( \vec{1}\)ベクトル\(=\left(1,\cdots,1\right)\)とバランスベクトルの内積がゼロ、つまり両者が直交することを意味します。

 

バランス行列への拡張

\begin{equation} \begin{split}
b&=\left(
\begin{array}{r}
a_1\\
a_2\\
\vdots\\
a_n \end{array} \right)=\left( a_i\right)
\end{split} \end{equation}

をバランスベクトルとします。つまり\(\sum_{i=1}^na_i=0\)です。

バランスベクトル\( b_1,b_2,\cdots,b_m\)を横に並べて得られる行列

\begin{equation} \begin{split}
M&=\left( b_1,b_2,\cdots,b_m\right)\\
&=\left(
\begin{array}{rrrr}
a_{1,1}&a_{1,2}&\cdots&a_{1,m}\\
a_{2,1}&a_{2,2}&\cdots&a_{2,m}\\\\
\vdots\\
a_{n,1}&a_{n,2}&\cdots&a_{n,m}\\ \end{array}
\right)\\
&=\left( a_{i,j}\right)
\end{split} \end{equation}

は、複数のバランスベクトルを行列という形で同時に扱うことができ、バランスベクトルを拡張したものと言えます。これをバランス行列と呼ぶことにしましょう。バランス行列の各列は\( \vec{1}\)ベクトルに直交します。

バランス行列を使うことで、バランスベクトルでは扱えなかった異なる「軸」を扱うことができ、たとえば次のようなケースで活躍します。

  • 異なる「時間」のバランスベクトルを表す(バランスベクトルの時間変化)
  • 異なる「基準」のバランスベクトルを表す(いわゆるGAAP差)
  • 異なる「主体」のバランスベクトルを表す(例えば連結会計)

参考文献[1]ではここで示したようなバランス行列を「時間の経過順に並べたバランスベクトル」として導入し、ある会社のバランスベクトル(試算表)の推移を表すものとして紹介しています。

完全バランス行列

上述の

\begin{equation} \begin{split}
M&=\left( b_1,b_2,\cdots,b_m\right)\\
&=\left(
\begin{array}{rrrr}
a_{1,1}&a_{1,2}&\cdots&a_{1,m}\\
a_{2,1}&a_{2,2}&\cdots&a_{2,m}\\\\
\vdots\\
a_{n,1}&a_{n,2}&\cdots&a_{n,m}\\ \end{array}
\right)\\
&=\left( a_{i,j}\right)
\end{split} \end{equation}

は、各「列」がバランスベクトルになっていましたが、各「行」もまたバランスベクトルであるようなものを考えることもできます。すなわち

\begin{equation} \begin{split}
M&=\left( a_{i,j}\right)
\end{split} \end{equation}について、列(縦)方向の要素和がゼロに等しいというバランスベクトルの要件

\begin{equation} \begin{split}
\sum_{i=1}^na_{i,j}=0
\end{split} \end{equation}に加え、行(横)方向の要素和もゼロに等しいもの、つまり

\begin{equation} \begin{split}
\sum_{j=1}^ma_{i,j}=0
\end{split} \end{equation}であるようなものを特殊ケースとして考えることができます。

このように「列」方向にも「行」方向にもバランスベクトルであると考えることができるバランス行列を、完全バランス行列と呼ぶことにします。

例として、次のような\(3\times 3\)完全バランス行列を考えることができます。

\begin{equation} \begin{split}
M&=\left(
\begin{array}{rrr}
100&-120&20\\
-50&80&-30\\
-50&40&10\\
\end{array}
\right)
\end{split} \end{equation}

この完全バランス行列の各列の要素はそれぞれ

\begin{equation} \begin{split}
\left(
\begin{array}{c}
資産a\\
負債l\\
純資産e\\
\end{array} \right)
\end{split} \end{equation}をイメージしており、第1列は「連結試算表」、第2列は「単体試算表の合計値(にマイナスをつけたもの)」、第3列は「連結修正仕訳(にマイナスをつけたもの)」をイメージしています。

つまり

\begin{equation} \begin{split}
M&=\left(
\begin{array}{rrr}
連a&-単a&-修正a\\
連l&-単l&-修正l\\
連e&-単e&-修正e\\
\end{array}
\right)
\end{split} \end{equation}を意味しています。

列(縦)方向は資産=負債+純資産が成り立っており、バランスベクトルとなっていますが、行(横)方向についても、

\begin{equation} \begin{split}
連結ベースの資産=単体ベースの資産合計+資産に係る連結修正
\end{split} \end{equation}が成り立つので、バランスベクトルになっています。

\begin{equation} \begin{split}
M&=\left(
\begin{array}{rrr}
100&-120&20\\
-50&80&-30\\
-50&40&-10\\
\end{array}
\right)
\end{split} \end{equation}を完全バランス行列として具体的に解釈するなら、単体ベースの合計試算表(第2列)である

\begin{equation} \begin{split}
\begin{array}{r|r} \hline
120 & 80\\
& 40
\end{array}
\end{split} \end{equation}に対して、連結修正仕訳(第3列)である

\begin{equation} \begin{split}
\begin{array}{r|r} \hline
-20 & -30\\
& 10
\end{array}
\end{split} \end{equation}を加味した結果、連結試算表(第1列)である

\begin{equation} \begin{split}
\begin{array}{r|r} \hline
100 & 50\\
& 50
\end{array}
\end{split} \end{equation}を得る、ということになります。

 

仕訳の仕訳

\begin{equation} \begin{split}
M
&=\left(
\begin{array}{rrrr}
a_{1,1}&a_{1,2}&\cdots&a_{1,m}\\
a_{2,1}&a_{2,2}&\cdots&a_{2,m}\\\\
\vdots\\
a_{n,1}&a_{n,2}&\cdots&a_{n,m}\\
\end{array}
\right)\\
&=\left( b_1,b_2,\cdots,b_m\right)\\
\end{split} \end{equation}が\(n\times m\)完全バランス行列であるとします。このとき\( b_1,b_2,\cdots,b_m\)は(列)バランスベクトルですが、これらの和について、

\begin{equation} \begin{split}
\sum_{j=1}^m b_j&=
\sum_{j=1}^m\left(
\begin{array}{c}
a_{1,j}\\
\vdots\\
a_{n_j}
\end{array}\right)\\
&=
\left(
\begin{array}{c}
\sum_{j=1}^ma_{1,j}\\
\vdots\\
\sum_{j=1}^ma_{n_j}
\end{array}\right)\\
&=\left(
\begin{array}{c}
0\\
\vdots\\
0
\end{array}\right)\\
&={\bf 0}
\end{split} \end{equation}が成り立っています。

完全バランス行列\(M=\left(b_1,\cdots,b_m\right),\sum b_j={\bf 0}\)という式は、バランスベクトル\(b=\left(a_1,\cdots,a_n\right),\sum a_i=0\)と構造が全く同じであることに気づくでしょう。

バランスベクトル\(b=\left(a_1,a_2,a_3\right)\)が、試算表や仕訳のT勘定図

\begin{equation} \begin{split}
\begin{array}{r|r} \hline
a_1 & a_2\\
& a_3
\end{array}
\end{split} \end{equation}に対応していたように、完全バランス行列\(M=\left(b_1,b_2,b_3\right)\)も

\begin{equation} \begin{split}
\begin{array}{r|r} \hline
b_1 & b_2\\
& b_3
\end{array}
\end{split} \end{equation}のようなT勘定図で表せます。さしずめこれは「完全バランス行列のT表現」とでも呼ぶべきものです。

バランスベクトルにおける各要素\(a_i\)は勘定の金額を表していましたが、T表現した完全バランス行列の各要素\(b_j\)はそれぞれがバランスベクトル、つまり試算表や仕訳です。

標語的なフレーズで表すとしたら、完全バランス行列のT表現は「仕訳の仕訳」と呼べるものです。

なぜなら、完全バランス行列\(M\)をT表現した時の各\(b_j\)がそれぞれT表現を持ち、

\begin{equation} \begin{split}
\begin{array}{r|r} \hline
\begin{array}{r|r} \hline
a_{1,1} & a_{2,1}\\
& a_{3,1}
\end{array}
&
\begin{array}{r|r} \hline
a_{1,2} & a_{2,2}\\
& a_{3,2}
\end{array}\\
&
\begin{array}{r|r} \hline
a_{1,3} & a_{2,3}\\
& a_{3,3}
\end{array}
\end{array}
\end{split} \end{equation}と表せるからです。

 

バランステンソル

ベクトルは1次元配列、行列は2次元配列の一種です。3次元以上の配列は、テンソルと呼ばれます(数学的には別の定義があります、参考文献をご覧ください)。

バランスベクトルやバランス行列を考えることができるなら、バランステンソルも同様に考えうるのではないか、というのは素朴なアイデアです。

バランス行列\( M_1,M_2,\cdots,M_K\)を並べた

\begin{equation} \begin{split}
T=\left( M_1,M_2,\cdots,M_K\right)=\left( a_{i,j,k}\right)
\end{split} \end{equation}は3階のテンソルです。

\(M_k\)が(必ずしも完全バランス行列ではない)バランス行列であるとき、これらを並べてできる\(T\)を、バランステンソルと呼ぶことにしましょう。

この\(T\)をさらに並べて、より高階のテンソルも考えることができます。

バランスベクトルは1階のバランステンソル、バランス行列は2階のバランステンソルです。

バランス行列で異なる「軸」を考えることができたように、高階のバランステンソルを考えればより複雑な状況を表せると考えられます。

 

完全バランステンソル

バランス行列(2階バランステンソル)\(M=\left(a_{i,j}\right)\)について

\begin{equation} \begin{split}
\sum_i a_{ i,j  }=\sum_j a_{ i,j  }=0
\end{split} \end{equation}が成り立つとき、\(M\)を完全バランス行列と呼ぶのでした。

同様に、\(D\)階のバランステンソル

\begin{equation} \begin{split}
T^D=\left(a_{ i_1,\cdots,i_D  }\right)
\end{split} \end{equation}について、

\begin{equation} \begin{split}
\sum_{i_1} a_{ i_1,\cdots,i_D  }=\cdots=\sum_{i_D} a_{ i_1,\cdots,i_D  }=0
\end{split} \end{equation}が成り立つとき(つまりどのインデックス\(i_d\)をとってきても、それに関する要素和がゼロ)、\(T^D\)は\(D\)階完全バランステンソルと呼ぶのがふさわしいでしょう。

一般の\(D\)階のテンソル(\(D\)次元配列)\(\left(x_{ i_1,\cdots,i_D  }\right)\)について、\(d\)番目のインデックス\(i_d\)に関する要素和がゼロになるようなもの、つまり

\begin{equation} \begin{split}
\mathrm{ tensor:}~x_{ i_1,\cdots,i_D  } \mathrm{  s.t.}~\sum_{i_d}x_{ i_1,\cdots,i_D  }= 0
\end{split} \end{equation}はバランステンソルと呼んでよいもので、これを\(D\)階の\(d-\)バランステンソルと呼ぶことにしましょう。

バランス行列\(a_{i,j}\)で、列(縦、\(i\))方向にはバランスベクトルであって、行(横、\(j\))方向にはバランスベクトルではないものは、\(2\)階の\( 1-\)バランステンソルです。

 

 

参考文献

複式簿記の代数構造やバランスベクトルの性質について、この本に述べられている内容が最先端と言っていいでしょう。

 

テンソルを「\( n\)次元配列」と考えること、その応用についてはこちらが参考になります。高次元配列を関係データの分析に活用する方法が述べられています。

 

テンソルの直感的定義と具体的な計算方法については、こちらをおすすめします。基礎的な線形代数の理解があれば読めるでしょう。テンソルの計算方法や「アインシュタイン記法」「縮約」などのルールについて、詳しく説明されています。

 

テンソルの数学的な定義については、以下が詳しいです。由緒ある教科書であり、線形代数の基礎から学ぶことができます。

ブロックチェーンは会計界のゲームチェンジャーとなるか-Deloitteのホワイトペーパーを読む-

国際的な会計・コンサルティングファームであるDeloiiteも、ブロックチェーンが会計業界に与える影響について注目しているようです。

こんなペーパーを見つけました。

Blockchain Technology A game-changer in accounting?(PDFリンク

 

ブロックチェーンは、その改ざん困難性により、会計帳簿の記録媒体として適性があると言われています。

冒頭のDeoillteのペーパーにも、次のように書いてあります。

すべての仕訳は分散化・暗号化されているため、取引を隠すために改ざんしたり破棄したりすることは事実上不可能である
Since all entries are distributed and cryptographically sealed, falsifying or destroying them to conceal activity is practically impossible.

 

特に、あるひとつの取引(商品を仕入れたり、固定資産を買ったり)について、自社と取引の相手方に加え、分散台帳たるブロックチェーンにその取引記録を記帳することで、会計情報の改ざん困難性と発見可能性を高められると言われています。

このような新しい会計の機構は「Triple-Entry bookkeeping」と呼ばれ、「三式簿記」と約されます。

ブロックチェーン的三式簿記はゲームチェンジャーとなりうるか

三式簿記は、ブロックチェーンの発明によってもたらされた新たな境地という印象が持たれますが、個人的にはあまり大それたものではない気がしています。

ブロックチェーンによる会計帳簿が改ざん困難、というのは、従来の「複式」簿記において一つの勘定だけ金額を改ざんしたら、帳簿の貸方借方が不一致になり発見される(もしくは会計システム上改ざんできない)というメカニズムと、大差ありません。

昨今の粉飾事例として見聞きするものの中には、架空の取引を関与企業が結託してでっち上げる、というようなケースも有り、このような場合にはいかにブロックチェーンに取引を記録しても、取引そのものが架空、つまり記録時点で粉飾が行われているわけですから、改ざん困難であっても意味がありません。

会計監査人は、当然会計帳簿の改ざんには目を光らせますが、それ以上に「企業が作成した会計帳簿が、現実の取引を適切に表しているか」をチェックします。

記録された情報が正しいか否かという判断は、ブロックチェーンには出来ません。

その意味でブロックチェーン的三式簿記は、帳簿の改ざんに対して一定の牽制効果は持ちつつも、会計のあり方を根本から変えるような(ましてや会計監査を不要にするような)ものではないと思われます。

三式簿記について

三式簿記については、過去の記事でも取り上げました。

【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

「三式簿記」というと、日本ではブロックチェーンとは全く別の文脈で、研究があります。

「複式簿記の拡張」という野望に満ちた偉大な研究です、興味がある方は是非調べてみてください。

複式簿記と行列簿記のテキスト・研究書5選

複式簿記による会計処理については多くのテキストが存在しますが、複式簿記やその派生形としての行列簿記「そのもの」について説明した本は、あまり多くないようです。

  • 複式簿記とはなにか
  • 行列簿記とはなにか
  • 複式簿記が備えるべき性質は何か
  • 単式簿記との違いは
  • 複式簿記は拡張できるのか
といった「複式簿記・行列簿記そのもの」に対する研究についてまとめた研究所のうち、2020年3月現在で本屋さんで買えるものをまとめておきます。

複式簿記のサイエンス

行列簿記の現代的意義

本書は行列簿記に関する歴史的・実務的内容を包括的に扱った、意欲的な研究書です。著者の礒本先生は行列簿記の専門家といってもよく、「行列簿記」というキーワードで検索すると彼の論文が多数ヒットします。

本書で説明されている、行列簿記による記帳の効率化や、データベースとの関連性は、会計実務に携わる人にとっても役立つと思われます。

 

複式簿記 根本原則の研究

簿記の理論学説と計算構造

日本簿記学説の歴史探訪

経理は利益を生まないのか?【No】企業価値に貢献します!

こんにちは、毛糸です。

経理は利益を生まないという人がいます。

 
確かに、営業職とは異なり、経理は時間をかけることで収益が得られるものではありません。
 
しかし、だからと言って経理の仕事を軽視にするのは、短絡的な思考と言わざるを得ません。
 
経理、もしくは企業情報の開示・IRというのは、資本市場において企業がお金を調達するために果たさなくてはならない義務です。
 
義務であると同時に、経理が十分に役割を果たすことで、企業のビジネスを多くの投資者に知ってもらうことができ、それによって企業の資金調達にかかるコスト(資本コスト)ができると期待されています。
 
つまり、経理の仕事は、企業価値を高めるのに役立つということです。
 
企業の目的の一つは、利益を獲得し、企業価値を高め、投資者にリターンをもたらすことです。
 
営業職のいう「我々は収益に貢献している」というのは、企業価値向上の1つのルートにすぎません。
 
経理職も、資本市場における義務を果たし、投資者に企業内容を開示することで資本コストを下げるというルートを通じて、企業価値向上に貢献します。
 
したがって、経理は決して「仕方なくやるもの」ではなく、むしろ収益機会の不確実性の高い現在の事業環境の中で、企業価値向上のために行わなければいけない必須業務なのです。
 
経理職のみなさんには、是非このことを認識して、ご自分の業務に誇りを持ってほしいと思います。
 

中小企業における「人材」の意味と採用活動

こんにちは、毛糸です。

私は会計士資格を武器に、大企業の決算支援の仕事をしています。

いわゆる会計事務所に所属していますが、職員は会計士有資格者が100人程度の中小事務所です。

私の所属する会計事務所の主な業務内容は、大手企業の決算支援や、上場準備支援です。

夏場は決算シーズンから外れており、比較的自由に過ごすことができます。

自由に、といっても暇を持て余しているわけではなく、新しい会計トピックに追いついたり、ビジネスに関連するテクノロジーに関する勉強をしたりして過ごします。

しかし、こういった自己研鑽と同じくらい大切なことが、仲間の募集、すなわち採用活動です。

会計事務所、とくに中小事務所において、事業の成否を左右するのは人材です。

大手会計事務所であれば、社内の教育力も十分にあり、また組織内に十分なスキルを持つ専門家をたくさん抱えることができますが、中小事務所ではそうはいきません。

中小事務所では、ゼロから教育を施すほどの投資を行える余力はなかなかないのが通常ですし、さまざまなスキルを持つ専門家たちを多数抱えるのも難しいのです。

したがって、優れた人材を、適時に確保することが極めて重要です。

いくら市況がよく、会計事務所への業務依頼が活発であっても、人材がなければ収益には一切結びつきません。

中小会計事務所においては人材の確保は業務拡大の必要条件なのです。

幸運にも、私のいる会計事務所は労務管理が行き届いた、働きやすい職場です。

決算支援という「目の前のお客さんに喜ばれる仕事」にも誇りをもっていますし、大変充実したキャリアを歩んでいます。

こういう私自身の充実した毎日を売り文句にしながら、同じ志を持って働ける仲間を見つけていこうと思います。

会計とファイナンスをつなぐもの|クリーン・サープラス関係とアクルーアル

こんにちは、毛糸です。

最近、会計とファイナンス(金融経済学)との調和について考えています。

会計では当然ながら、資産や利益といった会計情報を扱います。

一方、ファイナンスでは株式市場についての分析を行うことから、特に実証分析において、会計情報が極めて重要になってきます。

しかしながら、投資理論や金融意思決定の理論的研究においては、会計情報を明示的に扱うものは多くありません。

ファイナンスでは基本的には、キャッシュフローや資産が分析の中心になります。

そんな会計とファイナンスですが、両者をつなぐ重要な関係式があります。

それがクリーン・サープラス関係、そしてアクルーアルです。

本記事では会計とファイナンスをつなぐこれらの概念についてまとめます。

クリーン・サープラス関係

会計とファイナンスをつなぐ重要な関係式の1つが、クリーン・サープラス関係です。

クリーン・サープラス関係とは、期末の資本は、期首の資本に利益を加え、配当を控除した額として求まる、という関係式のことです。

時点tにおける資本を\( B_t\)、利益を\( e_t\)、配当を\( d_t\)とすると、クリーン・サープラス関係は以下のような関係式として表されます。
\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}

クリーン・サープラス関係は、資本や利益という会計数値と、配当というキャッシュフローをつなぐ関係式であり、会計とファイナンスの重要な接点です。

詳細は下記の記事を参考にしてください。
会計数値の時系列構造を決める関係式|クリーン・サープラス関係、金融資産関係、営業資産関係

株価の評価モデルである配当割引モデルに、クリーン・サープラス関係を適用すると、株価と会計数値(資本と残余利益)の関係式が得られます。
【参考記事】
上述のクリーン・サープラス関係は2時点間の資本の関係を表した差分方程式ですが、これを微分方程式として表すこともできます。
【参考記事】

アクルーアル

会計とファイナンスをつなぐもう一つの重要な概念が、アクルーアルです。

現代の会計では、収益と費用、そしてその差額である利益は、キャッシュフローとは一致しません。

たとえば、今月の家賃を来月10日に支払う、というような契約場合には、月末においては支出が行われていないにもかかわらず、費用を認識します。

こうした費用認識のルールは、発生主義(accrual basis)とよばれます。

収益も同様、認識した額とキャッシュフローの範囲がズレることがあります。

したがって、収益から費用を控除して計算される利益は、キャッシュフローを伴う部分と、キャッシュフローを伴わない部分に分解できます。

この、キャッシュフローを伴わない利益を、アクルーアルと呼びます。

利益はキャッシュフローとアクルーアルの和であり、利益からアクルーアルを控除したものがキャッシュフローです。

利益=キャッシュフロー+アクルーアル

ファイナンスで扱われるのはキャッシュフローですから、これにアクルーアルの調整を行うことで、会計上の概念である利益と結び付けられることになります。

証券会社が潰れたら?分別管理のまとめと暗号資産取引業者との対比

こんにちは、毛糸です。

先日こんなツイートをしました。

本記事ではこのつぶやきを掘り下げて、証券会社においてある資産の保全に関する制度(分別管理)と、暗号資産取引業者における似たような規制についてまとめます。

証券会社が破綻・倒産した場合、預けている証券やお金はどうなるのか?

証券会社が破綻した場合に、預けている資産はどうなるのでしょうか?

破綻している会社に預けていた人が悪い、と自己責任で片付けられてしまうのでしょうか?

いいえ、そうではありません。

証券会社は顧客の資産を自社資産と分けて管理している(分別管理)ので、会社が倒産しても誰かに取られてしまうようなことはありません。

参考
今さら聞けない!投資Q&A-証券会社が倒産した場合、預けている証券やお金はどうなるの?

そもそも、証券会社に預けている資産は、証券会社のものになったわけではなく、あくまで顧客の資産を一時的に預かっているだけなので、証券会社が破綻しても差し押さえ等の対象にはなりません。

参考
株券の保管振替制度Q33.【参加者の破綻】証券会社を通じ株券を<ほふり>に預けた後、その証券会社が破綻した場合、自分の株券はどうなるのでしょうか?

上場株式の場合、第三者の機関(ほふり)で区分して管理したり、金銭は、信託銀行に信託財産として管理されています。
参考

分別管理の制度:金融商品取引法、金融庁・証券業協会・会計士の検査・監査

証券会社の分別管理は金融商品取引法に定められており、違反すれば罰則があるほか、金融庁の検査・日本証券業協会の監査・公認会計士によるチェックが行われます。
また、破産の懸念があるような場合には、日本証券業協会が特別監査に入り、厳しく監督されることになります。

セーフティーネットとしての投資者保護基金(いわゆるペイオフ)

分別管理を前提とすれば、仮に破綻した場合でも、顧客の財産は返還されます。
しかし、万が一破綻時に何らかの事故(事務ミスなど)が発生するなどにより、円滑に返還できなくなった場合に備えて、投資者保護基金から1,000万円まで補償が行われることになっています。
銀行が破綻したときに預金保険機構が保証を行うのと同様、証券にも類似の制度が定められているということです。

暗号資産(仮想通貨)の分別管理と、証券会社との比較

暗号資産(仮想通貨)に関しても、暗号資産取引業者は分別管理を行うことが定められています。
顧客の金銭に関する分別管理は、金銭信託として信託銀行を使うので証券会社と同様のルールです。
顧客の暗号資産については、「自己の暗号資産と分別して管理」し、「業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、顧客の暗号資産を信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理すること」が求められるとされています。
証券会社が上場株式について行う分別管理とはやや内容が異なっていますね。
証券会社における有価証券の分別管理が「第三者機関における区分管理」であるのに対して、
暗号資産交換業者の暗号資産の分別管理「コールドウォレット等での管理」となっており、管理の仕方が異なっています。

分別管理と公認会計士制度:合意された手続から保証業務へ

証券会社の分別管理も、暗号資産取引業者の分別管理も、それが規則に則って適切に行われているかどうかを確かめるため、会計士による保証を受けなくてはいけません。
参考
分別管理は従来「合意された手続」でしたが、最近「保証業務」に変わったようです。
会計士による確認作業から、会計監査と同じようなレベルに高まった、というイメージでしょう。

AIに振り回される会社の共通点|道具としてのAIへの向き合い方

こんにちは、毛糸です。

AI(人工知能)というバズワードはビジネスの世界でもよく聞かれるようになりましたが、その具体的な内容を理解できている人は多くない印象です。

ディープラーニングをはじめとする機械学習などのアルゴリズムないしプログラムがAIの正体ですが、当然使いどころや適した分野というのがあります。

しかし、ことビジネスの文脈においては、どうも「AIってのを使えば今までにない収益機会が得られたり、驚異的なコスト削減ができる」という夢物語が散見されます。

当然、AIはそんな魔法ではありません。

ディープラーニングでできるのは大量のデータから共通点を見つけ出し、新しいデータを分類することであり、「ねぇAI、コスト分析して?」とお願いするだけでレポートが作れるわけではありません。

記事の中でもAIへの理解の浅さに警鐘が鳴らされています。

必要なのは課題に対して適切な解決策を立案し実行できることであって、AIを使うことが目的になってしまっては主従逆転です。

AIはあくまで道具です。

道具に振り回されることなく、道具の性質をよく理解したうえで、使うべき時にその道具を使えるようにしたいものです。

会計情報で株価は予測できるのか

こんにちは、毛糸です。

会計は、企業がどのような経済活動を行っているのかを、企業外部の株主や債権者に報告するルールであり、言語でもあります。

会計が果たす役割にはいろいろあり、「自分が託したお金がどのように運用されているか」を知らせるためだったり、その企業の「価値」がどれくらいなのかを投資家が推測するためだったりします。

後者のような会計の役割を「意思決定有用性説」と呼びます。

投資の意思決定に有用であるために会計はあるのだ、ということですね。

この目的が果たされているなら、会計情報を使うことで、投資の成果の予測が出来るのではないかと考えられ、実際に多くの投資家は会計情報(利益やキャッシュフローや財務健全性など)から、投資の成果が得られそうな会社を選定しています。

一方で、ファイナンス(金融工学)の立場は、会計の果たす役割についてやや否定的です。

ファイナンスにおける「効率的市場仮説」によれば、投資家はすでに公開されている情報を用いるだけでは、超過収益は得ることが出来ないとされます。

市場に公開された情報は瞬く間に投資家の知るところとなり、その内容がポジティブならば、瞬時に株価に織り込まれ、蓋然性の高い収益機会はなくなってしまうと考えられているからです。

会計情報により株価リターンは予測できるのか、もしくは超過収益が得られるのか、という研究は、実務家・研究者を問わず多くの市場参加者が行っています。

個人的には効率的市場仮説とそこから演繹される理論体系が好きなので、これを信じていますが、実証研究では会計情報に関する多くの収益機会(会計アノマリー)の存在が指摘されています。

先入観を持たず、これらの研究を追っていきたいと思います。