こんにちは、毛糸です。
私がファシリテーターを務める「モンテカルロ法によるリアル・オプション分析」輪読会で、ヘッジ・ポートフォリオと無リスク金利での割引についての質問をいただきました。
本記事では、
- ヘッジ・ポートフォリオとはなにか
- ヘッジ・ポートフォリオの収益率と裁定取引
- ヘッジ・ポートフォリオでオプション価格が求まるのはなぜか
について説明します。
ヘッジ・ポートフォリオとはなにか
そもそも「ポートフォリオ」というのは、いくつかの証券(株式や債券)のまとまり、もしくは組み合わせのことです。
トヨタ株とホンダ株を1枚ずつ保有するポートフォリオや、TOPIX連動投資信託1単位と個人向け国債1万円を保有するポートフォリオなど、さまざまなポートフォリオが考えられます。
証券投資において、ポートフォリオを組むと、リスクが下がることが知られています。
これを分散効果といい、投資の基本中の基本です。
【参考記事】
>>「リスクをとる」とは何か?よくある誤解と本当の意味。
オプションの価格を知りたいときには、株式とオプションのポートフォリオを考えると都合がよいことが、長年の研究により明らかになりました。
実は、株式とオプションを「上手く」組み合わせることで、そのポートフォリオの価格変動をなくすことができます。
株価の値上がり・値下がりに影響を受けず、値動きを回避(ヘッジ)するような株式とオプションのポートフォリオを、ヘッジ・ポートフォリオといいます。
ポートフォリオのペイオフ(キャッシュフロー)は当然、株式のペイオフとオプションのペイオフの和になります。
ヘッジ・ポートフォリオの収益率と裁定取引
株式とオプションを「上手く」組み合わせて、ポートフォリオの値動きが完全にヘッジできるようになったとすると(つまりヘッジポートフォリオが値動きなしになったとすると)、果たしてヘッジ・ポートフォリオのリターンはどうなるでしょうか?
値動きを完全にヘッジしたポートフォリオは、価格変動がないという意味で、無リスクです。
無リスクということは、ヘッジ・ポートフォリオの収益率は無リスク利子率に一致するはずです。
なぜヘッジ・ポートフォリオの収益率は無リスク利子率に一致するのか
もしヘッジ・ポートフォリオの(無リスクの)収益率\( r_1\)が、無リスク利子率(安全資産の利子率)\( r_f\)より高ければ、
安全資産を売って、そのお金でヘッジ・ポートフォリオを作ることで、無リスクなしに\( r_1-r_f\)を稼ぐことができてしまいます。
無リスクで(絶対に)\( r_1-r_f>0\)を稼げるなら、持っているお金をすべてこの投資戦略につぎ込むような人がたくさん現れるでしょう。
この投資戦略に従えば、例えば\( 100\)億円の資金を持ってる人は「確実に」「絶対に」\( 100(r_1-r_f)\)億円稼げるわけです。
みんながこの戦略(ヘッジポートフォリオを買って、安全資産を売る戦略)をとると、当然ながら安全資産の価格は下がります。需要より供給が多くなるからです。
価格が下がると、将来返ってくる金額は一定なので、安全資産の収益率があがります。
つまり\( r_f\)が大きくなります。
最終的にはこの投資戦略の「うまみ」がなくなるまで\( r_f\)が上がります。
つまり\( r_1=r_f\)になるような水準に落ち着きます。
したがって、ヘッジ・ポートフォリオの収益率\( r_1\)は安全資産の収益率\( r_f\)と一致します。
このような取引は裁定取引(アービトラージ)といい、裁定取引が行えるような状況を裁定機会といいます。
取引が自由に行われる市場においては、裁定機会は瞬時に消滅すると考えます。
ヘッジ・ポートフォリオでオプション価格が求まるのはなぜか
ヘッジ・ポートフォリオは無リスクなので、ヘッジ・ポートフォリオから得られる将来収益を現在の価値に割り引くときには、無リスク金利を割引率として用いるのが適当です。
ヘッジ・ポートフォリオは株式とオプションの組み合わせで収益が決まり、その金額は前もって知ることができます。
この将来の収益額を\( V\)と表すことにしましょう。
現在価値は
\end{split} \end{equation}
さて、ヘッジ・ポートフォリオは株式とオプションの組み合わせですから、ヘッジ・ポートフォリオの現在価値は株式の価格\( S\)とオプションの価格\( C\)を「適当な」比率\( 1:\omega\)で組み合わせたあわせた\( S+\omega C\)でもあるはずです。
以上のことから、
\frac{ V}{ 1+r_f}=S+\omega C
\end{split} \end{equation}
そもそもヘッジ・ポートフォリオというものを考えた理由は、オプションの価格\( C\)を知りたいからでした。
上の式を変形すると、オプションの価格\( C\)は
C=\frac{ 1}{ \omega}\left( \frac{ V}{ 1+r_f}-S\right)
\end{split} \end{equation}
として求められることになります。
こうして、ヘッジ・ポートフォリオを考えることによって、オプションの価格が求められました。
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