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数学


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会計と保険数理のとある類似|「サープラス」について

こんにちは、毛糸です。

最近、企業は配当をどのように決定しているのか?という疑問をよく考えます。

その疑問に答えるべく、経済学的なモデルを使って分析を行っているのですが、その中で会計と保険数理の共通点に気づきました。

会計と保険は「サープラス」というキーワードを、全く同じ概念として共有しています。

本記事では配当(dividend)をいくら支払うかという問題を、企業会計と保険数理の面から考えたときに現れる「サープラス」という共通点についてまとめます。

会計学におけるクリーンサープラス関係

企業(株式会社)の会計ルールにおいて、配当は純資産を分配する性格をもちます(実態としては現預金の支払いです)。

第\( t\)期の純資産額を\( B_t\)と表すことにすると、\( B_t\)は前期の純資産額\( B_{t-1}\)にその期の利益\( e_t\)を加え、そこからその期の配当\( d_t\)を支払ったのこりが\( B_t\)になるという関係が考えられます。

\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}

この関係をクリーンサープラス関係(Clean Surplus Relation)と言います。

サープラスとは「余剰」を意味し、会計学では資産から負債を引いた余剰、つまり純資産の変動が、利益と配当以外で「汚されていない(クリーンな)」状態を表しています。

日本の会計基準には、一部利益を介さず直接純資産を増減させる取引(その他有価証券評価差額金など)がありますので、クリーンサープラス関係は成り立っていませんが、会計数値と配当というキャッシュフローを結びつける関係式として重要です。

保険数理におけるサープラス過程

保険数理においては、保険会社の保険料収入から保険金の支払いを引いた残りをサープラスやリザーブと呼びます。
時点\( t\)におけるサープラス\( r_t\)は、取引開始時点のサープラス\( r_0\)に、それまでの累積保険料収入\( p(t)\)を加え、累積保険金支払い額\( U(t)\)を引いた額として決まります。
\begin{equation} \begin{split}
r_t=r_0+p(t)-U(t)
\end{split} \end{equation}

保険契約においては保険料収入のうち保険金支払いに充てられなかった超過分を配当として支払うものもあります。

この場合、サープラス\( r_t\)の一期前からの変化は、配当を\( d_t\)とすると

\begin{equation} \begin{split}
r_t=r_{t-1}+\Delta p(t)-\Delta U(t)-d_t
\end{split} \end{equation}

と表されます。\( \Delta p(t)\)と\( \Delta U(t)\)はそれぞれ、累積保険料と累積保険金支払い額の差分です。

このようにして決まるサープラスの列\( \left\{ r_t\right\}\)は、サープラス過程と呼ばれ、配当決定や倒産確率の計算に用いられます。

2つの「サープラス」の共通点

会計におけるクリーンサープラス関係

\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}
と、保険数理におけるサープラス過程の変動
\begin{equation} \begin{split}
r_t=r_{t-1}+\Delta p(t)-\Delta U(t)-d_t
\end{split} \end{equation}
は、その構造が極めて類似しています。

クリーンサープラス関係における利益\( e_t\)を、収益\( R_t\)と費用\( C_t\)とに分解して

\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+R_t-C_t-d_t
\end{split} \end{equation}
と表現すれば、さらに対応関係がはっきりするでしょう。

「余剰の分配」という意味では、企業会計における配当も、保険契約における配当も、全く同じということがわかります。

これまでの・今後の研究

保険契約における配当をいかに決定するかという問題は比較的古くから、保険数理の問題として研究されており、クラメル・ルンドベルイモデルなどが有名です。

一方、企業会計における最適な配当に関する研究はそれほど進んでいないようです(MMの配当無関連性命題という古典的な結果はあります)。

いずれの問題も、最近は経済学の枠組みのなかで統一的に議論されており、確率制御問題の応用としての期待効用最大化問題の解として、最適配当が決定されます。

本ブログの記事「保険数理と金融工学の融合について」では、保険とファイナンスの接近についてまとめていますので、興味のある方は合わせて参照してみてください。

保険数理におけるサープラス過程と最適配当に関しては、Taskar2000 “Optimal risk and dividend distribution control models for an insurance company“に詳しく論じられています。

【数学ガール】社会人の数学再入門に

こんにちは、毛糸です。

最近私の周りで、数学を勉強したいという社会人が増えています。

私が主催する勉強会でも、数学に関するトピックを扱うことも増えており、数学再入門への意識の高まりを感じています。

【参考記事】
まだ数学から逃げてるの?これからのビジネスと数学

この記事では、社会人の数学再入門としておすすめする数学ガールシリーズを紹介します。

続きを読む

ヘッジ・ポートフォリオとオプション評価の考え方を簡単に解説する

こんにちは、毛糸です。

私がファシリテーターを務める「モンテカルロ法によるリアル・オプション分析」輪読会で、ヘッジ・ポートフォリオと無リスク金利での割引についての質問をいただきました。

本記事では、

  • ヘッジ・ポートフォリオとはなにか
  • ヘッジ・ポートフォリオの収益率と裁定取引
  • ヘッジ・ポートフォリオでオプション価格が求まるのはなぜか

について説明します。

ヘッジ・ポートフォリオとはなにか

そもそも「ポートフォリオ」というのは、いくつかの証券(株式や債券)のまとまり、もしくは組み合わせのことです。

トヨタ株とホンダ株を1枚ずつ保有するポートフォリオや、TOPIX連動投資信託1単位と個人向け国債1万円を保有するポートフォリオなど、さまざまなポートフォリオが考えられます。

証券投資において、ポートフォリオを組むと、リスクが下がることが知られています。

これを分散効果といい、投資の基本中の基本です。

【参考記事】
>>「リスクをとる」とは何か?よくある誤解と本当の意味。

オプションの価格を知りたいときには、株式とオプションのポートフォリオを考えると都合がよいことが、長年の研究により明らかになりました。

実は、株式とオプションを「上手く」組み合わせることで、そのポートフォリオの価格変動をなくすことができます。

株価の値上がり・値下がりに影響を受けず、値動きを回避(ヘッジ)するような株式とオプションのポートフォリオを、ヘッジ・ポートフォリオといいます。

ポートフォリオのペイオフ(キャッシュフロー)は当然、株式のペイオフとオプションのペイオフの和になります。

ヘッジ・ポートフォリオの収益率と裁定取引

株式とオプションを「上手く」組み合わせて、ポートフォリオの値動きが完全にヘッジできるようになったとすると(つまりヘッジポートフォリオが値動きなしになったとすると)、果たしてヘッジ・ポートフォリオのリターンはどうなるでしょうか?

値動きを完全にヘッジしたポートフォリオは、価格変動がないという意味で、無リスクです。

無リスクということは、ヘッジ・ポートフォリオの収益率は無リスク利子率に一致するはずです。

なぜヘッジ・ポートフォリオの収益率は無リスク利子率に一致するのか

もしヘッジ・ポートフォリオの(無リスクの)収益率\( r_1\)が、無リスク利子率(安全資産の利子率)\( r_f\)より高ければ、

安全資産を売って、そのお金でヘッジ・ポートフォリオを作ることで、無リスクなしに\( r_1-r_f\)を稼ぐことができてしまいます。

無リスクで(絶対に)\( r_1-r_f>0\)を稼げるなら、持っているお金をすべてこの投資戦略につぎ込むような人がたくさん現れるでしょう。

この投資戦略に従えば、例えば\( 100\)億円の資金を持ってる人は「確実に」「絶対に」\( 100(r_1-r_f)\)億円稼げるわけです。

みんながこの戦略(ヘッジポートフォリオを買って、安全資産を売る戦略)をとると、当然ながら安全資産の価格は下がります。需要より供給が多くなるからです。

価格が下がると、将来返ってくる金額は一定なので、安全資産の収益率があがります。

つまり\( r_f\)が大きくなります。

最終的にはこの投資戦略の「うまみ」がなくなるまで\( r_f\)が上がります。

つまり\( r_1=r_f\)になるような水準に落ち着きます。

したがって、ヘッジ・ポートフォリオの収益率\( r_1\)は安全資産の収益率\( r_f\)と一致します。

このような取引は裁定取引(アービトラージ)といい、裁定取引が行えるような状況を裁定機会といいます。

取引が自由に行われる市場においては、裁定機会は瞬時に消滅すると考えます。

ヘッジ・ポートフォリオでオプション価格が求まるのはなぜか

ヘッジ・ポートフォリオは無リスクなので、ヘッジ・ポートフォリオから得られる将来収益を現在の価値に割り引くときには、無リスク金利を割引率として用いるのが適当です。

ヘッジ・ポートフォリオは株式とオプションの組み合わせで収益が決まり、その金額は前もって知ることができます。

この将来の収益額を\( V\)と表すことにしましょう。

現在価値は

\begin{equation} \begin{split} \frac{ V}{ 1+r_f}
\end{split} \end{equation}
です。

さて、ヘッジ・ポートフォリオは株式とオプションの組み合わせですから、ヘッジ・ポートフォリオの現在価値は株式の価格\( S\)とオプションの価格\( C\)を「適当な」比率\( 1:\omega\)で組み合わせたあわせた\( S+\omega C\)でもあるはずです。

以上のことから、

\begin{equation} \begin{split}
\frac{ V}{ 1+r_f}=S+\omega C
\end{split} \end{equation}
という関係が成り立ちます。

そもそもヘッジ・ポートフォリオというものを考えた理由は、オプションの価格\( C\)を知りたいからでした。

上の式を変形すると、オプションの価格\( C\)は

\begin{equation} \begin{split}
C=\frac{ 1}{ \omega}\left( \frac{ V}{ 1+r_f}-S\right)
\end{split} \end{equation}

として求められることになります。

こうして、ヘッジ・ポートフォリオを考えることによって、オプションの価格が求められました。

まとめ

本記事ではオプション価格評価において重要となるヘッジ・ポートフォリオの考え方について説明しました。
金融や投資の知識と、数学の知識が必要になる難しい分野ですが、一つ一つの用語の意味をしっかり掴んで、イメージを持ちながら論理を追っていきましょう。

参考文献

クロネコヤマトとP≠NP予想

こんにちは、毛糸です。

先日、こんなつぶやきが話題になりました。

このツイートのなかで「NP困難」という言葉が使われています。

調べてみると、この話題は「P≠NP予想」という数学の未解決問題に関係する話であることが分かりました。
本記事ではクロネコヤマトのプログラミングコンテストに関連する「計算理論」という数学の概念を概観し、このプログラミングコンテストがどんな問題に挑戦するものなのか、P≠NP予想という未解決問題とどんな関係があるのかについてまとめます。

なお、直感やイメージを大事にするために、数学的な厳密さを欠く部分がありますので、詳しく勉強したい方はテキスト等を参照してください。

計算理論とはなにか

NP困難という用語は、計算理論という数学の一分野における用語です。
計算理論とは「計算」を数学的に定式化し、コンピュータのような計算機と、計算機による計算手順(アルゴリズム)について考えることで、ある問題が「計算」可能かどうか、可能であるならそれはどの程度複雑なのか、といった問題を扱う分野です。
ある計算がどの程度複雑なのかという問題は、計算複雑性理論と呼ばれています。
計算複雑性理論では、データが\(n \)個与えられたときに、計算量が\( n\)と比べてどれくらいの大小関係なのか、ということを考えます。
たとえば、ばらばらに並べられた\(n\)個の自然数を昇順に並べる場合に、
隣どうしの数字の大小を比較して、昇順に並び替える
という手順(アルゴリズム)を考えたとき、並び替えの回数は\(n(n-1)/2\)回を超えることはないということがわかります。
これは「おおよそ」\(n^2\)と同程度の複雑さと考えることができます(これくらいのアバウトさでも十分意味のある分析になります)。

このように、計算複雑性理論では、データ数に関連してその複雑性を定量な尺度で評価します。

多項式時間アルゴリズムとクラスP、クラスNP

あるアルゴリズムがデータ数との関連でどれだけ時間がかかるか、という問題を考えたとき、ある多項式で表せる時間以内で解けるようなアルゴリズムを、多項式時間アルゴリズムといいます。

>>多項式時間-Wikipedia

多項式時間で解けるといったときには、解くための時間が天文学的な数字にはならない(現実的な計算時間に収まる)と考えてよいでしょう。
多項式時間アルゴリズムで解ける問題は、クラスPと呼びます。

また、ある問題の答えが「yes」だとわかったとき、それが本当に正しいのかを多項式時間で判定できる問題を、クラスNPと呼びます。

>>NP-Wikipedia

ある問題がNPである、といったときには、その問題の答えが与えられたときに、膨大な計算を要さずに答え合わせができる、と考えてよいでしょう。

NP困難な問題と巡回セールスマン問題

NPに属する問題(多項式時間で答え合わせができる問題)と同等、もしくはそれ以上に難しい問題を、NP困難な問題といいます。

NP困難な問題は、その検証に膨大な計算を要する場合があります。

NP困難な問題として有名なものに「巡回セールスマン問題」というのがあります。
巡回セールスマン問題とは、いくつかの目的地を巡回するセールスマンが、もっとも短い移動距離を達成するには移動したらよいか、を考える問題です。

巡回セールスマン問題はNP困難、つまり多項式時間では解けない複雑な問題であるということです。

ヤマト運輸プログラミングコンテスト

冒頭でとりあげたヤマト運輸は、AtCoderというプログラミングコンテストサイトで、巡回セールスマン問題と思われる問題を出題しています。

ヤマト運輸プログラミングコンテスト2019

その問題の概要は以下のとおりです。

本コンテストでは、私たちの取り組む課題の一つとして「宅配ドライバーの配達ルートの効率化」をテーマとして取り上げ、配達ルートの最適化問題を含む2問を出題いたします。

配達ルートの最適化という言葉から類推するに、ヤマト運輸の出題する問題はおそらく巡回セールスマン問題に何らかの実際的な制約を課した問題なのでしょう。
ヤマト運輸はこの問題の良い解決策が得られれば、彼らの物流ビジネスの効率化につながります。
しかし、巡回セールスマン問題は多項式時間では解けそうにない(計算量が膨大になる)問題ですので、ヤマト運輸の課題も、解くのは容易ではないと予想されます。

なお、このヤマト運輸はこのプログラミングコンテストについて、著作権を譲渡することを求めており、これがちょっとした批判の的になってるようです。

P≠NP予想

計算複雑性理論には、数学上の未解決問題が残されています。
それが「P≠NP予想」です。
P≠NP予想はクレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題の一つとして100万ドルの懸賞金がかけられた未解決問題で、
クラスP(多項式時間で判定できる問題)とクラスNP(多項式時間で答え合わせができる問題)とは一致しない
という予想です。
>>P≠NP予想-Wikipedia
「PならばNP」(判定できるなら答え合わせができる)は真なので、PはNPに含まれる(P⊆NP)ことはわかります。
しかし、PだけれどもNPでないような問題があるかどうか(つまりPはNPの真部分集合になるか、多項式時間では判定できないけど答え合わせならできる問題があるか)はまだ誰も証明したことがなく、未解決の問題となっているのです。

まとめ

計算理論における、多項式時間やクラスP、NPといった用語をまとめながら、NP困難な問題である巡回セールスマン問題とヤマト運輸のプログラミングコンテストの内容について説明しました。
この分野においては「P≠NP予想」という数学上の未解決問題があります。
ヤマト運輸のプログラミングコンテストでP≠NP予想が解決できるわけではありませんが、計算理論の「実践」のすぐ近くに、数学の未解決問題があるというのは、ロマンを感じませんか。

参考文献

本記事の内容(計算理論やアルゴリズム、P≠NP予想)に興味を持たれた方は、下記書籍が大変参考になります。読み物としても数学書としても楽しめる名著です。

保険数理と金融工学の融合について

こんにちは、毛糸です。

先日こんな論文を見つけました。
>>金融と保険の融合について(PDFリンク)

私は大学院で金融工学について研究しており、社会人になってからアクチュアリー(保険数理人)を目指そうと思ったこともあったため、とても興味深く思い読んでいます。

本記事ではこの論文で解説されている「保険数理と金融工学の融合」について、最近の研究にも触れながらコメントしたいと思います。

保険数理とはなにか

私たちは、人間の生死や事故などの予測不能なアクシデントに備えるために、保険に加入します。

保険は「万が一」に備えて多くの人がお金を出し合い、不幸に見舞われた人を保障する仕組みです。

保険に加入すると保険料を支払わねばなりませんが、この保険料はどのように決めるべきかを主な関心事として、数理的な分析を行うのが、保険数理という分野です。

保険数理を生業としている専門職はアクチュアリーと呼ばれ、極めて難易度の高い資格となっています。

金融工学とはなにか

私たち家計や企業は、自分の資産を運用したり、必要な資金を調達するなどして暮らしています。資金の貸し借りや投資は金融活動と呼ばれ、経済の潤滑油に例えられます。

お金を持っている主体が企業にお金を託す行為は証券投資として広く認知されていますが、企業がその事業に成功するかどうか、将来を完全に予測することはできません。

こうした不確実な金融に関する事柄について、いかに効率よく資金を利用できるか、どうしたらリスクを回避できるのかという課題を、数学を用いて解決する学問が、金融工学です。

金融工学のスペシャリストのことをクオンツと呼び、数学や物理学の研究者が、一時期金融界を席巻しました。

 

保険数理と金融工学の共通点

保険数理も金融工学も、将来を完全に予見することはできない、という考え方に基づいています。

どちらも、予測不能なランダムな現象と、それに伴う将来のお金の出入りに関する分析を行います。

分析のツールとなるのが、確率論(確率過程論、確率解析学)や統計学です。

つまり、保険数理も金融工学も、不確実な将来のリスクに紐付いたキャッシュフローを巡って、数学を武器として立ち向かう学問分野であるという点で共通しています。

保険数理と金融工学の相違点

保険数理も金融工学も、数学によるランダム性への挑戦という意味で同じですが、その基本思想は大きく異なっています。

保険数理は、人や企業が負担するリスクをどう測定・評価し、それをいかに制御するかという問題に比重を置いてきました。一方、金融工学は、不確実性の源である証券の価格変動は、市場取引を通じてヘッジ(回避)可能なもの考えています。

つまり、保険数理と金融工学には、リスクに対する姿勢が大きく異なっているということです。

もう少し具体的な相違点を挙げてみましょう。

保険数理におけるリスクは「大数の法則」により、その傾向を描写することが可能とされることが多いですが、金融工学におけるリスクはこの考え方が適用できない場合が多くあります。

金融工学におけるリスクの多くは「市場性」があり、市場を通じた資産の売買によりリスクをヘッジすることが可能とされますが、保険数理で考えるリスクには市場性がないのが通常です。
(証券投資は似た値動きの株を保有して変動を回避できますが、事故のリスクは誰かに肩代わりしてもらうわけにはいきません。)

このように、保険数理と金融工学には、リスクの考え方をめぐり相違点があります。

しかしながら、昨今は保険商品が流動化されることにより、保険に市場性が生まれつつあり、保険にかかわるリスクのヘッジ可能性が高まりつつある一方で、市場取引でヘッジ不能なリスクをどう価格に反映するかというプライシング理論を取り入れた金融工学発達により、両者はかなり近接してきています。

経済学による統一理論の試み

保険数理と金融工学は、徐々にその垣根が消えつつあります。

両者は、「不確実性の経済学」というより一般的な枠組みの中で、統一的に議論できるようになっています。

たとえば、保険数理における保険料計算原理は、経済学における期待効用最大化問題の解に対応していますが、全く同じ考え方によって、金融工学のリスクを反映した証券の価格が決定されます。

論文ではエッシャー原理に基づく保険料計算について述べられていますが、これは指数型の効用関数による効用最大化問題を解いていることと同じであり、保険数理で用いられてきた手法が経済学的意味を持っていることを明らかにするものです。

同時に、指数型効用の最大化問題を金融工学に適用すると、正規分布に従う資産価格を原資産とするオプションが、かの有名なブラック・ショールズ式で評価できることが知られています。

このように、経済学という枠組みの中で保険数理と金融工学を扱うことで、両者は極めて類似した概念を用いていることがよくわかります。

経済学の枠組みでは、将来キャッシュフローを「適切な割引因子」とともに計算することで、今の価値を評価できるという公式が知られています。

その式は「中心資産価格付公式」とか「資産価格の基本等式」と呼ばれており、以下のような極めてシンプルな形をしています。

\begin{equation} \begin{split}
1=E\left[ mR\right]
\end{split} \end{equation}

この式は、資産収益率\( R\)は、「適切な割引因子」\( m\)を乗じて期待値を取ることで、1に等しくなることを主張しており、この公式から多くの結論が導き出されます。

「適切な割引因子」は確率的割引ファクターやプライシング・カーネルと呼ばれ、経済学では特別な意味を持ちます。

エッシャー変換もリスク中立確率も、この公式から出発しています。

【参考記事】
>>リスク中立確率、状態証券価格、確率的割引ファクターの関係

最新の研究にも触れておきましょう。

従来、主に損害保険分野で考察されてきたであろう、災害が発生した際にキャッシュフローが生まれる金融商品(保険であり、デリバティブ)について、経済学の均衡アプローチから論じた論文がこちらです。

>>変換ベータ分布を用いた地震デリバティブの評価理論(PDFリンク)

地震の指数は取引不能・ヘッジ不能であることは明らかですが、経済学の立場からは値付けが可能であることが示されています。

まとめ

>>金融と保険の融合について(PDFリンク)
を参考にしながら、保険数理と金融工学の共通点・相違点について概観してみました。

両者はリスクを数理的に扱う学問分野として共通していますが、リスクに対する態度は大きく異なっています。

しかし、両者はより広い経済学の枠組みの中で統一されつつあります。

今後両者が連携し、社会科学の分野が更に発展していけばよいと願います。

参考文献

経済学の枠組みの中で、確率的割引ファクターやプライシング・カーネルの考え方が解説されている本では、下記がおすすめです。

ファイナンスと保険数理を両睨みで学べるテキストには、以下のようなものがあります。

会計数値のマルコフ性について

こんにちは、毛糸です。

先日こういったつぶやきをしました。

最近、会計を数学の世界の言葉で置き換えられないか?ということをよく考えます。

複式簿記の代数的構造について考えだしたのも、こうした問題意識の一環です。

【参考記事】
>>【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」

先述のつぶやきは、同僚と議論しているときに考え付いたものです。

本記事では会計数値のマルコフ性について考えてみたいと思います。

マルコフ性(マルコフ過程)とは

マルコフ性とは確率過程論の用語で、

前期「まで」の情報を所与とした場合の予測が、前期「のみ」の情報を所与とした場合の予測と同じ

という性質のことです。

マルコフ性の例をあげましょう。

コイン投げをして表なら1円もらえ、裏なら1円持ってかれるゲームをします。

n回目のコイン投げのあとに持ち金が\( C_n\)円だったとき、n+1回目のコイン投げのあとの持ち金の期待値はいくらになるでしょうか?

n+1回目のコイン投げで表が出れば1円もらえ、裏が出れば1円持っていかれてしまうので、その期待値は

\begin{equation} \begin{split}
1\times\frac{1}{2}+(-1)\times\frac{1}{2}=0
\end{split} \end{equation}

になりますから、n+1回目のコイン投げのあとの持ち金の金額は\( C_n\)円になります。

この「予測」にはn-1回目以前のコイン投げの情報は必要なく、n回目時点の持ち金の情報のみで決まります。

これがマルコフ性という性質です。

マルコフでない例も考えてみましょう。

このコイン投げに「前前回の獲得金額がおまけされる」というようなケースが、マルコフ性をもたない例です。

このときn回目のゲームのあと\( C_n\)円持っているとわかっても、n+1回目のコイン投げの獲得金額はn-1回目の結果に左右されるので、n回目時点の持ち金\( C_n\)という情報だけでは、将来を予測できません。

これがマルコフでない例です。

会計数値はマルコフ性をもつか

会計数値はマルコフ性を持つでしょうか?

たとえば、企業が保有する売買目的の有価証券は、マルコフ性を持ちそうです。

売買目的有価証券は貸借対照表において時価評価されますが、売買目的有価証券の時価を予測するのは通常困難で、過去の情報を使ってリターンを予測するのは難しいからです(これを効率的市場仮説といいます)。

【参考記事】
>>「日本株に投資すると長期的には損」は本当か?

償却性の固定資産はどうでしょうか。

償却性固定資産は減価償却に関する諸条件が変わらなければ、当初の条件どおりに費用認識をするだけなので、将来にわたる減価償却費とその累計額、およびそれを控除した固定資産額が購入時点でわかることになります。

もちろんこれは「前期のみの情報で予測できる」というマルコフ性の定義を満たしますので、この場合の固定資産額はマルコフ性を持つでしょう。

しかし、減損があれば話は別です。

減損会計には「利益が2期間赤字」というようなトリガーが定められています。

したがって、ある時点の固定資産額が減損するか否かは、前期・前々期の情報を必要とするため、マルコフ性を持ちません。

減損会計のように複数時点にまたがるトリガーを会計数値の測定に反映させる処理があると、会計数値のマルコフ性は失われます。

あらゆる会計数値について、その金額の計算方法から、マルコフ性を持つか否かを考えることが可能ですが、一般には会計数値はマルコフ性を持たないと考えて差し支えないでしょう。

ちなみに、マルコフ性を持たない確率過程の議論はとても難しいと考えられており、現実どおり「会計数値は非マルコフ」と考えて分析すると有用な結論が得られなくなることがほとんどでしょうから、学術的には会計数値もマルコフ性を持つと仮定して話を進める場合が多いのではないかと思います。

まとめ

会計数値を確率過程として考えたとき、それがマルコフ性を持つかどうかを考えてみました。
一般には、会計数値はマルコフ性を持たないでしょう。
しかし、非マルコフな確率過程は扱いが難しいので、マルコフ性を仮定している場合も多いのではないかと思います。

値引きと実質値引き、無料と実質無料、それらの違いと一致する条件

こんにちは、毛糸です。

最近、携帯電話会社の料金プラン改革が進み、スマホの端末代金を料金から差し引く「実質値引き」ができなくなりつつあります。

また、QRコード決済サービスが乱立し、多くのサービスでポイント還元が行われ、ここでも「実質○%オフ!」というような説明がされることがあります。

さて、この実質値引きや実質無料という考え方ですが、なぜ「実質」なのでしょうか

もちろん単純な値引きや無料ではないので「実質」という枕詞をつけて区別しているわけですが、値引きや無料の「効果」は同じなのでしょうか

本記事ではこの「実質」の考え方について、数式を用いて考えてみたいと思います。

値引き・無料とはどういうことか

まず、通常の意味での値引き・無料について考えてみましょう。

値引きの定義

a%の値引きとは、価格X円の商品を購入するときに、 X × a%円分を減額して支払うこと、つまり

X – X × a%=X(1-a%)円

を支払うこと、と考えられます。

価格100円の商品が5%の値引きになっているとき、支払額は

100 – 100×5%=100-5=95円

です。

a%の値引きが行われたとき、X円の商品をX(1-a)円で購入できるわけですから、支出額1円あたりの商品価値は

X ÷ X(1-a)=1/(1-a)

となります。

なぜ支出額1円あたりの商品価値なんて話をするのかと言うと、こうすることで実質値引きとの比較がわかりやすくなるからです。

無料の定義

無料とは、100%の値引きのことです。つまり価格X円の商品を、

X – X×100%=0円

で買えるということです。

このとき、支出額1円あたりの商品価値は

X ÷ X(1-100%)=1/(1-1)=∞(無限大)

となります。

実質値引き・実質無料とはどういうことか

次に、実質値引き・実質無料について考えてみましょう。

実質値引きの定義

a%の実質値引きとは、価格X円の商品を購入するときに、代金X円を支払った上で、X × a%円の現金やポイント(以下、現金等)が還元されること、と考えられます。

価格100円の商品が5%実質値引きになっているとき、支払額は100円であり、100×5%=5円が還元されます。

したがって、a%の実質値引きで価格X円の商品を購入したあとには、手元にはX円分の価値のある商品と、X×a%の現金等が残っています。

現金等は使って初めて効用(満足度)を生むと考えるのが基本的な経済学の考え方ですので、議論を単純化するためにも、還元された現金はその後消費する(つまりその現金等を使って別の商品を買う)と考えましょう。

このとき、実質値引きは1度だけ適用する、つまり追加購入には実質値引きが適用されないと仮定します(この仮定については、あとの節で再検討します)。

このような状況を整理すると、a%の実質値引きが行われたときには、X円を支出することで、X+X×a%=X(1+a%)円分の価値の商品を手に入れられる、ということになります。

したがって支出額1円あたりの商品価値は

X(1+a) ÷ X = 1+a

となります。

実質無料の定義

実質無料とは、100%の実質値引きのことです。つまり価格X円の商品をX円支払って購入し、X×100%=X円の現金等が還元されるということです。

したがって、X円の支出に対して、X+X×100%=2X円分の商品が購入できます。

このとき、支出額1円あたりの商品価値は

2X ÷ X=2

となります。

値引きと実質値引き、無料と実質無料の違い

以上のことを整理すると、

  • 値引き(a%)とは、支出X(1-a%)円でX円分の消費をすることであり、支出1円あたりの消費額は1/(1-a%)
  • 無料とは100%値引きのことであり、支出1円あたりの消費額は無限大
  • 実質値引き(a%)とは、支出X円でX(1+a%)円分の消費をすることであり、支出1円あたりの消費額は1+a%
  • 実質無料とは100%実質値引きのことであり、支出1円あたりの消費額は2
ということになります。
値引きと実質値引きを、支出1円あたりの消費額で比較すると、
[値引き]1/(1-a%) > [実質値引き]1+a%
という関係にあるので、実質値引きより値引きのほうが得です。
無料と実質無料を比較しても、無料の場合の支出1円あたりの消費額は無限大であるのに対し、実質無料の場合は支出1円あたりの消費額は2なので、無料のほうが得です。
したがって、値引き(無料)と実質値引き(実質無料)では、前者のほうが得であると結論付けられます。

発展:条件によっては値引きと実質値引きはイコール

以上の通り、値引きは実質値引きよりも得であると結論付けられましたが、実はある条件を加えると、両者のお得度は一致します。
その条件とは「実質値引きで還元された現金を使用したときにも、実質値引きが適用される」ということです。
前節までの結論はこの条件が成り立たない場合、つまり「実質値引きは1度だけ適用する」「追加購入には実質値引きが適用されない」と仮定した場合に導かれる結論です。
しかし、実質値引きは何度でも適用可能で、実質値引きで還元された現金等を使用する際にも、実質値引きが行われると考えると、実は値引きと実質値引きは完全に同じ効果を生みます
この条件のもとでは、X円支払ってX円商品を購入したとき、X×a%の現金等が還元されます。
この現金等を使用してX×a%円の商品を購入すると、現金等がX×a%×a%円還元されます。
これが果てしなく続くことになるので、結局X円の支出で
X+Xa+Xa^2+…=X(1+a+a^2+…)円
分の商品が手に入ります。
等比数列の和の公式から、1+a+a^2+…=1/(1-a)が成り立つので、結局実質値引きにおいても、X円の支出でX/(1-a)円分の商品が買えることとなり、支出1円あたりの消費額は1/(1-a)なので、値引きの場合と同じになります。
したがって、「実質値引きが何度でも適用可能」という条件があれば、値引きと実質値引きは同じ効果を生むと言えます。
最近のQRコード決済のサービスでは、QRコード決済により還元されたポイントを使った場合にもポイントが還元されることが多いと思いますので、この場合はポイント還元率=値引き率と考えて良いでしょう。

参考:値引きと割引の違い

値引きと似た言葉に、割引というのがあります。

5%の値引きを、5%割引と表現する場合も多くあり、両者は同じ概念と思っている方も多いでしょう。

しかし、会計の専門用語としての値引きと割引は、以下のように異なる意味を持ちます。

  • 値引き:商品代金の減額のこと
  • 割引:商品代金を早く払うことにより支払いが安くなること
割引は単純に代金を安くするのではなく、約束の期日より早く支払ってくれたことに対して、お金にかかる金利分を安くしてもらうことです。
会計においてこれらは明確に区別され、会計処理も異なるので、注意してください。

バブルに関する研究・文献まとめ【仮想通貨投資に役立つ?】

こんにちは、毛糸です。

2019年6月26日現在、ビットコイン価格が再び高騰しており、135万円を超えました。

ビットコインを始めとする仮想通貨(暗号資産)は2017年頃に劇的な価格高騰を引き起こし、現代の「バブル」として社会に大きな影響を与えました。
参考記事>>ビットコインはバブルである

リンクの記事でも述べたとおり、仮想通貨はキャッシュフローの裏付けがなく、厳密な意味で「資産」と呼べるか微妙な投資対象です。

基本的には「明日は今日より高くなる」という期待が価格形成に寄与する「バブル」的性格を持つと考えれます。

バブル資産としての仮想通貨は、その特徴的な価格変動やリターンの非正規性など、既存のファイナンス理論では説明しづらい部分が多くあります。
>>ビットコインの確率分布について|期待リターン、リスク、ヒストグラム【正規分布じゃない】

 

仮想通貨を理論的に扱おうとする場合には、バブル資産としての特徴を考慮する必要がありますが、バブル資産の理論研究は相対的に未成熟な分野です。

本記事ではファイナンス(金融工学)の立場からバブル資産を研究した文献をメモしておきます。

 

Continuous-Time Asset Pricing Theory: A Martingale-Based Approach(by R. Jarrow)

Robert Jarrowによるテキスト “Continuous-Time Asset Pricing Theory: A Martingale-Based Approach“には、バブル資産に関する比較的新しい研究成果が簡潔にまとまっています。
 
Jarrowは金利モデルで有名なヒース・ジャロー・モートンモデルの開発者のひとりです。
 
本書では、バブル資産を「局所マルチンゲール」という確率過程としてモデル化しており、おそらくこのアプローチが現在のバブル資産の標準的モデルと考えられます。
 
Jarrowはバブル資産に関する数多くの論文を執筆しており、本書はその研究成果のまとめとしても活用できるため、バブル資産の理解を深めたいと思ったら手に取るとよいでしょう。
 

 

 
 

A Mathematical Theory of Financial Bubbles(by P. Protter)

P. Protterによるノート”A Mathematical Theory of Financial Bubbles“は、前述のJarrowのテキストにも引用される、バブル資産の先駆的研究です。 

こちらもバブル資産を「局所マルチンゲール」としてモデル化し種々の分析を行っています。

局所マルチンゲールを含む確率過程論や確率微分方程式という数学は、理系大学の学部後半から大学院にかけて学ぶ内容であり、比較的高度です。

ファイナンスの数理的研究はこうした確率論と密接に結びついていますので、バブルの研究にも確率論の勉強は避けては通れないでしょう。

ファイナンスにも言及している、確率過程や確率微分方程式を扱ったテキストとしては以下が参考になります。

 

局所マルチンゲールとバブル(村上祐亮 著)

バブルに関する日本語の文献では、九州大学院の修士論文「局所マルチンゲールとバブル」(村上祐亮)が参考になります(PDFリンク)。
 
この論文ではファイナンスに関する確率論の基本事項を完結にまとめながら、バブル資産を局所マルチンゲールとしてモデル化し、種々の性質や具体例について説明しています。
 
JarrowのテキストやProtterのノートは英語ですが、こちらは日本語で書かれているので、数学の壁さえクリアできれば読みやすいかも知れません。
 
余談ですが、九州大谷口教授は確率論研究で有名な先生で、彼のゼミの修士論文は大変勉強になるので、よく参考にしています(谷口ゼミ修士論文一覧リンク)。
 

まとめ

本記事ではバブル資産に関する最近の研究を知るための文献をまとめました。
 
バブル資産に関する研究は比較的新しく、勉強しがいのある分野です。
 
本記事で取り上げた文献を丁寧に読み解けば、仮想通貨投資に役立てられる可能性もありますので、野心的な方は挑戦してみてください。
 
 

確率論のアナロジーとしての会計学と、それらの重要な差異

こんにちは、毛糸です。

先日このブログで取り上げた「複式簿記の代数的構造」について、SNSでちょっとした反響がありました。
>>【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」


複式簿記(における試算表や仕訳)は「群」としての性質を備えています。

複式簿記のある種の「美しさ」も、こうした数学的構造に由来しているのかも知れません。

本記事では複式簿記を含む会計学という学問が、数学的にどういった考察の対象となるのか、私見を交えて説明します。

とくに、会計学は確率論のアナロジーとして説明できることを強調したいと思います。

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【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」

こんにちは、毛糸です。

先日、【君の知らない複式簿記】と題して、2つの「ちょっと変わった」簿記技術である、行列簿記と三式簿記について紹介しました。

行列簿記とは、複式簿記の借方と貸方を、行列に当てはめて表現する手法のことです。
>>【君の知らない複式簿記1】行列簿記の意義、性質、限界

また、複式簿記は完成された概念なのか?という疑問を深めることで、三式簿記のような拡張概念が生まれました。
>>【君の知らない複式簿記2】複式簿記の拡張、三式簿記

行列簿記も三式簿記も、すでにある複式簿記をより使いやすくしたり、一般的なものに拡張できないかという問題意識のなかで発見されたものです。

ここで、このような「拡げる」考え方とは少し視点を変え、複式簿記を「深める」「探る」視点を持ってみましょう。

本記事では、複式簿記という計算技術それ自体の数学的な性質に着目し、複式簿記を抽象化することで理解を深めたいと思います。

そして複式簿記における仕訳や試算表が、代数学における「群」の性質を持つことを説明します。

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