ヘッジ・ポートフォリオとオプション評価の考え方を簡単に解説する

こんにちは、毛糸です。

私がファシリテーターを務める「モンテカルロ法によるリアル・オプション分析」輪読会で、ヘッジ・ポートフォリオと無リスク金利での割引についての質問をいただきました。

本記事では、

  • ヘッジ・ポートフォリオとはなにか
  • ヘッジ・ポートフォリオの収益率と裁定取引
  • ヘッジ・ポートフォリオでオプション価格が求まるのはなぜか

について説明します。

ヘッジ・ポートフォリオとはなにか

そもそも「ポートフォリオ」というのは、いくつかの証券(株式や債券)のまとまり、もしくは組み合わせのことです。

トヨタ株とホンダ株を1枚ずつ保有するポートフォリオや、TOPIX連動投資信託1単位と個人向け国債1万円を保有するポートフォリオなど、さまざまなポートフォリオが考えられます。

証券投資において、ポートフォリオを組むと、リスクが下がることが知られています。

これを分散効果といい、投資の基本中の基本です。

【参考記事】
>>「リスクをとる」とは何か?よくある誤解と本当の意味。

オプションの価格を知りたいときには、株式とオプションのポートフォリオを考えると都合がよいことが、長年の研究により明らかになりました。

実は、株式とオプションを「上手く」組み合わせることで、そのポートフォリオの価格変動をなくすことができます。

株価の値上がり・値下がりに影響を受けず、値動きを回避(ヘッジ)するような株式とオプションのポートフォリオを、ヘッジ・ポートフォリオといいます。

ポートフォリオのペイオフ(キャッシュフロー)は当然、株式のペイオフとオプションのペイオフの和になります。

ヘッジ・ポートフォリオの収益率と裁定取引

株式とオプションを「上手く」組み合わせて、ポートフォリオの値動きが完全にヘッジできるようになったとすると(つまりヘッジポートフォリオが値動きなしになったとすると)、果たしてヘッジ・ポートフォリオのリターンはどうなるでしょうか?

値動きを完全にヘッジしたポートフォリオは、価格変動がないという意味で、無リスクです。

無リスクということは、ヘッジ・ポートフォリオの収益率は無リスク利子率に一致するはずです。

なぜヘッジ・ポートフォリオの収益率は無リスク利子率に一致するのか

もしヘッジ・ポートフォリオの(無リスクの)収益率\( r_1\)が、無リスク利子率(安全資産の利子率)\( r_f\)より高ければ、

安全資産を売って、そのお金でヘッジ・ポートフォリオを作ることで、無リスクなしに\( r_1-r_f\)を稼ぐことができてしまいます。

無リスクで(絶対に)\( r_1-r_f>0\)を稼げるなら、持っているお金をすべてこの投資戦略につぎ込むような人がたくさん現れるでしょう。

この投資戦略に従えば、例えば\( 100\)億円の資金を持ってる人は「確実に」「絶対に」\( 100(r_1-r_f)\)億円稼げるわけです。

みんながこの戦略(ヘッジポートフォリオを買って、安全資産を売る戦略)をとると、当然ながら安全資産の価格は下がります。需要より供給が多くなるからです。

価格が下がると、将来返ってくる金額は一定なので、安全資産の収益率があがります。

つまり\( r_f\)が大きくなります。

最終的にはこの投資戦略の「うまみ」がなくなるまで\( r_f\)が上がります。

つまり\( r_1=r_f\)になるような水準に落ち着きます。

したがって、ヘッジ・ポートフォリオの収益率\( r_1\)は安全資産の収益率\( r_f\)と一致します。

このような取引は裁定取引(アービトラージ)といい、裁定取引が行えるような状況を裁定機会といいます。

取引が自由に行われる市場においては、裁定機会は瞬時に消滅すると考えます。

ヘッジ・ポートフォリオでオプション価格が求まるのはなぜか

ヘッジ・ポートフォリオは無リスクなので、ヘッジ・ポートフォリオから得られる将来収益を現在の価値に割り引くときには、無リスク金利を割引率として用いるのが適当です。

ヘッジ・ポートフォリオは株式とオプションの組み合わせで収益が決まり、その金額は前もって知ることができます。

この将来の収益額を\( V\)と表すことにしましょう。

現在価値は

\begin{equation} \begin{split} \frac{ V}{ 1+r_f}
\end{split} \end{equation}
です。

さて、ヘッジ・ポートフォリオは株式とオプションの組み合わせですから、ヘッジ・ポートフォリオの現在価値は株式の価格\( S\)とオプションの価格\( C\)を「適当な」比率\( 1:\omega\)で組み合わせたあわせた\( S+\omega C\)でもあるはずです。

以上のことから、

\begin{equation} \begin{split}
\frac{ V}{ 1+r_f}=S+\omega C
\end{split} \end{equation}
という関係が成り立ちます。

そもそもヘッジ・ポートフォリオというものを考えた理由は、オプションの価格\( C\)を知りたいからでした。

上の式を変形すると、オプションの価格\( C\)は

\begin{equation} \begin{split}
C=\frac{ 1}{ \omega}\left( \frac{ V}{ 1+r_f}-S\right)
\end{split} \end{equation}

として求められることになります。

こうして、ヘッジ・ポートフォリオを考えることによって、オプションの価格が求められました。

まとめ

本記事ではオプション価格評価において重要となるヘッジ・ポートフォリオの考え方について説明しました。
金融や投資の知識と、数学の知識が必要になる難しい分野ですが、一つ一つの用語の意味をしっかり掴んで、イメージを持ちながら論理を追っていきましょう。

参考文献

クロネコヤマトとP≠NP予想

こんにちは、毛糸です。

先日、こんなつぶやきが話題になりました。

このツイートのなかで「NP困難」という言葉が使われています。

調べてみると、この話題は「P≠NP予想」という数学の未解決問題に関係する話であることが分かりました。
本記事ではクロネコヤマトのプログラミングコンテストに関連する「計算理論」という数学の概念を概観し、このプログラミングコンテストがどんな問題に挑戦するものなのか、P≠NP予想という未解決問題とどんな関係があるのかについてまとめます。

なお、直感やイメージを大事にするために、数学的な厳密さを欠く部分がありますので、詳しく勉強したい方はテキスト等を参照してください。

計算理論とはなにか

NP困難という用語は、計算理論という数学の一分野における用語です。
計算理論とは「計算」を数学的に定式化し、コンピュータのような計算機と、計算機による計算手順(アルゴリズム)について考えることで、ある問題が「計算」可能かどうか、可能であるならそれはどの程度複雑なのか、といった問題を扱う分野です。
ある計算がどの程度複雑なのかという問題は、計算複雑性理論と呼ばれています。
計算複雑性理論では、データが\(n \)個与えられたときに、計算量が\( n\)と比べてどれくらいの大小関係なのか、ということを考えます。
たとえば、ばらばらに並べられた\(n\)個の自然数を昇順に並べる場合に、
隣どうしの数字の大小を比較して、昇順に並び替える
という手順(アルゴリズム)を考えたとき、並び替えの回数は\(n(n-1)/2\)回を超えることはないということがわかります。
これは「おおよそ」\(n^2\)と同程度の複雑さと考えることができます(これくらいのアバウトさでも十分意味のある分析になります)。

このように、計算複雑性理論では、データ数に関連してその複雑性を定量な尺度で評価します。

多項式時間アルゴリズムとクラスP、クラスNP

あるアルゴリズムがデータ数との関連でどれだけ時間がかかるか、という問題を考えたとき、ある多項式で表せる時間以内で解けるようなアルゴリズムを、多項式時間アルゴリズムといいます。

>>多項式時間-Wikipedia

多項式時間で解けるといったときには、解くための時間が天文学的な数字にはならない(現実的な計算時間に収まる)と考えてよいでしょう。
多項式時間アルゴリズムで解ける問題は、クラスPと呼びます。

また、ある問題の答えが「yes」だとわかったとき、それが本当に正しいのかを多項式時間で判定できる問題を、クラスNPと呼びます。

>>NP-Wikipedia

ある問題がNPである、といったときには、その問題の答えが与えられたときに、膨大な計算を要さずに答え合わせができる、と考えてよいでしょう。

NP困難な問題と巡回セールスマン問題

NPに属する問題(多項式時間で答え合わせができる問題)と同等、もしくはそれ以上に難しい問題を、NP困難な問題といいます。

NP困難な問題は、その検証に膨大な計算を要する場合があります。

NP困難な問題として有名なものに「巡回セールスマン問題」というのがあります。
巡回セールスマン問題とは、いくつかの目的地を巡回するセールスマンが、もっとも短い移動距離を達成するには移動したらよいか、を考える問題です。

巡回セールスマン問題はNP困難、つまり多項式時間では解けない複雑な問題であるということです。

ヤマト運輸プログラミングコンテスト

冒頭でとりあげたヤマト運輸は、AtCoderというプログラミングコンテストサイトで、巡回セールスマン問題と思われる問題を出題しています。

ヤマト運輸プログラミングコンテスト2019

その問題の概要は以下のとおりです。

本コンテストでは、私たちの取り組む課題の一つとして「宅配ドライバーの配達ルートの効率化」をテーマとして取り上げ、配達ルートの最適化問題を含む2問を出題いたします。

配達ルートの最適化という言葉から類推するに、ヤマト運輸の出題する問題はおそらく巡回セールスマン問題に何らかの実際的な制約を課した問題なのでしょう。
ヤマト運輸はこの問題の良い解決策が得られれば、彼らの物流ビジネスの効率化につながります。
しかし、巡回セールスマン問題は多項式時間では解けそうにない(計算量が膨大になる)問題ですので、ヤマト運輸の課題も、解くのは容易ではないと予想されます。

なお、このヤマト運輸はこのプログラミングコンテストについて、著作権を譲渡することを求めており、これがちょっとした批判の的になってるようです。

P≠NP予想

計算複雑性理論には、数学上の未解決問題が残されています。
それが「P≠NP予想」です。
P≠NP予想はクレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題の一つとして100万ドルの懸賞金がかけられた未解決問題で、
クラスP(多項式時間で判定できる問題)とクラスNP(多項式時間で答え合わせができる問題)とは一致しない
という予想です。
>>P≠NP予想-Wikipedia
「PならばNP」(判定できるなら答え合わせができる)は真なので、PはNPに含まれる(P⊆NP)ことはわかります。
しかし、PだけれどもNPでないような問題があるかどうか(つまりPはNPの真部分集合になるか、多項式時間では判定できないけど答え合わせならできる問題があるか)はまだ誰も証明したことがなく、未解決の問題となっているのです。

まとめ

計算理論における、多項式時間やクラスP、NPといった用語をまとめながら、NP困難な問題である巡回セールスマン問題とヤマト運輸のプログラミングコンテストの内容について説明しました。
この分野においては「P≠NP予想」という数学上の未解決問題があります。
ヤマト運輸のプログラミングコンテストでP≠NP予想が解決できるわけではありませんが、計算理論の「実践」のすぐ近くに、数学の未解決問題があるというのは、ロマンを感じませんか。

参考文献

本記事の内容(計算理論やアルゴリズム、P≠NP予想)に興味を持たれた方は、下記書籍が大変参考になります。読み物としても数学書としても楽しめる名著です。

保険数理と金融工学の融合について

こんにちは、毛糸です。

先日こんな論文を見つけました。
>>金融と保険の融合について(PDFリンク)

私は大学院で金融工学について研究しており、社会人になってからアクチュアリー(保険数理人)を目指そうと思ったこともあったため、とても興味深く思い読んでいます。

本記事ではこの論文で解説されている「保険数理と金融工学の融合」について、最近の研究にも触れながらコメントしたいと思います。

保険数理とはなにか

私たちは、人間の生死や事故などの予測不能なアクシデントに備えるために、保険に加入します。

保険は「万が一」に備えて多くの人がお金を出し合い、不幸に見舞われた人を保障する仕組みです。

保険に加入すると保険料を支払わねばなりませんが、この保険料はどのように決めるべきかを主な関心事として、数理的な分析を行うのが、保険数理という分野です。

保険数理を生業としている専門職はアクチュアリーと呼ばれ、極めて難易度の高い資格となっています。

金融工学とはなにか

私たち家計や企業は、自分の資産を運用したり、必要な資金を調達するなどして暮らしています。資金の貸し借りや投資は金融活動と呼ばれ、経済の潤滑油に例えられます。

お金を持っている主体が企業にお金を託す行為は証券投資として広く認知されていますが、企業がその事業に成功するかどうか、将来を完全に予測することはできません。

こうした不確実な金融に関する事柄について、いかに効率よく資金を利用できるか、どうしたらリスクを回避できるのかという課題を、数学を用いて解決する学問が、金融工学です。

金融工学のスペシャリストのことをクオンツと呼び、数学や物理学の研究者が、一時期金融界を席巻しました。

 

保険数理と金融工学の共通点

保険数理も金融工学も、将来を完全に予見することはできない、という考え方に基づいています。

どちらも、予測不能なランダムな現象と、それに伴う将来のお金の出入りに関する分析を行います。

分析のツールとなるのが、確率論(確率過程論、確率解析学)や統計学です。

つまり、保険数理も金融工学も、不確実な将来のリスクに紐付いたキャッシュフローを巡って、数学を武器として立ち向かう学問分野であるという点で共通しています。

保険数理と金融工学の相違点

保険数理も金融工学も、数学によるランダム性への挑戦という意味で同じですが、その基本思想は大きく異なっています。

保険数理は、人や企業が負担するリスクをどう測定・評価し、それをいかに制御するかという問題に比重を置いてきました。一方、金融工学は、不確実性の源である証券の価格変動は、市場取引を通じてヘッジ(回避)可能なもの考えています。

つまり、保険数理と金融工学には、リスクに対する姿勢が大きく異なっているということです。

もう少し具体的な相違点を挙げてみましょう。

保険数理におけるリスクは「大数の法則」により、その傾向を描写することが可能とされることが多いですが、金融工学におけるリスクはこの考え方が適用できない場合が多くあります。

金融工学におけるリスクの多くは「市場性」があり、市場を通じた資産の売買によりリスクをヘッジすることが可能とされますが、保険数理で考えるリスクには市場性がないのが通常です。
(証券投資は似た値動きの株を保有して変動を回避できますが、事故のリスクは誰かに肩代わりしてもらうわけにはいきません。)

このように、保険数理と金融工学には、リスクの考え方をめぐり相違点があります。

しかしながら、昨今は保険商品が流動化されることにより、保険に市場性が生まれつつあり、保険にかかわるリスクのヘッジ可能性が高まりつつある一方で、市場取引でヘッジ不能なリスクをどう価格に反映するかというプライシング理論を取り入れた金融工学発達により、両者はかなり近接してきています。

経済学による統一理論の試み

保険数理と金融工学は、徐々にその垣根が消えつつあります。

両者は、「不確実性の経済学」というより一般的な枠組みの中で、統一的に議論できるようになっています。

たとえば、保険数理における保険料計算原理は、経済学における期待効用最大化問題の解に対応していますが、全く同じ考え方によって、金融工学のリスクを反映した証券の価格が決定されます。

論文ではエッシャー原理に基づく保険料計算について述べられていますが、これは指数型の効用関数による効用最大化問題を解いていることと同じであり、保険数理で用いられてきた手法が経済学的意味を持っていることを明らかにするものです。

同時に、指数型効用の最大化問題を金融工学に適用すると、正規分布に従う資産価格を原資産とするオプションが、かの有名なブラック・ショールズ式で評価できることが知られています。

このように、経済学という枠組みの中で保険数理と金融工学を扱うことで、両者は極めて類似した概念を用いていることがよくわかります。

経済学の枠組みでは、将来キャッシュフローを「適切な割引因子」とともに計算することで、今の価値を評価できるという公式が知られています。

その式は「中心資産価格付公式」とか「資産価格の基本等式」と呼ばれており、以下のような極めてシンプルな形をしています。

\begin{equation} \begin{split}
1=E\left[ mR\right]
\end{split} \end{equation}

この式は、資産収益率\( R\)は、「適切な割引因子」\( m\)を乗じて期待値を取ることで、1に等しくなることを主張しており、この公式から多くの結論が導き出されます。

「適切な割引因子」は確率的割引ファクターやプライシング・カーネルと呼ばれ、経済学では特別な意味を持ちます。

エッシャー変換もリスク中立確率も、この公式から出発しています。

【参考記事】
>>リスク中立確率、状態証券価格、確率的割引ファクターの関係

最新の研究にも触れておきましょう。

従来、主に損害保険分野で考察されてきたであろう、災害が発生した際にキャッシュフローが生まれる金融商品(保険であり、デリバティブ)について、経済学の均衡アプローチから論じた論文がこちらです。

>>変換ベータ分布を用いた地震デリバティブの評価理論(PDFリンク)

地震の指数は取引不能・ヘッジ不能であることは明らかですが、経済学の立場からは値付けが可能であることが示されています。

まとめ

>>金融と保険の融合について(PDFリンク)
を参考にしながら、保険数理と金融工学の共通点・相違点について概観してみました。

両者はリスクを数理的に扱う学問分野として共通していますが、リスクに対する態度は大きく異なっています。

しかし、両者はより広い経済学の枠組みの中で統一されつつあります。

今後両者が連携し、社会科学の分野が更に発展していけばよいと願います。

参考文献

経済学の枠組みの中で、確率的割引ファクターやプライシング・カーネルの考え方が解説されている本では、下記がおすすめです。

ファイナンスと保険数理を両睨みで学べるテキストには、以下のようなものがあります。

会計数値のマルコフ性について

こんにちは、毛糸です。

先日こういったつぶやきをしました。

最近、会計を数学の世界の言葉で置き換えられないか?ということをよく考えます。

複式簿記の代数的構造について考えだしたのも、こうした問題意識の一環です。

【参考記事】
>>【君の知らない複式簿記3】複式簿記の代数的構造「群」

先述のつぶやきは、同僚と議論しているときに考え付いたものです。

本記事では会計数値のマルコフ性について考えてみたいと思います。

マルコフ性(マルコフ過程)とは

マルコフ性とは確率過程論の用語で、

前期「まで」の情報を所与とした場合の予測が、前期「のみ」の情報を所与とした場合の予測と同じ

という性質のことです。

マルコフ性の例をあげましょう。

コイン投げをして表なら1円もらえ、裏なら1円持ってかれるゲームをします。

n回目のコイン投げのあとに持ち金が\( C_n\)円だったとき、n+1回目のコイン投げのあとの持ち金の期待値はいくらになるでしょうか?

n+1回目のコイン投げで表が出れば1円もらえ、裏が出れば1円持っていかれてしまうので、その期待値は

\begin{equation} \begin{split}
1\times\frac{1}{2}+(-1)\times\frac{1}{2}=0
\end{split} \end{equation}

になりますから、n+1回目のコイン投げのあとの持ち金の金額は\( C_n\)円になります。

この「予測」にはn-1回目以前のコイン投げの情報は必要なく、n回目時点の持ち金の情報のみで決まります。

これがマルコフ性という性質です。

マルコフでない例も考えてみましょう。

このコイン投げに「前前回の獲得金額がおまけされる」というようなケースが、マルコフ性をもたない例です。

このときn回目のゲームのあと\( C_n\)円持っているとわかっても、n+1回目のコイン投げの獲得金額はn-1回目の結果に左右されるので、n回目時点の持ち金\( C_n\)という情報だけでは、将来を予測できません。

これがマルコフでない例です。

会計数値はマルコフ性をもつか

会計数値はマルコフ性を持つでしょうか?

たとえば、企業が保有する売買目的の有価証券は、マルコフ性を持ちそうです。

売買目的有価証券は貸借対照表において時価評価されますが、売買目的有価証券の時価を予測するのは通常困難で、過去の情報を使ってリターンを予測するのは難しいからです(これを効率的市場仮説といいます)。

【参考記事】
>>「日本株に投資すると長期的には損」は本当か?

償却性の固定資産はどうでしょうか。

償却性固定資産は減価償却に関する諸条件が変わらなければ、当初の条件どおりに費用認識をするだけなので、将来にわたる減価償却費とその累計額、およびそれを控除した固定資産額が購入時点でわかることになります。

もちろんこれは「前期のみの情報で予測できる」というマルコフ性の定義を満たしますので、この場合の固定資産額はマルコフ性を持つでしょう。

しかし、減損があれば話は別です。

減損会計には「利益が2期間赤字」というようなトリガーが定められています。

したがって、ある時点の固定資産額が減損するか否かは、前期・前々期の情報を必要とするため、マルコフ性を持ちません。

減損会計のように複数時点にまたがるトリガーを会計数値の測定に反映させる処理があると、会計数値のマルコフ性は失われます。

あらゆる会計数値について、その金額の計算方法から、マルコフ性を持つか否かを考えることが可能ですが、一般には会計数値はマルコフ性を持たないと考えて差し支えないでしょう。

ちなみに、マルコフ性を持たない確率過程の議論はとても難しいと考えられており、現実どおり「会計数値は非マルコフ」と考えて分析すると有用な結論が得られなくなることがほとんどでしょうから、学術的には会計数値もマルコフ性を持つと仮定して話を進める場合が多いのではないかと思います。

まとめ

会計数値を確率過程として考えたとき、それがマルコフ性を持つかどうかを考えてみました。
一般には、会計数値はマルコフ性を持たないでしょう。
しかし、非マルコフな確率過程は扱いが難しいので、マルコフ性を仮定している場合も多いのではないかと思います。

【投信定点観測】16週目|インデックス、ロボアドバイザー、アクティブファンドに積立投資

こんにちは、毛糸です。

【投信定点観測】2019年6月第5週(スタートから16週目)の損益の報告です。

今週末における損益率は0.86%(年率1.91%)です。

損益状況

商品ごとの含み損益率は以下のようになりました。【投信定点観測】開始から16週間経過時の含み損益率は0.86%(年率換算で1.91%)で、先週から0.03%のマイナスです。

インデックス投資信託の振り返り

米国の過度な利下げ期待が後退し、またG20開催も重なったことで、市場は様子見ムードとなりました。

利下げ期待の後退から、G-REITは大幅に下げ、週間で-2.86%と、これまでの含み益を帳消しにしています。

ロボアドバイザーの振り返り

ロボアドバイザーのWealthNavi(ウェルスナビ)は今週+0.76%(含み損益1.31%)、THEO(テオ)は今週+0.08%(含み損益0.16%)でした。

ロボアドバイザーの基本は分散投資であるため、特定の資産クラスに依存しない、安定的なパフォーマンスが期待できます。

今週の含み損益ランキングは、【投信定点観測】の全14の投資先のうち、WealthNaviは第5位、THEOは第10位です。

ロボアドバイザーは分散投資をしているのに手数料が高いからパフォーマンス的には不利、と考える人もいるかもしれませんが、実際の投資成績は「常に中位より少し下」というわけではないようで、面白い結果です。

▼ロボアドバイザーTHEO(テオ)は登録はこちらから!
THEO

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WEALTHNAVI(ウェルスナビ)

アクティブファンドの振り返り

日本株式に投資するアクティブファンドであるひふみ投信とセゾン資産形成の達人ファンドは、後者のほうが継続的に高いリターンを維持しています。

アクティブ投信についてはエコノミストの山崎元氏が

と発言し話題になりました。

アクティブファンドの是非に関する研究はいろいろあり、完全に白黒つけられる存在ではありませんが、「信じたいから信じる」という側面もあるように思います。

まとめ

【投信定点観測】を始めて16週、金融庁の「老後に2,000万」の報告書以来、個人の投資への関心が高まっているように思います。

一度仕組みを整えてしまえば「ほったらかし」で「負けない」投資が続けられるのが、インデックス投信の積立投資法です。。

引き続き、投資信託による「コツコツ」積立投資で、安定的な資産形成を目指していきます。

引き続き積立投資の状況をリポートして参りますので、もしよろしければSNSでのシェアよろしくお願い致します!

値引きと実質値引き、無料と実質無料、それらの違いと一致する条件

こんにちは、毛糸です。

最近、携帯電話会社の料金プラン改革が進み、スマホの端末代金を料金から差し引く「実質値引き」ができなくなりつつあります。

また、QRコード決済サービスが乱立し、多くのサービスでポイント還元が行われ、ここでも「実質○%オフ!」というような説明がされることがあります。

さて、この実質値引きや実質無料という考え方ですが、なぜ「実質」なのでしょうか

もちろん単純な値引きや無料ではないので「実質」という枕詞をつけて区別しているわけですが、値引きや無料の「効果」は同じなのでしょうか

本記事ではこの「実質」の考え方について、数式を用いて考えてみたいと思います。

値引き・無料とはどういうことか

まず、通常の意味での値引き・無料について考えてみましょう。

値引きの定義

a%の値引きとは、価格X円の商品を購入するときに、 X × a%円分を減額して支払うこと、つまり

X – X × a%=X(1-a%)円

を支払うこと、と考えられます。

価格100円の商品が5%の値引きになっているとき、支払額は

100 – 100×5%=100-5=95円

です。

a%の値引きが行われたとき、X円の商品をX(1-a)円で購入できるわけですから、支出額1円あたりの商品価値は

X ÷ X(1-a)=1/(1-a)

となります。

なぜ支出額1円あたりの商品価値なんて話をするのかと言うと、こうすることで実質値引きとの比較がわかりやすくなるからです。

無料の定義

無料とは、100%の値引きのことです。つまり価格X円の商品を、

X – X×100%=0円

で買えるということです。

このとき、支出額1円あたりの商品価値は

X ÷ X(1-100%)=1/(1-1)=∞(無限大)

となります。

実質値引き・実質無料とはどういうことか

次に、実質値引き・実質無料について考えてみましょう。

実質値引きの定義

a%の実質値引きとは、価格X円の商品を購入するときに、代金X円を支払った上で、X × a%円の現金やポイント(以下、現金等)が還元されること、と考えられます。

価格100円の商品が5%実質値引きになっているとき、支払額は100円であり、100×5%=5円が還元されます。

したがって、a%の実質値引きで価格X円の商品を購入したあとには、手元にはX円分の価値のある商品と、X×a%の現金等が残っています。

現金等は使って初めて効用(満足度)を生むと考えるのが基本的な経済学の考え方ですので、議論を単純化するためにも、還元された現金はその後消費する(つまりその現金等を使って別の商品を買う)と考えましょう。

このとき、実質値引きは1度だけ適用する、つまり追加購入には実質値引きが適用されないと仮定します(この仮定については、あとの節で再検討します)。

このような状況を整理すると、a%の実質値引きが行われたときには、X円を支出することで、X+X×a%=X(1+a%)円分の価値の商品を手に入れられる、ということになります。

したがって支出額1円あたりの商品価値は

X(1+a) ÷ X = 1+a

となります。

実質無料の定義

実質無料とは、100%の実質値引きのことです。つまり価格X円の商品をX円支払って購入し、X×100%=X円の現金等が還元されるということです。

したがって、X円の支出に対して、X+X×100%=2X円分の商品が購入できます。

このとき、支出額1円あたりの商品価値は

2X ÷ X=2

となります。

値引きと実質値引き、無料と実質無料の違い

以上のことを整理すると、

  • 値引き(a%)とは、支出X(1-a%)円でX円分の消費をすることであり、支出1円あたりの消費額は1/(1-a%)
  • 無料とは100%値引きのことであり、支出1円あたりの消費額は無限大
  • 実質値引き(a%)とは、支出X円でX(1+a%)円分の消費をすることであり、支出1円あたりの消費額は1+a%
  • 実質無料とは100%実質値引きのことであり、支出1円あたりの消費額は2
ということになります。
値引きと実質値引きを、支出1円あたりの消費額で比較すると、
[値引き]1/(1-a%) > [実質値引き]1+a%
という関係にあるので、実質値引きより値引きのほうが得です。
無料と実質無料を比較しても、無料の場合の支出1円あたりの消費額は無限大であるのに対し、実質無料の場合は支出1円あたりの消費額は2なので、無料のほうが得です。
したがって、値引き(無料)と実質値引き(実質無料)では、前者のほうが得であると結論付けられます。

発展:条件によっては値引きと実質値引きはイコール

以上の通り、値引きは実質値引きよりも得であると結論付けられましたが、実はある条件を加えると、両者のお得度は一致します。
その条件とは「実質値引きで還元された現金を使用したときにも、実質値引きが適用される」ということです。
前節までの結論はこの条件が成り立たない場合、つまり「実質値引きは1度だけ適用する」「追加購入には実質値引きが適用されない」と仮定した場合に導かれる結論です。
しかし、実質値引きは何度でも適用可能で、実質値引きで還元された現金等を使用する際にも、実質値引きが行われると考えると、実は値引きと実質値引きは完全に同じ効果を生みます
この条件のもとでは、X円支払ってX円商品を購入したとき、X×a%の現金等が還元されます。
この現金等を使用してX×a%円の商品を購入すると、現金等がX×a%×a%円還元されます。
これが果てしなく続くことになるので、結局X円の支出で
X+Xa+Xa^2+…=X(1+a+a^2+…)円
分の商品が手に入ります。
等比数列の和の公式から、1+a+a^2+…=1/(1-a)が成り立つので、結局実質値引きにおいても、X円の支出でX/(1-a)円分の商品が買えることとなり、支出1円あたりの消費額は1/(1-a)なので、値引きの場合と同じになります。
したがって、「実質値引きが何度でも適用可能」という条件があれば、値引きと実質値引きは同じ効果を生むと言えます。
最近のQRコード決済のサービスでは、QRコード決済により還元されたポイントを使った場合にもポイントが還元されることが多いと思いますので、この場合はポイント還元率=値引き率と考えて良いでしょう。

参考:値引きと割引の違い

値引きと似た言葉に、割引というのがあります。

5%の値引きを、5%割引と表現する場合も多くあり、両者は同じ概念と思っている方も多いでしょう。

しかし、会計の専門用語としての値引きと割引は、以下のように異なる意味を持ちます。

  • 値引き:商品代金の減額のこと
  • 割引:商品代金を早く払うことにより支払いが安くなること
割引は単純に代金を安くするのではなく、約束の期日より早く支払ってくれたことに対して、お金にかかる金利分を安くしてもらうことです。
会計においてこれらは明確に区別され、会計処理も異なるので、注意してください。

適度な忙しさによる生産性向上と、余裕とのバランス

こんにちは、毛糸です。

先日こういったつぶやきをしました。

業務に忙殺されるとクリエイティブな活動がしにくくなる一方で、適度に忙しい状況が生産性を高めるケースもあります。

本記事では、適度な忙しさのもとでの生産性と、余裕と忙しさのバランスの重要性について考えてみたいと思います。

探求には余裕が必要

自分の興味関心を深め、物事にじっくり取り組むためには、心理的・時間的な余裕が必要です。
日々の仕事に追いまくられ、家に帰るころにはくたくた、休日も疲れを癒すので精いっぱいという状況では、何かに腰を据えて向き合い探求するのは難しいです。
知りたいことを学びたい、興味関心を深めたいという思いは人間の根源的な欲求だと思いますが、そういった欲求はあくまで心身の安全が確保されてから満たすべき「高次の欲求」ですから、まずは日常に余裕を持つ必要があります。
人間の体力や精神力には限界がありますから、それらリソースを仕事で完全消費してしまうと、学ぶ意欲というのは持ちにくいです。
【参考記事】

忙しさがもたらす生産性向上のメリット

探求には余裕が必要、とは言っても、何も制限のない完全な自由の中では、人はどうしても怠けてしまいます。
課題が与えられそれをこなすのに精一杯になっているときに「時間ができたらこれをやろう」と心に決めたにもかかわらず、いざ時間ができてみると当時の熱意はどこへやら、暇を持て余してしまったという経験はないでしょうか。
人は忙しさの中では、忙しさから解放された時のことをあれこれ夢想しますが、実際に自由な時間が与えられたときにその時間を有効利用できるかは、別問題であるように思います。
個人的な経験ですが、忙しい時にも良いアイデアは浮かぶもので、忙しい合間を縫ってアイデアを深堀りしているときのほうが、充実感・達成感を味わえるような気がします。

忙しいときに自分の好きなことをしようと思ったら、当然ながらそのための時間を捻出しなくてはなりません。

そうなると必然的に、自分に与えられた課題を可能な限り効率化させ、時間あたりのタスク消化量を高める(=生産性を上げる)ことになります。

冒頭で述べた「多少忙しいほうが生産性が上がる」というのはこのことで、忙しさの中で自分のやりたいことをやるための副次効果として、生産性が上がるということです。

余裕と忙しさのバランス

探求には余裕が必要な一方で、忙しさは生産性を上げます。
余裕と忙しさのトレードオフを、どの水準に落ち着かせるべきかというのは、難しい問題です。
手に入れた余裕のうち、それを探求に振り向けられる比率は人によって異なりますし、忙しさから来るストレスの度合いにも個人差がありますから、「このバランスがベスト!」という正解はないのでしょう。
しかし、常に探求を志向しながら、何度か余裕と繁忙を繰り返すことで、自分がもっとも生産的にかつストレスなく物事に取り組める負荷感がつかめてくるはずです。
私の場合は、年に2度ある繁忙期のなかで、標準作業時間が1日の労働時間以内に収まっているような「ヒマではないけど忙しくもない」タイミングが、もっとも生産性が高いと感じています。
繁忙期ど真ん中では好きな勉強をすることもままなりませんし、逆にプロジェクト明けの閑散期にはだらけてしまいます。
自分の最適な負荷感がわかれば、あとは日常生活を可能な限りその最適負荷の状態にキープすることを考えればよいわけです。
繁忙期には可能な限り業務を減らし、閑散期には自ら仕事を開拓し課題を見つけるなどして、最適負荷の環境を自分で作ることができれば、常に高い生産性と充実感を得ることができるでしょう。

【参考記事】

まとめ

探求には余裕が必要ですが、忙しさによる生産性向上というメリットもあります。
余裕と繁忙の最適なバランスを見つけられれば、その水準から外れないように業務量をコントロールすることで、常に高いパフォーマンスを発揮できます。
自分を知り、自分を管理することが大切です。

公認会計士が経理業務で発揮できる価値がある!

こんにちは、毛糸です。

私は普段、「決算支援コンサルタント」として、上場企業の経理支援を仕事にしています。

決算支援業務においては、公認会計士の資格がある種の「売り」となっており、お客さんも私の資格と経験に安心感をもってもらえているようです。

本記事では公認会計士が経理業務において発揮できる価値について考えてみたいと思います。

目の前のお客さんに喜ばれる仕事

公認会計士の業務として最も重要なのが「監査」です。

監査とは、企業が作成する財務諸表を、企業と利害関係のない専門家が外部からチェックし、その適切性を保証することです。

日本では公認会計士試験に合格する人の殆どが、監査法人に就職し、監査実務を経験します。

監査では、企業が自ら作成する財務諸表という「成績表」に嘘偽りがないかを詳細に検討します。

監査という制度がなければ企業は自分の思う通りに成績表を開示し、実態以上に自社を良く見せようとするインセンティブが働くため、これを未然に防止すべく監査法人の会計士たちは目を光らせています。

したがって、監査という業務においては「懐疑心」を保持することが重要とされており、そのためにしばしば企業と対立が起きます。

人によってはこの対立構造にストレスを感じ「目の前のお客さんに喜んでもらえない」という感想を抱く会計士もいます(監査法人のお客さんは企業であり、そして投資家でもありますが、投資家の喜ぶところを見られるのは更に稀です)。

一方で、私が携わる経理支援の業務においては、基本的に会社と同じ方向を向いて、ともに決算業務を乗り越えようという考えのもと働きますので、まさしく「目の前のお客さんに喜んで貰える仕事」です。

監査も決算支援も、究極的には資本市場を良くしようという目的意識があるわけですが、その立ち位置によって、お客さんとの関係性が180度変わるのは面白いですね。

公認「会計」士の専門性

公認会計士は、会計や監査に関する国家試験を突破したもののみに与えられる独占的資格です。

会計士、という名称からもわかるとおり、資格を勝ち取るには膨大な範囲の会計に関する知識をインプットし、高いレベルで理解して、それをアウトプットできる能力が求められます。

会計に関する卓越した知識を有するからこそ、監査という社会的に意義ある制度の担い手として信任されているのであり、公認会計士は会計に関する理解という面において右に出る者はいません。

いうまでもなく、経理や決算という業務においては、会計の理解が欠かせません。

決算を迅速に・正確に遂行するためには、高いレベルでの会計知識が必須であり、それは単純な会計基準や経理手続きの暗記ではなく、「なぜそういう会計規則になっているのか」という背景まで理解していることが重要です。

公認会計士は資格取得から監査実務に至るまで、そういう本質的な理解を重視しているため、経理業務の担い手としてこれ以上ない人材であり、決算支援において大きな価値を提供することが可能です。

ときおり「会計士は出来上がった数字にケチを付けるだけで、仕訳1つ切れない」という批判を耳にすることがありますが、同意できない主張です。

もちろん監査として企業に向き合う際に種々の制約から経理担当者の理解に及ばない点がないではないですが、会計士試験という難関試験を突破してきた知識と監査の経験は、経理業務においても大いに発揮されるものです。

重要性は会計士と経理の壁になるか

監査では「重要性」という概念を多用します。

重要性とは、財務諸表の利用者にとって些細なことは、かならずしも負担を強いて修正すべきものではない、という「実務的な」考え方です。

この重要性の考え方は、会計士の価値観に刷り込まれているといっても過言ではなく、しばしばこの考え方が経理業務の邪魔をするという主張を目にします。

経理業務においては、1円単位まで金額を合わせに行くだとか、金額の変動要因を詳細に調べ上げるといった仕事が必要になるケースもあります。

会社によっては、それが重大なミスや不正を発見する手続きとして機能している場合もあり、そういう場合に会計士的な「重要性」を持ち出すと、話がこじれてしまいます。

ただ、重要性に関するスタンスの違いは、会社の文化や価値観や規模にも依存しており、会計士同様に重要性を経理プロセスに組み込むケースもあります。

したがって、会計士に刷り込まれた「重要性」の考え方が常に問題となるわけではなく、会社との関係性に合わせて適切に考え方を補正していけば、問題にならない場合も多いのです。

「監査ではこう考えるから、経理でもこうすべき!」といった頑なな決めつけをすることなく、会社の文化や目的にあった方法を模索する姿勢を保てるかどうかが重要です。

まとめ

本記事では公認会計士と監査について触れながら、公認会計士が決算の担い手として価値を提供することが十分可能であるということについて説明しました。

私は決算支援コンサルタントとしての働き方に誇りを持っており、監査とは別の側面から、社会に貢献することにやりがいを感じています。

もし会計士として、お客さんと同じ方向を向いて仕事がしたいという希望のある方は、現在コンサルタントを募集しておりますので、SNSでご連絡ください。

バブルに関する研究・文献まとめ【仮想通貨投資に役立つ?】

こんにちは、毛糸です。

2019年6月26日現在、ビットコイン価格が再び高騰しており、135万円を超えました。

ビットコインを始めとする仮想通貨(暗号資産)は2017年頃に劇的な価格高騰を引き起こし、現代の「バブル」として社会に大きな影響を与えました。
参考記事>>ビットコインはバブルである

リンクの記事でも述べたとおり、仮想通貨はキャッシュフローの裏付けがなく、厳密な意味で「資産」と呼べるか微妙な投資対象です。

基本的には「明日は今日より高くなる」という期待が価格形成に寄与する「バブル」的性格を持つと考えれます。

バブル資産としての仮想通貨は、その特徴的な価格変動やリターンの非正規性など、既存のファイナンス理論では説明しづらい部分が多くあります。
>>ビットコインの確率分布について|期待リターン、リスク、ヒストグラム【正規分布じゃない】

 

仮想通貨を理論的に扱おうとする場合には、バブル資産としての特徴を考慮する必要がありますが、バブル資産の理論研究は相対的に未成熟な分野です。

本記事ではファイナンス(金融工学)の立場からバブル資産を研究した文献をメモしておきます。

 

Continuous-Time Asset Pricing Theory: A Martingale-Based Approach(by R. Jarrow)

Robert Jarrowによるテキスト “Continuous-Time Asset Pricing Theory: A Martingale-Based Approach“には、バブル資産に関する比較的新しい研究成果が簡潔にまとまっています。
 
Jarrowは金利モデルで有名なヒース・ジャロー・モートンモデルの開発者のひとりです。
 
本書では、バブル資産を「局所マルチンゲール」という確率過程としてモデル化しており、おそらくこのアプローチが現在のバブル資産の標準的モデルと考えられます。
 
Jarrowはバブル資産に関する数多くの論文を執筆しており、本書はその研究成果のまとめとしても活用できるため、バブル資産の理解を深めたいと思ったら手に取るとよいでしょう。
 

 

 
 

A Mathematical Theory of Financial Bubbles(by P. Protter)

P. Protterによるノート”A Mathematical Theory of Financial Bubbles“は、前述のJarrowのテキストにも引用される、バブル資産の先駆的研究です。 

こちらもバブル資産を「局所マルチンゲール」としてモデル化し種々の分析を行っています。

局所マルチンゲールを含む確率過程論や確率微分方程式という数学は、理系大学の学部後半から大学院にかけて学ぶ内容であり、比較的高度です。

ファイナンスの数理的研究はこうした確率論と密接に結びついていますので、バブルの研究にも確率論の勉強は避けては通れないでしょう。

ファイナンスにも言及している、確率過程や確率微分方程式を扱ったテキストとしては以下が参考になります。

 

局所マルチンゲールとバブル(村上祐亮 著)

バブルに関する日本語の文献では、九州大学院の修士論文「局所マルチンゲールとバブル」(村上祐亮)が参考になります(PDFリンク)。
 
この論文ではファイナンスに関する確率論の基本事項を完結にまとめながら、バブル資産を局所マルチンゲールとしてモデル化し、種々の性質や具体例について説明しています。
 
JarrowのテキストやProtterのノートは英語ですが、こちらは日本語で書かれているので、数学の壁さえクリアできれば読みやすいかも知れません。
 
余談ですが、九州大谷口教授は確率論研究で有名な先生で、彼のゼミの修士論文は大変勉強になるので、よく参考にしています(谷口ゼミ修士論文一覧リンク)。
 

まとめ

本記事ではバブル資産に関する最近の研究を知るための文献をまとめました。
 
バブル資産に関する研究は比較的新しく、勉強しがいのある分野です。
 
本記事で取り上げた文献を丁寧に読み解けば、仮想通貨投資に役立てられる可能性もありますので、野心的な方は挑戦してみてください。
 
 

SNSでの「発信」で得られた3つの効用

こんにちは、毛糸です。

先日こういった呟きをしました。

私はSNSで日頃勉強したことや、その時どきに興味を持っていることについて、積極的に発信するようにしています。

その目的は、知識獲得の嬉しさをうちに秘めたままでいられないからであったり、自分の気付きや発見を他の人にも知ってほしかったりというものですが、その他にも発信することで得られたいろいろな「いいこと」があります。

本記事ではSNSでの発信で得られた3つの効用についてまとめたいと思います。

発信の効用1:さらなるインプット・追加情報

テキストを読を読んだり、動画を見たりして、なにかを勉強したとき、それを噛み砕いてSNSで発信すると、その道の専門家や、自分より詳しいフォロワーから、リプライが来ることがあります。
その分野に関してはこんな研究が進んでいるよ、とか、このテキストには更に詳しい内容が載っているよ、といった追加的な情報が、思いもよらぬところからもたらされることが多々あります。
自分の理解が間違っていた場合にも、発信することで誤りが発覚し、修正してもらえることもあります。
このように、SNSで学びを発信することで、さらなるインプットや、自分だけでは得られなかったであろう追加的な情報に触れられるようになります。
SNSでの発信はインプットの終着点ではなく、さらなるインプットの着火剤にもなるということです。

発信の効用2:同志・仲間

自分の学びを発信することで、自分がどんなことに興味を持っているかについて、フォロワーに知ってもらうことが出来ます。
ときには、同じタイミングで同じような勉強をしている人と意気投合することもあり、実際に私はそういった方々と勉強会を開催するようにもなりました。
同じ言葉を使い、同じ分野で探求をしている人と交流するのは、とても楽しいものです。
もちろん人それぞれ目指すところは異なっていますが、そのことが同じ分野における多様性につながっており、探求のモチベーションになります。
ひとりで勉強するのはときに孤独感に苛まれますが、SNSで発信することにより仲間が見つかれば「1人だけど独りじゃない」という名状しがたい安心感が得られます。

発信の効用3:信頼・信用

SNSでの発信が正確で役立つものであるなら、発信は信頼や信用に繋がります。
自分がテキストや指導者から教わった内容を、自分の中で消化しておしまいにしてしまえば、自分の学びがどこかに活かされるのは、暫く先になってしまいます。
しかし、学びを反芻し「発信」につなげることで、それは情報としての「価値」を生み、誰かの役に立ちます。
継続的な発信は、情報発信者としての信用を醸成し、それは人脈形成や種々の手助けという形で自分に返ってきます。
昨今、発信による価値提供を全面に押し出しインフルエンサーを目指す動きが見られますが、そうしたアグレッシブな発信でなくとも、自分の学びを他者と共有できる形で発信することによって、知らず知らずのうちに信頼は形成されていくものなのだろうと思います。

まとめ

私がSNSでの発信を通じて得た3つの「良いこと」について述べました。
もちろんこれらは「結果として」得られたものであり、これらを「期待して」発信することが果たして楽しいのかというのは、個々人の価値観次第です。
しかし、学びを消費で終わらせず、発信につなげることで生まれる価値というのはたしかにあり、それはきっと発信者である自分に返ってきます。
私はこれからも、学びを発信し続けます。
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